気候は良好。遠征艇の近くには綺麗な青い海。そこで楽しそうに水着姿で遊ぶ女子三人と男子複数。
遠征任務三日目はなんと丸々休暇の遠征メンバーだけでの海開きとなった。
「こんなことしてていいんですかね・・・」
砂浜のレジャーシートに胡座を描きながら座っていたアロハシャツと麦わら帽子を身につける菊地原が不意にそう漏らした。今は遠征中で、遊んでいる暇は無いと言いたいのだろう。
「着いてからの二日間、皆働き詰めだったからな偶にはこう言うのも良いだろう」
隣に座る風間も年長者として遊ぶ皆を見守りながら自身もメノエイデス原産のフルーツで作られたジュースを飲む。
そんな風間を見て今度は遠くで釣りをしている太刀川と零を見る。
「水着とかはシャツとかはトリオン体なんで分かりますけど釣竿とかビーチボールとか浮き輪とか・・・。あれ、何処から持って来たんですか?」
「風切が持って来たらしい。アイツの荷物を見てみたが他にもバーベキューセットやキャンピングセット、サバイバル用品もあったな」
「あの人遠征任務をレジャー観光か何かと勘違いしてますよ、それ」
信じられないと言ったような目で零を見ながら自身も船で零が作ってバスケットに入れて来たサンドイッチを一口食べる。
「・・・・・皆も皆ですよ。何普通に遊んでるんだか」
「お前も遊んできたらどうだ?」
「いいですよ。ぼくは別に」
菊地原がレジャーシートに横になり目を閉じる。
風間もそれ以上は話し掛けはしなかった。そして風間はトリオン兵の排除を終わった後のことを少しだけ思い返す。
トリオン兵がいなくなった後、直様メノエイデスのトリガー使いではない一般の兵に囲まれた。知らないトリガーを使う身元不明の者がいたのだから当たり前だ、
問題を起こすわけにもいかなかった風間は兵の誘導に従おうとしたがそこにイザヨイが介入。彼の口添えもあり事なきを得た。
その後、一度応接室に太刀川、風切と戻り再び交渉に入った。イザヨイも三人の強さを目の当たりにしたからか交渉は思ったより上手く進み、軌道配置図とメノエイデスのトリガーと引き換えに帰還するまでの防衛参加とカメレオン型トリオン兵の情報提供を求められこれを承諾した。
「風間さん。風間さん達も一緒にって・・・菊地原寝ちゃいました?」
海から上がった歌川が二人を誘おうと近付いてハッと口を閉じる。
「起きてるよ」
「ならどうだ一緒に?」
「濡れたく無いからパス」
「俺も監督責任がある。お前達だけで遊んで来い」
風間と菊地原に断られ、歌川が少し肩を落として海へと戻っていく。しかし、出水と泳ぎの勝負をしているうちにいつもの調子に戻ったようで風間もやれやれと息を吐く。
◇◆◇◆
ルアーを海に付けてから何時間経過しただろうか。潮風に揺られ波と騒めく葉の音を聞いていると次第にそんなことはどうでも良くなってくる。
「あー、やっぱ駄目だわ。昼前じゃ魚釣れねぇ」
・・・・・ことはなかった。グチグチと不満を垂れながら零は餌がついていることを確認して再び海に投げ入れる。
「そんなことないだろ。俺はたまにだが釣れてるし」
零が太刀川のバケツを確認してみれば確かに二、三匹の魚が泳いでいる。
「こんなんじゃ今日の晩御飯には少な過ぎますよ!」
「お前これ皆に出す気か!?」
「当たり前でしょ。食料はトリオンでしか作れないんだから現地調達の方が節約できます」
そう言う零を尻目に太刀川は自身が釣った魚に目をやる。どれもこれも紫や緑色をしていて見るからに毒だと分かる。
「・・・・・辞めねーか、釣り?」
「・・・・・そうですね。これ以上やっても時間の浪費そうです。辞めましょうか」
何とか魚は免れたと太刀川が安堵の息を吐いた瞬間、今度は零がモリを持って海に飛び込もうとする。
太刀川は急いで肩を掴み零の動きを止めて問いただす。
「待て待て待て。お前それで何する気だ?」
「これで素潜りして取って来ます」
「おーい!誰か来い!コイツ一緒に止めてくれ!ゲテモノ食わされるぞ!」
「ゲテモノって酷くないスか?せめて奇食って行ってくださいよ」
遂には太刀川が零を羽交締めにして周りに救援要請を出す。それに気付いた出水と歌川が近付いていく。
「どうしたんですか太刀川さん?」
「おぉ、お前ら!コイツを止めるの手伝ってくれ!訳のわからん魚食わされそうなんだ!」
太刀川の言葉に魚?と二人が太刀川のバケツを見る。紫や緑の毒々しい魚を目に入れてこれを食べさせられた後のことを考え顔が青くなる。
いの一番に飛び出したのは歌川だった。海に入ろうとする零を前から押し返そうと抱きしめる。それに反応して出水も急いで太刀川を引っ張り応援に入る。
「話せ!俺はボーダー界の鬼頭丈二になるんだ!」
「何を目指してるんですか!?」
「あーもう!誰か何とかしてくれぇぇぇ」
出水が叫ぶが菊地原が止めたのか風間が来る様子はない。
「零ちゃん」
そこに先ほどまで海で遊んでいた国近が近づいて来る。
「おぉ、柚宇!待ってろよ!今すぐ美味い魚取ってくるから!」
「泳げないよね?」
国近の一言に興奮状態の零が身体を止めてモリから手を離し砂浜に膝を付く。
「そうだった。俺泳げなかった・・・」
うぶぶ・・・、とどこかの支部の第一の本物の悪のような泣き声をあげる。しかし、そんな零に国近は肩を叩いて振り向いた零の頬を指で突く。
「だから一緒に遊ぼ?零ちゃんって構ってちゃんだけどちょっと臆病だから一緒に遊ぼって言えなかったんだよね?」
涙目を浮かべながらじっと国近を見つめる零。17歳の水着姿の女子高生に抱き締められる19歳の男子大学生を見ながら16、17、20歳の男三人。
「・・・・・太刀川さん」
「・・・・・何だ?」
「俺今めっちゃ風切先輩が羨ましいです!」
「あぁ・・・・・。あぁ!」
◇◆◇◆
一方その頃、遠征艇内ではトリオン兵の解析やメンバーの水着姿のトリオン体を作るのに徹夜した冬島と海に入ったところで体力がないためほとんど何もできない当真が二人で過ごしていた。
「隊長、気分はどうだ?」
「あぁ・・・・・。だいぶよくなってきた」
水を一気飲みした冬島が席に座りパソコンに向き合う。何者かがトラップに掛からないかを見張っているのだ。
零達が遊んでいる間、もちろん警備は手薄になる。それを分かっていた冬島は風間に今日の見張りは自分と当真で行うと先に言っていた。
ボーダー隊員とは言え、うら若き少年少女が主なメンバーだ。短い青春を謳歌してもらおうと言うアラサー男性の心遣いだ。
「お前も俺に付き合わずに外で皆と遊びに行っていいんだぞ?何かあれば連絡は入れるし」
「ま、隊長が心配だしな」
なんだかんだ言って当真も冬島は尊敬している。部隊ランク戦でも冬島の的確なワープがあるからこそ一人でもA級2位に居られる点数を取れるのだ。
そう言えば、と当真が話を変える。
「昨日ステルス機能に気付いてたけど何で分かったんだ?オペの誰も分かってなかっただろ?」
「あれか?あれは風切の近くに変なトリオン反応があったからな」
「トリオン反応って、あの時点じゃ反応なんてわかんねーんじゃねーの?」
「トリオン兵のトリオン反応と言うよりは風切のトリオン反応だったな。多分切っ先が擦りでもしたんだろ」
何でもないかのように冬島は言うがそれでも当真の疑問は晴れない。
「じゃあ、なんで真木ちゃんらは気付かなかったんだ?」
「気付いたのは本当に偶然だ。ちょっと反応してすぐに消えた。ま、運が良かったな。・・・・・麻雀でもこの運が出ればいいのにな」
冗談っぽく笑いながらそう言う冬島。対して当真も疑問が解け、すっきりした顔を見せながら零が持ってきていた携帯ゲームに視線を移す。
こうして、晩はしっかりと遠征艇の食料を使ったバーベキューを行い、各々の休日をしっかりと満喫したのだった。
玄界は現在冬真っ盛りでおそらくイレギュラーゲートも出現し大変であろう今日この頃。
遠征チームは海で遊ぶのでした。