消費弾薬×作中消費数(実際:累計:弾倉)残弾数
*主人公と主人公の同伴者に限定
彼女の肌に<奴ら>の指先が触れる
<<ガシュッ!ガシュッ!ガシュッ!>>
よりも早く、ガスの抜けるようなくぐもった銃声が保健室に響いた。
<<カラッ…カランッ…カラカラ……>>
排出された12ゲージスラッグ弾のプラスチック製薬莢が、ガラス片だらけの床に軽快な音を立てて転がった。その数三つ。さっきまで脅威足り得た5体以上いた<奴ら>は、凶暴な破壊力を齎す一粒弾による至近距離での射撃で、まとめてその脳幹を吹き飛ばされた。真横から殴りつけられた様な衝撃で頭部の破裂した数体の<奴ら>だったものを乗り越えて、現れたのは完全武装のトニーだった。
「ふぅ…間に合ったようだな…。」
トニーは無傷の静香と美玖を認めると安堵のため息を吐いた。消費した三発を補充しようと腰に手を掛けた瞬間だった。真横から殴りつけるように柔らかい重量物に視界を奪われた。
「う、うぅぅぅううう!!トニーちゃぁあああん!?」
油断も隙も無いトニーの視界を奪ったのは、両サイドをビリビリに裂かれたプラダに涙目になりつつも、愛しの彼との再会に現場の惨状を忘れて喜ぶ鞠川静香その人であった。
「うおっち…無事で何より、元気そうだな静香…。」
飛び跳ねる乳に両頬を叩かれていたトニーは、なんとか静香の拘束から抜け出すと、改めて彼女の全身の安否を確認して一息ついた。
「ううう、無事でよかったあ~…で、でもどうして電話に出てくれなかったの!!」
大型犬の様に頭や背中を撫でられながら、抱き着いて離れない静香は頬を膨らませて言った。
「学園に入ってからは電源切ってたんだ、悪かった。<奴ら>どうにも音に敏感らしい。」
「いいわ、許してあげる…助けてくれたもの。それで…貴女もありがとう。お陰で助かったわ。」
トニーはバツが悪そうに謝ると、自分の後から保健室に入るや、瞬く間に残敵を打ちのめした女性に視線を遣った。気づいた静香は彼女の方に顔を向けると、ペコリと頭を下げた。
「私は剣道部主将の毒島冴子、先ほど、こちらのモンドさんとご一緒した次第だ。」
「俺からも礼を言う…形にするのは後からになるが、まずは有難う。お陰で間に合ったよ。」
頭を提げられた方の冴子は何でもないことの様に言った。所作の一つ一つが洗練されており、静香は「育ちが良いのね」程度にしか思わなかったが、保健室に入室してからの一連の木刀捌きにしても、その技術にトニーは唸った。
心強い味方を得たと思い、また道中で快く帯同してくれたことへの感謝を示そうと、トニーは冴子に頭を下げた。
「いや…良いんだ。私の方こそ、二度も貴方に救われた…気にしないでくれ。」
「…そうか?…なら有難く。今は先に、こっちの…。」
静香に頭を提げられた時は驕らず、しかして謙遜にも過ぎない見事な態度をとっていたはずだが…と、僅かに取り乱し口ごもった冴子の様子に違和感を感じたものの、トニーは彼女の指示するままに従い、美玖によりドアから助け出された青年に目を向けた。
「石井かず君…静香さんと私を守ってくれたの…。」
美玖に言われ、トニーは一度視線を青年から美玖に移した。
「待たせて悪かったな、美玖。怖かっただろ?」
「全然、あの時の方がずっと怖かった…だから、大丈夫。」
頬に手を当てられ美玖の表情は和らいだが、視線はすぐに瀕死の青年へと向けられた。美玖の反応をみれば、この青年が如何に献身的に二人を守ってくれたのか慮るに余りある。
「そうか…よし、石井かず君、で合ってるかな?」
「ハァ…ハァ…あ、合って…ます…。」
しゃがみこみ、トニーは青年の充血し濁り始めた半開きの瞳と瞳を合わせながら、あくまでも淡々と声を掛けた。
血のあぶくが溢れるまま、石井青年は肯んじた。
「全身の複数個所に咬合による負傷…その複数個所が動脈に達している…あらゆる手段を講じても君を救う手段が、今の俺達には存在しない。」
「し、ハァ…死ぬんです、ハァ…ハァ…よね…?」
トニーは決して表情豊かな方ではない。だが、その感情の起伏は人一倍に激しく、単に表現が下手なだけである。故に、沈痛な面持ちが隠せない今のトニーの様相は、このような場でなければいっそからかいの材料にもなったであろう。
重々しくも揺らがない語り口調に対して、石井青年は恨み言を言うでもなく、また同情を誘うでもなく従容として、しかし涙を流しながら小刻みに首を縦に振っていた。
「あぁ……自分の最期は自分で決める権利が、君にはある…どうする?俺や、冴子…彼女が代わりにやってもいいが…。」
トニーは背後から素早く拳銃を抜くと、銃口を敢えて自分自身に向けたまま、石井青年に両手で捧げるように差し出した。
「フーー…フーー……や…やり、ます…じぶん、で…。」
トニーの姿に、石井青年は何も悟ることは無かった、善良な一青年は、最期の時までも、善良な一青年であった。
「…分かった。なら、俺の銃を譲ろう。」
トニーはそう言うと、瞬時に愛銃S&W M49ボディガードを構えた。
<<カチッ…チャキ…>>
ラッチに指を掛け、シリンダーを引き出し。
<<ジャラララ…>>
装填されていた5発の弾丸を取り出し。
<<チャクッ…>>
摘まみだした一発だけを装填し。
<<カララララッ…カチッ!>>
シリンダーを一回転させてから、一息に戻した。
「弾は一発。君が生き残るべき運命になければ、撃ち損じることは無い。」
本来ならばタブーである筈の、銃口を覗く素振りをしてから、トニーは銃口を今度は自分に向けてではなく、誰もいない真横に向けた状態で石井青年に渡した。
「…ふっ…ふッ…ふっ…い、いき、ます…やります…」
力なく持ち上がった腕から力が抜けそうになり、手の甲が床につく寸前でトニーが掬い上げた。そして、指一本一本を木製のグリップに馴染ませるように握り込ませてから、人差し指を引き金に導き、それからハンマーを起こしてから、頭の真横に誘導した。
<<ーーーーーーー>>
トニーの手が離れた瞬間。石井青年は力を振り絞って引き金を引いた。
石井青年の指が起こしたアクションを、撃針が正確に薬莢の雷管へと伝えた。
眩い火薬とガスの燃焼により一瞬火炎が煌めき、エネルギーに押し出された弾丸が鋭く空気を切り裂いた。
銃身のライフリングを駆け抜けて、手振れにより打ち上げられるより速く、真直ぐに石井青年の脳幹を吹き飛ばした。
「静香と美玖を守ってくれてありがとう…石井かず君、君のことは忘れない。」
吹き飛んだ血と脳味噌。赤と橙の飛沫やら断片が壁と窓ガラスにべったりと飛び散っていた。すぐ近くに落ちていたシーツを彼に被せてから、トニーは合掌し、頭を深々と下げた。
「トニーちゃん…かず君、とってもいい子だったの…また、迷惑かけちゃったわね…。」
同じように合掌し、顔を上げた静香が心細そうに、いつもの彼女らしくはないことを言う。
「静香が悪いわけじゃない。だから無理にいつもの調子に戻さなくてもいい、今度は俺が守る番だからな…。」
だが多くのものが知る<いつもの彼女>以外の彼女も知るトニーが、無理に彼女をいつもの底抜けに明るく爛漫な振る舞いに戻そうなどとは、考える筈もないことだった。ただ、純粋に感じた後悔や贖罪の念を否定すべきではない。ただ、今は時間と場所が悪い、ただそれだけなのだ。
「トニーさん…そろそろ、離れた方が…。」
静香の背中を摩り、肩を抱いて慰めていると、美玖の声が掛かった。美玖にも、その内改めてカウンセリングが必要だろう。過酷な状況に慣れっこなトニーとは違い、彼女たちは余りにも慣れていない。いや、むしろ適応しろと言う事の方が甚だ無茶ぶりなのだが…。
「あぁ…銃声が鳴った。<奴ら>が集まる前にここを離れる。目的地は職員室だ。そこで待たせてある三人と合流してくれ…俺はそれから急いで浩一を探してくる。」
トニーの言葉でこの場で生き残った四人が動き始めた。
保健室を出る直前、石井青年の亡骸の前で立ち尽くしていた冴子が、俯いて散弾銃に弾を込めていたトニーにグイッと顔を近づけて囁いた。
「……貴方も、漢なのだな。銃を、拾わないのか?」
おもむろに上げた木刀でシーツの向こうで石井青年の膝の上に置かれたままの、トニーの愛銃だったものを示した。
「…俺なりの礼儀だ。銃は彼に譲った。弾は回収済みだから問題ない。」
トニーは散弾銃のスライドを一度動かして薬室に弾が装填されたことを確かめてから、顔を上げ、不敵な表情を張り付けた冴子と、視線と視線を交わらせながら答えた。
「あぁ、そうだな。その方が、粋と言うものだ。」
トニーの返答を聴き、冴子は馥郁が鼻先を撫でた時のような、こそばゆくも満足げな表情で鼻を鳴らした。
「粋か…まぁ、今はまだそれでいい。」
冴子の言葉か、態度か、何かを感じたトニーは顔を二度三度左右に振り、それから彼女の後を追った。
スラッグ実包×3発(3発:6発:8発)24発
357マグナム弾実包×1発(1発:1発:0発)24発
消費弾薬×作中消費数(実際:累計:弾倉)残弾数
*主人公と主人公の同伴者に限定