万年B級詐欺師隊員劇場   作:暁桃源郷

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柿崎隊①

『ザキさん達の南方500メートルにモールモッド確認!』

「分かった」

 

 通信から柿崎隊のオペレーター、宇井真登華の声が聞こえてくる。今回の防衛任務、基本的には柿崎、照屋、巴の三人と零一人に分かれ近い方が向かうと言うスタンスで行っている。

 

『風切先輩の西方600メートルにバムスター確認!』

「あー、こっちからも見えた」

 

 視界に映るバムスターは二匹。グラスホッパーで早急に飛び核を切り裂き一匹のバムスターの息の根を止める。

 すぐさまグラスホッパーで方向転換し首を斬り落とす。

 

「よーし、片付いた」

「こっちもだ」

『お疲れ様〜。しばらくは見回りで大丈夫だよ』

 

 宇井のその指示に零は孤月を鞘に収めて再び巡回路へと戻る。時間は既に六時半を回り辺りはもう暗い。遠くに見える市街地の明かりが余計に明るく見える。

 

「そう言えばさ、この前俺加古さんに捕まってチャーハン食わされたんだよ」

 

 突拍子もなく、それでいてインパクトの大きい話題を零は口にする。加古のチャーハンと言えば二割の確率で腹を下すロシアンチャーハンで有名で諏訪隊の堤大地は100パーセントハズレ、鈴鳴第一の来馬辰也は100パーセント当たりを引くことも零にとっては印象深かった。

 

「大丈夫なんですか、それ・・・」

「まぁ、言うて確率八割は絶品チャーハンだからな。確かフルーツチャーハンだったかな?太刀川さんが食ったチョコミントチャーハンよりマシだろ」

 

 チョコミント・・・、と虎太郎が餌付く。背中を摩りながら今度は照屋が口を開く。

 

「えっと、先輩思ったより元気ですね」

「そうか?」

「はい。あの週刊誌が出回ってから大分心ここに在らずって感じでした。今日の任務だって気分転換になるかもって隊長が誘ったんです」

「お、おい。文香!?」

 

 照屋の突然のカミングアウトに柿崎も驚きの声を上げた。

 

「え、マジ?ザキ、悪かったな心配かけて」

 

 零の謝罪に柿崎が少し口角を上げる。

 

「良いんだよ。友達だろ?」

「友だち・・・・・」

「そうだよ」

 

 柿崎の意外な言葉に零は少し面食らっていた。零は自分が嫌われているのをずっと気にしていた。性格が粗暴であるのも自負している。もちろん、ムカついたことがあっても直ぐに手を出そうとも思ってはいない。

 だが、彼の副作用(サイドエフェクト)がそれを許さなかった。本気で殴ってやろうと思った時には既に脳が命令を下し身体が動いてしまう。

 それもあいまってか普段零の周りには一部のボーダー隊員しかいなくなってしまった。

 

「ザキィ・・・・・」

 

 だからこそ嬉しかった。通信越しですら零が鼻声で泣いているのがわかるほどに。

 

「おいおい、泣いてんのか?」

「だっでぇ・・・」

 

 通信内で笑いが起こる。そんな笑い声の中、再び警報が流れ始める。

 

「真登華、今度は何処だ?」

「風切先輩の南西一キロ先です!」

「あいよ。じゃあ信じてくれるダチの為にいっちょやってきますかね」

 

 そう言うと零は直ぐにグラスホッパーで飛び指示のあった場所へと向かう。

 十数秒経ってようやく目的地に到着するとそこにはモールモッド三匹に何故か男もいた。

 

「何で一般人がここにいるんだ!警戒区域だろ!?」

「とにかく一般人の保護が最優先だ!俺たちも直ぐに向かう!」

「了解!」

 

 零は急いでモールモッド達と男の間に割って入る。男の方をチラリと見ればどうやら怪我はないようだ。

 すぐさま零はモールモッド達に向き直り、男に指示を出す。

 

「アンタ!そこら辺に隠れてろ!」

 

 零の指示に男は恐怖で腰を抜かしているのか動く様子はなく、それを感じたのか零も舌打ちをして対処を考える。

 しかし、そんな暇をモールモッド達が待ってくれるわけもない。一瞬の内に一斉に零に飛び掛かっていく。

 しかし、動きは単調だ。直ぐに零は誘導弾(ハウンド)で三匹同時に核を撃ち抜く。

 モールモッドが撃沈したのを確認し、他に敵がいないかと辺りを見渡してみる。

 居ないことを確信してようやく零はトリガーを解除して男へと話し掛けた。

 これはとっさでもトリガーを一般人に向けないための零の配慮だ。

 

「アンタ、大丈夫か?」

「あ、あぁ。ありがとう。感謝する。本当に感謝するよ」

 

 そう言いながら男が零に抱きついてくる。

 

「いや、別にそこまで感謝しなくても・・・ッ」

 

 次の瞬間腹に鋭い痛みと共に生暖かい何かが脚に流れていく感触が現れる。

 ゆっくりと痛みのする腹を見てみればそこには深々と鈍く光る包丁が刺さっていた。

 

「神様に、テメェに巡り合わせてもらった事をな」

 

 それを知ったと同時に急に力が抜けて地面へと後ろのめりに倒れていく。

 

「はは、やった。やったぞ!どうだ!ザマァ見ろ!」

 

 男がケタケタと壊れたラジオのように笑い出す。

 街と本部の明かりもほとんど届かないこの通りに男の笑い声だけが響き渡る。

 

「隊長、こっちです!」

 

 そこにようやく到着した照屋がその現状に息を飲む。笑う男、モールモッドの死骸、そして血溜まりに沈む零。

 何があったかは一目瞭然だった。

 

「隊長ッ!」

「なんだ・・・これ。零!」

 

 その惨状をようやく視認できた柿崎が零に近付いて抱き上げる。

 

「零!しっかりしろ!おい!」

「虎太郎、急いで本部に連絡!」

 

 そう虎太郎に指示を出す照屋だが、このような惨状をたとえボーダー隊員だとしても僅か14歳の彼が見て気分が悪くならないわけがない。

 だが時は一刻を争う。

 

「虎太郎!早く!」

「は、はい!」

 

 虎太郎の返事を聞いて照屋は急いで笑っている男を拘束する。だが逃げるつもりもないのか男は未だに笑いながら天罰だ何だと叫んでいる。

 その状況に柿崎はゆっくりと立ち上がり男の胸ぐらを掴む。

 

「お前、零に助けてもらったんだろ!なんで刺した?」

「奴は刺されても当然の人間なんだ!俺達のアイドル、遥ちゃんを誘惑しやがって!」

 

 男は更に怒りを乗せて吠える。

 

「それだけなら良かったさ!推しの幸せは俺達の幸せだ。でもソイツは別の娘にも手ェだしてやがった」

 

 話を聞いた柿崎隊の脳裏に浮かんだのは先日出た週刊誌。零が綾辻や小佐野達と食事をしたり出掛けたりした時の写真が載ったそれは確かにネット上で彼女達のファンを中心に荒れた。

 それ以上、柿崎が何かを言うことはなかった。男から手を離して零を背負う。

 

「悪い文香。ソイツを頼む。俺は零を基地の治療室に連れて行く」

「了解」

 

 こうして、零の重傷を持って本日の防衛任務は幕を閉じた。




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