トニーside
リカと合流したのはアメリカに来て五日目の午後5時過ぎだった。女性と会う約束だからと俺は張り切ってアメリカでは馴染のテーラーから引き取ったピカピカのスーツを着込んで集合の1時間前にはターミナル前に到着していた。1時間くらいなら待てると思っての行動だったのだがリカも同じ考えだったらしい。
「まだ集合時間の1時間前なのにこんなところで誰を待っているのかしら?」
後ろから声を掛けられて振り向くとそこにはリカが居た。俺は彼女の随分とお早い到着に驚きつつも彼女の問いに答えた。
「今、ちょうど待ち人がきたところだ。」
「貴方に待ってもらえるなんて、その人はよっぽどの幸運の持ち主ね。」
「それはよかった。今日の俺はかなりラッキーだぜ?なんたって今目の前にその幸運の持ち主がいるんだからな。」
俺は少し驚いていた。俺とリカは4日前に初めて会って1時間ほど会話をしただけの、補強したって電話越しに5分ほど話しただけの間柄だ。だというのに、俺は目の前のリカが外見は同じでも前会った時や昨日の晩に電話越しに話したリカとは全くの別人を相手にしているような錯覚を覚えた。
男児三日合わざれば云々とは言うが、まさか女にも同じことが言えたとは…。
「今日はどうしたんだ?この4日間で見違えるほどにアメリカでの生活が新鮮だったのか?」
「ええそうね。貴方の言う通りかも。この4日間で生まれて初めてのことを幾つも体験することができたわ。どれもこれも素敵で一度味を知ったら病みつきになっちゃうくらいに刺激的だったのよ?貴方にも私が体験した色んな素敵なコトを体験して欲しいわね。」
やはり人違いなのでは、と思うくらいにリカは俺にぐいぐい来るので戸惑ってしまう。いや恐らくは淑やかな日本とは違う陽気で開放的なアメリカの気風がリカにブーストを掛けているのだろう。フッ…そうなると、日本に帰ってからはあの時の自分の行動が恥ずかしいやら信じられないやらで顔の赤いリカが見れることだろう。まあ、こういうのも良い経験である。俺は妖艶に微笑みながら自分に熱視線を注ぐリカの姿に目を向けた。今更ながら今日の彼女はかなり強気なファッションをしているな。俺は余りの羞恥でリカがあとから困ることが無いように、年輩者としてそっと風で扇ぐような気持で声を掛けた。
「アメリカの水があったようで何よりだ。それはそうと今日は一段と雰囲気があるな。何時もよりはお洒落を心掛けて来たと思ってたさっきまでの自分を叱りたくなる。」
「あら貴方にそう言って貰えたら私も攻めた甲斐があったっていうものね。どうかしら?これよりもおっきいサイズが売ってなくって。見苦しくないか不安だったのよ…。」
今日のリカはセクシーな紺のライダースーツの上からM65ジャケットを羽織っていた。まともな感性なら食事に誘われた時に全身ピチピチのライダースーツなんざセレクトしないもんなんだが、これがリカが着るとハリウッドの女優顔負けに似合ってた。しなやかでグラマラスな躰を惜しげもなく晒しているせいか、着こなせている云々以前にターミナルを通る人々の視線を老若男女問わず引き付けていた。
「ああ、すごく似合ってる。俺はどうだい、見苦しくないか?」
「ええ、初めて会った時と同じブルーのジャケットね…でも、あの時着てたのと違って全然皴が無くて…わざわざ新しいのを着て来てくれたの?貴方にとても似合ってるわ。シャツも潔い白が青に映えて素敵だし。タイを結ばないのも第二ボタンまで首元を緩めてるところも男らしくって私は好きよ。あら…靴も今日はカンペールなのね。この前よりカジュアルなのは私を意識してくれたのかしら?」
想定したよりも褒められたのでびっくらこいた。人の目が集まりだした上に場の空気がいたたまれなくなったのでさっさと移動してしまおう。俺は彼女の手を取って言った。
「お、おお。そうだな。それはそうと少し早いが夕飯にしないか?近くにパスタが上手いレストランがあるんだ。さ、今日は俺に謹んでエスコートされてくれ。」
「ええ、こちらこそ。今日は最後までよろしくおねがいするわね?」
余裕綽々のリカのほっそい手を引きつつ、俺は足早にその場を後にした。
夕飯にリカはトマトとなんかのスープパスタとかいう洒脱なヤツと常温の赤ワインを一杯、俺はミートソースパスタを一皿とロブスターのボイルを一匹丸々とそれからブリキのバケツ一杯の氷の山でキンキンに冷やしたコカ・コーラを瓶二本飲んで夕飯を〆た。会食には少し庶民派過ぎたかもな、でも俺も食通って訳じゃないから勘弁してほしい。
俺は例のバーへと向かう道中で手を引かれて進むリカを気遣う振りをして彼女の顔色を窺った。全然変わらない顔色としっかりとした足取りを見て俺は安心した。良かった、リカはかなり酒に強そうだ。赤ワイン一杯程度じゃ素面と変わらないんだろう。これから行くバーで楽しく酒を交わすためにもリカが酒に強いのは好都合だった。かくいう俺もかなり強い方だ。浴びる程飲んだこともないんだが。
俺たちはそのまま、レストランから三軒隣の向い側にあるバーに向かった。ピンクのネオンライトが少しそわそわとした感じを俺に抱かせる。俺はこういう時に自分がつくづく子供のまま大人になってしまったことを自覚する。ちょっぴり怪しいお店に入るのは苦手だ。勿論今日のバーはリカと一緒に行くので怪しさなんて微塵もないのだが、それでも中身が十やそこらの子供の時分にこういったネオンのお店にお仕事で入り浸らにゃいけなかった時のことを思い出して、何とも言えない気恥ずかしい気分になるのだ。そんな思いを顔には出さず、後ろで大人しくついてきたリカを促してバーに入った。
南リカside
彼にエスコートされながら歩けただけでも私はこれ以上ないほどに満ち足りた気分と、それから私たちを遠目で見守る人たちへの仄暗い優越感を感じていた。それも仕方ないことだと私は自分の手を引いて少し先を歩く彼の広い背中に熱い視線を注いだ。
今日の彼はとてもアダルティな雰囲気を纏っていた。大人の男の色気とでも言うのだろうか。飾らないぶっきらぼうな男臭さが何処となく私に刺さった。彼はきっと自分では気がついていないのだと思う。
トニーに導かれて入ったレストランはイタリアの血に左右されたのかパスタの美味しい店らしいので、メニューを見て最初に食べたいと思ったものを注文した。運ばれて来た料理を片手間に味わいつつ、私の意識は最初から最後までよく食べよく飲むトニーの食事風景に釘付けだった。彼は決して良家の出ではないのだろう。しかし、彼の食事の作法はここがアメリカであろうと日本人よりも日本人らしかった。彼は自身をハーフだと言っていたが実際はイタリアの血が強いからなのかどうしても日本人には見えない。そんな彼が当然のように自然な所作で「いただきます」で始めた夕飯を「ごちそうさま」で終える風景はなんとも不思議な可愛らしさがあった。
189cmあると言っていたその大きな体に見合う胃袋を持っている彼は大盛りのミートソースパスタをあっという間に平らげると、巨大なロブスターを丸々一匹注文して私の目の前で鮮やかに解体しながら解した身の部分を甘辛いチリソースに浸して美味しそうに食べていた。私はパスタと一緒に頼んだ赤ワインをトニーの気持ちいい喰いっぷりを肴にして味わった。ロブスターが綺麗に殻だけになると、彼は「待たせて悪かったな、そろそろバーに行こうか。」といってから更に瓶コーラを二本頼んでいた。味の濃い料理のあとは凍る一歩手前のコカ・コーラでリフレッシュするのが彼の食事の醍醐味らしい。てこの原理で冠が飛び、霜を纏い冷気を纏ったコーラが彼の前に滑り込む様に配膳された。彼はそれを一本当たり三十秒ほどで飲み干すと、隠れるように小さくケプリと曖気をこぼしてから立ち上がった。
「次は昨日言ったバーに行こう。もう暗いから足元には気を付けろよ。」
レストランを出ると涼しい風が私たちの間を掏りぬけていった。サッパリと熱だけを奪っていってくれた風のお陰で、私は自分が食事中の彼の熱気に充てられていたことに気が付けた。ああ、彼と一緒にいるだけで私はとても楽しいらしい。
時折盗み見るような彼の視線を意識しつつ、それが私を色の含んだ目で視る物ではないことに気づいて少し口惜しかった。でも同時に嬉しくもある。この不器用な大男は私が足をほつれさせないか、酔いのあまり危険に晒されないかと自分が今どんなに女を狂わせているのかなど微塵も考えることなく心配してくれたのだから。これが他の男だったら何処か打算を含んだ粘着質な視線を私に向けた筈だ。自分にはそれだけの価値があるし、そうならないトニーが普通じゃないだけなのだ。ああ、私は少し酔っているのかもしれない。
トニーに促されて入ったバーの店内は思ったよりも明るかった。照明の明度自体は低いのだが、内装が清潔なモノクロと年季の入った木材の焦げ茶で統一されていた。まだ時間としては早い時間の為客は疎らだったが、既に数人が幾つもないカウンター席を占領していた。私はさっきまでの無邪気さを含んだトニーとは違う、今度こそ自然体の大人としてふるまうトニーを目で追った。ドアの前で立ち止まった私の手を引いてトニーが残り二つしかなかったカウンター前の特等席を埋めた。トニーは左端から二番目、隣の御客は夜間の巡回前に店に寄った保安官みたいだ。両切りのラッキーストライクを五分目まで吸い、バーボンの杯を傾けていた。私の席はトニーの左隣、私の席は一番奥まっていて体の大きいトニーの陰に隠れれば左には壁しかないから絡まれる心配はなさそうだった。トニーの振る舞いの一つ一つが年上の男性に対する私の理想像をどんどんと膨らませて行ってしまいそうだ。
「さて、それなりにゆっくりと過ごすつもりで来たんだがリカは何時ごろがリミットかな?帰りは俺が泊ってるホテルに部屋を取ってある。綺麗な部屋を選んだから安心しろ。あと、このバーは明け方までやってるから遅くなる分には問題ない。俺は日をまたぐ前に帰ろうかと思ってるけどな。」
「そうね…トニーと一緒に店を出るわ。一人で楽しめる程私はまだ大人じゃないのよ?」
「わかった。最後までお供しよう。さあ、早速だが人生初の葉巻とイこうじゃないか。なにか希望とかはあるか?」
「葉巻に手を出したいとは思っていたけれど…正直具体的にどれかまでは考えていなかったわ。だから、良ければトニーのおすすめをチョイスして欲しいわ。貴方の好きな葉巻を味わいたいの。」
「わかった。苦しかったり酔ったら無理せずに言うんだぞ。オーナー、コニャック二つとチョコレート二つ。あとCOHIBAの長くて太いやつとビリガーエクスポートのノーマルなヤツをくれ。」
トニーは少しも怖気づく素振りを見せずにカウンター越しに身振り手振りを交えつつオールジャパニーズで注文を取り付けた。周りのお客は奇妙なものを見る目でトニーを見ていたがオーナーは単語とボディランゲージを頼りに時間をかけることなく彼の注文通りの品を持ってきた。素面でこの芸当を見せつけるトニーの度胸にも驚いたし、本当に英語が全然喋れないトニーの淀みない迫力にも気圧されて私は笑うしかなかった。やはりトニーは面白い男だ。
ガラス製の重厚な灰皿とカッターに長いマッチ箱。それから「COHIBA」のラベルが貼られた太くて長い葉巻とトニーが頼んでいた細くて長い葉巻が私たちの間にそっと置かれた。葉巻に手を伸ばす私の手をトニーが優しく覆った。首を傾げたが、それから少ししてからグラスの三分目まで注がれたコニャックとHERSHEY'Sの板チョコが二枚出て来た。成るほど注文が全部揃うまで待てと言いたかったらしい。
右手から離れていく温もりを惜しみつつ、私は初めての葉巻に手を伸ばした。
葉巻と言うものもピンからキリまであるのだが、私の初めての葉巻はCOHIBAのブラックのコロナというサイズのものだった。長くて太い、お手本のような葉巻だというのが第一印象だった。対してトニーの葉巻はビリガーエクスポートという細長くて四角いフォルムのもので吸い口はカットしなくてもいい代物だった。彼曰く、時間にして15分以上60分未満の長すぎず短すぎないものが好みらしい。味そのものへの執着は薄いらしく、口に長く咥えていられて尚且つ煙が少なく短時間で灰に変わり葉巻の雰囲気を楽しめることを理由に、シガリロを常日頃愛煙しているのだとか。仕事の時に限らずこういったゆっくりと時間の経過までを楽しめる場所で燻らせる場合でも、やはり太くて分厚いプレミアムシガーよりも短くて細身のシガーを好んでいるらしい。
私のはそのプレミアムシガーに当たるらしく、個人的な好み関係なく最初は王道のキューバを味わってみるのがいいとはトニーの談だ。
私はトニーからシガーカッターの使い方やら、煙を肺に入れない燻らせ方などを手取り足取り教わりつつトニー自身の好みについて更に追及することにした。
火をつける前の葉巻の香りを楽しみつつ私たちは二人並んで火をつける前のドローを楽しんだ。ゆっくりと火をつけていない葉巻の香りを吸い込んでみると複雑な、安直な言葉だが大地の香りがした。私の吸い口は定番のフラットカットでトニーの吸い口は切らなくても断面が露出していた。四角い葉巻に私が興味を示すとトニーは口に咥えていたビリガーエクスポートを横にして持つと私の鼻の下に添えた。
「えッ!?ナンデ!?鰹節の香りがする!!」
「わはははは!!!やっぱりな!」
私は思わず叫んでしまった。トニーは今日一番陽気な笑い声を上げてから、自分も初めて嗅いだ時は同じ反応をしたのだと教えてくれた。出汁に命を懸ける日本人なら誰もが共感できそうな鰹節そのものの香りだった。
不思議な体験をした私はオーナーが置いていった長いマッチを使って葉巻に火をつけることに挑戦した。が、難しい。葉巻をゆっくりと吸って酸素を行き渡らせつつ回転させながらむらが出ないように火で炙る必要があった。マッチが長いのにも頷ける。火がついてもうもうと煙が立ち込めたかと思えば口を離した隙に燃焼が止まってしまいまた火を付けなおさなくてはいけなくなった。むきになって勢いよく吸えば酷く咳き込み、結局十分な量の煙を燻らせて味について意識を向けられるまでに五本近いマッチを浪費してしまった。
貰い物だと言うダンヒルのガスライターで一足先に着火を終えていたトニーは、落ち着いた様子で私が葉巻と静かなる格闘を演じているのをじっと見守っていた。そして頃合いを見計らって私に声をかけて言った。
「どうだ、旨いか?まだわからないよな、まあ色々燻らせるといい。リカがどんなシガーを好むようになるのか俺にはさっぱりわからん。だが、好きに吸えばいい。俺の場合はな、自分が一番カッコいいと思うシガーを燻らせるんだ。俺にとってカッコいいシガーはプレミアムシガーみたいなデカくて太いやつじゃない。高けりゃいいってもんでもない。俺が心底カッコいいと思ってるのはクリント・イーストウッドや刑事コロンボが四六時中噛んだり咥えたりしてる細くて硬くて口の納まりがイイもんのことだ。だから俺はCOHIBAやH.アップマンみたいなキューバよりも、ラッキーストライクのフィルターシガリロやピースのリトルシガーが大好きだし、ロミオ・イ・ジュリエッタのチャーチルよりアルカポネのスイートやヘンリーウィンターマンズのドライシガーなんかが大好きなのさ。まあこんなことは味にうるさい葉巻上級者からは口を揃えて邪道だといわれるだろうが。」
トニーはそういうと軽く口をすぼめて葉巻を吸った。新鮮な赤い火を煙立つ先端にゆっくりと育てながら口を開くと、実に旨そうに紫煙を吐いた。口の中に溜めた煙を自然に流れるように逃がしてやる。紫煙の帯は天井に向かっていき、届いて潰えるかというところでトニーは一度コニャックを呷った。
私はトニーの太々しい迄の奔放な喫いっぷりにすっかり見とれてしまった。お陰でまた火が消えていた。私が一度で上手く火付けに成功するのを見ていたトニーは穏やかに笑って言った。
「リカのCOHIBAは1USドルが100円だとするとだいたい一本で70USドルくらいだ。だが、俺のはだいたい一本で2とか3USドルくらいだな。俺の好きなシガーは専らキューバの銘品には味でも歴史でも勝てないが、それでも自分の好きな葉巻を値段で決めるなんてナンセンスな真似は出来ないね。リカにも自由に葉巻を楽しんで欲しいとつくづく思うよ。」
トニーはそういってまたコニャックを呷った。クラシックなブランデーグラスを空にした彼はオーナーに「シーバスリーガルの青いのを頼む。そうソレ。ややブルーのやつ。」と言ってから葉巻を一度灰皿に置いた。すると今度は今の今まで手を付けていなかったHERSHEY'Sの板チョコに手を伸ばすとパッケージを無造作に破り銀紙ごとチョコを二つに折った。
折られたチョコが銀紙を突き破って出て来た。自然と濃厚でクセの強いアメリカンなチョコの匂いがして、その香しい風味がそっくりそのまま私の煙にも乗ったような気がした。私が濃厚な煙のもたらす陶酔感に感動していると、トニーは二つに割れたチョコの大きい方の欠片から丁寧に銀紙をはがして一思いにかぶり着いた。もう一口、更にもう一口。バリバリ、むしゃむしゃとトニーは子供の様な笑顔でチョコを豪快に食らった。口の端についたチョコを貰った濡れ布巾で拭ってから、口の中から勢いのあまりチョコと一緒に食べてしまった銀紙の切れ端を摘み出した。大きい方の欠片を食べ終えたトニーは火の消えかけた葉巻を灰皿から取り上げて口に咥えると、のんびりと瀕死の火をまた一から育て始めた。
トニーの葉巻の楽しみ方は彼にしかできない楽しみ方だと思った。彼は子供頃の大人への憧れをそのままに実に楽し気に振舞うのだ。自然な素振りで子供にしか許されない楽しみ方を実践する彼の姿は、型や答えありきのカッコよさとは相容れない我儘さを内包している。そしてそんな我儘を堂々と楽しむ強い自分を持っているのだ。私は何となく目の前の男のことを誤解していたことを悟った。彼は私が思っているよりも遥かに純粋な人間なのだ。そして自然体のアウトロー特有の男臭さと頼もしさを持ちながら、同時に創作物じみたダンディズムとロマンに眩しいくらいの純真さで憧れる青臭さを大事に抱いたまま生きている。彼以外にそんな歪で痛々しい男が他にいるだろうか。彼以外にこんなに純情で愛おしい存在がいるだろうか。私は気付けの為に半分も減っていなかったコニャックを一気に呷った。
書き漏らし
・『彼女』の遺灰は浩一が家を出て直ぐに、真っ白の結晶に生まれ変わりました。形状は表面が鏡面に仕上げられた滑らかな指輪型です。シンプルですが徹底的に圧縮して作られたので決して壊れることは無いでしょう。トニーはこれを左手の薬指に通して肌身離さず身に着けています。風呂の時でも外しません。