「働け」
加古に言ったウソを本当にすべく香取を呼び出し昼飯を奢っていたとある冬のお昼時。本部の零の自室で家主にその三文字の冷たい言葉をA級2位、冬島隊オペレーターの真木理佐は被せる。
彼女は零が苦手とする人間の一人だった。エンジニアとして裏方の仕事をサボり気味にしていた冬島と常日頃から任務と訓練以外はだらだらとしていた当真を「働け」と一括。見事冬島隊を設立させた。
そんな腕が買われたのだろう。上層部から零を何処でも良いから部隊に入れさせるか作らせろ、と命令が下った。もちろん最初は真木もそれを拒否。理由としては零の事は噂程度しか知らなかったこととさほど零に興味が無かったから。
しかし、彼女は零と風間隊の零の入隊を賭けた試合を画面越しに目の当たりにした。真木が風切零と言う嫌われ者に興味を持つのに時間は掛からなかった。
それからだ。零に何度も隊に入るか作れと迫るようになったのは。
「嫌です。お帰りください」
もちろんこれからも個人で活動しようと思っている零は何度もそれを断っている。
冬島隊の二人からは真木の命令を断るなんて命知らず、と言う評価を受けてはいるが当の本人からしたらうざったい事この上ないことだ。
「ちょっと、アンタ何なのよ?」
そんな中、零の手作りオムライスを食べていた香取が立ち上がり真木に突っかかっていく。零との久しぶりの二人きりの時間だ。零が入院してから見舞いは大抵香取隊の全員で行っていた。邪魔されてムカついたのだ。
「今、私がコイツと昼ご飯食べてるんだけど?そもそもインターホンも押さずにズカズカ入ってきて常識とか無いわけ?」
「・・・・・アナタ誰?」
だが真木、香取には一ミリも興味がないためかそれだけ言って見事なスルー。これには香取もモギャー!と激怒。
零ももはやどう収集するのが正解なのかも分からずに眺めるしか無い。
「このバカの弟子よ!」
「・・・・・弟子?」
香取の言葉に真木が顔を顰めて零を見て確認を促す。
「それは本当だぞ」
「そう・・・。似合わないわね」
「仰る通りです」
ソファに真木が座ったのを見て零はキッチンにお茶を取りに向かう。香取も少し冷静になったのか食卓に座ってオムライスを口に運んで行く。
しばらくしてキッチンからお茶を持ってきた零が真木の前にお茶の入った湯呑みを置き自身も真木の前に座る。
「・・・・・さっきも言ったけど、俺は
「そうね。去年から嫌と言うほど聞いたわ」
「なら・・・」
「今日は別の話よ」
今度は真木の言葉に零が顔を顰める。
「別?」
俺の問いかけに真木はお茶を飲んでゆっくりとえぇ、と頷いた。
「アナタ、遠征に参加しなさい」
突然の真木の命令に零だけで無く香取も目を丸くして真木を見る。
「俺、それもう断ったはずなんだけど?何で今更お前の口から聞かされにゃならんのだ」
「アナタが断るから私に説得させてるんでしょ?本当に面倒くさいわ」
「なら帰れよ」
「働け」
「それさっきも聞いた」
真木も面倒くさくなったのか先ほどよりも適当な説得に半ば零も適当に返事を返す。
「待ちなさいよ!」
そんな中、再び香取の声が部屋に響く。
「そんなに叫ばなくても聞こえてる。・・・・・何?」
「そもそもコイツB級でしょ!?遠征に行く資格無いじゃない!」
「だからA級部隊に入れって言いに態々来てるんでしょ。モギャモギャ言う前にもっと頭使いな」
真木の言葉に怒り心頭の香取を落ち着かせてもう一度真木に振り返る。
「俺を遠征に行かせたい理由は何なんだ?」
「大方トリオンでしょ。本部の中だと三番目に多いんだから」
「ならニノさんに行かせりゃ良いじゃねぇか」
「あの人は鳩原がいないと行かないでしょ」
「鳩原って・・・・・」
そこまで言葉に出して零は口を噤む。一部の人間しか知らないことをここで話してはいけない、そう思ったのだ。
「鳩原って、あれでしょ?隊務規程違反して干された」
「・・・・・そうだな。二宮隊も責任を取らされてB級に降格。それに続いて影浦隊も降格。B級は一気に蓋された訳だ」
冗談まじりにそう言いながら零はカバーストーリーに乗っかれたらことに感謝する。
「しばらく考えさせてくれ」
「そう。なら、個人申請書はここに置いておくわ。行くなら私の隊に入れるから早めにお願い。入隊申請をするのは私だから」
そう言うと真木は机に個人申請書を置く。ご丁寧に既に保護者欄には城戸司令の名前が書かれている。それを見て零はハハ、と乾いた笑いが出る。
「それじゃあ」
「あぁ」
真木が部屋を出たのを見てじっと申請書を睨み、ソファを立つ。
「悪い香取。ちょっと考え事してくる。食い終わったら皿はキッチンに置いといてくれ」
「ちょっと!」
香取の静止も聞かずに零も自室を後にした。
しばらく基地の廊下を歩いていると珍しい顔が目に入る。
「よう、零」
「迅。相変わらず暗躍してそうで何よりだよ」
自分の週刊誌の騒動もおそらく迅が根付に掛け合ってくれたのだろう、と零は入院中考えていた。
おそらく迅はそんなことは言わないだろう。だから零は遠回りに礼を言う。
「いやいや。それより、何か困ってるようだな」
迅が零に向かってジュースを放り投げ、零がそれをキャッチする。
「分かってんだろ?今度の遠征、俺も行けってお達だ。でもなぁ・・・」
自分はそんなことやるつもりはないし、もし行ったとしてもモチベーションが低い自分は返って足手纏いにしかならない。
「うんうん。悩んでるな。そんなお前にとっておきのアドバイス!」
「アドバイス?」
「三門市に神社があるだろ?」
「あぁ。あるな。あんま行ったことなかったけど」
「そこに行けばお前の悩みも無くなるはずだ」
「お前の
零の問いかけに迅は何も言わなかったがそれでも零は大きなため息を吐いて踵を返す。
「分かった分かった。従ってやるよお前の予知に」
ジュースを飲みながら零はヤケクソ気味にそう言った。
◇◆◇◆
迅のアドバイス通りに零は今三門市にある神社の麓に足を運んでいた。その神社は高い位置にあるため今の零の脚では登り切ることすら困難だった。
「・・・・・どうしよ」
「大丈夫ですか?」
杖を突いて登るには急な階段だったためどう上ろうかと零が悩んでいると不意に後ろから声が聞こえてくる。
零が後ろを振り返ってみるとそこにいたのは三門市立中学校の制服を来た私服ならば小学生にも見間違えるであろう少女だった。
「いやー、神社から三門市を一望しようと思ったんだけど見ての通りこの脚じゃねぇ・・・」
「お手伝いしましょうか?」
「え、いいの?」
零の問いかけに少女は頷き、それならと零も遠慮なく少女の手に捕まる。
本来ならば三十秒ほどで上り切れる階段を二分かけてようやく二人は上り切った。
「ありがとな」
「い、いえ・・・」
中々持久力があるのか零はゼーゼーと息を切らすのに対して少女は少し汗をかく程度で治っている。
さて、と零は階段に座り込み夕日に照らされた三門市を一望した。
「いい眺めだな・・・」
意識せずにそんな言葉が少年の口から溢れる。そんな中、一際目立つボーダーとその周りに囲うように乱立する廃墟が少年の目に入った。
そして、少年は口にした。自分の心の内を。隣に座る自分の事を知らないであろう名も知らぬ少女に。
「俺、実はあるところで働いてんだ」
「・・・・・・・」
少女は何も言わない。ただ少年の言葉に耳を傾ける。
「今度その・・・出張?に、行かなきゃいけないんだけどその出張先で昔嫌なことがあってな。行きたく無いって思ってる」
こんな年端もいかない少女に話したところで何になるんだと、自分自身でも思う。
それでも少年は言葉を止めなかった。
「分かってるんだよ、俺も。ただの我儘でしか無いって」
思い出すのは部隊に入らない、作らない、ヘルプでいい。そんな事ばかりを宣う子供っぽい自分の姿。
あれも、これも、それも、全部、全部全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部。
自分の我儘で、幼稚な愚図りでしか無い。
それでも、と少女は自分を友達と、先輩と、後輩と、師匠と、仲間と呼んでくれる者達の顔を思い出す。
「・・・・・うん。ありがとなお嬢ちゃん。興味もねぇ話聞いてもらって。おかげで元気出たわ」
ゆっくりと少女に手伝ってもらい立ち上がるともう一度少女の顔をじっくり見る。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「雨取、千佳です・・・」
「そうか。俺は風切零。君のことは、ずっと覚えておくよ」
そう言って零は階段を降りようと段差に一歩足を出して止める。
「あの、また手伝いましょうか・・・?」
「・・・・・ありがとう」
◇◆◇◆
ガチャリと扉が閉じる音が聞こえて本部長の忍田はフー、と息を吐く。緊張が解けて先ほど本部長室を訪れたA級2位のオペレーターが持ってきた二枚の資料を見て笑みを浮かべる。
条件は取り付けられてしまったが、二枚ともそこには確かに書かれていた。
A級2位冬島隊
はい、何故かこの万年B級詐欺師はA級2位となりました。