「無駄無駄無駄無駄ァ!ちょっとでもこの零さんに勝てると思ったか、マヌケがぁ!」
本日、雨。陰鬱な気分の中、ボーダーの嫌われ者風切零は弟子の香取と模擬戦を行っていた。
空元気で行われているそれはもはや試合とは呼べる代物ではなく一方的なイジメにも似たものがあった。
少なくとも試合を見ていたC級隊員にとってはそう映っていただろう。
だからこそ、今ボーダー及び三門市内で出回った記事は大きな反響を呼んでいた。
「・・・・・まったく、とんでもないことになったものだよ」
その試合を自身のスマホで見ながらこれから起こると予想される事態をできるだけ小さくしようと頭を悩ませる男が仕事机に両肘を突きながら座っていた。
彼の名は根付栄蔵。ボーダーのメディア対策室室長である。根付は自分の前に置かれた今週の週刊誌のとある1ページを見ながらため息をつく。
そこにはデカデカと『発覚!?ボーダーの問題児の色恋事情!』と書かれていた。
「彼は常に何か問題を起こさなければ気がすまないのかね?それに・・・」
根付が目の前のソファに座り笑顔を見せる迅が居た。
「何故風切君が来ず君が来るのかね?」
根付の質問に迅が笑いながら答える。
「まぁまぁ根付さん。今回の件、零が解決に乗り出したら大なり小なり悪い未来になる。だから零にはそのまま過ごしてもらおう」
「・・・・・彼を庇って適当言ってる訳じゃないだろうね?」
「酷いなぁ。暗躍の時ならまだしもボーダーが危ないって時にウソなんてつかないよ」
いつもの調子でそう言う迅だがただ一点、危ないと言う単語だけ声が低くなった。
根付もそれに気付いたのだろう。眉を顰めて迅をみる。
「あ、危ないとはどう言うことかね?やはり彼は即刻クビにするほうが・・・」
根付は趣味がボーダーのグッズ集めになるほどのボーダーのファンである。だからこそボーダーの評判を落とすような粗暴な行動ばかりをする零を嫌っている。
実際市街地の近くのトリオン兵を倒したところを記者に撮られ、その暴れっぷりからボーダー隊員は粗暴だなどとの記事も出回った。
その際に根付は零を首にすべきだと総司令の城戸に進言したが却下されてしまった。
「別に零がいるから危ないって訳じゃないよ。この件に良からぬ何かが関わってるってこと」
「まさか
「いや、それも分からないけど・・・」
どっちなのかね・・・、と根付が息を吐く。そもそもの話何故迅は自分だけにそんなことを話すのか?疑問は絶えない。
だが少なくともやることは分かっている。今回の騒動について世間に弁明し、ボーダーの評判を護ること。それこそが根付栄蔵、メディア対策室室長の仕事なのだ。
「はぁ・・・。とにかく、まずはボーダー内部の噂の対処からだ。こうなった以上君にも手伝ってもらうよ」
「分かってますって」
今日も根付は悩みの種の対処へと駆り出される。
◇◆◇◆
一方その頃渦中の零はと言えば香取との特訓が終わりロビーで休憩を取っていた。
その間周りからの視線に刺されまくりながらカルピスをストローで吸い上げる。周りからの視線、それはボーダーのアイドルである綾辻遥の意中の人物である男の不倫にも似た行動をしたことによる非難や疑念、も当然ある。
が、そんなことよりも別の大事により視線を集めたのだ。
「・・・・・どうした?」
「いや、何故にニノさんここに座ってんのかなって」
B級1位の二宮隊の隊長、二宮匡貴が零の前に座りじっと零を見続けいるのだ。見ない方がおかしいと言えるだろう。
無表情と百面相、真逆の二人が今同じ席で向かいあっている。
「この後予定は?」
「え?」
「予定だ。何かあるのか?」
意外!それは普通の会話!この二人の間でこんな会話が交わされるなど誰が予想しただろうか。
「六時からザキのとこと防衛任務ですけど・・・」
「そうか。なら少し付き合え」
これには零も度肝を抜かれた。あの人に関心の無さそうな二宮が自ら人を誘っている。二宮に言われれば断る人間など・・・・・。
「え、すいません。俺そっちの気はないんで」
ここにいた。周りで盗み聞きをしていた者も吹き出しそうになる。これは新たな噂が生まれそうだ。
「・・・・・違う。模擬戦だ」
「うぇ?」
カルピスを吹き出し、濡れた顔で二宮を見る。だがその顔を見た瞬間、零も目の色を変える。表情が変わったわけではない。
目だ。零も二宮とは多少長い付き合いのためわかる。今の二宮は本気で零と戦いたい目をしている。
「分かりましたよ。やればいいんでしょ?」
零が諦めたように立ち上がりそれを見た二宮も後に続く。
零と二宮、B級詐欺、
だが、誰しもがこう思ったはずだ。「さすがの風切零も二宮匡貴には敵わない」。
結果は言わずもがなその通り。最後の最後に盛り返しを見せて一本とったものの、1対4で終わりを迎えた。
「やっぱりニノさん強いっスね。手も足も出なかったっスもん」
元の席に戻り、零がジンジャーエールを二宮の前に置くと二宮はそれを一口飲む。
「お前の注意が散漫だっただけだ。普段のお前ならまだ戦えていた」
顔色を変えずに二宮がそう言うと零は眉を顰めながら再びカルピスをあおりはじめる。
「いやいや、ニノさん。俺は至って集中してましたよ」
「なら何故突っ込んで来なかった?お前の戦闘スタイルは罠を貼りながらの近接戦闘だ。しかしお前は今回
「気分ですよ」
零は一気にカルピスを飲み干して二宮を睨み付ける。それでも二宮は表情を崩すことは無く言ってのける。
「お前はお前のやりたいようにやれ。それだけだ」
二宮はそれだけ言うと席を立ち立ち去っていく。目を丸めながら零は二宮の背中を見送った。
二宮は気付いていた。零が週刊誌に取り上げられたことにより周りから一層孤立してしまっていること、そのせいで零のメンタルが参っていることも。
「素直じゃないな。アイツも」
横から不意に声が聞こえて振り向いてみればそこには東春秋が立っていた。
「東さん・・・。聞いてたんですか?」
「悪い。近くで休んでたら偶然聞こえてきてな」
東が零の前の席に座り零を見る。
「自分が恥ずかしいス。メンタルケアすら自分でできてない」
「いや、こんなことになれば誰でも難しい。そう気に病むことじゃないさ」
東も自身の大学で零の噂は耳にしていた。大半はファンができるような女子にモテて羨ましいなどの僻みだったがごく稀に誹謗中傷に似た物もあり心配はしていた。
「小荒井と奥寺も心配してたぞ?自分達がお前に勝ち越せたって」
「マジすか・・・。後で謝ってまた負かしてやんないと」
零がいつもの調子に戻ってきたのだろう。東も穏やかな顔つきで零を見つめる。
「えーと、後誰かな。米屋だろ?緑川に出水カゲ、村上・・・あ、木虎もか。太刀川さんは・・・まぁ、いいや。皆に謝んにいかないとな」
そんなことを考えているとふと、零の視界に時計が入った。現在、五時五十分。柿崎隊との防衛任務まで残り十分。
「やっべ!東さん!俺これから防衛任務なんで!」
「おう。頑張ってこい。気を付けろよ」
はい!と零が勢いよく立ち上がると机に足をぶつけて机の上のトリガーが落ちる。
慌てて拾い上げて零は駆け足で柿崎隊の隊室へと向かうのだった。
だが、このほんの些細な出来事が零や、その周りを大きく影響させるなど今は誰も分からないのだった。
何か色々繋がりましたね