散弾実包×16発(19発:27発:0発)11発
9mm弾実包×10発(30発:35発:0発)36発
357マグナム弾実包×0発(0発:1発:0発)24発
消費弾薬×作中消費数(実際:累計:弾倉)残弾数
*主人公と主人公の同伴者に限定
バスは<奴ら>に囲まれた二人を残し、予定通りに藤美学園を脱出した。残されたトニーと冴子は全方位を囲まれながらも、互いをカバーしながら<奴ら>の波を捌きつつ、じりじりと距離を詰められながらも駐車場からグラウンドへと迂回するルートへ避難することに成功した。すぐ近くにある備蓄倉庫の鍵をスラッグショットでこじ開けて中へと侵入し、やっと二人は倉庫の床に腰を下ろした。
全力で走り続け、時に木刀で時にナイフで時に銃床で時に素手で、向かいくる<奴ら>を片っ端から互いへ寄せ付けまいと排除しながら進んでここまでやってきた。身のこなしだけを見れば、彼らは清流と激流という違いはあったものの、ここまで集団で重ねた鈍重な進軍とは比べ物にならない息の合い様であった。即興で互いを庇いながら戦い続けることは容易ではない。平時には決して本領を発揮することの無かった技量だった。リビングデッド共との激闘を乗り越え、夕日が燃える頃、二人はやっとの思いで集団の<奴ら>を撒き、痺れて熱をもった手足を休ませることが出来たのだった。
深呼吸を重ね、冴子の呼吸の落ち着いた頃にトニーがおもむろに立ち上がった。コンクリートの壁に背を預け、木刀を抱き姫座りをする冴子に、しゃがみこんだトニーは詰め寄った。銃もナイフも血みどろの状態で冷たい床の上に置かれていたが、薄暗い倉庫内の採光窓から注ぐ光を背中に負い、表情が陰になって見えなくても尚その眼光は射抜くように鋭かった。表情こそ冷淡な真顔だったが、その無感情な貌が余計に突き刺す様に厳しい視線を冴子に向けている様に見える。
「…おい、冴子。これは、何の真似だ!!!」
冷静で平坦な声から一転、トニーは声を荒げた。平時であれば<壁ドン>に類するであろう行為に冴子は頬を染める。机に真上から振り下ろす様に、叩きつけられた拳により壁に拳が沈み込んだ。パラパラと崩れ落ちるコンクリートの破片。<<ドゴンッ!>>比喩無しでそんな音が聞こえた。
「…大きな声を出すと<奴ら>が集まってきてしまうぞ?」
首を傾け、一瞬口元を歪め、笑みを浮かべたかと思えば、冴子はさらりとそう言い切った。拳はそのままに、トニーの表情がより硬く引き締まった。瞳の潤いが薄暗い倉庫に注ぐ僅かな光を受けて光っていた。冴子は泣いている様には見えず、むしろ感極まっているように見えた。トニーが不思議に思ったこと、その答えを冴子は自らの口から打ち明けた。
「これに、見覚えはないか?」
「…何故君が?」
冴子がスカートのポケットから取り出したのはライターだった。黒い皮革が巻かれており、金色に輝くロンソン社製クラシックガスライター。武道を極める者、和服が似合う大和撫子という印象の強い冴子の私物としてはらしくなかった。その印象通りこれは冴子の私物ではない。数年前のある晩、偶然にも拾ったものだった。そしてその持ち主こそ目の前のトニーだったという訳だ。眉を八の字にしてライターと冴子を交互に見つめるトニー。彼を見た冴子は、夜を織ったような腰まで届く長髪を揺らして笑った。
「覚えていないのだな…夜だったからな。それも仕様のないことだ。」
「…どうして俺の腕を引いた。君は乗り込んですぐに手すりに掴まっていただろう。落ちることは無かったはずだ。なのに…なぜ身を投げた?君はあのまま乗っていればよかった、なのに何故?」
トニーから聞かれた冴子は、尋問されている状況だと言うのに<報われた>という感情を顕わにして、達成感から来る恍惚と余裕の中で木刀に頬を預けながら話した。
「貴方と二人きりになりたかった…。」
「それだけであの死地に飛び込もうとは思わんだろう?」
「…一緒に死んで欲しかったのかもしれないな。」
「話せ…何が君をそこまで追い詰める。」
揺れたバスの衝撃で落ちた様に見えたあの時、冴子は自ら手すりを手放していた。そして、直ぐ傍にいたトニーの腕を引いて、彼と共に落ちたのだ。冴子は自嘲するように喉を鳴らして笑い、これまで抱え込んできた深い深い懸想をトニーに打ち明けた。
「誤解を招く言い方をして済まない。本当は、貴方の戦う姿…それも必死に、本気で戦う姿を隣で視ていたかったんだ。」
「貴方は覚えていないかもしれないが、私は貴方に一度、暴漢から助けて貰ったことがある。あの時、私は酷く不満に思ったんだ。どうして私の獲物を横取りしたのか、とね。私は合法的に自分の力を全力で行使することに、憧れていたんだ。」
「ある日突然学校に凶器を持った不審者が現れたり、銀行強盗に銃を突きつけられる場面に遭遇して、偶然居合わせた自分が奴らを打ち倒す。そのことを痛々しいまでに何度も何度も夢想したよ。何度も、何度も。」
冴子は目を細めて皮肉っぽい笑みを浮かべて少し高い位置で見下ろすようなトニーの顔を見上げた。
「普通はどれだけ鍛えた所で、実際にその力を振るいたいだなんて思わない。いや、駆使したいと考えても大会や試合で十分満足してしまうものだ…普通はな。だが、私の場合はそうではなかった。才能が、才能があったんだ。言う事も憚られたが、変わり果てた世界の理へと今やとってかわってしまった。」
いつの間にか手が震えていた。冴子は震える手を諭すように抑えた。
「暴力を振るう才能…そう言い換えてもいいかもしれない。あの日、夜道で出会った暴漢に対して私は恐れを微塵も抱かなかった。寧ろ私は明確に定義された敵との戦闘、存分に力を振るうことが許される状況と相手にこの上なく興奮した。その時の興奮と言ったら…性的な興奮にも近いものなのやもしれんな…おぼこの私には想像しかできないことだが。」
震えが止まると今度は冴子らしくもない目でトニーを見つめた。虹彩の渦の中心にはねっとりとした甘く重たい感情が渦巻いていた。
「だが現実には初めて相手に振るう一刀目を抜くより早く、通りがかりの貴方が暴漢を張り倒したんだ。私は唖然としたよ、横から獲物を掻っ攫われたからだけじゃない。まったく気配を察知できなかったからだ。そして、私が立ち尽くしている間に、貴方は私が想像もつかないことを成し遂げてくれた。ああ…その表情、思い出してくれたようだね…ああ、あの時貴方は本当に、本当に…暴漢を殺してしまったんだ。」
トニーの眼が見開くのを認めて、冴子は自然と口の端が上がってしまうのを感じた。トニーの眼に含まれている感情は困惑、次いで羞恥。そこに後悔はない。後悔や反省の色が無いことを冴子は理解できてしまった。そしてそのことに強い親近感を感じていた。
「君は……あの時、最期まで…視ていた、のか?」
「ああ、あぁ…最期まで視ていたんだ。私は。…私を襲おうと背後から私に覆いかぶさった男を昏倒させて担ぐと何処かへ向かった貴方は、このライターを遺していたんだ。私は硬直から返ると、ライターを拾って貴方を追いかけた。そして、路地裏の奥まったところで貴方が暴漢に馬乗りになっているのを見つけた。」
冴子の手がゆっくりと伸びてトニーの顔に触れた。汗や血脂や砂埃で汚れている。冴子の指先は黒く汚れてしまうが、彼女は赤子をあやすような、寝る前に昔話を語り聞かせるような優しい声音で話し続けた。
「…何故?」
「……悲鳴を上げるまえに喉を潰すと、頭蓋骨が潰れるまで殴り、そのまま貴方はあの男を殺してしまった。殺した後、貴方は何事も無かったかのようにその場を後にし、その後誰かが掴まったとも聞かなかった。何故警察に届け出なかったか…私は…私は貴方が男を殺す姿に親近感と、それから嫉妬を感じてしまったから。それに、貴方が私を助けようとしてくれたのは状況から理解できた。だから何もせずあの場所を離れたんだ。」
どうして見ていたのか。どうして通報しなかったのか。疑問にただ答えることを冴子は望まなかった。何故ならば彼女は知ってほしかったのだ。自分と言うモノが如何に、トニー・モンドという破綻者のことを慕ってこの数年来を生きて来たのか、そのことを隅々まで知ってほしかったからだ。
「…ライターを持ったままだったのは何故だ?」
「これはあの日から、私の御守りになったんだ。だから…ずっと手放せなかった。それに!貴方にまた逢う日まで大切に持っておこうと決めたから。」
冴子はライターを握ると身に抱き寄せた。胸にしまう様な素振りは冴子と言う完成された美女からは想像もつかない稚さを感じさせるものだった。
「御守り?」
「ああ御守りなんだ。大切な。…いつも…いつも衝動のように闘争心とも、殺意とも呼ぶべき何かが頭をもたげるんだ。でもその度にあの日のことを…貴方のことを思い出す。貴方のことを考えている間だけ、私は孤独じゃなくなったんだ。この数年、毎日そう感じてた。」
「血塗れの拳を振り上げる姿、骨を砕く音、淡々と敵を殺す後ろ姿。私なら多分、あの男を殺さなかっただろうな。でもそれは私が望んで殺さなかった訳じゃない。きっと殺す覚悟がないだけ、心の準備がなかっただけだ。だというのに私は生きた人間を殺す機会を失したことに、きっともどかしく感じ、今以上に強い熱情を煮立たせていただろう。」
「でも実際には貴方が私の代わりに男を倒し、そのまま殺した。逮捕されないことを疑問に思ったが…恐らく警察にも知り合いがいたのではないか?…でも、そんなことはどうでもよかった。私は今日まで衝動に蓋して生きて来た。普通の女子として普通の人間として。衝動を忘れる代わりに、この御守りのライターを握って。」
そう言うと、冴子は握っていた手を開いてライターに目を落とした。よく磨かれている美しいライターのままだった。黒いクロコダイルの皮革も艶を当時のままに保っていた。トニーは冴子の握るライターに母性への嫉妬にも似た感情と、父性にも似た慈しみの感情を抱いた。自分と言う一人の人間の手の中で完結するはずだったライターが、知らぬ間に誰かの手に渡り、そこで丁寧に丁寧に手入れされて来たのだと思えば。決して同じものは二つとない、物に染みついた歴史自体にも深い愛着を感じることは当然のことだろう。
「今日、廊下で貴方に会った時には運命だと思ったんだ。私らしくもない、でも本当にそう思ったんだ。」
「すぐに言えばよかっただろう…。」
冴子ははにかんだ笑みを浮かべた。ライターに注がれていた視線が、今は全てトニーに向かっていた。
「言いたくなかった…貴方に気づいて欲しかった。でも、貴方が私の事を覚えていなくたって私は不満を感じなかった。今日世界が地獄に変わってしまって、私は私が思うよりも壊れていることに気づけたんだ、異常だと理解できたんだ。何の迷いも感慨も無く、私なら敵を殺せる。木刀を脳天に全力で振り下ろせる。それが普通になってしまって、自分にとっての正常が当たり前になって初めて自分が異常だったことを認めることが出来たんだよ。まったく……皮肉なものだよ。」
皮肉。何が皮肉なのか。それは冴子が活躍できる世界が来てしまったこと。それまで築き上げて来た一切合切が価値を失った世界で初めて、彼女は自分を好きになれそうだったこと。或いは渾沌の中でも未だこれまで通りの自分を捨てきれていない自分に対してのことなのかもしれない。
スラッグ実包×1発(1発:7発:8発)23発
散弾実包×0発(0発:27発:0発)11発
9mm弾実包×0発(0発:35発:10発)26発
357マグナム弾実包×0発(0発:1発:0発)24発
消費弾薬×作中消費数(実際:累計:弾倉)残弾数
*主人公と主人公の同伴者に限定