万年B級詐欺師隊員劇場   作:暁桃源郷

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空閑遊真①

 白い壁に囲まれた空間が街を形成し、二人は睨み合う。

 

「何本勝負がいい?」

「じゃあ10本。こなみ先輩といつもやってるから」

「10本ね。了解了解」

 

 零がはにかんだ次の瞬間、空閑の視界から零が消える。

 いや、ものすごい勢いで距離を詰めてきたのだ。

 

「!?」

『トリオン供給器官破損、遊真君ダウン!』

 

 そして気付けば空閑の胸に地面から生えたスコーピオンが突き刺さり、一試合目は空閑の敗北に終わった。

 

 治った傷口を摩りながら目の前にいる零を見る。

 

もぐら爪(モールクロー)………。知らないよな、そりゃ」

「ふむ、武器を一度地面に潜らせるのか………」

「およ?」

 

 零の足元と先ほどスコーピオンが飛んできたところに開いた穴から推理をしてみた空閑だったが、零の反応から推理が当たっていたと確認すると直様戦闘体制に移行する。

 

「面白い技を見せてもらったよ。ありがとう、れいさん」

「別に教えたつもりは無いけどな………」

 

 今度は先手必勝とばかりに空閑が距離を詰めて斬りかかる。それを涼しげに流した零が空閑の背中を切る。

 

『トリオン漏出過多、空閑君ダウン!』

「はい、2勝」

 

 ここで初めて空閑は理解する。飄々とした態度は取っているものの、零本人は自分を舐めてはいないことを。

 もしこれがボーダーのトリガーを使え慣れていない上に訓練トリガーどから余裕で勝てるとたかを括っている相手ならば、最初の何試合か勝たせてその後に勝ち冷静さを失わせることができただろう。

 実際に空閑もそうするつもりだった。

 

 決して油断しているわけでは無かったが、不意を突かれた一試合目はとにかくとして二試合目は完全に技術的な勝負だった。

 ()()()()()()()

 

「強いね、れいさん」

「まだまだ、若い奴には負けねーよ?」

 

 三試合目。

 今度起こったのは鍔迫り合い。

 素早さで言えば空閑の方が上だ。

 

 手数で押し切れば勝機はあると踏んだ空閑にそうはさせるかと言わんばかりに鍔迫り合いに零は持ち込んだのだ。

 零に倣って空閑もスコーピオンを変形させて頭を貫こうとするが、零は余裕で避けて空閑の首を落とす。

 

『伝達系切断、空閑君ダウン!』

 

『空閑君、ダウン!』

 

『空閑君、ダウン!』

 

『空閑君、ダウン!』

 

『空閑君、ダウン!』

 

『空閑君、ダウン!』

 

『空閑君、ダウン!』

 

………………………………………

……………………………

…………………

 

 ついに最終ラウンド。

 九敗を喫した空閑に勝ちはないにしても、目の前の少年の動きをだいぶ分かってきたような気がする。

 

「最後一戦だけど、どうする?」

「もちろんやるよ」

 

 フッ、と零が笑い空閑へと迫っていく。

 今、彼のスコーピオンはトンカチの形をしている。

 なら、まず零は右斜め上から振り下ろしてくる。

 

 そう予想した空閑がわざと前に出る。

 そして、もう一つ分かったことだが、零は異様に反応が早い。

 当然この行動に零は対応してくる筈だ。

 零の手を見てみれば既にトンカチはない。

 

(………下か)

 

 空閑はそう予想して更に一歩、零に近づいてスコーピオンを横に薙ぐ。

 二人の距離はもはやゼロ距離。どちらのスコーピオンが先に当たるかに勝敗が委ねなれる。

 

 先に当たったのは零のスコーピオンだった。

 空閑の足を切り落とし、空閑のバランスが崩れる。

 しかし、これはチャンスだ。現在零のスコーピオンは足元にある。

 訓練トリガーに入れられているトリガーは一つ。つまり他に零がトリガーを出す事はない。

 

 チャンスを逃すまいと空閑がスコーピオンを投げつける。

 零も腕を使って防ごうとするが、不意に腕を止め、そのまま空閑のスコーピオンが零の胸を貫く。

 

『と、トリオン供給器官破損!零さんダウン!』

 

 最後の一試合ではあったか、確かに空閑は零に一矢報いたのだった。

 

◇◆◇◆

 

「まさか本当勝つなんて………」

「総合では負けちゃったけど凄いよ遊真君!」

 

 遊真が見知らぬ少女、香取にガミガミと言われショボンとしている零をじっと見る。

 先ほど剣を交えた男とは到底思えない。

 

「帰ってきたなら帰ってきたって言いに顔出しなさいよ!仮にも私の師匠でしょ!?」

「いや、零さんだってやることがいっぱいあってね………」

「はー?」

 

「あの人、本当に強いね」

「でしょ〜。こなみとよく試合してるんだけど今の所勝ち越してはないみたい」

「事実だから訂正はしないけどその言い方辞めてくんない?」

 

 零が横槍を入れると宇佐見はてへ、と舌を出す。

 

「んで、勝敗の話だけど………」

 

 来た、とばかりに三雲が冷や汗を出す。

 空閑の(ブラック)トリガーを狙ってきた時点で怪しいとは思っていたが、どうにかしないとと思考を巡らせる。

 

「俺の負け」

 

 笑顔で言ってのける零に空閑と三雲が目を丸くする。

 

「なんで?俺負けたけど………」

「確かに試合では俺が勝ったけど初心者にそのままの勝敗なんて酷すぎるだろ」

「………」

 

 空閑は何も言う事はない。

 

「だから、俺決めてたんだよ。お前が俺から一本取れたらもうお前の勝ちでいいやって」

 

 まだ空閑は何も言わない。

 それを見て三雲も零が()()()()()()()()と理解する。

 だが、そこに一人、異議を唱える者がいた。

 

「何よ、それ!」

 

 零の弟子である香取だ。

 

「アンタこのちっちゃいのに負けたわけ?」

「香取もやってみろよ。強いぞコイツ」

「ドヤ顔がムカつくわね………。アンタ、ちょっと付き合いなさい」

 

 零は香取と空閑が再び訓練室に入っていくのを見ながら自分のトリガーに感想に、建物の屋上へと向かうのだった。

 屋上に着いて零は再びトリオン体へと換装すると、今近くで戦っているはずの太刀川や風間、三輪に通信する。

 

「すいません。負けちゃいました」

『マジか!』

 

 真っ先に反応を返したのは太刀川だった。

 はぁ、と息を吐いて零は自身の要件を述べる。

 

「後、申し訳ないんですけど俺はこの作戦から一抜けでお願いします」

『零さん、ボーダーを裏切る気ですか!』

 

 勿論、こんな事を言ったって誰も納得する訳が無い。零の予想通り、真っ先に反論したのは三輪だった。

 

「秀次。別に俺はボーダーを裏切ったつもりは無い」

『ならなんで………』

『三輪、落ち着け』

 

 興奮気味の三輪を落ち着かせながら、風間も零に問い掛ける。

 

『俺たちも今、迅と嵐山隊と交戦している。そこまで長話もできん。だから一つだけ聞く。それで良いんだな?』

 

 質問の意図までは、零は理解できなかったが、少しだけ笑い夜の帷に輝く月を見る。

 

「えぇ。もし、アイツの(ブラック)トリガーを奪いに来たならその時はまぁ、よろしくお願いします」

『ま………』

 

 それだけ言うと、零は三輪の反論も聞かずに通信を打ち切るのだった。

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