黙示録狂騒満喫譚   作:ヤン・デ・レェ

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最後の晩餐その3

着いた先の空港ではしゃぎまくる美玖と静香を宥めつつ、アメリカが少し不景気気味なのを感じた。前来た時より空港内の色々なものが明らかに高くなっていた。

 

三人組には学校や職場へのお土産用の小遣いは渡してあるので、ねだられたらそれは三人が自分用に買う物…と言う風に事前に決めておいた。だが、案外言葉が通じなくてもぐいぐいショッピングできるもんだな…感心するよ。

 

特に美玖はすぐさま本場のコーヒーショップで冷たくて長くて甘いヤツを買って飲んでた。おしゃれすぎて…その名前が覚えられないんだ。だから散々身近にあったのに、自由の女神のコーヒーを飲んだのはこの時が初めてだったな…。

 

「どう…美味しい?」

 

「う…。」

 

「う?どうしたの?私のはお砂糖入れてないから、少し苦かったかしら?」

 

「う、う、ううううまぁいいいいいいぃッッ…!?ぬぁッ!?な、なんだこれは!」

 

「心配させないでよ…変なトコで無知なのね…でも、トニーのそういうところ、私は可愛いと思うわ。」

 

「な、なんなんだこれは?こ、これがコーヒー???これがコーヒーだってのか?じゃ、じゃぁよぉ!俺が、今まで俺が飲んできた黒い液体は何だったんだ!?インスタントコーヒーは?あれはなんだ?泥水だったのか!?」

 

「トニー?トニー!?落ち着いて!貴方どうしたのよ!そんなに衝撃的だったの?」

 

「コーヒーって苦いだけの飲み物だと、ずっと勘違いしてたよ…すげぇ、ス〇バのコーヒーすげぇ…。」

 

人生最大のカルチャーショックの一つだ。ずっと苦いだけのもんだと思ってたからな。

 

 

 

アメリカ旅行は楽しかった。空港の後はビーチに行って空港の時以上に周りの注目を集めた。俺はサーファーが着るような全身水着を着て三人が楽しむのを眺めてた。

 

誘われたが…実は海が怖いのでそれとなく断っておいた。残念そうな顔をされると辛いが…頼む、勘弁してくれ。俺は泳げない訳じゃないが、どうにも海は苦手なんだ。

 

リカは天然の日焼けサロンに来たみたいに優雅に過ごしてた。体育座りの俺の隣で、な。

 

美玖も静香も発育が良いからビーチのあちこちで声を掛けられてた。俺と一緒のリカは一度も声を掛けられていなかったので…アメリカ人は見る目が無いなと思う。屈強な黒人やら、ラッパー風の軽薄な輩が現れない限りは二人に任せておいた。

 

不安げな視線をこっちに寄こしたら、俺とリカがさりげなく蹴散らして二人を回収した。

 

これを機に海とビーチが嫌いになるかな?とか思ったが、残念真逆だった。前よりも好きになったそうだ。ナゼダ……。

 

 

地元の有名なレストランやらを数日かけて巡り、脂っこくてボリューミーで香りの強い料理を食いまくった。俺は三人が慣れない食事で体調を悪くしないか心配だったが、杞憂だったな。一応いざという時の為に酒は飲まないでコーラにしてたけど。

 

そう言えば面白いことに気がついた、俺以外の三人は食べた分だけ肌艶と胸と尻の脂肪に変わるんだ。

 

俺の場合?俺のはよくわからん。けど、アメリカ旅行中に飲酒運転のダッジに三度轢かれたが三回とも擦り剝いただけで済んだ。だから多分、全部骨と筋肉に還元されてるんじゃないかな?

 

 

 

山ほど土産を買い、アメリカ本土ツアーを満喫した三人は帰りの機内でずっと寝ていたらしい。随分静かだったもんな。

 

日本に帰ってきて最初に、浩一に向こうで買った腕時計を贈った。戦車に踏まれても大丈夫だから是非有効利用して欲しい。百万くらいの奴だし、何より俺からの物だからと喜んでくれた。

 

…俺は自分の息子が今や一人の大人として生計を立てているだけでなく、人にものを教える立場にいることに感動と寂しさを覚えずにはいられなかった。

 

<彼女>は…喜んでいるのだろうか?俺は父親として、まだ認めて貰えているのだろうか?

 

誰もいない、俺一人だけが家にいる日。俺は指環を外してダイニングテーブルの上において、彼女に聴いて貰おうと思った。今の自分が抱いている所を言葉に出して整理しようと思った。

 

「なぁ聞いてくれよ、浩一は最近、不良生徒に向き合い更生を促すこと?にやりがいを感じているらしいんだ。おれはどちらかと言うと、まぁ人を守る仕事に就いたからいいものの、どちらかというと更生を促されるが側だっただろ?」

 

「だからヒヤヒヤしながら話聞いたりしてるよ。お父さんみたいな立派な大人に育て上げます!なんて言われるとどんな顔すればいいのかわかんなくなっちゃうよ。」

 

「イジメに遭ってる子が居て、その子を見て見ぬ振りが出来なくて、そんで一向に向こうが言い出す気配が無いもんだから、浩一が呼び出してこっそり話を聞いたんだそうだ。」

 

「…家が裕福な子だそうでな、親もかなりキラキラしてるんだそうだ。若者の言う陽キャの家に生まれたんだな。でもその子は別にそういうタイプじゃなくて、だっちかというとオタクらしい。」

 

「浩一は勉強マニアだったが、外見も良かったし協調することも苦じゃなかったから誰にもイジメは受けなかったが…その子は外見が特別良いわけでもないし、成績も中の下とかそこららしい。コミュニケーションも浩一が話した分だと微妙らしくて、頭は悪かないんだが…まぁ、生まれや環境への嫉妬もあるんだろうな。そういう理由でイジメに遭ってるって訳だ。」

 

「俺はイジメが嫌いだ。イジメなんざ暇なバカがすることだ。憎しみしか生まないし、イジメる側がイジメられる側になった時は悲惨極まる。自分をイジメる大義をばら撒くなんざ考えられないぜ。浩一が愚痴るのも最もだ。早いとこ学習環境を改善するんだって息巻いてたよ。」

 

息子のことを報告してから、ふと最近の浩一の言葉を思った。

 

「その話は変わるんだが…君はどう思う?浩一が言ったんだよ、「その調子です」って。」

 

「…まさかだが、これは俺の人間関係について言ってるのかな?それともなんだ、順調に年を重ねてってるとか、或いは人間的に成長してるとか…そんな、そんな訳ないよなぁ…。」

 

「…今更ウジウジ悩む質でもないし。このままそういう運命だと思って全力で生きるべきかな…リカも静香も美玖も…やっぱり傍に居てくれないと、俺は寂しいんだよ。温もりが恋しくなる。」

 

「だからこればっかりは悪い男を捕まえたと思って勘弁してくれよ?大丈夫、人はいずれ死ぬからな。何十年後か知らないが、その時は絶対に言い訳なんかしないからさ。」

 

 

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