・・・・・・・・一年前。
綾辻が少年と出会い数日が過ぎた後、運命の出会いは再び、突然に起こった。
それは綾辻がクラスメイトである宇佐美栞と廊下を歩いている時だった。
「でね~、その時陽介がミスってお尻に槍を刺しちゃって・・・・」
「大変そうだね」
宇佐美の幼馴染みである米屋陽介が、今ボーダーで有名な目付きが怖くてA級のスカウトすら断っていると言う問題児の風切零と個人戦をしているときの恥ずかしエピソードを聴きながら、綾辻は先日会った名前を知らない少年の事ばかりを考える。
ナンパから助けてもらった後、どうやら少年は綾辻ではなく彼女の足元に落ちていたカルピスを見ていたようで、「俺のカルピスが・・・」としょぼくれながら立ち去ってしまったことにより名前も聞けずにいた。
『弓場テメェ!
『上等だコラァ!』
そんな中、聴こえてきたのだ。
廊下に響いてくるほどの大声で喧嘩を生達の声が、高校三年生と言う最高学年の教室から。
「何かね何かね?」
宇佐美が興味本位に教室を覗きに向かう。
目を付けられたらダメだと思い、宇佐美を止めるため綾辻が扉の隙間から覗いている宇佐美の肩にかけると扉の隙間からチラリと見えた喧嘩をしている生徒の片方に目を奪われる。
「俺が狙ってた最後の一個のパウンドケーキ取りやがって!」
「あ"ァ?このパウンドケーキは俺が買ったもんだろうが!」
彼だ。
自分を助けてくれた少年。
「歳上だったんだ・・・・」
綾辻の呟きを聞き逃すことなく、宇佐美がぐいっと顔を綾辻に向けて目を輝かせながら近付いていく。
「お!?知り合い?話からして風切先輩の方かな?」
「風切・・・・」
その名を聞いて綾辻は更に零に目を向ける。
あの少年がA級隊員をミスさせて尻に槍を突き刺した、そんな悪意の塊のような人間なのだろうか?
自分を助けてくれた時の少年を見ればそう言う風には、綾辻には見えなかった。
ただ少し手の方が先に出て口が悪く、目付きが悪いだけの甘党中学生詐欺高校生なだけで、噂ほどの人間には見えない。
「風切せんぱーい!」
「栞ちゃん!?」
零に向かって手を振る宇佐美を見て目を見開く綾辻。
宇佐美に気付いた零が先ほどまで喧嘩していた弓場と呼ばれていたヤクザ風の男から目を離して宇佐美に近付いていく。
「どうした?三年まで来て」
「それはこっちのセリフだよー!何で弓場さんと喧嘩してるの?」
「あ?んなのあいつが俺のパウンドケーキを先に買いやがったからだよ」
「よし、じゃあ暇だね」
「え?」
「それじゃあ行こー!」
零の有無も聞かずに宇佐美が零を引っ張って連れていく。
綾辻も後を追おうとして、扉の前で零の行方を眺める弓場に一度頭を下げて二人の背中を追い走り出した。
◇◆◇◆
屋上に連れてこられた零とついてきた綾辻を置いて「じゃあ後は若いお二人で~」とまるでお見合いの親のような台詞を吐き捨てて屋上から去っていく。
途中でガチャッと言う音が聞こえた気がするが二人とも多分気のせいだと言うことにしてお互いの顔を見る。
「あ、あの・・・・。先日はありがとうございました」
「先日?」
零は少し考える素振りを見せてあぁ!、と何かを思い出したかのように綾辻を指差す。
「お前、この前ナンパされてた奴か」
「はい」
それ以降の言葉が詰まる。
ほぼ初対面の人間だから当たり前なのだが、そんなこと零には関係がない。
制服のポケットに突っ込んでいた潰れたいいところのどら焼きを出して二つに割る。
「・・・・・・食うか?」
「・・・・・・いただきます」
潰れてつぶあんが出てきてはいるが、それでもいいところのどら焼きだけあって美味しい。
どら焼きを食べながら零は校庭でサッカーをしている生徒を見る。
「で、お前の名前は?」
「綾辻です。綾辻遥」
「綾辻?・・・・・あぁ、嵐山のとこの」
「嵐山さんを知ってるんですか?」
「同期だしな」
あ、そうだ、と続けて綾辻の方を見て先ほどどら焼きを出したポケットと逆のポケットから今度は潰れた饅頭を取り出して綾辻に渡す。
「今度さ、俺風間隊と練習試合するんだけどオペレーター居なくてさ。頼まれてくんね?嵐山には俺から頼んどくからさ」
手を合わせて懇願しながら今度は上着ポケットに入っていた棒つきキャンディを口に咥える。
この少年はいったいいくつおやつを居れているのだろうか?そう思いながらも綾辻はこれは良い機会だと思った。
この少年の本性が何なのか、ずっと気になっていたそれを確かめる機会。
だからこそ、綾辻はコクリと頷く。
「分かりました」
「マジで!?うっし!」
よほど戦いが好きなのか少年はガッツポーズを何度も行う。
綾辻の肩を持って空を指差す。
「これで俺のフリーライフは護られる!」
言っている意味は綾辻には分からなかったが、少なからず肩を持たれても悪い気持ちはしなかった。
ちなみに宇佐美に閉められた屋上の鍵は綾辻のクラスメイトの氷見亜季により救出され、後に捕まった宇佐美は「綾辻ちゃんの恋路を手助けしたかった」と供述していた。
◇◆◇◆
そして、翌日。
「まさか零にオペレーターを頼まれるなんてな。頑張れよ綾辻」
零と風間隊の練習試合当日の零と綾辻の待機室に嵐山隊の隊長の嵐山が訪れていた。
見た目は完全にイケメンでS級隊員の迅悠一とは双子説が密かに囁かれてはいるが、実際は彼と同じ玉狛支部の小南桐絵とは従兄弟と言う関係である。
「はい。ありがとうございます」
「零は誤解されがちだけど結構良い奴だから安心しろよ」
「それは・・・はい。十分分かってます。でも・・・・」
綾辻の顔を見て嵐山が少しだけ笑って近くにあった椅子に座る。
「大丈夫だ。零の戦いを見れば綾辻もきっとそう思う」
パソコンで零の試合履歴を確認しながら考える。
映像にはとても善人がするような笑顔は浮かべず邪悪な笑みで弧月を振り回し、スコーピオンと
「よーし、やったるZOY」
少し、いや、かなりふざけながら待機室に入ってくる零を見て到底映像に映る少年と同一人物とは思えない。
「先輩」
「ん?」
綾辻が零を呼ぶと零は緩い顔をしながら綾辻を見る。
「その・・・・・・頑張ってください」
「・・・・・・・・・」
綾辻のその言葉になにも答える事はなく、零は再び綾辻から顔を反らすとなにも言うことなく自分のトリガーを私服のポケットから取り出す。
「じゃあ、俺は観戦席で見てるよ。零、頑張れよ」
嵐山が待機室から出て、再び綾辻は零を見る。
零は嵐山の言葉にも答えることがなく深く息を吸って吐いている。
まだ顔は見えないが、少なくともさっきの雰囲気はなくなっていた。
「トリガー
その言葉と同時に零はC級隊員の隊服の黒色バージョンのデザインのトリオン体へと入れ変わる。
「綾辻」
「は、はい!」
先ほどまで何も言わなかった零が不意に綾辻の名前を呼び、驚きながらも返事をする綾辻。
ようやく、先ほどまで見えなかった零の顔が見える。
「頼りにしてる。頼んだぜ」
「・・・・・・・はい!」
◇◆◇◆
こうして、零対風間隊の練習試合が始まった。
先ずステージ選択権は戦闘員が一人しか居ない零の方にある。
そして、彼が選んだのは市街地B。
旋空弧月が活きる建物の多いイメージのステージだ。
次にステージへの転送だが、これだけは完全なランダム。
それぞれが一定の距離を離されて転送される。
零が転送されたのはステージの真ん中。
つまり・・・・・。
「うげ・・・・。囲まれてる」
『どうしますか?』
脳内に綾辻の声が聴こえうーん、としばらく唸ってよし!と声を上げる。
「どうせ向こうは先に合流を目指すだろうし、こっちはできるだけ離れて罠を作る」
◇◆◇◆
「・・・・・・と、風切なら考えるだろう」
そう、風間隊の隊長である風間がレーダーを見ながら考察する。
『ならどうします?このまま合流を優先すればあの面倒臭い罠張られ放題ですよ?』
そう言うのは菊地原士朗。
零と個人戦をするときには毎回と言って良いほど罠に嵌められて負けるので、結構零を嫌っている。
しかし、それでも罠に嵌まるのは三回やれば一回の確率で勝率的には零には勝ち越している。
『なら、今一番風切先輩に近い人が足止めしてる間にそこに合流するってのはどうよ?』
『・・・・俺が一番近いじゃないですか』
オペレーターである宇佐美が案を出し、歌川遼が驚きながらいけるかなー、と心の中で呟く。
歌川もまた零のことは嫌いではなかったものの苦手ではあった。
個人戦で延々と鉈の形にしたスコーピオンをウッディウッディ叫びながら振り回してくるので若干トラウマになっている。
理由としては「宇佐美がウッディって呼んでたから」らしいが、それは否!
宇佐美は歌川のことをウッディではなく、うってぃーと呼んでいる。
聞き間違いでトラウマを植え付けられた歌川にはもう哀れとしか言いようがない。
「いけるか?歌川」
『・・・・・まぁ、何とかやってみます』
「頼んだぞ」
◇◆◇◆
てな、感じの作戦立ててるんだろうなー、等と思いつつ零はとりあえず風間隊の包囲陣から抜けるために南に走る。
一番近いのが誰かまでは零には分かっていないが、少なくとも自分に罠を張る時間を与えないようにするには自分ならそう言う作戦を立てる。
綾辻に話した時点ではそれは思い付きはしなかったが今レーダーを見て全員が自分に向かってきていると言うことはそう言うことなのだろう、と予測する。
唯一つ予想外だったのが・・・・。
(思った以上に雪が深いな・・・。風間隊のカメレオン対策だったがこっちの足がうばわれちまう)
今回のステージの天候は雪。
菊地原が陽動をして、風間と歌川がカメレオンで隠れてその隙をついて攻撃する風間隊の戦術対策ではあったが、今それが零の動きを鈍くしているのだ。
(だが、それは向こうも同じはず・・・)
そう考えていると零から見て右の家屋の屋根からザクッと言う音がなる。
「こちら歌川。これより風切先輩と交戦を開始します」
「ウッディ!」
歌川を確認した零がスコーピオンで鉈を形成し、先ほどまでとは違う狂ったような形相で歌川に襲いかかる。
「うわっ!?」
「ウッディウッディウッディウッディウッディウッディウッディィ!」
間一髪で歌川がスコーピオンで防ぐが更に何度も鉈の形をしたスコーピオンを振り下ろす。
「ッ!一撃一撃が重い・・・・!」
「ウッディ!」
零がスコーピオンを大きく振りかざしたのを見てその隙に後ろに跳び、
空中で、しかも狙いもぶれていたので当たりはしなかったが回りの雪を巻き上げて零の視界を奪う。
この隙を逃さずに歌川は屋根に着地すると更に
「ウッディ!」
しかし、零は
歌川に零が飛び掛かってスコーピオンを振りかざし、歌川がガードの為にスコーピオンを横にするがあっさりと真っ二つにされ、それでも零のスコーピオンは止まらずに歌川に襲いかかる。
「よくやった歌川」
しかし、零のスコーピオンを持っていた左手が歌川に当たることなく雪に落ちる。
「・・・・・時間切れ、かな」
歌川と戦ってるときとは打って変わって冷静な顔で零は自分の腕を切り落としたであろう
「ここからは三人でやるぞ」
至って冷静に、されど語気を強めに歌川にかける一般的にチビな零よりも身長が低い男、風間蒼也がそこに立っていた。
・・・・・・・うん。
主人公がサイコパスに見えてしまう不思議。
戦闘描写苦手すぎて泣きそう。