「んで、あの後鬼怒田さんが来て大目玉喰らってさ、ちょっと凹んだ」
「何やってんだお前」
ボーダー外壁ぶち抜き事件の次の日、零は自分を励ますために(無理矢理引き摺ってきた)弓場を連れて寿寿苑で肉を囲んでいた。
事件は一日経たずにボーダー中の知るところとなり、ボーダー中が騒然としていた。
パクリ、と肉を食べながら弓場は更に続ける。
「まぁ、昨日の騒ぎはそれだけじゃあ無かったみたいだがなぁ」
その言葉に焼けた肉を皿に入れて行く零の手が止まる。
「あぁ………風間さんの件ね」
壁ぶち抜き事件と同じ頃、別の場所でも事件が起きていた。
あの風間蒼也がB級に上がりたての隊員との練習試合で引き分けたと言うのだ。
「名前はなんて言ったか。確か………」
「三雲修だろ?最近玉狛に移籍した」
さらり、と答えた零に弓場は眉を顰める。
「そう言えば、お前玉狛にも部屋があったよな?もしかしてその三雲って奴と」
「知り合いだな」
なんて事ない様に零は焼いたホタテを頬張ってカルピスを喉に通す。
この噂話にあまり興味が無かった零ではあるが、三雲修を知っている彼からしたらまず引き分けるなんてあり得ない。
それが出来たとするならば、何回もの試合でやっと引き分けをもぎ取れた、と言うところだろう。
「玉狛にも、気合い入った奴がいるみてぇだな」
「───そうだな」
一シーズンのうちにA級部隊になり遠征に行くと言う様な男だ。それくらいの気合いは出して守らなければ困る、と思いながらふと、眉を顰める。
何故今自分は三雲の事を後方師匠面で語ったのだろうか。
「どうした?」
「いや、何でもない」
変な考えを振り払い、零はお待ちかねのギアラに手を付ける。東と来た時に勧められて食べてみたらハマってしまったのだ。
そんな零を見ながら弓場はそういや、と話題を変える。
「最近また出始めたらしいぞ、例のアレ」
「アレ?」
弓場の物言いに零は首を傾げる。
「一年くらい前に噂になってただろ、訓練室の
「─────あぁ、アレね」
訓練室の
その暴れっぷりはまさに
「ありゃ太一の見間違いじゃないのか?」
「あぁ。次の日にC級の訓練で使ったらしいんだが記録が残ってたらしいぜ」
零の反論に弓場は否定しながら続ける。
「諏訪さんと堤さんがその時の担当だったから間違いねーよ」
「ふむ、あの二人なら間違い無いか」
すいません、と店員を呼び肉の追加注文をしながら二人は次の話題へと移る。
「そう言えば、噂話で思い出したんだけど近々大規模侵攻があるって上層部では専ら騒ぎになってるらしいな。そこんとこ、お前はどうなんだ?B級とは言え、遠征組だろ」
「さぁな。そう言う話は耳にするけど俺が直接何かに関わってるわけじゃ無いし。ただ、迅はまた何か暗躍してるらしい」
「あぁ………。この前迅にシフトについて話を聞かれたな」
何を考えているのだろうか、と互いに顔を合わせて考えてみても、やはりわかるわけではない。
そんなことより、と零は少し身を乗り出して口を開く。
「俺今度城戸司令に飯ご馳走しようと思ってるんだけど何かいい誘い文句ない?」
零の相談に弓場は目を白黒させて言葉を失った。
弓場?と心配そうな零の声色にようやく意識を取り戻して弓場が答える。
「また、何でそんなことを?」
「最近一緒に飯食ってないなぁ、て思ってさ。ほら、思い立ったが吉日って言うだろ?」
ぶっ飛んでいると言うのか、何というのか、高校の頃からクラスメイトだった弓場には慣れっこだと思っていたが、どうやらまだ先があったらしい。
「俺だけじゃあいい案も浮かびそうにねぇな」
「そっかぁ。ならザキと嵐山も呼ぶかぁ」
そう言って携帯をいじり始める零に弓場は視線を送る。
そんな顔を見て思い出されるのは迅がシフトについて話に来た時のことだった。
迅は言った。
『何人かには言ってることなんだけど、この先弓場ちゃんは選択を迫られる。その選択によっては犠牲者が出るかもしれない。だから、しっかりと選択して欲しい』
いつもより真面目な迅の忠告。
当然、弓場も訪ねた。
『その選択とやらで、何が起こる?』
『そうだなぁ………。あんまり言うべきじゃ無いんだろうけど』
ゆっくりと、顔を上げた迅が答える。
『零がボーダーから居なくなる』
それだけ言うと、迅はそのまま何も答えずに立ち去ってしまったので心意はわからない。
例えば女子の尻を追いかけてセクハラする様な迅であっても、嘘でこの様な事を言わないのは知っている。
「あん?どした?」
電話を終えた零が弓場をじっと見つめる。
「いや、何でもねぇ」
眉を顰める零を他所に、弓場は誤魔化し混じりに烏龍茶を飲み干した。