B級
勘の良いガキなら分かるだろうがこのお好み焼き屋さんは影浦の実家であり今回は試合の打ち上げと言うことで時間が合ったメンツだけ食べることとなった。
「先輩!出来ましたよ!はい!」
「お、悪いな」
「いえ!」
小佐野からお好み焼きの入った皿を受け取りながらいきなり口に咥える。
ハフハフと息をしてお好み焼きを冷ましながらのどを通していく。
「ったく、テメェは落ち着いて食えないのかよ・・・」
「ふふへぇ!ふぉふぇふぁふぁふひふひひふぁへふはふぁんふぁふぉ!(うるせぇ!俺は熱い内に食べる派なんだよ!)」
「食ってから喋れ!」
零の隣に座っていた影浦の苦言に零は口にお好み焼きを含みながら叫ぶ。
当然汚いし口に入ったお好み焼きも多少飛んでいくので影浦も青筋を浮かべて零を遠ざける。
「にしても意外でした。俺はてっきり香取も来るかと思ったのに」
影浦の前の席に座っていた村上が自分のお好み焼きを焼きながら零に声をかける。
零もうーん、と唸りながら香取隊の隊室での出来事を思い出す。
確かに零は香取を晩御飯に誘ったは誘った。
しかし、優勝したはずなのに何故か不機嫌な香取にいつもより強めに文句を言われて断られてしまったのだ。
理由としては零が自分と戦う前にやられたことや結局零の手のひらで踊らされて勝ったと言うところにあるのだが人の気持ちをあまり理解できない感覚で生きている零には分からなかった。
「なんか機嫌が悪いみたいで断られた」
「へ~・・・」
お好み焼きを食べ終わり追加を焼こうと材料を鉄板に置く。
それに気付いたのか零の隣に座っていた胸囲の侵略者藤丸ののがヘラを持ち零の首に腕を巻く。
「よし!今度は私が作ってやる!」
「いいじゃねぇか!おサノには作って貰った癖に私は嫌ってか!?」
己の上半身に実ったたわわなメロンを零に押し付けながら零に自分を意識して貰おうとするが途中で恥ずかしくなり突き放すと零が影浦にぶつかる。
それを藤丸の前の席から見ていた帯島がやはりいつもと調子の違う藤丸に眼を丸くするがここに来る前に「いいか帯島ァ。ののが風切に何やってても気にするな。いつもの事だ」と彼女の隊の隊長の弓場に言われていたので別段声をかけることはなかった。
「帯島はどうする?作れねぇなら作ってやろうか?」
零の返事を結局聞くこともなく零のお好み焼きを焼き始める藤丸を他所に先ほどから先輩ばかりの場で帯島は緊張していた。
藤丸も零も人の話を聞かないところは似るな、と思いながら自分の隣に座る小佐野を見る。
「風切先輩っていつもあんな感じなんっスか?」
「そうだね~。先輩は基本的に本能で動いてるからC級の子には嫌われてるし恐がられてるね~」
パクッ、と一口お好み焼きを齧って飲み込んだあと小佐野はでも・・・、と続ける。
「だからこそ先輩の言動に裏表が無いし、一部の女子からはめっちゃモテるんだ~」
帯島が嬉そうに、それでも何処か苦しそうに零を見る小佐野の瞳を見る。
その瞳には零の事しか映っていない。
しかし、自他共に認めるまぁまぁアホな彼女は自分が零に対してどのような感情を持っているのか分からなかった。
それは元モデルである彼女がモテることに困っていなかったからなのか今までそこまで好きになった人がいない弊害なのかは分からない。
「ん?何の話?」
「なんでも無いですよ。あ、私ひっくり返して良いですか?」
「おー、いいぞ」
ヘラを零から受け取った小佐野がそれを使ってお好み焼きをひっくり返すのを見ながら零が次に帯島を見る。
帯島、と零に呼ばれて肩を一回大きく上下させながら帯島がゆっくりと零を見る。
「何かあれば相談に乗るからな!男同士仲良くしようZE!」
眼を輝かせ親指を立てる零を困ったように見つめる帯島。
零の言葉を聞き不味いと思って零の口をふさごうとする。
「ま、待て零!」
「なんだよ?」
「帯島は女子だぞ!」
「・・・・・・・はい?」
零が驚いてしばらく藤丸を見た後にゆっくりと帯島に顔を向けていく。
帯島をよく知らない残りの三人も帯島に注目すると帯島は戸惑ったように自分を見てくる全員を見る。
正直帯島は男子に間違われることは慣れていた。
私服は短パンだし喋り方も女の子っぽくないだけでなく女子の身体的特徴であるOPPAIも藤丸とは言わずとも主張が激しいわけではないどころか無。
影すら見えない。
「だ、大丈夫っス!慣れてますから!」
「いや!それじゃあ俺の気が収まらねぇ!」
零がまっすぐ帯島を見る。
確かにその瞳を見れば小佐野の言う通り言動に裏表がないことが分かる。
しかもその眼が自身が所属する隊の隊長である弓場にそっくりに思えて仕方がなかった。
「じゃ、じゃあ今度自分と模擬戦して欲しいっス」
「そ、そんなことで良いのか?」
そんなことなら頼まれればいつでもやってやるのに、と呟きながら戸惑った顔で帯島を見る。
「帯島がいいっつってんだから良いんだよ、それで!」
音が出るほど強く零の背中を藤丸が叩く。
ジンジンと痛みが広がる背中を擦りながら涙目で焼けたお好み焼きを四つに割って帯島の皿に入れて帯島の前に出す。
藤丸の方も少し焦げたお好み焼きを丸々皿に入れて零に出す。
「それならすわさんかつつみんに審判して貰います?」
「あ?やるとしたら弓場隊の訓練室だろ」
小佐野の提案にお好み焼きを食べていた影浦が口を出す。
あ、そっかと残念そうにお好み焼きを一口咥える。
「・・・・・・そう言えばこの前太一が風切先輩とタッグで出水と米屋と緑川と試合したみたいですけど何があったんですか?」
「あ?・・・・・・あ~・・・」
村上に問われて零がその時の事を思い出す。
話は以前のサウナで零が倒れて忍田本部長に説教を食らった後の事だ。
怒られたのは室内温度が上がりまくっていたのに出なかった己の管理不行き届けだからまだいい。
問題はサウナの外で遊んでいた三人が飛ばした石鹸を別役が踏んで滑り零のスコーピオンに直撃したことだ。
「おいたが過ぎたから太一と一緒にお灸を据えてやったんだよ」
アイツら俺のジュニアを・・・・、と怨み言を言いはするが既に彼らをボコボコにして怨みは晴れている。
試合では一人でもおそらく倒せるが太一のサポート狙撃を受けてあちこちに
やっと攻撃を当てられると思えばそこは太一から狙撃がギリギリ通る場所だったりととにかく三人からしたらストレスしかない試合を行った。
試合が終わってすぐに綾辻に少し説教を食らったことはまぁ置いておく。
「そうですか」
「んなことよりよぉ!テメェ
風切零と言う少年は以前から言うように人の度肝を抜くことを悦びと感じている。
だからこそ誰かがそれを知って驚くようなことがあるならば極力隠すような人間なのだ。
もっとも、昔から一緒に過ごしていた小南や何度も零と戦っている風間は普段の所作からの違和感で何かあると思われバレる事もあるが、それもほとんど感じないほどの違和感だった。
「お前ら、反射神経って何か分かるか?」
再びお好み焼きの生地を鉄板に流しながら零は訊ねる。
「ハイハイ!こう無意識にやっちゃうあれのことですよね!」
自他共に認めるまぁまぁアホな小佐野が手を上げながら答える。
零も苦笑いを浮かべながらまぁ、そう言うことだと頷く。
「まぁ、言うなればどこぞのプロシュート兄貴みたいなもんだよ。ぶっ殺すと思ったら既に行動は終わってるってやつ」
人間の行動と言うのは
弾を作る、分割、狙う、撃つにちょっとずつ時間が割かれる。
対して人間の行動は脳がそれを行えと命令すると脳から微弱な電気が流れて身体の筋肉を動かす。
この時に少しだけ時間にラグが生じる。
しかし、嫌われ者の少年はそのラグが限りなくゼロに近い状態で活動することができる。
「俺何か知らねぇけど昔っから動体視力もよくってさ。相手がどう動くのかちょっとは解るわけね。だから弾が飛んで来ても軌道が見えるから避けちまえる訳よ」
だから気味悪がられた、と最後に付け加える。
ここで彼の数少ない友人たちは今まで思っていた疑問が霧が晴れるように晴れていった。
どうして彼は嫌われ畏れられるのか。
入隊初日でチキンレースを勝手に行ったり、誰よりも早くB級に上がったから?
いいや、違う。
チキンレースをしているのを見ればおかしな奴と思うかもしれないが畏れることはない。
誰よりも早くB級に上がっても凄い奴と思うだけだ。
嵐山隊の木虎藍だってすぐにB級に上がっている。
だが、今の話を聞いてお好み焼きを口に運ぶ手が完全に止まった五人、主に
彼が嫌われた理由は行動でも強さでもない。
常人とは異なる能力を持つことにより他の人間が離れていく。
「・・・・・・あ?どうしたよ?」
「いや、どうしたも何もお前・・・」
重いよ色々・・・、と冷めきった鉄板を全員が見つめる。
近くでなったパシャリと言う非常識な音にも気付かずに。
いったい彼は何時になったら刺されるのか・・・