黙示録狂騒満喫譚   作:ヤン・デ・レェ

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学園黙示録:DAY・1
DAY1・1「BOY , GIRL AND BOY」


中心街は考え得る中で最悪の状況だった。

 

既に感染した<奴ら>が彷徨っており、あちこちで車は乗り捨てられ、それまでスムーズに進んでいたものが藤美学園に近づくごとに遠回りを強いられた。

 

「これじゃあ、らちが明かない…いっそ車を捨てるべきか…。」

 

渋滞に遭遇し悩むも、周りでひっきりなしに鳴り響くクラクションの音にウンザリしている内に、クラクションの大合唱と共に<奴ら>が集まりだしたことで遂に一歩も進めなくなり、トニーは徒歩で向かうことを決めた。

 

「これで良し…背に腹は代えられん。」

 

愛車を捨てることは忍びないが、この際仕方ない。

 

車載の散弾銃と拳銃をそれぞれ携え、トランクから取り出した武器弾薬の詰まったボストンバッグをたすき掛けで背負ったトニーは、一路藤美学園へ向けて走り出した。

 

 

 

進路を真直ぐ北にとり、進んでいくトニーだったが、藤美学園に向かうにつれて感染者は疎らになっていった。

 

「よかった!まだ浩一達の元までは到達していないようだ!」

 

中心街に比較して明らかに綺麗な街並みを見て安堵したのも束の間、全力疾走するトニーの足音などに釣られたのか、路地裏から<奴ら>が顔を出してきた。

 

「奴ら…路地裏で食ってやがったのか?…人が疎らなのは真っ先に逃げたからか?」

 

走るトニーの視界の端の暗がりから次々に此方へ向かってくる。纏わりつこうとする<奴ら>を押しのけつつ、トニーは走った。

 

弾薬の浪費はすべきではないとの判断から発砲せず、押しのけて躱しながらも前へと進んだ。

 

 

 

車を捨ててから十数分後のこと、トニーは藤美学園の正門前に辿り着いた。門は破られておらず一縷の希望を抱いたものの、現実は残酷であった。

 

「クソッ…門の向こうに<奴ら>が…どこから入れば…。」

 

高い塀と丈夫な鉄冊の門に守られている筈のそこは、確かに開かれていなかった。だが、しかし既に門の向こうには<奴ら>の動く姿が見えており、明らかな侵入の痕跡があった。

 

「仕方ない、か」

 

<<ガシュッ!ガシュッ!>>

 

炭酸が抜けるようなくぐもった発砲音が連続すると同時に鉄門の錠前が破砕した。門付近の数体の<奴ら>が反応して集まりだしたが、奴らに構うことなくトニーは学園の敷地に素早く侵入した。

 

「アレは…非常階段か?」

 

隠密裏に探索しながら侵入経路を探したものの既に目ぼしい出入り口には<奴ら>が徘徊しており、極力戦闘を避けたいトニーにとっては攻めあぐねる状況だった。

 

美玖の保護者として数度訪れたことがある経験上内部構造については多少なりとも知っていた。内部に入った後は早急に生存者が拠点に選びそうな場所を巡り彼らを回収することを想定していたが、予想以上に深刻な現状、通常のルートを断念せざるを得なかった。

 

「…電話をするにも、音に敏感な連中に囲まれた今の状況で電話を掛けるのは浩一たちの身に危険をもたらしかねない…何とか生徒に合流できないものか…。」

 

<<ガシュッ!>>

 

非常階段の施錠を一撃で破壊し、素早く駆け上る。

 

<<チャコッ…チャコッ…チャコッ…>>

 

目的地は屋上付近を想定しており、上からしらみつぶしに校舎を巡る方針に計画を修正したトニーは、上りながら消費した三発分の12ゲージのショットシェルを込めてから、屋上のドアを蹴り開けた。

 

<<ドカッ!>>

 

「おい!誰かいないか!」

 

扉をこじ開ける乱暴な音に反応した<奴ら>を時に躱し、時に銃床で殴りつけながらトニーは屋上を駆け抜けた。

 

「誰か!誰かいないのかッ!」

 

叫びながら屋上を駆け抜ける。だが誰の声もしない。次第に下の階からも這いずるように階段を上がって来た、集まりだした<奴ら>を見て下の階に退避しようとした時だった。

 

「ここですッ!ここにッ!ここに居ますッ!!」

 

階段を上がった所で少年が叫んでいた。血まみれでボコボコに歪んでいるバットを振り回してこちらに、その存在を主張していた。

 

「こっちに移れるか!」

 

「無理です!親友が、噛まれて動かせません!」

 

声をかけると返答は否。負傷者の存在に眉間にしわが寄りそうになるのを我慢する。

 

「…わかった!俺がそっちに行く!」

 

「お願いします!」

 

目の前に迫る<奴ら>を数人まとめて蹴り倒してから、少年らお手製のバリケードを飛び越えて転がり込む様に着地すると、そこには先ほどの少年以外にも二人の人間が居た。

 

「応答感謝する、所で君は…公安課の正の娘さんじゃないか?」

 

ふと目を向けた先の少女に見覚えがあったトニーは、優等生の娘を自慢してきた警察官の知人のことを思い出した。浩一が危うく懲戒免職になりかけ、一郎の所に殴り込みに向かった覚えがある。浩一からは理解できるが、どうして正からも感謝されたのかは謎だった。

 

「え!父を、お父さんを知ってるんですか!?」

 

「仕事で世話になったんだ…えぇっと、レイであってるか?」

 

「あ、ハイッ!宮本麗です!」

 

偶然にも見覚えのある少女が居た。彼女は無傷そうだ…腕に包帯を巻いた少年が怪我人の様だった。

 

「よろしく、俺はトニー、トニー・主水だ。そっちの少年二人は?紹介してもらえるかな?」

 

「トニー・モンド…ってあのトニーさんですか!?」

 

「どのトニーかは知らないが、お父さんから話が言ってるなら多分そのトニー・モンドで合ってるよ。国会議員選挙の時に俺が警備担当で、そこで正とは顔見知りになったんでな。結構昔のことだが。それより、今は先ずそっちの二人を紹介してくれないか?」

 

非常時故に普通なら引かれるくらいの気安さで距離を詰める。威圧感を少しでも軽減するために銃口を真下に向けておく。

 

「あっ、はい!さっきバットを振ってたのが…」

 

宮本麗と名乗った少女が安堵したように表情を和らげて口を開くと、今度はケガをしている方の少年が警戒心を顕わにした。

 

「おいっ麗ッ!待てよ!その人、銃を持ってるんだぞ!服装からしたって、軍や警察の人じゃないだろ…!」

 

ぎろりと睨みつけられるが、その表情には怒りよりも怯えの表情が強かった。

 

「まぁ、落ち着けよ永…今はこの人に誰なのか教えて貰った方が早い、えぇっと、俺は小室孝です。」

 

先ほどバットを振っていた少年が宥めるが効果は薄そうだ。天文台に逃げ込むまで彼らを主導した永にもリーダーとしての気概があるのかもしれない。柵に背中を預けながらトニーを睨んでいた。

 

「孝ッ!」

 

トニーに軽く会釈されて孝も返すと、またしても少年の怒声が飛んだ。

 

「大丈夫だよ永!お父さんも私もお世話になった人だから!」

 

「…わかった…すみません、取り乱して。俺が井豪永です。」

 

終止符を打ったのは麗の一言だった。女の声ですっかり大人しくなった永に対して、孝は複雑そうな表情を浮かべた。

 

一つ首肯したトニーはおもむろに懐から取り出して携帯電話に表示される時刻を三人に見せた。

 

「OK…俺も突然すまなかったな。とはいえ時間が無い…見てくれ、今の時間は既に15:00を回ってる。俺の予定では三人を回収して15:00までにはここを出るつもりだったんだが…。」

 

三人のキーワードに今度は麗が狼狽えた。

 

「三人って!?私達も、私達のことも連れてってくださいッ!」

 

身を乗り出した麗の肩を抑えるように、トニーははっきりとした言葉でゆっくりと語り掛けた。

 

「まぁ落ち着け。麗。だから、これはあくまでも当初の予定では…だ。」

 

トニーの穏やかな声に落ち着きを取り戻した麗が引き下がると、見計らったように孝と永も声を上げた。

 

「じゃあ、今後の予定はどうするんですか?」

 

「そもそもどうしてここに?」

 

重く息を吐いてからトニーは三人の顔を見回し、それから手に握っていた銃を置き、背中からバッグを降ろしてから、永の眼を見つめながら言った。

 

「皆迄いうんじゃない…一から説明する暇は今は無い、それに今は説明するより大事なことがある…。永…君の腕を見せてくれ。」

 

 




装備の紹介は平野コータ登場後。

スラッグ実包×3発(3発:3発:8発)27発
消費弾薬×作中消費数(実際:累計:弾倉)残弾数
*主人公と主人公の同伴者に限定
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