懐かしいことを思い出した、と香取はそろそろ始まる授業に向けて教室を目指し歩き出す。
あの頃は零が自分と染井を助けてくれた少年とは思いもよらなかった。整形したかのように顔は変わっていたし目付きも悪戯っ子から何にでも噛みつきそうな不良の目になっていたので無理はないと思う。
そしてとうとう放課後になった。
今日の香取は任務も無く、家族も家にいない。だから今日は染井と晩御飯を食べることになっている。
だがまだ時間も時間なので暇つぶしにそこら辺をブラブラしようと思ったその時だった。
「香取?」
不意に声が聞こえてきたのだ。誰だ、と思い振り返るとそこにいたのは荒船隊の荒船と穂刈だった。
「荒船さんに、ポカリさん」
「珍しいな。お前がこんな所で」
「別に、暇だからふらついてただけ」
「基地には行かないのか?」
「今日は任務ないし」
何を聞いても素っ気ない返事しかしない香取に荒船と穂刈は顔を見合わせて眉を顰める。
そして穂刈が何かを思い出したかのように、あ、と呟いた。
「調子が悪いみたいだな、最近。噂になってたぞ、
「は?なんでそんな噂上がるわけ?うちに
「噂の発信源は太一みたいだな」
「太一?・・・あぁ、鈴鳴の」
一瞬誰だ?と思ったが直ぐに香取の頭にヘルメットを被ったのか特徴の悪魔の顔を思い出す。
それと同時に確かこの前の防衛任務は鈴鳴と一緒だったわ・・・、と呟いた。
だが、その顔を思い出していると次第にムカっ腹が立ってきた。
「悪気はなかったと思うぞ?」
「広がった後すごい申し訳なさそうにしてたもんな、実際」
「・・・・・まぁ、いいわ。どうせ本当の話だし」
フン、と鼻を鳴らして香取は目を閉じる。だが、それは誰から見ても強がりにしか見えなかった。
「相談事なら聞くぞ」
「先輩だからな、一応」
そう言う二人に香取は近くのベンチに座りながら少しだけ何かを考えてため息を漏らす。
「最近、アイツとそんな話してない気がする」
「アイツって零さんの事か?」
「うん」
荒船と穂刈も香取の隣に座り話を聞く。
「A級になってたな、そう言えば」
それよ、と香取は穂刈の言葉に反応して膝の上の拳を強く握る。
「ただでさえたまにしか防衛任務も被らないのにA級になったら余計減るじゃない」
それだけではない。A級になれば当然他のA級との関わりも増えるだろう。そうなれば、嵐山隊のオペレーター、ボーダーのマドンナ、綾辻遥との関わりも増えてしまう。
「大丈夫だろ、それは」
しかし香取の不安を穂刈はたった一言で切り捨てる。
「なんで?」
「あの人が立場が変わるだけで態度を変えるような人じゃないのはお前も知ってるだろ」
「そんなの分かってる。分かってるけど・・・」
荒船の言葉にショボンと眺める地面を眺める香取。だが、それでも荒船は続ける。
「要は零さんと仲良くなりたいってことだろ?」
「うん・・・」
「だったらいいんじゃないか?現状意地で。直ぐに戻ってくるからな、B級に」
「え?」
目を丸くして穂刈を見る香取に、逆に目を丸くする二人。
「おいおい、ちゃんとシフト表見てるか?零さん、今度から週一でB級に入るんだと」
「何それ?」
「さぁな。でもこれでお前がいじける理由はなくなっただろ?」
「いじけてないし。でも、そうね・・・・・」
ありがと。
香取から聞けもしないであろうと思っていたそれに再び二人は目を丸くする。これも年上に見えないかの少年の影響なのだろう、と結論付けておう、と短く荒船が返事をする。
これで香取の悩みもなくなり見事大団円を迎えた・・・・・。
『緊急警報、緊急警報。
と言う訳にもいかなかったらしい。
この四年で幾度となく聞いた不快な警報音に放送。ボーダー隊員として、三人の行動は迅速だった。
「「「トリガー
直様トリオン隊へと換装し、逃げ惑う一般人の波を掻い潜り視認できたゲートの位置へと走り出す。
「なんで市街地に
「原因は分からないが非常事態であることに変わりはない。香取、俺と穂刈は民間人の避難誘導を優先される。その間お前はトリオン兵を食い止めろ」
「了解」
グラスホッパーで飛び上がり、煙が立ち上る方向を見る。モールモッド三匹にバムスター二匹、バンダー三匹を確認する。
「量がやけに多いわね・・・」
『加勢は必要か?』
「誰に言ってんの?私一人で十分よ」
◇◆◇◆
その頃、ボーダー基地の司令部では目の前の巨大なスクリーンに映し出されるトリオン兵の反応を本部長の忍田は眺めていた。
(何故市街地に
そう結論付けて再びスクリーンを睨み付ける。
『本部、こちら荒船。現在香取隊の香取がトリオン兵と交戦中。俺と穂刈で避難誘導を開始しました』
そんな最中、荒船から通信が入りスクリーンに監視カメラに映る三人の姿を確認する。
「了解だ。そのまま続けてくれ。すぐに応援部隊を送る」
『了解』
荒船からの通信が切れてすぐにまたスクリーンに映る反応を見る。
「現在、現場に最も近い部隊は・・・・・」
そう呟きながら忍田は再び通信機へと手をかけた。
◇◆◇◆
それは
ごく稀に香取と行くのだがどうやらそこにはハンバーガー好きの嵐山隊の誰かのサインが飾られているとか何とか。
まぁ、そんなことは染井にとってどうでも良いことだ。問題は先に待っているであろう香取を待たせる事だ。彼女のことだからじっと待っていると言うことはしないだろう。そうなるとすれ違う可能性もある。
「急ごう」
自身を鼓舞するように呟いて信号が青になったらすぐに歩み出す。
「だ、ダメ!」
しかし、そんな言葉を投げかけられて染井は振り返る。そこに居たのは三門市立第三中学校の制服を来た小さな女の子だった。
どう言う意味か尋ねようと声をかけたと同時だった。聞き覚えのある警報と放送。
『緊急警報、緊急警報。
だが、そこで染井の中で疑問が出る。警報が鳴る前に自分を呼び止めた目の前の少女・・・・・。
「いない・・・」
消えていた。おそらく逃げたのだろうと染井は結論付け、先ずは避難誘導だと声を上げた。
◇◆◇◆
爆発音が鳴り響く街中で赤髪の少女が空を舞う。既にモールモッドを二匹、バムスターを一匹始末した。
だが如何せん数が多すぎる。荒船にあぁ啖呵は切ったものの実際は殆どスコーピオンで防ぎハンドガンで牽制する程度。隙があれば倒しはするが四方から囲んでくるため隙も作りにくい。
後ろをいたバンダー二匹が砲撃で市民を狙う。
「ヤバっ!」
真っ直ぐに飛んでいく砲撃が荒船達に直撃する。
だが、蓋を開けて見れば怪我人は居らず代わりに荒船と穂刈がシールドを展開して防御している。
「俺たちの事は気にするな!」
「先に片付けては欲しいがな、バンダーを」
言われるまでもない。これ以上市民に危害を加えさせる訳にはいかないと、香取はグラスホッパーで飛び上がりモールモッドの射程圏内から離れると左手でハンドガンを抜き三回引き金を引く。
「
三発の弾丸がそれぞれ三匹のバンダーへと曲がり、それぞれが確実に急所の目を射抜く。
それにより自身を囲んでいたトリオン兵の包囲網に綻びが出る。
先ほどまでは攻撃手段をもつモールモッドとバンダーが囲んでいて四方を警戒しなければならなかったが今ではモールモッドとバムスターが一匹ずつだ。
まずはスコーピオンでモールモッドの足を奪い続け様にハンドガンでバムスターを撃ち沈める。
「これで、最後!」
モールモッドをスコーピオンで串刺しにして、ようやく視界に入ったトリオン兵の駆除を終える。
「まだだ!」
「!」
荒船の声により直様後ろを向く香取。稲妻を発する黒い球体から再びトリオン兵が現れる。
「こっちからもだ、荒船!」
そして今回は市民の向かう先にもう一つ同じものが現れてこちらからもトリオン兵が何体も出てくる。
香取はもうトリオン切れが近い。サポートに行きたいのは山々だが荒船達も目の前のトリオン兵で手一杯だ。
いつものことだと割り切って香取は再び構える。
しかし・・・・・。
「ッ!?」
何処からか飛んできた弾が目の前のトリオン兵達を貫いていく。
「なんだ、いきなり?」
「・・・・・間に合ったみたいだな」
ニヤリと笑う荒船の前に立つのは白い隊服を見に纏った黒髪の少女。
「大丈夫ですか、荒船さん?」
「あぁ。助かったぜ熊谷」
熊谷の孤月がモールモッドを切り裂き、バムスターとバンダーを誰かが狙撃する。
『応援に来ました!荒船さん達は避難誘導の続きをお願いします!』
「分かった」
香取がその光景を見て、誰が来たかを察しながら弾が飛んできた方向に視線を向ける。
身体にいくつも立方体を侍らせて建物の屋根からトリオン兵達を眺める服と同じ白髪の美少女。
「那須隊現着しました」
香取自身も恋敵と認識している那須隊の隊長、那須玲がそこに居た。
まったく関係ないんだけどみずかみんぐには八木山夜露のあの言葉を言って欲しいと言うか言わせたい。