万年B級詐欺師隊員劇場   作:暁桃源郷

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迅悠一②

「いやー、まさか零がこっちの肩を持ってくれるとは思わなかったよ」

 

 翌日、零と迅は玉狛支部のリビングに座り、机に置かれたぼんち揚を頬張りながら談笑していた。

 昨日の結果から言ってしまえば、迅は見事太刀川達を追い返すことに成功した。

 理由は多々あるが、大きな者で言えば嵐山隊の参戦による迅の負担軽減と、零の敗北および離反による多少の心理的圧迫だ。

 

「なーんだろーなー。遠征行ってから俺にもちょっとした心境の変化って奴があったのよ」

「うんうん。親友が若干マイルドになっただけでも俺としては暗躍した甲斐があるって物さ」

 

 それよりも、とぼんち揚げを人齧りしながら零が話を続ける。

 

「俺が驚いてんのはあの近界民(ネイバー)があの賭けを呑んだことだ」

「あー、零が(ブラック)トリガーを奪う方便にしたやつ?」

「あんなの断られるなんてわかってたからな。普通に奪うつもりだった」

 

 普通は断るだろあんな条件、と悪態を吐きながら零はチラッと時計を見る。

 そんな零を見ながら迅は新しいぼんち揚げを手に取る。

 

「遊真にとってはそっちよりも零が何でも言うことを聞くって言った方が重要だったんだよ」

「あぁ?」

 

 訳が分からないと言った感じで零のぼんち揚げを食べる手が止まる。

 

「何だそれ。テメーの(ブラック)トリガー賭けてまで俺に命令したかったのか?一体何を?」

「まぁ、それは今度遊真に教えてもらいなよ」

「あ、おい!」

 

 ぼんち揚げが全て無くなったのを確認した迅が立ち上がると、零も後を追うように立ち上がる。

 

「今日の当番は零だろ?そろそろ時間なんじゃない?」

「うわっ!マジじゃねーか!えーと、今日は誰だっけ?桐絵と、陽太郎は………レイジさんとラーメンに行くって言ってたな。後は昨日遅かったから泊まらせた香取と………て、迅がいねぇ!」

 

 時計を見れば、既に皆が起きてくる頃合い。慌てて振り返ると迅も居なくなっている。

 結局零は一番聞きたかったことを聞けずにいたのだった。

 

◇◆◇◆

 

 香取葉子は眠れなかった。

 訓練用トリガーを使っていたとは言え、まだ入隊すらしていない空閑に引き分けたから、と言うのもあるにはある。だが、大部分が今日泊まった部屋の主人に要因がある。

 

「……あのバカの部屋、か」

 

 香取は自身が昨晩寝た(寝れてない)ベッドにゆっくりと視線を移す。

 

「アイツ、いつもここで寝てるのよね………」

 

 ジーっと、香取がベッドを見つめた末に行ったのはベッドの下を覗き込んで隠されたエロ本が無いかを確かめる事だった。

 あれば、零の趣味嗜好を把握できるし、無ければそれで、まぁ、今からでも趣味嗜好を自分に振り向かせればいい。

 そんな考えで漁ってみたは良いものの、特にこれと言ってそう言うものが見当たらない。

 

「なーんだ。つまんないわね」

 

 若干安堵したことに気付きもせずに、香取はふと、近くに置かれた本棚に気付く。

 漫画やライトノベル、原付のカタログに後は思い出写真と書かれた背表紙の本などが規則的に並べられている。

 

「?」

 

 その中で一際目に付く薄い本の数々。手に取って見れば、案の定と言うべきか、エロ本だった。

 香取がエロ本を次々に手に取ってペラペラと開いていく。

 学園のマドンナ、病弱な美少女、騙され系美少女、活発系グラドル、姉御肌巨乳等々色々な属性の物があるわけだが、いかんせん香取は納得が行かなかった。

 ヒロインの設定が何やら見知った人物に似ているのもそうだし、この中に自分に似たヒロインがいないと言うのも何だか嫌だ、と香取は思う。

 

「てーか、せめて隠す努力くらいしろっての!」

 

 このモヤモヤの発散先が見つからず、本棚にそのまま直していたであろう零に悪態が飛んでいく。

 

「零ー!アンタ帰って来たなら連絡くらいよこしなさいよねー!」

 

 そんな香取のモヤモヤを吹き飛ばすように部屋の扉が勢いよく開き、中にずかずかと香取の知らない少女が入ってくる。

 

「「………誰?」」

 

◇◆◇◆

 

 香取と小南がリビングで向かい合いながら座る。

 側から見て、二人の周りは決していい雰囲気とは言えない。

 それをキッチンから眺めるように見つめていた零が意を決した様に口を開く。

 

「えーと、朝飯ももうじきできるから紹介するよ。桐絵、そっちは香取。俺の弟子だ」

「………どうも」

「ふーーーーーーーん?」

 

 零の紹介に品定めでもするかのようにジロジロと香取を見る小南。

 それが癪に触ったのか、歪んだ顔で零を睨む香取に零も苦笑いを浮かべながら口を開く。

 

「んで、そっちが小南な」

「よろしく」

 

 品定めが終わったのだろう。ケロッとした感じで小南が香取に挨拶をすれば、香取は眉を顰める。

 てっきり突っかかられるとばかり思っていた香取からすれば拍子抜けも良いところだ。

 

「………て、そうだアンタ。エロ本くらいに隠す努力しなさいよ」

「はい?」

 

 机にエロ本をばら撒かれながら不意にされた忠告に零は料理の手を止めて香取を見る。

 

「おま、何で俺のお宝を………!いや、そもそもだ。隠してただろちゃんと!?」

「何処がよ!ご丁寧に本棚に並べられてたわよ!」

「はぁ!?」

 

 どうなってんだ!?と零が頭を抱えていると、小南があら?と声を上げる。

 

「き、桐絵?お前………まさか」

「これ、私が零の部屋を掃除した時にベッドの下に落ちてた本じゃない。失くして零も困ってると思ったからちゃんと直してあげたわ」

「ノーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 膝を崩し絶望する零にいったいどうしたのか、と心配そうに歩み寄る小南。

 

「何………、これ」

 

 そんな光景に香取は呆れて何も言うことができないのだった。

 

◇◆◇◆

 

 さて、エロ本が本棚に直されているなどの思春期男子にはよくあるイベントを経験してしまった零ではあるが、それでも気分は上々であった。

 

「機嫌良さそうじゃない」

 

 高校がある香取を原付で彼女の自宅にまで送り届ける最中、ふと、香取が零の腰に腕を回しながらそう言った。

 

「あ、分かる?」

「顔に出てるわよ。で、何?」

「いやー、昨日俺ソシャゲ100連で5吼え立てよ我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)しちまってよ、もうウハウハな訳」

「ごめん、何言ってるか分かんない」

「0.8%100連で五人引き」

「うーわ、羨ましい」

「次どっち?」

「右。てかもっと早く走れない?」

「法定速度ギリギリだわバカ」

 

 等と雑談をしていれば、香取の家が零の視界に見えてくる。

 昨晩、香取を夜も遅いので支部の方で預かると言う旨を香取の保護者に伝えていた。

 香取の家の前で原付を停めてインターホンを鳴らす。

 

『はーい』

 

 しばらくして若い男の声がインターホンから聞こえてくる。

 

「あ、すいません。昨晩お宅の娘さんを預からせてもらった風切ですけど」

『あー、はいはい。お母さん、例の『うおー!ウチの葉子は誰にも渡さーん!』て、うわぁ!』

 

 それ以降、インターホンから音沙汰が無く香取の家からは何やらバタバタと何かが暴れる音が聞こえてくる。

 

「え、おい香取。これ大丈夫か?」

「大丈夫じゃない?」

「えぇ………」

 

 しばらくしてガチャリとドアが開くと、中から香取とそっくりな女性が現れる。

 

「態々家まで娘を送っていただきすいません」

「い、いえ。一応俺彼女の師匠みたいな者ですからアハハハハハ」

「何愛想笑いしてんのよ!」

「ゲフッ」

 

 香取に脇腹を肘打ちされて腹を抑えれば、女性が慌てて俺に駆け寄ってくる。

 

「こ、コラ葉子!だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ?このくらいいつもの事だし」

「は、はい。お気になさらず………」

 

 そもそも、今の零は原付を運転するために装備なしのトリオン体状態だ。痛みなど殆どない。

 しかし、そんなことなど分からない女性は既にケロッとしている零を不思議に思いながら家へと上げる。

 

「と、とりあえず何かお礼を。上がってください。娘のボーダーでの様子も聞きたいですし」

「いえ、悪いですよそれは」

「面倒くさいわね。アンタの性格上結局は入るんだから早く入んなさいよ」

「ちょ、おい!」

 

 こうして、零は意図せずに弟子の家庭訪問へと赴く事になるのだった。

 

 




???「さぁ!百倍返しのお時間よ!」
???「喝采を!我らの憎悪に喝采を!」
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