万年B級詐欺師隊員劇場   作:暁桃源郷

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風切零④

「二人とも、準備はできてるか?」

 

 狙撃手(スナイパー)の訓練場。

 それもあってかだだっ広いその部屋には三人がポツンと佇んでいて、その中の一人、東春秋が荒船と零に声を掛けていた。

 それぞれが準備を進める手を止めて東に視線を向ける。

 

「はい」

「俺はあんまり。そもそも、俺人に教えるなんてできませんし?」

 

 荒船とは対照的に乗り気ではないと言った感じの零に東は苦笑いを浮かべる。

 

「だからだよ。今後の為にも少しでも人に教えるって事に慣れていた方がいいだろ?」

「そりゃあ、そうなんでしょうけど………」

 

 基本的に感覚派の零にとっては物事を理論立てて話すことは苦手である。それの最たる例がメノエイデスでの訓練である。

 そんな不安を感じ取ったのであろう。何と声をかけたらいいのか、と荒船は頭を悩ませる。

 だが、ある程度わかっていたのだろう。東はなるほど、と頷きながら呟く。

 

「だったらまずは風切の狙撃についてどう言う所を意識しているか挙げてみよう」

「て、言われても基本的にちゃんと狙えば当たるんですから意識も何も………あぁ、いや、俺引き金引く時にちょっと跳ねる癖あるんでそこだけ気を付けてますね」

「だったらその治し方を教えてやればいい。お前の癖が他の隊員には無いとは限らないだろ?」

 

 なるほど………、と呟きながら零はメモを取る。

 

「後、零さんは洞察力がありますから他人の癖を見抜けるでしょ」

「どうだろうなぁ………。戦いの最中なら何とかしてやらん事もないが如何せん平時だからなぁ」

 

 荒船のアドバイスにそろそろ来るであろう新入隊員たちにどう教えたら良いだろうか、と思いを馳せる。

 

「まぁ、最初は武器の説明からだし気負わずやろう」

「うす!」

「はいはーい。みんなこっちだよー」

 

 零が東の号令に気合いを入れ直した所で新入隊員を引き連れた佐鳥が訓練場へと入ってくる。

 訓練場の広さに驚いているのか、時折「広………」「ここ本当に建物の中かよ」などと小声が聞こえてくる。

 

「今回の狙撃手(スナイパー)志望は………七か」

「あの………八人です」

 

 佐鳥が人数を確認していると新入隊員たちの裏から手が伸びてひょこっと少女が顔を見せる。

 その顔に零は見覚えがあった。玉狛の雨取千佳だ。

 

「おっと!女の子を見逃すとは!ごめんごめん、八人ね。じゃあ、こっちは四人いるし二人ずつ担当しましょう」

 

 佐鳥の提案に各々が首を縦に振る。

 その結果、零が担当することになったのは二人の少女。

 

「夏目出穂っす!よろしくお願いします!」

「雨取千佳です。よろしくお願いします」

「はい、よろしく。俺は風切零ね。えーと………」

 

 さて、まず何から説明したものかと他の三人に視線を移す。

 三人ともまずは新入隊員にイーグレット狙撃体験をしてもらっている様だ。

 

「じゃ、じゃあまずは二人に狙撃の体験をしてもらおうかな?」

 

 何だか、煮え切らない零の喋りに夏目は本当にこの人大丈夫?と訝しんでしまう。

 しかし、仮にもここで訓練を見ていると言う事は実力は確かなのは間違いない。そう思うことにしてイーグレットを手元に出す。

 位置に着いた夏目はスコープ越しに的を覗く。

 その席は零の視線が突き刺さる。

 

「あの………そんな見られるとやりにくいっす」

「え?あ、ごめん」

 

 荒船のアドバイス通りにまずは自由に撃たせて姿勢やら何やらを観察するつもりであった零からすれば思わぬ指摘。

 なるほど、見過ぎもダメなのか、と心に刻みながら放たれたイーグレットの弾の着弾点に視線を向ける。

 ボタンで的を近づけると、端の方が抉れている的が三人の目に映る。

 

「初めてにしては上出来上出来!んじゃ次は雨取」

「は、はい!」

 

 ショックを受けている夏目を慰めながら次に雨取に撃つように指示を出す。

 零の指示通りにイーグレットを構えた雨取だったがふと、顔を上げる。

 

「あの………撃った後走らなくて良いんですか?」

 

 その質問に零だけでなく近くで別の二人を見ていた荒船も呆気に取られた様に雨取を見る。

 玉狛でよく寝泊まりする零にとって、雨取は知らぬ仲ではない。雨取を含めて三人の目標も知っている。

 そして、彼女の師匠が木崎レイジであることも既知の情報だ。

 だが、しかし零は木崎がまだ雨取に射撃訓練しかさせていないと思っていたのだ。

 

「えーとな、雨取。今は射撃訓練だから走らなくて良いんだ。それはもう少し後でやるからな」

「あ、はい。すいません」

 

 雨取が恥ずかしそうに頭を下げて的へと向き直す。

 

「あの、少し質問いっすか?」

「ん?どうした?」

 

 雨取の射撃フォームを確認していると、夏目が手を上げながら零に話しかける。

 

「その、狙撃手って隠れて撃つのが仕事ですよね?走る必要ってあるんっすか?」

 

 夏目の質問にふむ、と口に手を当てて考える。

 確かに初心者にとっては意外かもしれない。

 

「そうだな………。例えばがビルの屋上から狙撃手(スナイパー)が一発撃ったとするだろ?君はそれを見てどう思う?」

「どうって………、狙撃手(スナイパー)がそこにいるなくらいしか………」

「そう。すると狙撃手(スナイパー)は一気に距離を詰められる。流石に至近距離に来られたらどうにも出来ない。そうでなくても位置を知られていたら簡単に弾は防がれる。だから位置を変える為に走るんだ」

 

 なるほど………!、と納得した夏目の様子に安堵しながら雨取が撃った的を近付ける。

 真ん中とは言えないがちゃんと的には当たっている。仮にこれが人であればまず間違いなく落とせる位置だ。

 

「流石雨取。レイジさんとの練習の賜物だな」

 

 雨取の頭に手を伸ばそうとして、零はグッと堪える。流石に公私混同だ。雨取への贔屓と取られかねない。

 それから交代で何発かイーグレットを撃ってもらい、零は話を切り出す。

 

「よし。射撃にもちょっとは慣れてきた所で少し武器の説明をしようか」

 

 夏目のイーグレットを借りて射撃位置の机に置くと、自分のトリガーからライトニング、アイビスを取り出してイーグレットの隣に並べていく。

 

狙撃手(スナイパー)の武器は三つ。さっき二人に使って貰っていたイーグレット。射程距離重視の万能型で他の奴も大体こればっか使ってる。で、その隣のがライトニング。威力はそんなに無いけど弾速は速いから当てやすい。最後がアイビス。威力はこの中で一番あるけど弾速は遅いから当てにくい」

 

 じゃあ、二人にもそれぞれ撃ってもらおう、と零は雨取にアイビス、夏目にライトニングを手渡す。

 だが、この時に気付くべきだったのだ。

 

「それじゃあ行ってみよう〜」

 

 雨取のことを知っていたのだから。

 

 ズドッ!!!

 

 トリオンが異常に多く、イーグレットを撃てば半日以上撃ち続けられる雨取が威力重視のアイビスを撃ったのならどうなるかくらい。

 

「そ、その………。ご、ごめんなさい………」

「───────」

 

 とんでも無い風圧、目が眩むほどの閃光、何より到底アイビスから出ない様な狙撃音と言う名の轟音。

 まるでスタングレネードを食らったかのように放心していた零の目の前に広がる光景はさながらモーセに割られた海の如し。

 その奥からは外の光が差し込んでくる大穴がしっかいとご開帳してしまっている。

 静寂は犯人を突き刺すかの様に二人を囲んでいた。

 

「や───、やっちまったァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 その静寂を打ち破るかのように零の悲痛な叫び声が訓練場に響き渡った。

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