万年B級詐欺師隊員劇場   作:暁桃源郷

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香取葉子③

 ソファに座った零の前にジュースとお茶菓子が用意される。

 それらを一口戴きながら、香取も自分も学校があるので手早く終わらせようと零が早速口を開く。

 

「えーと、はじめまして。葉子さんの師匠?先輩?んー、とにかくそんな感じの事をさせていただかせています、風切零といいます」

 

 いきなりの名前呼びに香取は顔を赤らめて零を見る。

 実際のところはここにいる人達全員が香取の為、分かりやすいように名前で読んだだけな訳だが、当然周りはそんなことに気付いてはいない。

 寧ろ、名前呼びをした事により「そう言う関係」とさえ若干勘違いをしてしまっている。

 

「ご丁寧にありがとうございます。私、葉子の母です」

「兄です」

「そして、俺が!かわいいかわいい俺の娘を毒牙に掛けようとするキサマを地獄へと誘う処刑人だぁぁぁぁぁ!!!」

 

 零の後ろの扉から眼鏡を掛けた男が飛び出してくる。

 

「お父さん!?」

「お父さん?この今にも人を殺しそうな瞳で俺を睨んでる男の人が?」

「もう、お父さんったら」

 

 香取の母が暴れる父を奥へと押し込んで行き、部屋には零と香取と、香取の兄が残される。

 

「あはは、騒がしくてすいません」

「いやいや、賑やかなご家庭のようで羨ましい限りです」

 

 互いに笑い合う二人に香取は零が何を言い始めるのか不安になっていると零がチラリと香取を見る。

 

「ボーダーでの妹さんの様子ですけど、まぁ、普通です」

「普通?」

「はい。普通の高校生って感じです。若村君とはよく喧嘩してるのを見ますし」

「ちょ!」

「彼女の戦闘センスは物すごいですよ。教えたことをドンドン吸収していきます」

 

 アンタまともに何かを教えたことないでしょ!と言うツッコミを飲み込んで香取は兄の方に視線を移す。

 聞き入っているようで香取の方は見ていない。

 

「ボーダーって何か年齢的に達観した人が多いですから彼女のように何処か幼さが残っていると私も話しやすいです」

「なるほどー」

 

 丁寧な言葉遣い、崩れない笑顔、幼さが残っている人代表のような零がここまで体裁と言うのか、社会人の礼儀と言うのか、普段ではありえない零を前に香取は息を呑む。

 

「お待たせしてすいません。やっと夫が落ち着いてくれて今疲れて眠ってます」

 

 意識を落として来たな、と香取と兄は思ったが口にはしない。

 そうですか、と零が時計を見てサッと立ち上がる。

 

「それでは、お互いに学校もあることですしこれで失礼いたします」

「まぁ、碌なおもてなしができなくて申し訳ありません」

「お構いなく。では、これからも仲良くしていただければ幸いです」

 

 そう言って、零が部屋を出て玄関が開く音がすれば、しばらくして原付のエンジン音が香取達の耳に入る。

 

「………葉子」

「何?お母さん」

「好きならガッチリ捕まえておきなさい」

 

 母の言葉に香取は飲んでいたオレンジジュースを吹き出した。

 

◇◆◇◆

 

 何だか久々に大学に行く気がする、と零は原付に乗りながらふと、そう思った。

 最近は遠征や入院などが重なり、更には元々テストだけで成績を付ける授業ばかりを取っているためあまり行く必要を感じていなかった。

 それでも今日大学に行くのは、昨日裏切ってしまった面々に合わせる顔がないからだ。

 風間は今日はシフトで大学にはおらず、太刀川はそもそもずっとラウンジでランク戦に勤しんでいる。

 

「眠ィ」

 

 自身の部屋を香取に貸して自分はソファで寝た弊害だろう。寝付きが悪く寝不足。

 しばらく走っていれば、三門市立大学の駐車場が見えてくる。

 

「うげ、一番遠いとこしか空いてない」

 

 仕方なく空いている場所に駐車して、零は大学の中庭に腰を掛ける。

 朝は人が少ない。大体の大学生は二時間目の時間帯からの時間割を組むことだろう。

 

「お、零じゃないか。珍しいな大学にいるなんて」

 

 彼のような真面目爽やかイケメンのような人物でなければ。

 

「嵐山。そう言えば今日は一限目からか、お前」

「それはお前もだろ?」

 

 まだ授業まで時間があった嵐山は零の隣へと座って物静かな中庭を眺める。

 

「俺はあれだ。成績になるのはテストだけだからな」

「偶には受けた方がいいぞ。じゃないと単位が足りなくて風間さんや本部長の負担が増える」

「嵐山………偶に笑顔で酷いこと言うよな」

 

 嵐山は濁したつもりなのだろうが零には分かっている。つまりは、授業受けなさすぎて太刀川のようになるなよ、と言っているのだ。

 

「ハハ。それで、今日はどうしたんだ?」

 

 その問いに零は眉を顰めながら嵐山を見つめる。

 

「どう言う、意味だよ」

「何、大学にいるといつも不機嫌そうな零がいつにもまして不機嫌そうだからな。気になった」

「………」

 

 モテる人間にはそれ相応の理由がある。嵐山もよく人を見ているのだ。

 これでブラコンシスコンじゃなかったらなぁ、何て思いながら零は諦めたように息を吐く。

 

「昨日の晩、風間さんからメールが来たんだ。迅が近界民(ネイバー)の為に風刃を手放したって聞いてよ、俺の選択は正しかったのかなぁって」

 

 今朝、零は迅にその真意を聞こうと思っていた。だが、結局は聞けずじまいで今もズルズルと引き摺ってしまっている。

 勿論、あの選択に零は後悔が会ったわけではない。十回戦っただけではあるが空閑遊真と言う少年がこの世界を侵略して来たとは全くと言って良いほど思わなかった。

 遠征に行く前の零ならば、そんなことは関係なくあの試合結果で自分の勝ちとしてトリガーを押収したことだろう。

 だからこそ、考えることがある。もし、自分があのまま自分の心に従わずに任務を遂行していれば迅は(ブラック)トリガーを、彼の大事な師匠を、最上宗一を手放さなくて済んだのではないのか。

 

「───い!零!」

「………あ?」

「大丈夫か?」

 

 名前が呼ばれて、零はようやく深い思考の渦から外に出る。

 

「悪い。何だっけ?」

「あぁ、きっと迅はお前が風間さん達を裏切らなかったとしても風刃を本部に渡して取り戻してたと思う」

「………………」

 

 嵐山の言うことは正しいのだろう。零だってそう思う。

 しかし、理解はできても納得できずにいた。見ず知らずの、関わりすら無かった近界民(ネイバー)一人のために何故そこまでするのだろう、と。

 そこまで考えて、零は頭痛がして頭を抑える。

 

「俺はまず、あの近界民(ネイバー)………いや、空閑遊真について知るべきなのかもな」

 

 ボソリと呟く零に嵐山は口角を上げて立ち上がる。

 

「じゃあ俺はそろそろ授業だから行くよ。零も、偶には授業に出た方がいいぞ」

「おう」

 

 数歩歩いたところで嵐山が歩みを止める。それを見て零が眉を顰めれば、嵐山が振り返ってこう言った。

 

「………………あ、そう言えば零は明日用事はあるか?」

「無いけど?」

 

 質問の意図は分からないが素直に答える零。その答えを聞くや否や、いつもの笑顔よりも明るい笑顔で零の肩を叩く。

 

「じゃあ明日の広報活動を手伝って欲しいんだ」

「はぁ?」

「根付さんには俺から言っとくから!」

 

 断ろうと零は立ち上がるが、既に嵐山は遠くに走り去っていて声も聞こえていないだろう。

 

「…………………はぁ?」

 

 理解が追いつかずに、零はその場に立ち尽くすのだった。

 

◇◆◇◆

 

 ガラス張り窓から三門市を眺めることのできるボーダーの会議室。

 その真ん中にあるU字型の机に司令の城戸正宗、本部長の忍田真史、玉狛支部支部長の林藤匠が座っていた。

 メディア対策室長の根付や開発室長の鬼怒田、外務・営業部長の唐沢が居ないのは、これが正式な会議ではないからだ。

 

「それで、何で俺たちだけを呼んだ、城戸さん?」

 

 静寂が包む会議室で初めに痺れを切らしたのは林藤だった。

 林藤の質問に城戸は大きく息を吐いて机の上で組まれた手に額を乗せる。

 

「零について、相談がある」

 

 何となく、理由が分かっていた林藤に驚いた様子はない。それは忍田も同じようで特に口を出すことはしない。

 

「随分先送りにしてしまったが、遂に決断する時が来てしまったのかもしれない。今、ボーダーに所属する風切零は、本当に()()()()()風切零なのか」

 

 議題の提唱。旧ボーダーの面々からすれば、それはいずれ触れなければならないパンドラの箱だった。

 忍田の右手に力が入る。

 

「それは、四年も前に話し合って解決した筈だ!」

 

 四年前。第一次大規模侵攻の折、行方不明になった零が一週間後にその姿やトリオン量を変えて帰って来たことがあった。

 当然、最初は皆偽物だと思った。しかし、彼はメンバーとの秘密をスラスラと答えてしまったのだ。

 

「本当に?」

「何?」

 

 確かに、と城戸は続けて口を開く。

 

「我々は四年前、理由は不明だが姿やトリオン量が変化した彼を風切零と断定した。しかし、先の遠征で彼に瓜二つの近界民(ネイバー)が現れたと報告があった以上、その判断は間違いであった、と断じるしかない。現に、今日まで完全に彼が風切零だと言える根拠は揃っていない」

 

 口頭の報告と紙での報告、両方を吟味した上で、城戸は再び提唱したのだ。

 そんな城戸を忍田が睨む中、林藤が手を上げる。

 

「確かにアンタの言うことは最もだよ、城戸さん。こうして疑いが再浮上しちまったんだ。話し合いをするのは俺も賛成だ」

「林藤………!」

「だが、今回の場合は今のアイツの働きを含めた上で判断するんだよな?」

 

 眼鏡の奥から林藤の視線が城戸へと刺さる。

 

「………勿論、そのつもりだ。今までの活躍。そして昨日の裏切り行為。全てを加味した上で彼の処遇を決定しよう」

 

 ただ合理的に方針を口にする城戸に息を飲む忍田。

 四年前、あの話し合いで最も先に零だと信じたのは他でもない、今目の前で話をしている男のはずだった。

 城戸正宗にとって風切零とは息子も同然の存在であり、また、風切零にとっても城戸正宗は父親のような存在だった。

 こんな話し合いを一番したくないのは城戸自身のはずなのだ。おそらく、鬼怒田、根付、唐沢を呼ばなかったのは城戸としての最大限の譲歩だったのだろう。彼らがいれば先ず間違いなく零はトリガー没収の上で身柄を拘束されていたのは先ず間違いない。

 

「………分かりました。では先ずはこの四年での彼の功績を上げていきましょう」

 

 だから、最早忍田に異論はない。零の疑いを晴らすため、そして城戸の心境の為にも忍田は口と頭を動かすのだった。

 




これで零さんが偽物だったら旧ボーダーの皆、主に小南の心境よ
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