加古隊。
加古望率いるA級六位の部隊であり、時たまボーダーに所属する女子隊員が女子会を行うために加古隊の隊室に集まることがある。
そして、今日がその女子会の日なのだが、今この部屋に居るのはA級五位の嵐山隊のオペレーター、綾辻遥とB級三位の生駒隊のオペレーター、細井真織だけなのだがそれには理由がある。
加古隊は今防衛任務で出ていて三十分後に帰ってくるまでにとりあえずお菓子とジュースを用意するように頼まれたので二人きりで別の隊の隊室にいたのだ。
「・・・・・・なぁ、遥ちゃん」
コップを用意しながら細井が綾辻を見てある決心をする。
それは先日のこと、何時ものように突然隊長である生駒が「なぁ、可愛い可愛いマリオちゃん。ちょっと頼みたいことあんねん」と切り出したことが始まりだった。
初めは可愛いの言葉に「きっも!」と返していたが、とりあえず生駒の頼みごとを聞いてみると「この前な、綾辻ちゃんが零のこと好きって聞いたんやけどその真偽を綾辻ちゃんに確認してほしいんや」と言われ驚愕した細井。
あの綾辻がボーダーでは嫌われ者で有名で、渾名が『ミスターセブンイレブン』の零の事が好きなのか?
零と綾辻と同じ生徒会に所属している蔵内を比べれば顔も性格も全員が全員蔵内の方が良いと答えることだろう。
だからこそ、細井は生駒のお願い関係なく気になったのだ。
「どうしたの?真織ちゃん?」
「イコさんから聞いたんやけど、遥ちゃん風切先輩が好きって本当なん?」
綾辻は手に持っていたジュースのペットボトルを机に置いてソファに座る。
細井もつられてその場に正座する。
「う~ん・・・。何処から話せば良いかな~・・・」
綾辻が目を閉じて自分が零と出会った日の事を思い出す。
何時だったか・・・・。
◇◆◇◆
そう、確かあれは綾辻が進学校に入学してしばらく経った時だった。
入学して早々綾辻はその容姿から校内外問わず様々な男子から告白されていた。
顔が良い男子、普通な男子、性格の良い優男、ヤンキー等々、数えればきりがない程で今日も今日とで綾辻は告白を受けていた。
告白、と言っても「好きです!付き合ってください!」何て殊勝な物じゃない。
ハッキリ言ってナンパに近いものだった。
「お嬢ちゃん一人?ちょっと俺達と遊ばない?」
ナンパしてきたのは二人組の二十歳くらいの男たち。
「すいません。急いでますので・・・」
もちろん綾辻もこの手のナンパには慣れているため最適解であるやんわりとしたお断りをするが、後にボーダーのマドンナと呼ばれるような美少女を男たちが簡単に諦める筈がない。
「そう言わずにさぁ!」
「あっちの路地で良いことしようぜぇ!」
「や、止め・・・」
男たちが無理に綾辻の腕を掴んで路地裏に無理やり連れていこうとする。
「助けて!」と避けんでも、周りの人間は無関係を装い綾辻たちを見ずにその場をそそくさと立ち去っていく。
誰も自分を助けてくれる気配はない。
もう諦めよう、綾辻がそう思った時、男の一人があちこちに痣を付けた見た目が中学生くらいの少年にぶつかり、持っていたジュースを地面に落としてしまう。
「邪魔だガキ!怪我したくなけりゃ退いてろ!」
じっと落ちたジュースを眺める少年を見て綾辻は助けを求めようとして言葉を詰める。
きっとこの少年も見て見ぬふりをする。助けを求めても無駄だと。
だが、そんな綾辻の諦めは良い意味で裏切られることになった。
「おい」
「・・・・・・あ?ぶべら!?」
少年がぶつかった男の肩を掴み、男が少年に振り向いた瞬間、少年は
「・・・・・・・・え?」
「テメッ・・・・・・!」
もう一人の男が綾辻から手を離して少年を睨み付ける。
先ほどまでずっとジュースを見ていた少年がため息をついて男を睨み返す。
「ギャーギャーギャーギャー喧しいんだよ。発情期ですかコノヤロー」
聞く人が聞けば分かるフレーズの台詞を吐きながら男に向き直りビシッと落として溢れたジュースを見る。
「見ろこれ。テメェらがナンパなんてくだんねぇことやってるから俺の血とも言えるカルピスが・・・・・丸々溢れちまったじゃねぇか!」
「すぎたっ!」
もう一人の男を殴り倒して意識を刈り取ると今度は綾辻の方を見る。
その目はあまりにも狂暴で、目に映るものに何でも噛みつきそうなその少年を見て、綾辻は逃げようにも足がすくんで逃げられなかった。
◇◆◇◆
「そんな事があったんやな・・・」
綾辻と零の出会いの話を聞いて細井がほえ~と感嘆の声を上げながら呟く。
「せやったら綾辻ちゃんはそこで風切先輩のこと好きになったんか?」
細井の質問に綾辻が首を横に振る。
「ううん。その時は私服だったから先輩が同じ学校の先輩だって知らなかったし、ボーダーで有名だから名前は知ってたけど顔までは見たことがなかったから・・・」
「じゃあ何で好きになったん?」
「それを話す前に用意を済ませちゃお。続きは女子会でね」
そう言って綾辻がソファから立ち上がると再びジュースやお菓子の用意を再び始めて、細井も立ち上がり再びコップの用意を始める。
結局、綾辻は零のどこに惚れたのだろうか?等と考えながら女子会が始まるのを準備をしながら待つのだった。
◇◆◇◆
さて、綾辻と細井がそんな話をしている時、今話題の『ミスターセブンイレブン』こと風切零は何処にいたのだろうか?
正解はボーダーの中にある共用の浴場、その中にあるサウナ室の中である。
「・・・・・・・・・・・・」
基本的にこのサウナは結構暑いことでボーダー内で結構有名であり、興味本位や挑戦として以外なら基本的に大学生以上の隊員が入っていることがよくある。
そして、今このサウナには二人の大学生がいた。
一人目は先ほど紹介した
二人目は大学の単位を犠牲にして
この二人、たまにランク戦をやる仲ではあるが、基本的に太刀川が「なんか戦いたいな~」と思った時に何時も側に居るのが零であるだけなのだ。
「・・・・・・・・・・」
だからこそ、太刀川の事を零は嫌いではないものの何時太刀川に「勝負しようぜ」と言われないか不安になりながらサウナの席に座っている。
ならさっさと出れば良いだろう、と誰しも思うことだがこの
互いが互いに負けたくないと言う感情だけが一時間サウナ等と言う自殺行為に等しい行為を可能にしていた。
「・・・・・・太刀川さん」
「・・・・・・なんだ?」
「ロウリュ、良いスか?」
「・・・・・・・あぁ」
ロウリュとはサウナにある熱した石に水をかけ、サウナ内の温度を上げることで、つまり零は「このままじゃ勝負付かないから温度上げるぞコノヤロー」と遠回りに言っているのだ。
そして、太刀川の了承を得て石に水をかけた結果サウナの温度は110度。
しかし、彼らは気付いていなかったのだ。
このサウナに、一人の少年が入ってくる事に。
「お邪魔しま~す・・・・」
「お、太一」
「げ、太一」
彼の名前は別役太一。
鈴鳴支部所属の鈴鳴第一(来馬隊)のスナイパーであり、零に言わせれば彼は『本物の悪』とのこと。
「俺、サウナは初めてでその・・・・・」
「そうなのか?・・・・・・まぁ、とりあえず座れよ」
「は、はい!」
零は彼の事が苦手ではあるが、彼に悪気はない。
いや、ない故に『本物の悪』なのであるが、とりあえずそれで出てけと言ってもそれはそれで嫌な奴でしかない。
だからこそ、零はあれを追い出すつもりもないし何も無い分は別段拒むこともない。
「うわっ!」
前言撤回。どうやら拒む理由が出来てしまったようだ。
サウナ室に一歩踏み出した太一の足の下に、外で遊んでいるとあるA級三バカで有名な三人が飛ばした石鹸がフィット。
足を滑らした太一、そのまますっ飛んで壁に当たり水の入った桶に当たり、入っていた水が全て石にかかりサウナの温度は150度に跳ね上がる。
更に追い討ちとして零のスコーピオンへと直撃する。
「す、すいません!」
「だ、大丈夫だ。それより太一、早く出ろマジでヤバい・・・」
「は、はい!」
太一が出た後にスコーピオンを押さえながらチラリと太刀川を見る。
太刀川もチラリと零を見る。
「太刀川さん、出ないんスか?」
「俺はまだまだ行けるが零はどうだ?」
「いやー、全然スね。もう寒いの何の」
「ハハハ、そうか」
太刀川は笑いながら汗を流し、再びじっと座り込む。
それを見て零は「いや、無理だろ。こっちは既に暑すぎて眠いんだ。早く出てくれ!」と頭で思いながらも眠気に抵抗する。
対して太刀川も「・・・・・・不味いな。零の奴全然引き下がらねぇ・・・・。このままじゃ眠っちまう」と若干焦っていた。
負けず嫌いがサウナで我慢対決した結果起こった悲劇と言えるだろう。
結局、この戦いはA級三位の風間隊の隊長、風間蒼也がサウナに入ってくるまで続き、忍田本部長に厳重注意されたのはまた別の話。
ボーダーの中に浴場とかあるのかな?
しかもサウナがあるなら多分司令か本部長が一番長い気がする。