無職転生〜2周目だけど本気だす〜   作:そこらへんの競走馬

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第二十話「ギルドの来訪者」

 

 

 

 冒険者になる。

 そのためには何が必要だろうか? 

 魔物を倒す力か、それとも優秀な仲間か、はたまた周りに騙されない経験値か。

 

 否。

 そんなものは何も要らない。

 冒険者になるために必要なたった一つのもの。

 それは、手続きだ。

 ギルドに行って受付に手続きをしてもらう。

 そうすればほら、君も立派な冒険者の仲間入り。

 

 ということで俺達も冒険者になるためにギルドに来ていた。

 このスイングドアを開けば受付はすぐである。

 

「入るぞ」

 

 ベテラン冒険者のルイジェルドがそう言いながら入っていく。背中が逞しいぜ。

 もちろん俺とエリスもそれに続く。

 

 

 ギー、ガタン。とドアが音を立てた。

 ガヤガヤと話していた冒険者達が入口の方に目線を向けてくる。男女問わずな。

 冒険者ギルドに来る人物は少なくない。だからドアが開かれようが大した話でもない訳だ。

 しかし全員一応は確認をする。

 大したことの無い中にごく稀にある重大なこと。それを見逃さないために。

 

 そして恐らく今回はそのごく稀のことだったはずだ。

 彼らの目に飛び込んできたのは、鍛えられた体、白く長い槍、そしてスキンヘッド。

 既視感しかないその容姿。

 だからこそ一同が黙り込んでしまった。

 

 俺とエリスは後ろにいたから全体をよく見えたが、強者感が半端ない。

 

 だがそれと同時に1人の男が悠々と静寂が切り裂いた。

 

「おいおいルイジェルドじゃねぇか!」

「ノコパラか。久しいな」

「全くだぜ。3ヶ月も町にいないなんて逃げ出したのかと思ったさ」

「そんな訳なかろう」

 

 話しかけてきた馬面の男、ノコパラと言ったか。

 こいつのことは記憶にあるぞ。

 前回は一悶着あった気がするが、どうやら今は友好的らしい。

 

 俺も挨拶しておくか。

 そう言って1歩前に出ようとする。が、

 

「まじかよルイジェルドか!」

「お前どこいたんだよ!」

「久しぶりね!」

 

 座っていた冒険者たちがルイジェルドを囲うようにして集まってきた。

 その圧に押され一歩後退。

 なんだよ。めちゃくちゃ人気者じゃねぇかルイジェルド。

 

 ルイジェルドも全員に「ああ」とか「そうだな」と返事をしている。

 俺とエリスは半分置物状態。

 人気なのは良いが俺たちのことも何とかして欲しいところだ。

 

 そんな俺の気持ちなんか知らん顔といった感じで続々と人が増えていく。

 ルイジェルドはアイドル活動でもしていたのだろうか? 

 だとしたら男性ファンが多すぎると思うぞ。

 というか人が増えすぎて収集がつかなくなってきた。どうすんだこれ……

 

 とその時だ。

 

「ルイジェルドさん! 用があってギルドにきたなら早く受付に来てください!」

 

 俺の考えを読んでか知らんがなかなかの声量で職員さんの声が響き渡った。

 いや絶対違うな。普通にギルドがうるさすぎるからだろう。

 

 だがその一言と同時に群がっていた冒険者たちが一斉に離れていった。

 ありがとう。おっぱい3つの職員さん。

 

 入口に空間ができたので俺とエリスもルイジェルドの隣に並ぶ。

 すると周りの奴らはぎょっとした顔で俺たちのことを見てきた。

 なんだコイツら。俺らのこと気づいてなかったのかよ。

 

 しかし今しがた注意されたばかりだからだろう。

 誰も口出しはしてこなかった。

 おかげで俺たちはスムーズに受付に並ぶ。

 さて、まずは冒険者登録だ

 

 受付のお姉さんは俺とエリスを一瞥した後ルイジェルドの方を見て言った。

 

「お久しぶりです、ルイジェルドさん。本日はどう言ったご要件で」

「こいつらの冒険者登録をしてくれ」

「……それは構いませんが。この子たちは?」

 

 あ、この質問はまずい。

 

「パーティメンバーだ」

 

 ルイジェルドが澱みなくそう言うと職員が目を丸くして一瞬固まった。

 そして交互に俺たちとルイジェルドを見る。

 

「ルイジェルドさん。パーティメンバーさんってBランク以上の腕前って言ってませんでしたっけ?」

「ああ、言ったぞ」

「どう見ても子供なんですが」

「見た目通り10歳と12歳だ」

「……冗談はよしてください」

「冗談では無い」

 

 やっぱりこうなったか。ルイジェルドは相変わらず1本筋の男だな。

 うーん。もっと予行練習しておくべきだっただろうか。

 

 今の俺たちは見た目と実力が釣り合っていない。外見のことを言うと、周りから見ればただのガキだ。

 勿論この年で冒険者を目指すやつは少なくないからそこはいい。

 ただBランクってのがダメだった。

 確かに世界は広くそれぐらいの実力を持つ10代もいなくは無いが……極小数だな。

 だから、まぁ、ちょっと考えればこの状況も予想出来たのだ。

 こいつは失態。

 

 あぁ、そう考えるとやはりロキシーは偉大だ。

 見た目が中学生くらいなのにAランク冒険者だなんて、最初は苦労したに違いない。

 身をもって経験した今、神により一層の敬意を。

 

「……まぁひとまず冒険者登録をしましょう」

「分かった」

 

 お。とりあえず登録はしてくれるっぽい。

 俺が色々と考えている間に職員とルイジェルドが言い合っていたみたいだが、一旦落ち着いた様だ。

 

「では御二方、こちらの用紙に記入をお願いします」

「わかりました」

 

 2枚の紙と細くとがった炭が渡される。

 紙には名前と職業を書く欄があり、注意事項と規約が書いてあった。

 サーッと目を通したみるが、どうやら内容は変わってないみたいだ。

 

 俺はチャチャッと名前と職業を書くともう1枚の紙をエリスに渡す。

 

「はいエリス。自分で書いて」

「わ、わかったわ」

 

 紙と炭を俺から受け取ったエリス。

 ゆっくりとぎこちない感じで名前を描き始めた。

 うんうん。何事も練習あるのみだ。

 

「書けたわ!」

 

 20秒ほどかけて書き終えると、自信満々に紙を俺に渡してきた。

 紙にはエリス・グレイラットと剣士の文字が。

 多少歪ではあるがしっかりと読めるな。上出来だろう。

 俺は2枚ともを受付に渡す。

 

「お願いします」

「承りました。……ちなみになにか聞きたいことは?」

「あー、大丈夫です」

「それでは登録に進みます。こちらに手を乗せてください」

 

 そう言いながら出てきたのは透明な板。だがガラス製では無さそうだ。

 真ん中のほうには魔法陣が刻まれており、下には金属のカードが敷かれている。

 

 俺はなんの躊躇いもなく手のひらをドーン。

 手が乗せられたのを確認すると職員は板の端をポンと指で叩いた。

 

「名前・ルーデウス・グレイラット。

 職業・魔術師。

 ランク・F」

 

 職員が用紙の内容を淡々と読みあげて、もう一度ぽんと指先で叩く。

 すると、魔法陣がほんわりと赤く光り、すぐに消えた。

 

「どうぞ、こちらがあなたの冒険者カードになります」

 

 渡されたのは薄っぺらい鉄の板。

 しかしボンヤリと光る文字で

 

 名前:ルーデウス・グレイラット

 性別:男

 種族:人族

 年齢:10

 職業:魔術師

 ランク:F

 

 と書いてある。

 うーん。相変わらず凄い技術だ。

 流石は龍族の技術。ロストテクノロジーってやつか。

 いや、ペルギウスやオルステッドなら作れるだろうしロストでは無いのかも。

 まぁ俺は逆立ちしても作れないな。

 

「次はそちらの……」

「エリス。手をおいて」

「分かってるわよ!」

 

 名前:エリス・ボレアス・グレイラット

 性別:女

 種族:人族

 年齢:12

 職業:剣士

 ランク:F

 

「ではこちら冒険者カードでございます」

「あ、ありがとう。……ふふ」

 

 エリスも冒険者カードが手に入ってご満悦の様子。

 えがったえがった。

 さて、あとはパーティを組むだけだな。

 

「すいません。3人でパーティを組みたいのですが?」

「はい?」

「ですからその、パーティを」

「えっと。ルイジェルドさんと御二方ではランク差があるのでパーティは組めません」

 

 あ、そうだった。

 完璧に忘れてた。ルイジェルドはAランクなんだったな。

 だからFランクの俺たちとはどうやってもパーティは組めない。

 

 だが、どんな法にも抜け穴はあるのだよ! 

 ルイジェルドのおかげでギルド長に実力を見せればBランクにしてくれるって話だ。

 

「じゃあ」

「さっさとギルド長を呼んでくれ」

 

 うぉう。

 俺が言おうとしたセリフをルイジェルドが言ってくれた。

 でもちょっと口調荒くない? 

 

「……本当にこの2人なんですか?」

「あぁそうだ!」

「確かに冒険者では無く実力だけある者と言っていましたが、はぁ」

 

 んー、なんか。この人もルイジェルドに対しては口調が荒いな。

 一体なぜ……

 

「全く。こんな小さな子が実力があるなんて……益々疑わしいです」

「事実だ。それを確かめるためにもギルド長を呼べと言っているだろう」

 

 あ、そうか! この2人はずっと前から言い争いをしている状況なのか。

 それでこの口調。なるほど。

 仲直りした方が後々楽そうだか……面倒だし今はいいか。

 先に実力を示さないと。

 

「分かりました。御二方にはギルド長にあっていただきます。ただ」

「ただ、なんです?」

「実は今、別の方の対応をしていてこの場にいませんので暫くお待ちください」

 

 え、いないのギルド長。それがメインの目的だったのに? 

 そいつはちょっと予想外だぜ。

 

「どのくらいで戻ってこられますか?」

「さぁそれは……」

 

 ふむ。いつ帰ってくるのかも分からんのか。

 

「どうします?」

「待つしかなかろう。今日中には戻るはずだ」

「それもそうですね」

 

 まぁ連絡手段もない以上確かにここで待つしかないか。

 ルイジェルドの言う通り明日になることは流石にないだろうし。

 

「ねぇ今どういう状況なの!」

 

 突然、先程まで静かだったエリスがそう言ってきた。

 いや突然でもないか。彼女は魔神語が話せない。

 先程から状況が分からないまま突っ立ていたのだ。

 これは申し訳ないことをしたな。

 

「えっと今、ギルド長に会おうとしてるんだけどここにはいないらしいんだ」

「なんでよ」

「なんでも別の奴の相手をしてるんだと」

「誰よそいつ!」

 

 まぁ確かに誰だろうな。気になりはする。

 わざわざギルド長が会いに行くってことは、それなりの奴なのだろうが。

 聞いてみるか。

 

「別の方って誰なんです?」

「えっとですね。すみませんが……」

「え」

 

 教えてくれないのか? 

 情報規制がされてるなんて、そこまでのVIPなのかそいつは。

 

「ごめんエリス。分からないみたい」

「…………」

「エリス?」

 

 振り返るとエリスが剣を抜いていた。何故? 

 

「ルーデウス。杖を構えろ」

 

 ルイジェルドもそう言いながら槍を構えていた。

 

 なんだ。どういう状況だ? 

 言われたまま杖は構えるがその訳が分からない。

 

「えっと……ルイジェルドさん?」

「来るぞ!」

 

 来る? 何が? 

 俺がそんな疑問を持ったと同時にギルドのドアがギィッと音を立てた。

 そして一人の男が入ってくる。

 

 背はルイジェルドより低いくらいか。それなりにガタイが良くて剣を腰に帯刀している。

 人族では無い。ただ見たことない顔だ。

 誰だこいつ? 

 

「ギルド長!」

 

 後ろからそんな声がした。

 なるほど、こいつがギルド長か。

 じゃあなんで2人は警戒しているんだ? そんなに強そうには見えないが。

 そう思っていると、

 

 ギルド長と思われる男の後ろからもう1人が出てきた。

 逆光に照らされながら進むその姿の全体像が徐々に見えてくる。

 

 筋骨隆々な身体に黒曜石のような肌。

 六本の腕。

 腰まで伸びる紫の長髪。

 

 彼との激闘が俺の脳内を駆け巡る。

 

「フハハハハハ。我が名は魔王バーディガーディ! ルーデウスとやらはいるか!」

 

「ま、まじか……」

 

 パーティガーディだと。なぜここに? 

 いや、このタイミング。間違いない。使徒だ! 

 

 俺がそう思ったよりもさらに早く。

 

「がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 エリスが突っ込んでいた。

 

「ぬ! 来るか!」

「がぁぁぁぁ」

 

 切りかかるエリス。それに対してバーディガーディは動かない。

 刹那。

 スパンッと6本の腕のうちの一つが宙に浮く。

 

「なんと! ふん!」

「ぐっ」

 

 切ったと思ったら今度はエリスがこっちに吹っ飛んできた。

 恐らく別の手でパンチされたのだろう。

 

「エリス!」

「大丈夫よ!」

 

 エリスはすぐに瓦礫の中から立ち上がる。

 見たところ大きな怪我は無さそうだ。闘気がその身を守ったのだろう。

 だが所々に小さい怪我はある。

 

「フハハハ! やるな貴様、名は!」

「エリス・ボレアス・グレイラット」

「む。貴様がルーデウスでは無いのか……」

 

 なんだ? 俺を探しているのか? 

 というか記憶は引き継いでないのか? 

 

「下がれエリス!」

 

 槍を構えながらルイジェルドが俺とエリスの前に立った。

 

「……ふむ。なぜ貴様がここにいる」

「……」

「見ないうちに随分と変わったようだな」

「何の用だ! バーディガーディ」

「ルーデウスとやらに会いに来た」

 

 やはり俺を探しているのか。

 でもなんで俺の事を知らないんだ? 使徒なら色々と伝えられているだろうに。

 もしや使徒じゃないのか? それならなぜこのタイミングで……。

 

「へ、陛下。困ります。ここで争われては」

「む。そうかそうか! それはすまないことをした! フハハハハハ」

 

 止めに入ったのはギルド長。今の一瞬でも壁が1枚吹き飛んだのを見て慌てて止めたのだろう。

 

「では、もう一度問う。ルーデウスはいるか?」

 

「……なぁ、誰だルーデウスって」

「いや、知らん」

「てかさっきあの子……」

「うん。バーディ陛下の腕切ってたよね?」

 

 一連の出来事でギルドがまた騒がしくなりはじめた。

 さて、どうするか。

 見たところバーディガーディに記憶は無い様子。それに戦闘の意思も薄そうだ。

 本気で殺す気なら闘神鎧を着てくるだろうし。

 ここは1つ、試すか。

 

「僕がルーデウスです」

 

 俺は1歩前に出る。

 

 視線が一斉に俺に集まる。

 エリスとルイジェルドは守るように俺の隣に立つ。

 

「ほう。貴様がルーデウスか」

「……なにか御用でしょうか? バーディガーディ陛下」

「なに。ヒトガミにお前に会えと伝えられてな」

 

 ヒトガミ! 

 なんの躊躇いもなくヒトガミと言ったぞ。やはり使徒なのか? 

 

「陛下はヒトガミの使徒なのですか?」

「いかにも。吾輩はヒトガミの使徒だ」

 

 やはり使徒で確定か。

 

「ここには僕を殺しに?」

「違うぞ」

 

 え、違うのか? 

 使徒だが殺しに来た訳では無い。どういうことだ? 

 

「では何用で?」

「お前に会えとだけ伝えられた」

「……それだけ?」

「うむ」

 

 益々よく分からない。なぜそんな真似をしたんだ。

 殺すつもりが無いのか? いや、それは無い。

 あいつは絶対に俺を殺そうとしてくるはずだ。

 

「それにしても貴様、その年でヒトガミに狙われているのか。フハハハハハ面白い奴だ。何をした?」

「……えっと」

 

 全然面白くない! 

 と言いそうになるところをギリギリで飲み込んだ。

 

 やはり記憶は無いのだろう。さらに言えばヒトガミからも特に説明を受けていないように見える。

 あいつなら適当にいい事だけ並べて伝えそうなのに。

 例えば俺が前世でバーディガーディを封印したとか。そういうのを部分的に切り取って伝えそうだ。

 

 ん? 

 というかこれは寧ろチャンスなのでは? 

 バーディガーディは何も知らない。

 つまり真実を伝えればヒトガミにも従わないのでは無かろうか。

 まぁ結果は五分五分といったところだろうが。

 バーディガーディの懐はマリアナ海溝のように深い。

 それは何度でもヒトガミを許す程にな。

 

 それでもやって損はないだろう。

 バーディガーディは死なない。今は封印も出来ない。

 それなら味方につけられるこのチャンスを逃す訳にはいかないのだ。

 

「……陛下、その話はここではできません。なるべく人がいない場所で話したく思います」

「ふむ、そうか。わかったぞ。ギルド長、部屋はあるか!」

「執務室がございます」

「ではそこを使わせていただこう。それでいいな!」

「はい。ありがとうございます」

 

 よし。やはり会話で何とかなるかもしれない。

 戦闘しないで済むならそれに越したことはないんだ。

 

「どうするの? ルーデウス」

「バーディ陛下と話してみようと思う」

「……そう。護衛は任せなさい。叩き切ってやるわ」

「ありがとう、エリス。っとその前に、

 神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者のに再び立ち上がる力を与えん『ヒーリング』」

 

 エリスの身体が光に包まれ、たちまち傷が癒える。

 

「ありがとう」

「大丈夫。……ルイジェルドさんも護衛よろしくお願いします」

「あぁ。任せておけ」

 

 俺たちは互いに頷き合い、ギルド長とバーディガーディの入っていった部屋に向かった。

 ギルドに残された職員とほかの冒険者が呆然と立ち尽くしているのを背にしながら。

 

 

 

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