万年B級詐欺師隊員劇場   作:暁桃源郷

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風切零③

 零が刺された事件はすぐさまボーダー中の知るところとなった。ネットでも意見様々あったが、特に多かったのは当然の報いやザマァ見ろだの犯人を讃える意見。

 一方零の容態はと言うと迅に予知を教えてもらってからと言うものの身体と服の間に雑誌を詰めている。

 昨日はなんの縁か自身をこのような目にあわせた元凶の週刊誌を腹に詰めていた為死ぬには至らなかった。むしろ不味かったのは倒れた時に強く頭を打ったこと。これにより零は右脚に多少の麻痺が残った。

 

「医者が言うには私生活を送るには何ら問題がないらしい」

「そうですか。忍田本部長もすいません。こんな事に巻き込んで」

 

 零はベッドに座りながら付き添いで来てくれていた忍田に頭を下げる。

 

「いや、謝るのはこちら側だ。私も迅に君が刺されると言うことは聞いていた。これは私の管理ミスが起こした事故だ。すまなかった」

「い、いや!誰もあそこに一般人が、しかも俺を刺そうとしてるやつがいるなんて思いませんよ」

 

 頭を下げる忍田を宥め零が窓の外を見る。まるで平和そのものだ。自分が刺されたことなんてまるで無かったかのようだった。

 

「それと、君を刺した犯人の処遇だが・・・」

 

 忍田の言葉が澱んだことを疑問に思ったのか、零が忍田の方に振り返る。

 忍田は苦虫を潰したような顔を覗かせていた。それを見て零は察することができた。

 

「記憶を処理したためこの前の一件の記憶が無い。だから逮捕ができない。ですよね?」

「・・・・・すまない」

「良いですよ。俺が蒔いた種ですし。それにボーダーにとってそうしなければならなかった事も理解できる」

 

 理解はできても納得はできない。そんな感情を隠しながら零は忍田が出るのを見送るしかなかった。

 忍田が病室を出て五分くらいが経過しただろうか。再び扉が開いて零は眠りから覚める。

 

「・・・・・よう。元気か?」

 

 入ってきたのは柿崎だった。零も軽くおう、と返事をしながら起き上がる。

 

「さっきそこで忍田本部長からお前の容態を聞いた。零、本当にすまなかった!」

「謝んなって。むしろ柿崎隊は俺の命の恩人だぜ?あのまま放置じゃ失血死の可能性だってあったし、それこそトリオン兵に殺された可能性だってあった」

 

 深々と頭を下げる柿崎。だが零はむしろ申し訳なく思っていた。あの一件はおそらく柿崎隊の全員にとって大きな心の傷になっただろう。

 身体の傷は時間が経てば治る。だが心の傷はそうはいかない。

 

「お前らの方は?大丈夫なのか?」

「あぁ。虎太郎の方はまだ少し元気がないが、だいたいはいつも通りだ」

「・・・・・お前らにも、悪いことしちまったな」

「そんなこと・・・ッ!」

 

 言葉で否定しようとして柿崎は押し黙る。零は被害者なのだ。申し訳なく思うことなんて一つもない。でも零はそう言う奴だ。言動と行動、後は性格で勘違いされがちだが、実際根は仲間の為に気を遣える良い奴だ。

 その証拠に零に尊敬する人は、と聞けば真っ先に諏訪洸太郎と答える。時たまポップキャンディを口に咥えて試合をしたり、銃手(ガンナー)トリガーにショットガンを使用しているのも、それを使った時に「諏訪さんみたいに」と口癖になっているのも全て諏訪を真似ている為だ。

 

「俺達はお前に怒ったりしてねぇよ。むしろたまに虎太郎の剣の練習相手になってくれてるし感謝してる。だから・・・」

 

 自分をそう卑下するな。そう言って柿崎は下のコンビニで買ってきたポップキャンディを零に手渡す。

 零はそれをしばらく眺めた後に再び柿崎に向き直った。

 

「そうだな。こんなの俺の性に合わねぇわ。うん、なんか吹っ切れた。ありがとよザキ」

 

 少し零に笑顔が戻り安心したのか柿崎もうなづく。

 

「それじゃあ、また来るぜ」

「待ってるよ」

 

 そう言って忍田のように柿崎の背を見送りもらったポップキャンディを口に含む。

 次の来客は結構早く現れた。柿崎が病室を出て直ぐ零はテレビを付けていた。と、言ってもこの時間は昼ドラかニュースしかやっていない。

 ニュースでは夕方からボーダーの記者会見があると言う話だが一体何を話すのか。十中八九自分のことだなと思いながら扉がノックされる音に反応してテレビを消す。

 

「邪魔すんで」

「邪魔するなら帰れ」

「はいよ〜」

「ちょいちょい」

 

 ここまでが定型分だと言わん限りに病室を出て行こうとする生駒。それを止める水上。後ろには隠岐と南沢もいる。

 

「ここでホンマに帰ったあかんでしょ。風切先輩の見舞いに来たんてましょ?」

「先輩大丈夫っすか?」

「おう!先輩見舞いに来てくれる人が多くて感謝感激雨霰よ」

 

 南沢の元気な問いかけに零も元気に答える。

 

「何や元気ですねぇ。良いことでもありました?」

「さっき飲んでたお茶に茶柱が立ってた」

 

 隠岐からの問いかけに零が答えれば無表情ながらも生駒が口をあんぐりと開く。

 

「なんやて?そらめでたいわ。よし、隠岐。イケメンやなくてもモテる秘技教えたれ」

「それイコさん聞きたいだけでしょ。それにそれをイケメンに聞いてどないするんですか」

「え、聞けないの?」

「あ、まさかの乗り気?」

 

 生駒にツッコミを入れている水上に本気でワクワクしていた零が現れてボケが二人に増える。

 もちろん隠岐は自分はモテないと主張。

 

「それで、身体どないや?ボーダー、続けられそうか?」

 

 話を本腰に戻して生駒が問う。先ほどまでのノリは何処へやら生駒隊の全員が零を見る。

 

「脚に麻痺が残るってさ。杖はいるだろうけど私生活には問題ない。ボーダーもトリオン体なら色々調整したら普通に戦えそうだ」

「そうか」

 

 安心したように息を吐いた後あ、と生駒が再び話を変える。

 

「そう言えば今ボーダー大変やねん」

「なんかあったか?」

「零が刺されたって聞いて綾辻ちゃんとか那須ちゃんとか、とにかく色んな女の子が意気消沈状態でな」

「マジか。見舞いに来たら元気なとこ見せなくちゃな」

 

 元気なところを見せれば多少本調子に戻るだろう。そんな考えで呟いたがだが事態はそんな甘いものじゃなかった。

 

「いや、むしろ先輩が帰ってきたらボコボコにしてやろうって意気込みでしょあれ」

「え、俺また病院に逆戻り?」

「海、そんなん皆同じや」

「ヤッベ。退院したく無くなってきた」

「そんなこと言わんといて下さい。皆復活した先輩と試合したいだけですよ」

 

 もちろん本気でそうは思っていないものの、隠岐の優しい言葉に零が涙を流す。

 

「じゃあ、俺らもう帰るわ。退院したらナスカレー奢ったる」

「じゃあ先輩、また今度」

「帰ったら試合しましょうね!」

「それじゃあ、お大事に」

 

 各々が一言ずつ言って病室を出る。そして扉が閉まり、生駒達の声が聞こえなくなってから零はボソリと呟いた。

 

「俺、茄子嫌いなんだけどなぁ・・・」

 

 生駒隊が来た後、しばらくは誰も来なかった。やることもないので零は昏睡中に持ってきてくれたのであろうゲーム機をテレビに繋いでゲームを始める。

 やっているゲームはモンスターを捕まえて育成するゲーム。ストーリーは全てクリア。病院でネットは繋がらない。だから零はモンスターの中でかなりレアな色違いを捕まえる色厳選をする事にした。

 卵を産ませて走って孵化させる。そんな単純作業を黙々と続けて行く。

孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化

孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化

厳選厳選厳選厳選厳選厳選厳選厳選厳選厳選厳選厳選厳選厳選厳選厳選

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孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化孵化

 卵が割れてモンスターが現れた瞬間、キランとエフェクトと効果音が流れる。

 

「っしゃオラ!」

「病院では静かにしろ」

 

 喜んだのも束の間。直ぐに隣から声が聞こえて振り返ってみればそこにいたのは玉狛の筋肉、木崎レイジ。後ろには直ぐ騙される事で定評の小南桐絵ともっさりしたイケメンの烏丸京介、更には玉狛支部に住むカピバラに乗ったお子様、林藤陽太郎の四人がいた。

 

「・・・・・いつからいました?」

「三十分前くらいからな」

「アンタずっと死んだ目でやってたわよ」

 

 小南の呆れ声でハッとした零が一度レポートを書いて時計を見る。既に時刻は五時ちょっと過ぎ。孵化厳選開始から僅か四時間が経過していた。

 

「結構早く終わったな」

「それで風切先輩。容態はどうなんです?」

「右脚麻痺。杖必須。ボーダーは続ける。以上」

「何でそんなに投げやりなのよ!?」

「いや、さっきイコに話したし」

 

 最低限は必要なことは話したとテレビをつけようとリモコンを探して陽太郎に目が移る。

 

「あれ?陽太郎、雷神丸は?」

 

 雷神丸とは陽太郎がいつも乗ってるカピバラのことだ。

 

「うぅ・・・。雷神丸は病院に入れないって」

「そうか。まぁ、病院じゃそうだろな」

「うぅ・・・」

 

 涙を浮かべる陽太郎を見て零はため息を吐き机に置いた財布から千円札を取り出して陽太郎に手渡す。

 

「見舞いに来てくれた礼だ。それで雷神丸のおやつ買ってやれ。お釣りは小遣いにしていいぞ」

「ほんとうか!?ありがとうレイ!」

 

 陽太郎が意気揚々と雷神丸のおやつを買いに行くのを四人で見届けて零はようやくテレビを付ける。

 タイミングよくテレビに映ったのはボーダーの記者会見だった。

 

「何これ!?記者会見?とりまるアンタ知ってた?」

「えぇ。一応。風切先輩の件についてみたいですよ」

「何それ?零が誰と居ようが関係ないでしょ?」

「確かにそうだが記者にそんな事は関係ないだろ」

 

 木崎の言葉に小南がムグググと唸りながら頭を掻きむしる。

 

「静かにしろよ桐絵。テレビ聞こえねぇだろうが」

「んな!?」

 

 驚く小南を他所にテレビの中でボーダーの記者会見が始まるのだった。




大人の戦いって難しそう
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