万年B級詐欺師隊員劇場   作:暁桃源郷

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木虎藍①

「皆さん!こんにちわ!嵐山隊オペレーターの綾辻遥です!」

 

 三門私立第二中学校。その体育館で綾辻が目の前に座る生徒たちに向けて話し始めた。

 本日は、広報の活動を行う嵐山隊がボーダーの仕事を中学生達に宣伝するイベントがある日。二手に別れて三日に渡って三門市立第一中学校から第四、六頴館中学校、星輪女学院を巡るのだ。

 

「んで、人手が足りんと嵐山に無理矢理参加された訳だが………」

「ふふ、似合ってますよ、ふふふ………」

 

 体育館の舞台裏で自身の姿を鏡で見る零と、それを笑う木虎。

 嵐山の説得により、根岸室長に何とか参加することは許可された零ではあったが、彼の顔は三門市中に悪い意味で広まってしまっているためトリガーでの変装を条件として付けられた。

 

「なーんで、俺がこんな姿にならなきゃならんのだ」

「今の先輩は見た目が女性なんですから女性のように振る舞って下さい」

「女子の姿ってだけなら文句言わねーよ。よくイタズラでしてるから」

「何してるんですか」

 

 呆れたようにジトーと見てくる木虎に零はだが、と付け加える。

 

「ぬいぐるみ着るなんざ聞いてねーぞ!この犬の着ぐるみはどう言う了見だ?」

「似合ってますよ、リリ切先生」

「だーれがリリ切だ誰が!」

 

 ぷ、と吹き出し笑いをする木虎に零は青筋を立てながら否定する。

 いや、実際にはキャラとしてはリリ切と言う名であってはいるのだが、無理矢理この姿にされた零からしたらたまったものではない。

 

「ホラホラ、もう直ぐ出番ですよ。我儘言わずに台詞の暗唱でもしたらどうですか?」

「クッ」

 

 チラリと舞台の方を見てみれば、確かに綾辻がボーダーの説明を終えてリリ切先生を呼ぼうとしている。

 

「それでは呼んでみましょう!リリ切先生〜」

「木虎、後で覚えてろよ」

 

 綾辻の次に出た中学生達の呼び声に反応する様に木虎への恨み言を呟きながら零は舞台へと上がる。

 

「皆さん、こんにちわなのです。呼ばれて飛び出てジャンジャカジャン。賢過ぎる犬リリ切先生なのです」

「はい。じゃあリリ切先生。ボーダーではどんなお仕事をするのか教えて下さい!」

 

 綾辻と共に体育館の舞台のスクリーンに映像が映し出される。

 

「綾辻君が先程説明してくれた様にボーダーでは皆さんを守る為、皆さんと同じくらいの歳の子達が日や戦って居ます───」

 

 零が説明を始めるのを見ながら退屈そうに舞台の下で体育座りをしながら眺めて居た緑川が小声で横に座る黒江双葉に話しかける。

 

「零さんいつにも増して不機嫌だね」

「………いつも通りに見えるけど」

 

 眉を顰めながら答える黒江に緑川は首を振る。

 

「いや、絶対不機嫌だね。おれには分かる。きっとあれ嫌々やってるよ」

 

 本当にそうなのだろうか、と黒江が再び舞台へと視線を移すと、一瞬、呼吸が止まってしまった。

 

「ねぇ、駿」

 

 震える声で普段の零について語る緑川を黒江は呼び止める。

 何?、と緑川も喋りを止めて黒江の視線を追う。

 

「────────」

 

 緑川も呼吸が止まった。

 彼らの視線の先にあったのはどう言う感情なのか着ぐるみなので顔は見えないが説明しながらもずーっと視線を二人に向けている零の姿だった。

 

「でも、そんなボーダー中学生の皆さんからしたら怖いお兄さんお姉さんが居るかもって不安になりますよね?」

 

 現在進行形でボーダー所属の中学生を怖がらせているとは思えぬ語り草で軽快に口を走らせる零。

 

「では、ボーダー所属の緑川くんと黒江さん。舞台に上がってきて下さーい」

 

 顔は見えていないが、絶対に笑っていない。そう思いながらも呼ばれた二人は生徒達の視線が集まる中で渋々と舞台に上がっていく。

 顔は見えない。しかしながら、確かにほくそ笑んでいる顔がありありと思い浮かべられる。

 舞台の綾辻、舞台裏の木虎の顔を見れば予定にないことなのか、焦っているのが伺える。

 

「─────は、はい。舞台に上がって来てくれたのは草壁隊の緑川くんと加古隊の黒江さんです!」

 

 でもそこはやはり広報活動を行う部隊。予想外の事も難なくリカバリーしてくる。

 それに乗る様に二人とも生徒達に手を振ってみる。

 

「って、酷いよ零さんいきなり!」

「零さん?誰のことかな?先生はリリ切先生であって零さんなんて完璧で究極なイケメンさんは知りませんが?」

「自分で言うんですね」

 

 ぶーぶー、と不満わ垂れる二人に聞こえなーい、と言う感じに耳を塞いで零は目の前で広げられるコントにポカーンと口を開く生徒達に目を向ける。

 

「………と、まぁこんな風に皆大抵は仲が良いからそこら辺は心配しなくても大丈夫です。それに、皆優しいから聞きたいことがあれば何でも答えてくれます。─────多分」

 

 最後は小声だったからか、近くに居た緑川と黒江にしか聞こえはしなかった。

 そんなこんなを経て、緑川、黒江を加えた五人でのPR活動が終わるを迎えると、すぐさま木虎が詰め寄って零を問い詰める。

 

「いったいどう言うつもりですか!?」

 

 青筋を浮かべる木虎に、零はあっけらかんとした調子で答える。

 

「何だよ。ちゃんとPRはしただろ?」

「わ・た・しは!台本ないことをしないでくださいと言っているんです!」

「人生に台本があるなんて思うなよ。基本的に予想外だらけだ」

 

 言いたいことはそうではない!、と言いたいところではあったが、この男に何を言っても無駄であろうと木虎言葉を飲み込む。

 確かに、予想外をしでかした零ではあったが、その実紹介すべき事はしていたし、ちゃんとPRにはなっていた。

 唯一不満があるとするならば、PR中緑川と黒江と仲良く話していた事であろう。

 特に黒江は何故か木虎に素っ気ない。

 

「………とにかく、片付け始めますよ」

「へいへい。あ、綾辻。それ重いだろ?俺が持ってく」

「もう、先輩?遥、ですよね?」

「そう、だったな」

 

 いつの間にそこまでの仲になったのか、と片付けに入る二人を見ながら、木虎は一つ、安堵のため息を吐く。

 こうして、予想外はあったものの、何とか無事に広報活動はやり遂げたのだった。

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