記者会見の会場はザワザワと記者達の雑談や電話の声で騒然となる。ただでさえ問題が起きれば話題になるボーダー。しかもそれが悪い方で話題になる零の事となれば尚更だ。
そんな記者達を裏方から観察していた根付が顔を引っ込めてため息をつく。
「本当に大丈夫なんだろうね迅君?」
「大丈夫だって。城戸司令には許可も取ってる」
「君と言う奴は・・・」
自分の知らないところで城戸司令に許可を取り付けた迅の暗躍ぶりに思わず頭を押さえてしまう。
「それに、今回の件に関しては根付さんも納得できてないんじゃない?」
「・・・・・何を言っているのかね。悩みの種の彼が居なくなってくれるなら私にとっては喜ばしいことだよ」
そう言って根付は時計を確認し、時間が来たと壇上に上がって行く。それに気付くや否や先ほどまでの騒然としていた記者達の声がカメラのシャッター音へと変わって行く。
「えー、皆様。本日はお忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます。本日ご報告させていただくのは先日出回りました。週刊誌に掲載されていたこと、ひいてはその当事者、風切零隊員の処分についてです」
さすがメディア対策室長と言うべきなのだろう。緊張を見せることなく淡々と話を進めて行く。
「単刀直入に申しますと、我々ボーダーは彼に対して処分を行わないことを決定しました」
根付の言葉に再び記者のざわめきが大きくなる。
「理由と致しましては今回の件は完全なプライベートであることが挙げられます。我々ボーダーに隊員のプライベートにどうこう言う権利はありません」
もちろん、それはボーターの仕事に支障をきたさないのが大前提ではあるものの今回の場合は非番の日、もしくは仕事終わりの出来事だ。
ボーダーとしても何も言う事はできない。
「次に件の発端となった週刊誌にの記事についてですが・・・ボーダーの大人の一人として、記事の撤回を強く求めます!」
根付の力強い言葉に気押されたのか今度は記者がざわめくことはなかった。
「ボーダー隊員と言っても彼らの大半はまだ未成年です。そんな中で私達大人には彼らを護る義務がある」
その後も根付の話は続いた。側から聞いていれば綺麗事ばかりを吐いているように聞こえてくるがそこには根付の本心も多少は紛れていた。
ようやく記者からの質問の時間となり根付が一人の記者を指名する。
「〇〇新聞の木村です。以前より風切隊員の記事は出回っていましたがそれを見る限り私は彼が命をかけて市民を護ろうとしているとはどうしても思いません。実際に今回の件がなかったにしても彼はクビにするべきだと言う声が多かったように思われますがそこに関してはどうお考えですか?」
「はい。その件につきましては彼は隊務規定違反を犯したこともなく、もちろんボーダーの使命もこなしてくれています。そんな彼をクビにするのは理不尽だと考えますがどうでしょう?」
「ルールを守るのは当たり前のことでしょう?」
「その当たり前を彼がこなせている以上、私達が彼を辞めさせると言う事はありません」
ここまで断言されれば記者も引き下がるしかない。
「他に、質問される方は?」
再び別の記者から手が上がる。だがこの記者は根付が雇った記者だ。
「××新報の北岡です。先ほど記事の撤回を求めると仰っていましたがそれは何故でしょうか?」
「まず一つ目としましては隊員に不安感を与えない為です。自分もいつかこうなると思われれば新規隊員の減少に繋がりボーダーの運営に支障を来たす恐れがあります」
「では二つ目は?」
「隊員を危険に晒さない為です」
「危険?」
記者が聞き返すと根付がうなづいて答える。
「えぇ、先の週刊誌が原因で風切零隊員が刺され現在入院中です。名前は風切零隊員本人からの要望もありこの場での公表は差し控えさせていただきます」
また別の記者が手を上げて根付が指名する。
「では犯人はもう捕まっていると言うことですね?」
記者の質問に食いついてきたと言わんばかりにうなづいて更に言葉を続けている。
「そこに関しては我々から言える事はありません。しかし少なくとも、この記事は彼のプライベートを侵害し、最悪命を落とすところだった原因が雑誌の記事である以上、彼の心身を共に守る為にも出版社の方々にはご理解を示していただくようぜひよろしくお願いします」
◇◆◇◆
根付が深々と頭を下げる映像がテレビに映し出され、零も、そして玉狛の三人も目を丸くした。
四人とも根付が零を目の敵にしている事は何となくだが分かっていた。そんな彼が今、目の敵のはずの零を守るために深々と頭を下げている。
「・・・・・意外ね」
ぽつりと呟かれた小南の言葉にえぇ、と烏丸もうなづく。
しかし零はよく考えてみれば・・・、と手を顎に当てて自分の考えを話し出した。
「これって自分たちは子供の味方ですよアピールなんじゃねぇの?そりゃ庇ってくれるのはシンプルに嬉しいけどさ」
「お前はもう少しその捻くれた性格を治した方がいいな」
「レイジさんひでぇ」
実際のところは零の想像通りのため何とも言えないがそんな事を知る由もない木崎から見れば庇ってくれているのにそれに理由を付けようと頑張っている天邪鬼にしか見えない。
もちろん零だって根付には感謝している。なんだかんだでいつも自分絡みのメディア的な問題を解決してくれているのも彼だ。でもやはり嫌われている事が分かっているのでどうしても裏があると思ってしまう。
「あ、そう言えばさっき林藤支部長から電話があったんですけど鬼怒田開発室長が先輩様に杖型のトリガーホルダーを作ってくれるらしいっすよ。退院したら受け取りに行ってください」
「マジ?ありがとう鬼怒田さん愛してる!」
「え!?アンタと鬼怒田さんってそんな関係だったの!?」
「知らなかったんですか小南先輩。実は風切先輩は鬼怒田さんの愛人なんですよ」
知らなかった・・・・・、と青ざめながら小南は零の肩を持ち強く揺らす。
「だ、ダメよ零!好きになるなら私にしなさい!」
「き、桐絵!?大丈夫!大丈夫だから!」
「何が大丈夫よ!ほらレイジさんも何か言ってやってよ!」
「零のベッドの下」
「へ?」
「うぇ!?」
木崎の短いセリフに顔を歪める零と何のことなのかわからないと言うような顔で頭を傾ける。
「すいません小南先輩。あれ嘘です」
何となく察したのか直様烏丸も訂正。状況を理解できずポカンとする小南がしだいに顔を真っ赤にして零の頬をつねる。
「また騙したなぁ〜!」
「ほへほへひゃなひ(それ俺じゃない)!」
怒りに恥ずかしさも混じっていたのだろう。直ぐに顔を隠し床で転がりまくる。
おそらくここまで予測してのあのセリフだったのだろう。チラッと木崎を見れば視線が合う。
(貸し1な)
(今度ゆりさんとの二人っきりのディナーセッティングします)
(・・・・・よし)
密約の元零と木崎がうなづき合う。
しかし何故ここまで零は「ベッドの下」に極端に反応したのか。彼も一男子と言う事だ。しかも時間停止だの感覚遮断だの結構ニッチなやつを。
男としてはそれを女子に見られたくないと言うのは当然と言うべきかもしれない。
「小南先輩。元気出して下さい。風切先輩も実は小南先輩のこと結婚したいくらい愛してるって言ってましたよ」
「ほんと!?」
「あ?何だって?アイ?そういえば最近そんな名前をしたキャラが死ぬ漫画読んだな」
まったく見当違いな発言を無視して自身の妄想に耽る小南。想い人とのディナーでの今からシミュレーションする木崎。もうそろそろバイトだと届きもしない言葉を投げかけ退出する烏丸。
もはや病室内は三者三様のメルヘンワールドが構成されていた。
「よぉ、零元気か?なんだお前らも来てたのか。・・・何やってんだ?」
そんなメルヘンワールドに愚かにも足を踏み入れたのは玉狛支部の支部、林藤匠だった。
「あ、ボス」
「林藤さん。お疲れ様です」
「おう、やっと仕事が終わってな、見舞いに来た。ほれ見舞い品」
林藤がゆっくりと机の上にリンゴやバナナが入ったバスケットを置く。中を覗いてみれば蜜柑も入っておりまさによりどりみどりと言った感じだろう。
それを見ていれば隣からは小南のグー、と鳴る腹の音が聞こえてくる。
「えっと・・・、桐絵バナナなら今直ぐ食べていいぞ」
「やった!」
バナナを向き齧り付いている小南の光景を見て零はなんだか孫でもできたように思えてくる。
対して次に零は木崎とバナナを互いに見る。
「レイジさんも食べます?」
「おい、今俺とバナナを見て何を思ったか正直に言ってみろ」
「ハハハ、元気良いな。これなら心配なさそうだ」
林藤の笑い声につられて三人も笑い出す。入院していようと彼らの日常は変わらない。
そしてその日は何人もの見舞いによって過ぎて行くのだった。
大人の駆け引きです。誰が何と言おうと大人の駆け引き何ですか(泣)