どうしてこうなったのだろうと零は考える。零が右を見れば太刀川が、左を見れば堤が顔を青くして座っている。
そして料理の音が聞こえる方を見れば加古が楽しそうに鼻歌を歌いながら料理をしていた。
どうしてこうなったのかを説明するには少し時を巻き戻す必要がある。
病院を退院してすぐに復帰戦をさせられた零は上層部や知り合いへの挨拶回りを翌日に回すことになってしまった。
そして回っている最中に加古に捕まり現在に至る。
「あ、あの〜。加古さん?」
「どうしたの?」
キッチンの加古に向かって零が話し掛ける。加古も零の方は見なかったもののしっかりと返事はする。
これは黙って逃げる事はできなさそうだと適当な言い訳を考える。
「俺まだ挨拶回りをしないといけないんで、その・・・」
「でももうそろそろお昼の時間よ?流石にお昼は食べるわよね?」
「いや、俺香取と飯の約束があってですね」
「あら、そうなの?ならちょっと少なめにしましょう」
もはや何が何でも零に食べさせるつもりなのだろう。薄々そう感じていた零に初めから諦観状態の太刀川と堤が零の肩をポンポンと叩き慰める。
涙目になりながら零は加古の様子を伺う。
「ところでなんで太刀川さんと堤さんはここに?いや、結局いつものメンツなんでこれと言って無いんですけど純粋な疑問で」
「俺はアレだ。加古の創作チャーハンを食いに来ねーと課題をこれから手伝わねーって脅されてな」
「アンタ、俺以外にも手伝わせてるんかい。ホント忍田さんにチクりますよ!?」
それだけはやめてくれ、と本気でしがみつく太刀川を他所に今度は堤が話し始める。
「俺は偶然そこで加古さんにばったり会ってな。無理矢理連れて来られた・・・」
「ご愁傷様です・・・」
A級6位の加古隊の隊長、加古望の創作チャーハンはボーダーの一部年齢組にとっては知る人ぞ知るポイズンチャーハンだ。
まず堤がチョコミントチャーハンで死亡し、次に太刀川がイクラカスタードチャーハンで死亡。更に再びギャンブラーの堤が蜂蜜ししゃもチャーハンで二度目の死を遂げている。
彼女自身は味覚が正常であるためチャーハンにチョコミントやカスタードや蜂蜜を入れると言った暴挙は彼女の好奇心から来ている。
そもそも彼女の創作チャーハンは八割は普通に絶品の極ウマチャーハンなのに何故彼らは残り二割を引き当てるのか。
そして今、初めて処刑台に上がった気持ちで待つ零は仔犬の様に震え上がり彼女の右手に持ったそれを見る。生姜のラベルが貼られた飲み物。二宮の好物ジンジャーエールだ。
「う〜ん、二宮くん用に買っておいたこれも入れちゃいましょう」
恐ろしい言葉が聞こえなかったか?と零は困惑する。チャーハンにジンジャーエール?鶏肉を柔らかくしたりするのに使ったことはあるが流石に零もチャーハンに使った事は無かった。
「あ、あとこれも入れちゃいましょうか」
そう言って彼女が冷蔵庫から取り出したるは市販のガーナチョコ。そしてそれを彼女は何の躊躇いも無く鍋の中に放り込む。
それからも加古は塩、ラー油、叫び声を上げる大根のような植物、茹でたパスタを入れていく。
おそらく鍋の中ではもはやチャーハンとは形容し難い蠱毒のようま者が出来上がっていることだろう。
そして、それを食べるのはこの中の誰か、もしくは全員。
「完成よ!」
そうして運ばれた一つのチャーハンを見て三人が生唾をごくりと飲み込む。
見た目は確かにまともなチャーハンに見える。だがこの中にはジンジャーエール、ガーナチョコ、塩、ラー油、叫び声を上げる大根のような植物、茹でたパスタが入っている。
食えば即地獄行きなのは創作チャーハンの被害者常連の二人も普段から呑気に大学生活を送っている零にだって理解できる。
「材料不足で一人分しかできなかったのよ。またすぐに作ってくるからこれ誰が先に食べる?」
「「堤(堤)さんで」」
「え!?」
堤大地(20)三度目の死、確定。
堤の前に置かれるチャーハン。そのチャーハンを睨みながらスプーンで掬い口に運ぶ堤。
大丈夫。八割は当たりだ。これが当たりの可能性だってある。
そう自分を鼓舞していざチャーハンを口に入れる。その瞬間、舌に現れたのは材料同士が己を主張しようと奏でる不協和音。
チョコの甘い味がしたと思えば生姜の酸っぱい味が躍り出て更に塩のしょっぱい味、ラー油の辛い味と味覚のオンパレード。
遂には彼の脳の処理は間に合わなくあえなくショート。
つまり・・・。
(堤さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!)
堤大地に三度目の死が訪れた。
「寝ちゃったのかしら?よっぽど疲れてたのね」
いや、原因アンタのチャーハン!などと言えるわけもなく、そうっスね・・・。と相打ちを打つことしかできない。
太刀川も刻一刻と迫る死期に手を合わせて念仏を唱える。
加古が再びキッチンに姿を消したのを確認して零は堤を寝かせ、さっと立ち上がり隊室の出口へと急ぐ。
「待て零。お前、何処に行くつもりだ?」
「何処にって、逃げるんですよ。堤さんを見たでしょ?二割を引くとアレなんですよ。俺はそんなギャンブルなんてしたくは無いです」
肩を掴む太刀川を見ずに零は肩を振るわせて訴える。自分は死にたく無い。加古がキッチンに籠っている間に逃げる、と。
「加古のチャーハンから逃げる事は俺が許さん。堤と一緒に、地獄に落ちよう」
しかしながら太刀川これを拒否。すぐさま零は手を振り払って逃げようとするが少しでも道連れを増やそうと必死の太刀川は零をガッチリとホールド。
「放せェ!俺はまだ死にたく無い!」
「行かせねー!レポートをいつも手伝ってくれるお前には悪いが道連れになってくれ!」
「それが大人のすることか!諏訪さんと鬼怒田さんを見習え!」
己が死にたく無いばかりに醜い争いを繰り広げる二人。もちろんそんな騒ぎになれば当然キッチンにも聞こえるわけで、加古が小走りに二人の様子を見てくる。
「どうしたの?」
「いや、何でも無い。コイツが腹減ったから早く食いたいって
「!?」
まさかの発言。これにより完全に零は逃げ道を塞がれてしまった。諦めて零は太刀川に同調する。
「そ、そうなんですよ〜。いや〜、早く来ないか〜って」
「そうね。時間かけても香取ちゃんに悪いわ」
急いで加古がチャーハンを用意するのを見送り席にもう一度座る。
「・・・・・建設的な話をしましょう」
「おう」
「午前中、二宮隊に挨拶回りに行ったら二宮に自分とランク戦をするときは
「うわ、言いそうだな」
「俺どっちかと言うと孤月とかスコーピオンを主軸に至近距離狙撃、牽制の
「そうだな」
「確かに一応
もちろん、いつもの編成でやればそれはまた別の話ではあるが少なくとも
「お前
「そうっスね」
「なのにそんな負け越すか?」
太刀川の疑問も当然だ。11位になるならば少なくとも9900ポイントは必要だろう。
「まぁ、孤月とかスコーピオンで追い詰めて
「そうか?」
「そうです」
零がうなづいて机に置かれた水を飲む。しばらくして加古が再びチャーハンを持ってきて零の机に置く。
「お待たせ。香取ちゃんとのご飯もあるみたいだから少なめよ」
「ありがとうございます」
零は加古に礼を言い出されたチャーハンを見る。まだ冬だと言うのに一口サイズのメロンやスイカが散りばめられていてまだマシな感じがする。
だがまだ安心は出来ない。零は身長にチャーハンを口に運びそして一口食べる。
「・・・・・!美味い!」
チャーハンのピリ辛さとメロンとスイカの甘みが上手くマッチしている。「ハーモニー」と言うのか、「味の調和」と言うのか。たとえるなら
サイモンとガーファンクルのデュエット、ウッチャンに対するナンチャン、高森朝雄の原作に対するちばてつやの「あしたのジョー」と言う感じだろう。
甘党な零にとっては次々と口に入れていきたい味だ。
「気に入ってもらえたようで嬉しいわ」
「お、おい零!俺にも一口くれよ!」
「嫌っスよ〜。太刀川さんも次来るんだから待っててください」
「そ、そうだな!加古、俺のも早く頼む!」
「えぇ。すぐ持ってくるわね」
希望が見えたのか自分のチャーハンを加古に急かす太刀川。お腹が空いた子供を宥めるように加古はキッチンへと向かう。
「ご馳走でした!美味しかったです!」
キッチンにいる加古に零が声をかけて隊室を後にする。
「お待たせ太刀川くん」
すぐに加古がキッチンからでて太刀川の前にチャーハンを置く。そのチャーハンを見て太刀川が絶句した。
チャーハンに掛かっていたのは何ときな粉。一口チャーハンを口に入れてみれば米は何故かモチモチとしている。
「太刀川くん、きな粉餅好きでしょ?だから餅米で作ってみたの」
「そ、そうか・・・」
ベタベタな米にきな粉が引っ付き不思議な感覚だ。
「実は隠し味も入れてあるのよ」
「隠し味?」
「シュールストレミング」
「・・・・・・・」
加古隊の隊室がしばらく静まり返る。そして太刀川はゆっくりと後ろに倒れ込んだ。
太刀川慶(20)、
本日の犠牲者
・太刀川慶 シュールストレミング入りきな粉餅チャーハン
・堤大地 闇鍋チャーハン
堤、太刀川に八割を引く運命はありません
次回、処刑人