風が少し寒くなり、畑ではアスラン麦やピーマンが収穫の頃合いの時期となった。
俺は今とある問題に直面していた。
早急に解決しなければいけない死活問題である。
「どうしたのですかルディ」
「い、いや。なんでもないです」
ちょっとそわそわしていたようだ。
早く解決したいがロキシーにバレる訳にはいかない。
あれは生命線でありながら弱点でもあるからな。
そう、御神体の入手がまだなのである。
すぐ側にあるのに手が届かない。なんとも歯痒い気持ちだ。
前に1度洗濯物から入手しようとしたが丁度ロキシーに見つかってしまった。
それ以来ロキシーのガードは固い。
あと3日もしたら俺の誕生日がやってくる。
そしたらロキシーもシーローン王国に行ってしまう。
それまでにはなんとしても手に入れなければならない。
ということで作戦を立てた。
作戦の内容はこうだ。
まずロキシーを魔術の実験という名目で外に連れ出す。
そして俺はそこで
するとどうだろう。俺たちはすぐさまびしょ濡れだ。帰ったらすぐに着替え、衣服は洗濯物に出されるだろう。
そこをいただく。
そして今
レディー・パーフェクトリー、準備は完全に整った。
すぐさま作戦開始だ。
「ロキシー、ちょっと今から外に行かないか? 試したいことがあってさ」
「ふむ。ルディにはいつも私の修行に付き合わせてばかりでしたしね。大丈夫です。では今日はルディに付き添うことにします」
突然だったしちょっと無理矢理かと思ったが案外すんなりと通ってよかった。
「やはり魔術の実験となったらここですね」
俺たちは家から馬で1時間ぐらいの草原にきている。
前回の時もここで最終試験をやったな。すごい懐かしい。
遮蔽物がないので魔術の効果が目で見て分かりやすいのと、まわりへの影響を考えなくていいとなったらここしかないだろう。
「それで何の魔法の実験ですか?」
「
ふっ。我ながらそれっぽいことを言えたぜ。事前に考えておいてよかった。
「なるほど、了解です。では」
そう言うとロキシーは
前回と同じ轍は踏まないで済むようだ。
それにしてもカラヴァッジョは偉いな。普通の馬だったら怯えるだろうに堂々としている。
生物的本能で逆らってはいけないと悟っているだろうか。
いや、これはあれだな。ロキシーのことを信頼しているからだな。
ではそろそろやるとするか。
なるべく強めにやろう。しっかり濡れないとパンツまではいかないかもしれないし、
「ではいきます。
もくもくと雲ができていく。
それを俺は慣れた手つきで操作して纏めあげ雷雲にする。
それと同時に上に雲を押し上げるような竜巻を作る。
よし、これでOKだ。
なかなか立派な雷雲ができたのではないだろうか。
いや、これちょっとデカ過ぎないか? 前はこんなんじゃなかっただろ。
どれくらいっていわれたら、そうだな
東京ドーム2個分くらいだろうか。
適当に言った。そもそも俺東京ドームがどれくらい広いか知らないし。
ちょっと分かりやすい例は思いつかないが、気分的にはあれだ。
普段都会に住んでいて、久しぶりに地方に行った時にコンビニの駐車場を見た感覚だ。これも分かりにくいか。
まぁとにかくクソほどでかい
しかし本来の役割は果たしてくれた。
かなり激しい雨風が吹き荒れる。俺はもうびしょびしょだ。
「凄まじい威力ですね。こめた魔力が多いとここまでの物になるのですか」
振り返るとそこにはびしょ濡れのロキシーがいた。
水も滴るいい女どころの騒ぎでは無い。
だが、これほど濡れればパンツも濡れているだろう。
「ですがルディ、危ないのでそろそろ消してくれませんか」
「了解です」
了解とは言ったものの消せるかな? とりあえずやってみるか。
適当な風魔術で吹き飛ばすとしよう。
む、これは、一部しか散ってないな。仕方ない、複数回やるとするか。
少し時間はかかったが最終的に雨雲を飛ばすことに成功した。
だが最初の
魔力量が確実に増えている事を実感するな。
「成果も得られたし帰ろう」
「そうですね。でも今度からは威力を考えて使ってください。被害が凄いですから」
そう言われ辺りを見渡すと大きめの水溜まりがあちこちにできていた。
ほんとここでやっといて良かった。
村でやってたらアスラン麦とか全滅だったはずだ。
家に帰ってきた。
俺もロキシーもびしょ濡れでの帰宅だ。
こんな時は風呂でも入りたいが残念なことに我が家に風呂はない。
ではどうしているのかというと、水浴びか濡れタオルで拭くである。
そんなので大丈夫なのかって?
健康面での話なら問題ない。
この世界の人というのはそもそも強い。それは運動能力だけでなく免疫力とかでもだ。
それに我が家には解毒魔術や治癒魔術が使えるゼニスがいる。余程のことが無い限り心配は無い。
ただ気持ち的な面で言えば微妙なところだ。
1度風呂のある生活を知るとやはり風呂の偉大さを感じる。
まぁここら辺は慣れだな。
とりあえず各々自室に戻り着替えることとなった。
よし、チャチャッと着替えて御神体が洗濯物に出されるのを待機しよう。
小学生の時とかに下から脱ぐ奴とかいたがああいう奴らは将来露出癖が出るに違いない。俺にそんな癖はないのでまずは上を脱ぐ。
そしたら下を脱ごう、とした時にドアがノックされた。
「ルディ。今大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ」
間髪入れずにそう答える。
するとドアが開かれロキシーが入ってきた。
「っ! 着替えてるじゃないですか!」
「それがどうしたんだい? もしやロキシーは子供体型の俺に興味がおありで?」
「そんなルディみたいな趣味はありません!」
し、心外な。
別に俺だってそんなロリコンじゃないぞ。まぁ昔ちょっと考えたけど、俺には愛する妻たちがいるのだ。ロリなんて興味無いね。
「冗談はさておき。なに用で?」
「この桶にお湯を貰えますか。体を拭くにしても水よりお湯の方が楽ですから」
お湯を作るってのは案外難しい。
ただ水を作ってその中に
混合魔術が必須となってくる。混合魔術を使うには無詠唱魔術とこの世の自然の摂理のある程度の理解がいるので出来るやつは本当にごく一部だ。
ロキシーは素晴らしい魔術師だが流石に出来ない。
よって俺に頼んできたという訳だ。
お易い御用だと慣れた手つきで桶にお湯をためる。
「ありがとうございます。流石ですね」
「ではお代を頂きます。お代はロキシーの生着替えで」
「それはもう少し大人になってからです」
だめか。そこら辺の線引きはきちんとしているな。いくら旦那でも子供は倫理的にダメということか。
まぁいい。今日の目的はあくまで御神体である。
「では失礼します。……覗かないでくださいよ」
「もちろん!」
そうしてロキシーは自室に戻って行った。
それから15分後
扉を開き1階に降りて、数分後に帰ってくる音がした。
ロキシーが服を洗濯物に出したのだ。
俺は自室の扉をそっと開き脱衣場に向かう。
洗濯籠には衣類が沢山はいっている。そしてその1番上には見慣れたローブがあった。
きっとこの下にあるに違いない。
ローブをどかす。
ない。
もっと下か?
ない。
衣類を全て出してみる。
ない。
どういうことだ、どこにもないぞ。
「何をしているのですか」
はっ!
振り返るとそこには鋭い目で俺を見るロキシーがいた。
「ええっと。濡れた服を洗濯に出そうと」
「ではなぜ衣類が全て籠から出されているのですか?」
「それは、その……」
「まぁあらかた予想はつきます。残念ですがお目当てのものはそこにはないですよ。あれは自分で手洗いしましたから」
くっ、対策済みか。
今日の作戦は失敗だ。何か別の方法を考えなくては。
このままでは誕生日が来てしまう。
5歳になった。
結局俺は御神体を手に入れることができなかった。
あの手この手で狙いに行ったが予想以上にロキシーのガードは固かったのだ。
残念でならないがまだこれからチャンスはある。今生の別れという訳ではないのだから。
とりあえず今は誕生日パーティーを楽しもうじゃあないか。そうでないとパウロ達にも失礼な話である。
パーティーの途中で前回同様プレゼントが渡された。
パウロからは2本の剣だ。
また長々とあれこれ語ってはゼニスに「長い」と叱られていた。
だが安心して欲しい。
俺は剣に限らず全てにおいて責任を持つことの大切さを忘れないよ。
ゼニスからは靴を貰った。
少し大きめで素朴な感じだがとても頑丈そうである。
前回は本を貰ったがそういえば今生ではあまり本を読んでいなかったな。
「ルディにはこれを履いてたくさん外に出かけて欲しいわ」
「ありがとうございます母様。いっぱい出かけます!」
そういうとぎゅっと抱きしめられた。
ロキシーからは箱を貰った。
両手で持てるサイズで、装飾はそんなにないがけっして安物という訳でもなさそうである。そして鍵がかかっている。
「先生、これは?」
「この箱はまだ開けてはいけません。私がその時だと思った時に鍵を渡します」
「分かりました。では大切に保管しておきます」
「そうしてください。盗まれると困りますから」
そんなに大切なものが入っているのか。
厳重に保管しておこう。
翌日から、本格的な剣術の鍛錬が開始された。
基本的には素振りや型を中心に。
庭に作成された木人相手に、型や打ち込みの具合を見たり、
パウロ相手に打ち合いをして、足運びや体重移動の訓練をしたり。
という感じだ。
まぁこれも前回と一緒だな。基礎的だからこそ真面目にしよう。
「ルディは剣術の才能があるかもな」
打ち合いをしているとパウロがそう言ってきた。
だが残念なことに俺には剣術の才能はない。
才能があるように見えるのは前回で培ってきた努力の結果だな。
俺の剣術の腕前は剣神流中級、水神流初級だが、
実際はどの流派でも中級までなら剣術だけで勝てると思う。実際勝ってきた。
だが、上級までいくと話は別だ。上級以上の奴らと戦うには予見眼が必須となる。
それでいて勝つことは出来ないだろう。
俺が絶対に剣術で強くなれない理由、
それは闘気だ。産まれたての赤子ですら闘気を持っているが俺にはない。
上級以上の剣士はその闘気を使いこなしてくる。
俺がどんなに斬っても大した攻撃にならないのに対してあっちの攻撃は俺にとって全て一撃必殺だ。
そんなの勝てるはずがない。
だがいいのだ。
俺には魔術がある。魔術があれば聖級レベルまで相手できる。帝級もギリいける。
神級は無理だ。
そこでパウロのことについて考えてみよう。
パウロは全ての流派で上級を収めている。俺なんかより全然才能があるな。
パウロなら剣神流以外の流派ならその流派のみ聖級の奴とやっても通用するだろう。
もったいないことだ。
パウロの才能ならもっと上を目指せただろうに、
サボり魔だからなぁ。そこも含めてパウロのことは好きなんだけど。
「僕なんてまだまだですよ」
「そうか? まぁそうだな。俺に勝ってからだな」
こういうところだ。平常運転でもはや安心するよ。
午後の時間は継続してロキシーの修行につきあうのと俺の重力魔法の練習をしている。
俺の方だが最初は順調だったのに最近全く成長を感じられない。
少しずつ重さを増やして練習していたのだが70キロ辺りで浮かなくなった。
イメージ力が足りないのか、それともここが俺の限界なのだろうか。
確実にモチベーションは下がっている。
それに比べてロキシーの熱量は凄い。
未だ成功の兆しは見えないがそれでもめげずに頑張っている。何かを掴んだのだろう。
頑張るロキシーを見ていると俺も頑張ろって気持ちになるので大変ありがたい。
そんな風な事を考えていると、
「ルディ、そろそろ私はシーローンに行こうと思います」
唐突にそう言われた。
「そ、そうか。もうそんな時期か」
知っていたにも関わらず唐突に言われたものだからこんな返答をしてしまった。
「それでですが明日試験をお願いします」
「なんの試験でしょう?」
「私の試験です」
ロキシーの試験?
つまり乱魔ができるようになったか見て欲しいってことか?
ちょっと無謀がすぎるんじゃないだろうか。流石にロキシーでも明日までに成功にもっていくのは不可能だ。
「えっと、その、大丈夫ですか?」
「言いたいことは分かります。ですが明日させてください」
真剣な眼差しで見つめるロキシー
策略があるのだろうか。ここまで言われたからには俺ももう口出ししない。
「分かった」
この一言だけで十分だ。
翌日
「またやって来ましたね」
俺たちは再び草原に来ていた。ただ前来た時の影響がまだ残っている。
「それで具体的にはどのように?」
「ルディには
内容の方は理解した。
後はロキシーを信じるだけだ。
「了解。もう始めていい?」
「はい。お願いします」
GOサインを頂いたということでいっちょやりますか。
「では、
「乱魔!」
もくもくと雲ができていく。
それを俺は慣れた手つきで操作して纏めあげ雷雲にする。
それと同時に上に雲を押し上げるような竜巻を作る。
出来上がってしまった。
前回と全く同じように作った雷雲の威力は相変わらず凄まじい。
いや、なんだか弱くないか?
普通のものよりも弱い気がする。振ってくる雨は小さめで量も減っている。小雨より少し強い程度でしかない。
「成功です」
後ろの方でロキシーがそう言う。
「ロキシー、これは一体」
そう尋ねるとロキシーはドヤ顔で答えた。
「私は最終的に乱魔を使うことを諦めました。そこで方針を変え、魔術を消すのではなく弱める事にしたのです。この魔術の名は
「凄いよロキシー」
凄い! これは本当に凄い。
魔術を弱体化する魔術なんてものはこれまで無かったはず。そしてこの減衰量。凄まじいとしか言いようがない。やはりロキシーは天才だ。
「試験の結果はどうですか?」
「120点!」
ロキシーは少し濡れた顔で満面の笑みを浮かべていた。
また翌日
ロキシーは旅装を整え、二年前に来た時と寸分変わらない格好で玄関にいた。
父も母もロキシーが来た時と、あまり変わらない。
俺の背だけが伸びていた。
「ロキシーちゃん、まだウチにいてもいいのよ?
教えてないお料理も一杯あるし……」
「そうだぞ。家庭教師が終わったとはいえ、君には去年の干ばつの時にも世話になったしな」
両親は前と同じようにロキシーを引き止めようとする。
「いいえ。ありがたい申し出ですが、私もまだまだ頑張れることを学びました。しばらくは世界を旅しながら、魔術の腕を鍛えようと思います」
「そうか。ルディが君の刺激になったのなら良かったよ」
お、パウロにしてはまともなことを言ったな。
変なことを言わなくて良かったと安心していると、ロキシーは俺に近づき頭に手をおいた。
「ルディ、約2年間ですがあなたの教師になれて幸せでした。ありがとうございました」
「いえ、僕も大変勉強になりました。ありがとうございました」
「最後にこれを渡しておきます」
ロキシーは、ローブの内側に手を入れると、ゴソゴソと中を探り、小さな鍵を取り出した。
「誕生日に渡した箱の鍵です。私が出発してから部屋で1人で開けてください」
おお、ついにあの箱の中身が分かるのか。
色々と条件を言われたが大した内容ではない。言われた通りにしよう。
俺は小さく頷いた。
それを見てロキシーも頷き返してくれた。
「では、また会いましょう」
そういうとロキシーは笑顔で家を出ていった。
俺は泣いていなかった。また会えると確信しているからな。
ロキシーはやっぱり尊敬する人だ。
今回も彼女は諦めないことの大切さを教えてくれた。
ロキシーに失望されないよう俺も頑張ろう。
ロキシーがシーローンに向かってから30分後
俺は自室にいた。
「よし、開けるか」
周りには誰もおらずこの場には俺1人。これなら開けても問題なかろう。
ポケットから鍵を取りだし、鍵穴にさす。鍵はなんの抵抗もなく回った。その瞬間ガチャっと音が鳴る。開いたようだ。
恐る恐る箱を開くとそこには2つのものが入っていた。
まず、上の方にあったものを持ち上げる。
ペンダントだ。
緑の光沢を持つ金属でできていて、三つの槍が組み合わさったような形をしている。
前回ももらったミグルド族のお守りである。
我が家の家紋と言っても過言ではないものなので、首からかけておくことにした。
そして2つ目
なんだこれは? 白い布?
よく分からず持ち上げてみる。
手触りがよく、見た目通り軽い。ちいさなリボンがついている。
これは、御神体!
そんなまさか、あれほど欲したものが神から直接頂けるなんて、
興奮を隠しきれない。すぐさま鼻に押し付けた。
「スゥ──ー、ハァ──ー」
石鹸の香りがする。
ぐ、洗濯済みか。だが新品では無い。奥の方に仄かにロキシーの匂いがする。少なくとも半年物だ。
上がっていたモチベーションが限界突破した気分だ。最高だ。
こんな素晴らしいプレゼントをくれるなんて、
やはりロキシーは尊敬する人である。
頑張ろ
この先の展開どれがいい。(執筆スピードに影響はございません)
-
イージールート
-
ノーマルルート
-
ハードルート