黙示録狂騒満喫譚   作:ヤン・デ・レェ

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サイドストーリー:夕樹美玖
ボディガードその1:夕樹美玖


トニーside

 

日曜日の朝だ。8時過ぎに眼が覚めた。

 

起きて最初にすることはトイレだ。寝起きで寒さに縮こまる体に鞭打ってベッドの上から脱出し、暖房付の便座に座って膀胱の緊張を解除してから一日が始まるのだ。トイレは個人的趣向から頑丈に作ってある。T-REXに頭から噛みつかれたりしたら堪らないからな。

 

すっきりしたら寝室に戻ってパジャマ代わりの京都西陣織防刃Tシャツと防刃スウェットパンツを脱ぐ。脱いだものは今日の夜も着るのでベッドの上に放る。半裸で衣装箪笥の前まで向かい、オフの日に着るタクティカルパンツとジップシャツに着替える。腰にはバリスティックのクイックガンベルトを選ぶ。無論ベルト以外は全て5.11社製に限る。今日の気分はコヨーテブラウンである。

 

着替えが済んだら顔を洗う。髭はほとんど生えないので楽でいい。頭は効率重視で坊主にしようか迷ったが、嫁に止められたのでそのままにしてある。リカにも今の方がイイと言われている。ワックスは臭いから使わない。猫っ毛なのは幸いで、後ろか横に撫でつけておしまいだ。

 

寝起きの顔がサッパリしたら朝食を食べる。俺の場合朝は基本的に軽めのものがいい。水気が多くてビシャビシャだと尚よい。

 

ので、今朝は炊いたご飯を丼大の木椀に盛り、上から個包装のインスタント味噌汁のモトを搾ってカツオの粉末出汁と麵つゆを少々。これに前日予約で保温して置いた電気ポットのお湯を注いで汁かけご飯の完成だ。俺は勝手に「武家の飯」と呼んでいる。

 

流石にこれだけでは寂しいので、冷蔵庫から漬物を取り出して一緒に食べる。黄色たくあん二枚とかつお梅干一つを小鉢に乗せて、武家の飯と一緒にリビングの食卓に運んだら、椅子に腰かけいざ実食。手を合わせて「いただきます」を宣誓するのも忘れない。

 

ざぶざぶと味噌と出汁の旨味が利いた飯をかき込む。麺つゆは塩気が強めの味噌出汁に仄かな甘みを加えてくれる。旨い旨い。誰が何といおうと俺は楽で旨いから満足である。熱々の汁飯を流し込んで熱くなった舌を漬物で冷やす。低血圧の俺にとって朝飯は少し余分に塩気が効いているくらいで丁度よい。鰹の出汁と梅の酸味が絶妙なかつお梅干は俺の大好物である。いつ食っても最高に旨い。ただし、何故だか知らんが種の両端がやたら鋭利なので注意が必要だ。少し多めに注いだお湯が功を奏し、味噌と出汁が利いた汁で口の中の水分を潤しつつご飯を流し込む。パリパリと子気味の言い音を立てながら鮮やかな金色に漬かった大根たくあんをかみ砕き、残りの飯も平らげてしまう。最後に一枚残ったたくあんでご飯粒やら味噌のカスやらを綺麗に拭って口に運べば楽しい朝食は終了だ。生産者様に向けて「ごちそうさま」の詠唱と感謝を忘れずに。

 

ゲフぅ、と少し下品だが一息。思いの外大きく鳴った曖気の音が自分以外誰もいない平屋一階建て地下三階の我が城に虚しく響いた。

 

やはり一人は寂しいな…。俺は頭を出した寂しい気持ちを切り替えようと作法ガン無視で淹れた緑茶を飯を食った木椀にそのまま注いで飲んだ。熱いのもお構いなしにぐいーと飲み干せば、発汗して気分も前向きになったような気がした。

 

食後の一服。リビングの三人掛けのソファに腰を沈めてTVを付けた。朝一なので軽めのラッキーストライクのシガリロを咥えながら今日のニュースを見る。黒革を巻いたCOLIBRIで先を炙り紫煙を吐き出す。例の、アメリカに行くときに持っていくのを忘れたやつである。

 

大体三十分くらいそうやってのんびりした。番組は朝の情報番組をぼーっと眺めつつ、根本まで灰になったラッキーストライクのフィルターが二本。これといって大事件が起きるわけでもなし、世の中は平穏なもんである。ただ気になったのは、どこかで見た覚えのある新種の病原菌の共同研究機関を中国とロシアが発足させたってニュースだ。合衆国は早計だと強く非難しており、日本も外務省と防衛省を中心に抗議する姿勢だそうだ。まあ、アメリカが強く言いたくなる気持ちもわかる。炭疽菌事件もそうだし、テロ組織を目の敵にしている身からすれば自国が把握してない安価で大量に生産可能な生物兵器なんて核並みの脅威だもんな。

 

三本目に手を伸ばす前にTVの電源を切った俺は、昼食を大好きなサンダース大佐のチキンにしようと計画しつつ外出の準備を始めた。

 

俺自身、外出するときは最低限のものしか身に着けない派である。だがこう見えて過度な心配性でもあるのだ。だからというのは言い訳にならないが、個人防衛火器を最低二丁は携行するようにしている。最近は何故だかよく絡まれるから尚更だ。体の正面右脇腹付近のA.C(アペンディックス・キャリー)に一丁、尻の上辺りのSOTB(スモール・オブ・ザ・バック)に一丁ずつ。予備のマガジンもアペンディックスに並ぶように最低二つは持って行く。

 

今日はA.Cに「SigSauer P365SAS」を、SOTBには「S&W M49ボディーガード」を選択することにした。

 

ラッキーストライクの三本目を箱に戻し、寝室に向かう。コートなどの仕舞われたクローゼットの衣装をかき分けて奥にある鋼鉄製のスライド式ドアを生体認証で開錠すると、ドアが開いて照明が自動的に点灯し地下に通ずる階段が現れた。俺の家には子供の頃からの野望と夢がぎっしり詰まっているのだが、階段を下りた先には残念ながらライオンが国王を務めるファンタジーは存在しない。子供の夢を壊すようで申し訳ないが…。

 

ここには心躍る冒険の代わりに、俺がこれまで集めた自慢の火器と車両。それから兎に角何があっても俺一人くらいなら十年は問題なく暮らせるだけの物資が堆く積まれた倉庫兼シェルターが用意されている。みるからに日本では違法性の塊のような空間だったが、俺はこの家を建てる時に地上部分を日本の建築会社に依頼し、地下の三階分を全てアメリカの融通が利くところに特注で依頼して分解した物を向こうから運んで現地で組み立ててもらった。表向きは大型であり、地下一階部分はその通りに食料などが高く積まれている。だが、地下二階より下は完全に俺の趣味に染まった空間であり、ここで日本国のルールは適応していない。

 

地下二階と三階には先述した通りの武器弾薬と完全に民間向けではない装甲車両なんかが置いてある。使わない金をここで思いっきり放出したんだ。札束でぶん殴って強引に地下駐車場からエレベーターで車両を庭のど真ん中に昇降できるように作らせた。まあ、そのせいで今まで一度として使った機会は無いんだが。なんたって一発で違法建築だってことがバレるからな。

 

家を建てた時のことを思い出しつつ、入口よりも更に厳重な地下二階への金庫の扉みたいな分厚いドアを開けて中に入る。日本は地震大国だから耐震性は問題の無いように断層とかが無い場所に建てた。

 

まるっきり地下要塞じみた殺風景な居住空間を抜けて俺の私室に入る。他の個室は普通の鍵で開くんだが、ここだけは顔と指紋で開くようになってる。中にはベッドとクローゼットとテーブル、それからデカい金属製のロッカーが幾つも並んでる。机の上にはヒュミドールやら喫煙具と腕時計用のボックスに加え筆記用具なんかが置いてあって少しごちゃついてた。使った形跡の無いベッドを素通りし、ロッカーをカードキーを使って開けて中から目的のモノを取り出す。

 

モノは二つ。

 

一つは使い込まれた木製グリップの「S&W M49ボディーガード」。ハンマーシュラウドによるAS(アンチ・スナッグ)を重視し、また目立つことを避けるため色は艶消しの黒だ。装弾数は五発。使用弾薬は357マグナム弾だ。

 

一つは手のひらサイズのコンパクトなバックアップハンドガン「SigSauer P365SAS」である。サイトにはトリチウムナイトサイトによる発光機能が埋め込まれている。装弾数は十発。使用弾薬は9mmパラベラム弾だ。

 

弾薬も装弾数も異なるものを二丁携行するのは非効率で実用性に欠くようにも思えるが、俺の場合は前者のリボルバーに確実性と威力を求め、後者のオートマチックに弾数と威力と継戦能力を求めている。運用の趣旨は至近距離での遭遇戦では前者で確実に牽制して十分な時間を稼ぎ、リボルバーを撃ち終わると同時に後者へと持ち替えて応戦、もしくは確実に仕留める為であり、少しの非効率性や快適性を犠牲にすることは俺にとって問題にならなかった。

 

それぞれの弾薬とスピードローダーやムーンクリップ、マガジンの入った箱を抱えてベッドに座る。猫背になって黙々と弾薬を込めた。ボディガードのラッチに親指を掛けてスイングアウトし、シリンダーに357マグナム弾を五発詰める。日本の警察から職質を受けたことは何度もあるがボディチェックはほとんどされたことが無い。勿論ゼロではないから、その度に偽装した拳銃の携帯許可証とCIAの捜査官だというハッタリで乗り越えて来た。CIAの捜査官云々は必ずしも完全に嘘ではないから口実に使っても怒られたことはない。ボディガードの予備のスピードローダ―は持って行かない。バラで十発分を愛用のTUMIクロスボディに突っ込む。あくまでも非常事態の初動を有利に運ぶ為の備えだからだ。

 

シリンダーを戻してベッドの上にボディガードを置き、隣に置かれたSAS(シグ・アンチ・スナッグ)に手を伸ばす。可愛らしい外見ととっかかりの無い滑らかなフォルムだが、非常時を乗り切るための主戦力を担って貰うものだ。小さい体に強力な9mmを10発+1発も受け入れる度量には感服する。専用のマガジンを三つ用意して、その全てに9mmパラベラム弾を限界まで装填する。チャクチャクと弾丸を込めるたびに鳴る独特の金属音が耳を擽った。数分で三十発分のマガジンに装填を終えた俺は、一本をSASへと差し込んで一度スライドを引いた。薬室に一発分装填されたことを視認してからマガジンを抜き、箱から取り出した一発を込めてまたマガジンを差し込んだ。予備マガジンは二つ持って行く。これで総弾数は30発+1発だ。

 

ボディガードを尻の上に乗せた革製ホルスターに差し込み、SASとその予備マガジンを体の真正面の股間右上部分に密着するA.Cに並ぶように仕舞い、もしもの時への備えは完了した。バックサイドホルスターにリボルバーを入れる際にはハンドグリップの底が上を向き、リアサイトの頭が下になるように装備する。この方が右手で引き抜く時にストレスが無く、最低限の動作で引き抜けるからだ。

 

弾薬やらが入った箱をロッカーに戻して施錠し、机の上から今日の煙草とライター、それから腕時計を選ぶ。煙草はラッキーストライクの箱入りシガリロとは別に昼食後のリラックスタイムにふかす用でコイーバのクラブを緑色の革ケースにしまった。ライターはプリンス製ドルフィンの黒革巻き。腕時計はSINNの241.ti.Sをメンズ様にカスタムした特注品を選んだ。

 

頭にはカーキのハンチングを。口元にはラッキーストライクのシガリロを。上からコヨーテブラウンの5.11ソフトシェルジャケットを羽織って、TUMIのクロスボディに喫煙具と財布を入れて肩から掛けた俺は地下の書斎を後にした。

 

 

水を一杯飲んでから、玄関でダース単位で買ったカンペールの外羽根MAUROを履いた俺は、靴棚横に並んだキーラックから鍵を取り家を出た。時間は午後の10時過ぎで今日の天気は快晴だ。温度は日差しのお陰で少し暖かいくらい。昼頃までにだんだん暑くなるかもな。ふと我が家をぐるりと見渡してみる。今更な話だが、さながら要塞だと感じた。

 

30m×50mの全周160m四方を3m近い10cm厚の鉄筋コンクリートの塀がぐるりと囲んでいる。家屋の外観は長方形の角ばったコンクリート打ちっぱなしに鉄板をすっぽり被せた平屋一階建てだ。北朝鮮がいつ何時核ミサイルを撃ってくるかわからないんだから、という不安に割と本気で思い悩んだ結果、俺は家を丸ごと全部を厚さ3cmのステンレスで覆うことにした結果だ。

 

地下も同様に屋内壁と屋外壁で二重のステンレスの箱にすっぽりと納まっている状態だ。この地上で俺だけは核攻撃の後だろうとEMP攻撃の後だろうといつも通りの暮らしを満喫してやる所存だ。周りの奴らは北朝鮮は核をまだ持ってないから無駄な心配だと俺のことを笑ったが、俺は北は絶対に核を持っていると考えているので構わずに家を日本版チェルノブイリの石棺に改造した。来るはずのない終末だからこうやって遊んでられるんだろうな。冷静にそう思う。

 

足元を見る。だだっ広い庭は芝生でカモフラージュしてあるが、いざと成ったらシャーシとかの部品単位で密輸して苦労して組み立てた、30t級の車両をエレベーターで地上に押し上げられる。その際には庭の一部がミサイルのサイロの如くスライド式で開口する仕様だ。ふふふ、男として俺以上にロマンを追及した家づくりをしてるやつはまずいないだろう。

 

これまでは友達が居なさ過ぎて一人で悦に浸るしかない俺だったが、最近はすっかり仲良くなったリカやリカから紹介された静香が遊びに来たりするのでそれとなく家を案内したりする機会があった。それ自体嬉しいのだが、特にリカには俺のロマンを受け止める懐の深さがあるからな。ついつい警察官に家が度を越えた違法建築だと自白しそうになる。責任感の強いリカはきっと職務に忠実であろうとするはずだ。いくら互いの隅々までを知っているからといっても話が別だろう。俺はウズウズしながらまだ誰にもこの家の地下については教えていない。無論、妻だった彼女にもだ。浩一からは普通に怒られそうだから言うつもりはない。まあ、今のままでも外見が十分に物々しいつくりなのだが。

 

一通り悦に浸って満足した俺は地上駐車場に止めてある愛車のクライスラー300Cに乗り込みエンジンを掛けた。左ハンドルの方が左折するときは楽なのが外車の良いところだと思う。TUMIのバッグを助手席に置き。改造した車内から遠隔で黒い鉄門を開錠し、車内から門が横に滑るように開くのを眺めていた。完全に開いたの確認した俺は車を発進させた。敷地から出たところで一時停止。車道に出る前に忘れずに遠隔で門を施錠する。背後で門を押し出すモーターの駆動音が聞こえなくなってから目的地に向けてアクセルを踏んだ。

 

特に用事もないので本当に暇つぶしの為のドライブである。教習所の教えに忠実な俺は教科書通りの安全運転でのんびり車を走らせた。たまに見かけるパトカーに少し身を固くしたりもしたが問題なく床主市の中心街へと辿り着くことができた。

 

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