「お、案外似合ってんじゃねぇか」
「本当かぁ・・・?」
冬島隊の隊室でメンバーの当真勇が新たに仲間になった少年を賞賛する。
しかし、赤と黒が基調の背にチェスのナイトにユニコーンの角を付けたようなものがモチーフのエンブレムを掲げた冬島隊の隊服を着た自分を鏡でマジマジと見ながら零は不満そうにこぼした。
「まさか、零さんがウチに来てくれるなんてな。来期のランク戦もしかしたら一位になれるんじゃねーの?」
「お前俺に太刀川さんとか風間隊と一人で斬り合えとかよくそんな残酷なこと言えるな」
「二人とも、無駄口叩かずに早く準備しな」
真木の一喝に零と当真は肩を震わせて急いでカバンに荷物を詰める。それを見ながらやはり最近の女子高生は怖いと部屋の隅で身体を震わせる。
「隊長、酔い止めは大丈夫か?」
「おう。予備の薬もバッチリだ」
「遠征中に無くさなきゃいいけど」
結局無駄口を叩いている、とツッコむのは野暮だなと思い零は口を噤む。
「よぉ、準備できたか?」
そんな中、冬島隊の隊室に一人の男が餅を食べながら入ってくる。その特徴的な網目柄の瞳に顎髭は確かにA級1位の隊長、太刀川慶だった。
「俺は準備できてますよ」
零が太刀川に顔を出すや否や太刀川は零の首に腕をかける。
「部隊に入るの黙っとくなんてみずくせぇじゃねーか。何ならウチに唯我の代わりに入っても良かったんだぜ?」
「入るってなったのは昨日ですし大体俺遠征終わればB級に戻るって、餅食いながら話すな!くちゃくちゃモチャモチャ耳元で!」
急いで太刀川から離れると太刀川は残念そうな顔を浮かべて餅を飲み込む。
「なーんだ。てっきり今度のランク戦お前と斬りあえると思ったんだがな」
「俺はごめん被りますよ。アンタも、風間隊も、斬り合うには厄介すぎますしね。よくまぁ、当真だけで2位に着けるほど点取れたもんですよ」
「お、なんか今褒められた気がした」
「褒めてねぇよ。早く準備しろ。後ろで真木が睨みつけてるぞ」
ひょこっと顔を出した当真を零は冷たく突き放し、当真はまた真木の睨みに怯えて戻っていく。
そして当真の代わりに今度は真木が出てきて太刀川に詰め寄る。
「何でここにいるの?ここは太刀川隊の隊室じゃないわよ。それとも自分の隊室が何処にあるか分からないくらい馬鹿になった?」
「おっと、それじゃまた後で」
真木の言葉に耐えられなくなったのか、太刀川は急足で隊室を後にする。
「準備が終わってるならこっちを手伝いなさい」
「・・・・・はい」
こうして零も真木に引き摺られて隊室の奥へと引っ込むのだった。
◇◆◇◆
ボーダーの基地の形は外から見ればまるで豆腐のような形をしている。だが実際の形は漢字の『回』のように真ん中は筒抜けとなっており、今日に限ってはその中に一つの船が置かれている。
その船こそがこれから数日間、太刀川隊、冬島隊、風間隊の
「おうおう、もう皆準備できてんじゃねぇの」
「うっわ、本当に来た・・・」
当真の声に反応した菊地原が誰にも聞こえるようにそう呟く。だが、その言葉を向けたのは冬島隊では一番に中庭に入ってきた当真にではなく、冬島と雑談をしながら真木の後ろを歩く零だった。
「冬島隊に入ったって本当だったんですね」
「あぁ」
歌川の言葉に短く返事をしながら風間は零に向かって歩き出す。
「風切」
「あ、風間さん。お疲れ様です」
「まさかお前が誰かの隊に入るとはな。やるとしても自分の隊を作ると思っていた」
「まぁ、入るって言っても遠征中だけですけどね。遠征に行く交換条件に上にそれだけは取り付けました」
「・・・そうか」
「ちぇ、せっかくランク戦でボコボコにできると思ったのに」
「おい、菊地原・・・」
本当に残念そうに嫌味を吐く菊地原を歌川が宥める。零も苦笑いを浮かべながらカバンに入れていた飴を咥える。
「・・・・・諏訪の真似か?」
「カッコいいでしょ?俺諏訪さんみたいな大人になりたいんスよ」
二つしか違わないはずの諏訪を大人扱いする零にお前の大人の定義は何かを問い詰めたかった風間だが素直に諏訪が慕われているのは嬉しいため軽く世間話を始める。その後ろで国近が真木へと話し掛ける。
「お〜、太刀川さんの言った通りだったね。零ちゃん本当に冬島隊に入ったんだ。・・・・・ねぇ真木ちゃん。今からでもウチの唯我君と交換しない?」
「嫌よ。いくら積まれたってあんなのウチには要らないわ」
本人がいない場所でボロクソに言われる太刀川隊の
彼はボーダー最大のスポンサーの息子であり、コネでA級入り。自尊心の高い彼は訓練は全く行わず、ボーダーの誰からもA級のお荷物、コイツが居なければ太刀川隊が玉狛第一に勝てると散々な言われよう。
今回の遠征に目もちろん不参加だ。
「う〜ん・・・、じゃあ今度三上ちゃんとのデートセッティングしてあげる」
「・・・・・・・・駄目」
「あ、迷った?」
国近と真木のやりとりに隣で見ていたこの場の誰よりも年上な冬島慎次(29)はやはり女子高生は怖いと心の中で恐怖するのだった。
「風切先輩」
そんな中、再び零に声をかけてきたのは出水だった。
「おぉ、出水。数日間よろしく頼むぜ」
「そりゃあもう。撃ちまくってやりますよ」
「穏便に事が進めば問題ない。あまり力むなよ」
今にも
もちろんA級1位の出水は言われずともそういうことは分かっているつもりだ。風間だって出水が本気で言ったとも思っていない。この言葉は初めて遠征に行く零に向けて放った言葉だ。
「分かってますよ。ね、先輩」
「え?あ、あぁ。そうだな。うん」
本当に分かっているのか心配になる返事だが一応は選抜試験では好成績を修めていることには違いはないので二人ともこれ以上の言及をするのは辞めておく。
「で、目的地にはいつくらいに着くんでしたっけ?」
「大体一日でしょ」
「その位だと俺も聞いている」
出水と風間の答えにふむふむ、と零は鞄の中に入れていたある物を取り出す。
それは三つに纏められた分厚い紙の束だった。表紙を見れば数学の問題集で二つは同じ物だが一つは違うと分かる。
「何だこれは?」
風間の質問に零はフフン、と鼻を鳴らし饒舌に喋り出す。
「一日あるなら設備のチェックをしててもまだ半日ほど暇だろうし柚宇と太刀川さん、当真に勉強教えようかなって。風間さんもどうです?」
「なるほど。確かに太刀川は単位が常に危なっかしい」
「柚宇さんも今度の期末でぼやいてましたね」
「当真も正直言って太刀川さんよりバカって鈴鳴のオペレーターが言ってました」
このまま放置していても忍田本部長の胃に穴が開くだけか・・・、と呟きながら風間がよしと頷く。
「分かった。太刀川は俺に任せろ」
「頼みます」
「じゃあ俺は柚宇さんを・・・」
「お前高三の勉強できんの?」
零の言葉に挙げた手を下ろす出水。
「二人は俺が見ます」
頼んだぞ、と風間に言われて頷きながら一晩かけて作った太刀川用問題集を風間に手渡す。
「全員揃ったな?」
中庭に入って早々そんな言葉を投げかけてきたのは本部長の忍田だった。後ろからは城戸、林藤、鬼怒田、根付、営業の唐沢が続く。
それを見た全員が整列して六人を見る。
「これより、
「さ、準備だ準備」
忍田の号令にまず動き出したのは太刀川だった。それを皮切りに風間、真木、とどんどん遠征艇へと乗り込んでいく。
最後に零が遠征艇に乗り込んだところで遠征艇の扉が閉まる。そしてその十分後、ボーダーが作った
そろそろ本編入りそうです