万年B級詐欺師隊員劇場   作:暁桃源郷

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遠征任務⑥

 訓練が終わり零と歌川は大通りを歩く。ここ最近はトリオン兵が現れることもなく、それでいて暇であるわけでもないため特に退屈もしていない。

 

「こう見ると近界(ネイバーフッド)も俺らの世界とあんま変わんねーんだよなぁ」

 

 零は街並みを見ながらふとつぶやく。

 建物の作りなどに違いはあるものの、出店があり、人が交流し、物を売り買いする。

 

「驚きですか?」

 

 追いかけっこをして遊ぶ子供達をすれ違いざまに目で追いながら歌川は質問する。

 遠征には何度か行ったこともあり特段驚きもない。

 

「いや、ただ感慨に耽ってただけだよ。向こうにも向こうの護るもんがあるんだなぁって」

 

 だとしても市民を殺し連れ去りした連中を許すつもりは零には毛頭ない。

 侵略してくるなら当然殺す。手加減はない。三輪や染井に次ぐ城戸派はだてではない。

 とにかく、そろそろ帰らなければ晩御飯に遅れてしまう。今日のメニューは国近の石狩鍋だ。

 早めに帰ろうと零が歌川を急かそうとした時だった。

 爆発音と共に咆哮が聞こえて来たのだ。

 

「歌川!」

「はい!」

 

 直様咆哮が聞こえて来た方角に二人は走り出す。見えて来たのは恐竜の、ティラノサウルスのような姿をしたトリオン兵。

 

「こちら歌川。新型トリオン兵を確認!これより対処します!」

『了解。支援に入ります』

 

 三上に連絡を入れる歌川を避け目で見て零は一先ず様子見といった感じでスコーピオンを握り斬りかかる。

 ガキンと言う鈍い音でスコーピオンが折れるのを確認しながら次は孤月を握る。

 だが、トリオン兵も全て試すまで待ってくれるわけではない。零と歌川を視認して直様その巨体で二人を押し潰しにかかる。

 

(装甲はワニ形並み、パワーもゴリラ型並にあるな。いいとこ取りってとこか)

 

 欠点があるとしたら鈍いことくらいか、と突進を避けながら分析する。未だ近くには逃げる人々がチラホラ見える。

 

(この状態じゃまだ射撃はまだ無理か・・・・・)

 

 舌打ちをしながらトリオン兵の注意を自分だけに移す。

 

「歌川。俺が隙を作る。お前が仕留めろ」

「了解」

 

 カメレオンで歌川が消えたのを確認してトリオン兵に向かって駆け出す。

 先ずは足だ。ティラノサウルスのような形である以上、転べば起き上がることもできない筈だ。

 そう判断した零は迷わず孤月で脚を斬りかかる。

 

「かってぇな、おい!」

 

 脚が上がったのを見て零は一度下がり、地面を踏み抜く脚にもう一度孤月を振る。

 ほんの少しだけではあるが傷が出来る。これに最も威力の出る近接武器、小南の双月や烏丸のガイストなどがあれば楽に斬れるのだろうが無いものねだりをしても仕方がないと零は頭を切り替える。

 ようやく人も見えなくなりここからが本番だとばかりに左手に立方体を出す。

 

炸裂弾(メテオラ)

 

 二十七分割された炸裂弾(メテオラ)がトリオン兵の足元に着弾し爆発する。

 体勢を崩したトリオン兵に追い討ちをかけるように零は孤月を振るう。

 

「旋空孤月」

 

 伸びた孤月のブレードがトリオン兵の右脚を斬り離す。

 

「今だ歌川!」

「了解!」

 

 零の合図と共に歌川がカメレオンを解除してスコーピオンを手に飛び掛かる。

 それを体勢を崩したトリオン兵が防ぐ術はもはや無かった。口の中の核を貫かれてトリオン兵は動きを止めて力無く地に伏した。

 

◇◆◇◆

 

「ん?もうやられてしまったかな?結構トリオンをつぎ込んだと思うけど・・・・。少し玄界(ミデン)の兵のレベルを過小評価していたようだ。改めておくとしよう」

 

 一人でに納得する零に瓜二つの少年を前にミカは冷や汗を流しながらも現在の状況を整理する。

 まず目の前の少年であるが、おそらくミカの知る零ではない。何故ならば頭に黒い角が二本生えているからだ。

 そして次に先ほどのトリオン兵。どうやら誰かが倒したようだ。目の前の綺麗に抉れた地面だが少年の言うことが本当ならばおそらくはあのトリオン兵はメノエイデスのトリオンから造られたトリオン兵に間違いはないだろう。

 だとするならば少年の使うトリガーは・・・・・。

 

「トリオン兵を作り出すトリガー?」

「お、正解正解。よく分かったね?」

 

 自身のトリガーの能力がバレたと言うのに焦りもしない。今、ミカの中には少年に対する底知れぬ恐怖があった。

 

「・・・・・まぁ、分かったって誰もどうすることもできないけどね」

 

 確かに、少年のトリガーはトリオン兵を作るだけ。対処することなんて何もない。

 だが、少なくとも今までのトリオン兵が彼から生み出されていたのもまた事実だろう。

 だったら己がやることは一つだ。

 

太陽の剣(プロイ)!」

 

 自身のトリガーを出したミカが少年に向かって威勢よく駆け出す。

 

「闘いに関してはまだまだ半人前だけどね」

 

 目を細めながら少年が腕を振る。

 何をしたのかは分からなかったが確実に何かをされたのは間違いない。では何をしたのか。

 それは直ぐにわかった。

 

「ッ!?」

 

 警戒するために立ち止まったミカの身体が右肩から左の腰に向かって線を描き、身体がズレ、トリオン体が解除されたのだ。

 

(斬られた?・・・・・何も見えなかった)

 

 動揺するミカに少年は笑顔を崩さずに見下ろしながら更に口を開く。

 

「うんうん。威勢もいいね。でもまだ足りないんだ。威勢だけじゃあボクを斬ることはできないよ」

 

 最早抵抗する術はない。それでもミカは方法を模索する。いつ団長が到着する?住民の避難状況は?トリオン兵を倒した奴は今何処にいる?

 考えていたらキリがないほどの疑問が浮かぶ。

 

「・・・・・な、何が目的なんだ?」

「う〜ん、答える必要はないかな。まぁ、君がボクの国に来れば少しは分かるんじゃない?」

 

 肩をぐるぐると回しながらミカに近づいて顔を掴む。

 

「あが・・・」

「ま、それも今日で終わり。君を連れ帰ればボクは任務終了だ。だ・か・ら、ちょっと荒っぽい手段で行かせてもらうよ」

 

 少年が自身とミカの間にある地面に手を付ける。それを見れば少年が再びトリオン兵を作る気でいるのだと予想はついた。

 

「おい、待て・・・・・」

「大丈夫大丈夫。君がボクの条件を飲んでくれたら作らないから」

 

 笑顔で淡々とそう言う少年がミカに顔を近づける。

 

「ボクのトリガーは君の予想通りトリオン兵を作る物だ。でもね、条件までは知らないだろ?」

「条件?」

「うん。条件」

 

 反復された言葉にミカは頭を傾ける。

 

「無条件でね、トリオンでできた物を手で触れば何でも再構築できるんだ。この街を全てトリオン兵に変えて住民を襲わせることもできる」

「!?」

「さぁ、選ぶんだ。住民の命か、己の人としての尊厳か」

 

 初めて、少年は笑みを止め何の感情もない無表情をミカに向ける。瞳を見れば吸い込まれそうなほど真っ黒だ。

 

「あんまり時間はあげられないよ?ボクって傲慢だから自分の時間すら他人にはあげたくないからね」

 

 ミカの顔を持っていた手が髪の毛に移る。

 

「ほら、早く」

 

 悔しい。つくづくミカはそう思った。結局自分には少年を止めることは出来なかった。やれる事は敵の選択肢に乗る事だけだ。

 

「私は・・・・・」

 

 決まっている。自分はメノエイデスを護る兵士だ。ならば己を犠牲にして住民を守るべきなのだ。

 

「お、なかなかのハンサムガイ発見」

 

 答えようとした次の瞬間だった。後ろから声が聞こえてミカと少年は声が聞こえた方に目を向ける。

 確かにそこにいたのは目の前の敵と同じ顔。されどもその顔には狂気も恐怖も感じない。

 

「お、お前・・・・・」

「あーあ、見つかっちゃったか」

「おぉ、見つけてやったぜ。・・・・・ここに来るまでに大通り一周したけど」

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