Fate/Grand Order 最終章3部作 作:超ローマ人
「ストームボーダー、七番目のロストベルトに突入!」
そのように号令するのは、小さな船長であった。彼は小さいながらに虚数空間を渡ることが出来る巨大船=ストームボーダーの持ち主である。
「おい、リツカ!トレーニングばかりしてないで安全のためのシートベルトを」
「大丈夫さ、虚数空間による振動ぐらい。これに怖じけついたら、最後の異聞帯サーヴァントにも勝てやしない。」
そう言いながら煙草を吸っているのは人類最後のマスター=藤丸リツカであった。彼は今までに6つのロストベルトを滅ぼした。時には敵とはいえ人を殺めたことに罪悪感を抱きながら、あるときは後輩であるマシュ・キリエライトを狙う敵を直接屠りながら。
さらに藤丸は続けて言う。
「俺たちを逃がしてくれたホームズのためにも、死ぬ気で挑まなきゃならん。」
一方で、7つ目のロストベルト内では。
「こんなものか、氾人類史のサーヴァントとやらは。」
「もう奴らの8割は冥界に送ったわけか」
サングラスをかけた男が手の甲に令呪を宿す男と話す。
「あとは招かれざる客を出迎えるだけだな。」
「あぁ、俺はここの王と話す。あとは頼むぞテスカリトポカ」
サングラスをかけた男をそう呼びながら、マスターはジャングルの暗闇へと消える。
「生い茂るジャングルの森……恐竜。なるほど、ここが最後のロストベルトか……。」
藤丸リツカはストームボーダーの屋根から周りの景色を見回す。大きな鱗だらけの体を持つ怪鳥や蜥蜴の顔をした鳥──さらには首が長い四つ足の巨大な獣もいた。
「まるで恐竜時代だな。」
藤丸は首からぶら下げた本が喋る言葉に耳を傾けた。
「それで、マスター。こちらに近付くデカイ気配には気付いているな?」
「勿論だ、アークさん。しかもこの気配はサーヴァント!霊基が何かの力で無理矢理変化させられているな。」
魔導書・アークミネルバことアークさんとコミュニケーションを取りながら森から出てきた巨大な黒緑色の手を白い鎖で縛る。
「マスターの見立て通り、こいつは誰かに霊基を書き換えられたサーヴァントだ!クラスを変えるってよりかは別側面を無理矢理引き出されたイメージ……つまりオルタ化だ!」
オルタ化とは、サーヴァントの別側面つまり心の闇を表に引き出したような状態だ。その特徴を持つサーヴァントはどのように気高くとも凶暴で悪質な存在になる。
「本体はこの森の下みたいだな!このまま引っ張る!巨大サーヴァント一本釣りだ!!!」
巨大な腕がもう一本ストームボーダーを叩きつけようとする。
「シルバームーン!パイシゥーバインド・錦蛇!!」
藤丸は白いソードブレイカー型の剣を取り出すと、そこから白い鎖をもう一束出現させる。その鎖は蛇のように締め付け、敵の攻撃を無力化した。
「変身しないでいけそうか?」
「いや、この大物はキツイ。」
「あい、分かった。書庫<アーカイブ>に接続するぞ。」
その瞬間、藤丸の体は赤と紫の炎を纏った鎧に包まれた。
胸にはドラゴンの意匠が施されている。そして、その体になった藤丸は3トン以上もの体重を持つモノすら持ち上げるほどのパワーを発揮する。
「そら!サーヴァント一本釣りぃぃ!!」
腕の持ち主は空へ放り投げられ、再び森へ打ち付けられた。
「痛ぁい!!」
「手荒くなるが我慢してくれよ?」
山のように大きな体の少女の悲鳴を聞きながら、藤丸はその鎧を一瞬にして紫に染める。この紫の姿はガーディアンメイガスモードと言い、スピードだけではなく魔力の操作にも長けている。つまり、少女のオルタ化を治そうとしているのだ。
「霊基はここか……かなり汚染されてるがそこまで時間は経過していない。修復出来るな。」
巨体の心臓付近に手を翳すとそこから傷を包み込むような優しい光を発する。少女の暗い色の体はみるみるうちに明るさを取り戻す。その身長や敵意はみるみるうちに縮小していった。
「かなりの魔力を使ったな、マスター。」
「魔物の干し肉を持ってるから平気だ。」
透明パックから干し肉を取り出し、それを食べると通信でストームボーダーに通信を行う。
「こちら藤丸。ストームボーダーは無事か」
「あぁ、無事だ。ご苦労だった。」
「ゴルドルフ所長、俺はこのサーヴァントの目が覚めたら契約を試みる予定です。」
藤丸の通信相手であるゴルドルフ所長はその丸い体の背筋を張りながら、彼に忠告する。
「貴様が言うのならそのサーヴァントは契約して大丈夫なのだろうな。」
「あと、所長。もし、私が負けたり私からの生体反応が消えた際は……逃げてください。」
「縁起でも無いことを言うな!死んでも生きて帰ってこい!!」
「すみません、しかしこれは命のやり取りです。このことは覚悟してください。」
「まぁ、落ち着けよオッサン。てなわけで、頑張ったら一緒に酒呑もうな、リツカ!」
「あぁ」
ここで藤丸は通信を切った。
「さて、一狩り行くか。」
「あれ──?わたしは確か─」
「やっと起きたか。先ずは食事でもするかね?」
「えっと、サーヴァントに食事は─」
「分かってる。けど、こうしないと気が済まないんだ。仲間を守るためとはいえ、君に痛い想いをさせたからね。」
藤丸はスープを入れた巨大な鍋を少女に差し出す。
少女は持ちあげ、飲み干した。
「美味しい。」
「お口に合ったようで嬉しいよ。俺は藤丸リツカ。見たことあるようなないようなサーヴァントだが、君は……?」
「き、キングプロテアと言います。その…先輩って呼んでも良いですか?」
「またコレか……おっと失礼。キングプロテア、よろしくな。」
これにて、キングプロテアとの契約は完了した。
夜の静かな木の根元に寄りかかるカルデアのマスターは煙草に火を付ける。足元には灰皿や空いた酒瓶が転がっていた。品の欠片も無いが、これが藤丸のストレス発散になるのだ。しかし、今回その酒瓶は影ひとつも無い。
最後のロストベルトにおいて自分がどうなってしまうか不安が拭えずにいたのだ。半ば人理復活を果たそうとする使命感。半ばカルデア職員を殺したクリプター及び異星側に対する復讐心で動いてきた。つまり、この闘いが終わったあとの自分に何の価値があるのか。自問自答を重ねていた。終わった後、自分が何をしたいのか。また、自分がカルデアの仲間たちと戻った際に何が起きるのか。それらの事柄を重ねた結果、一つの答えを得た頃には日は昇っていた。
「あーっ、折角考え纏まったというのに。」
「なら、寝ていてください。ここはわたしが見張っておきますので。」
「んー、すまない。キングプロテア。その厚意は有難い。」
灰皿をしまい、藤丸は寝袋に入った。
「──ん!」
藤丸が光に対する違和感を抱いたのは寝袋に入ってから数分後だ。
「先輩?どうかしましたか?」
「伏せろ!キングプロテア!!」
槍のような光がキングプロテアに降り注ぐ。それを守るように藤丸は紫色の外套を纏った姿になり、光の盾でこれを防ぐ。
「ロー・アイギス!!」
五番目のロストベルトで授かったアイギスの盾を使った。この強度はAランクの攻撃にも耐えることが出来るほどだ。
「こ、この気配は…神性!それに──」
そこにはクールな雰囲気を醸し出す女とサングラスをかけた金髪の男がいた。
「ストームボーダー!応答せよ!敵サーヴァント二体出現!1体は神性サーヴァントもう一体は!グランドだ!!ヤツのやっていることを認めたくはないが、この魔力反応は冠位のそのものだ!逃げろ、ストームボーダーぁぁ!!」
藤丸の通信機はサーヴァントとの白兵戦で散り、辛辣な雨が降り注ぐ。
「嘘だろ嘘だろ嘘だろ!?なんて通信寄越してるんだリツカはよぉ!」
「サーヴァントの反応が今ごろ出た。恐らく片方はアサシンクラスか」
「ネモ!早くここから移動するぞ!」
「それには10分かかる。」
「くそぉ、動け!動くんだよこのポンコツぅ!」
「暴れるぐらいなら手伝え、ムニエル!!」
ストームボーダー内が荒れるなか、雨のジャングルでは藤丸とキングプロテア対二人の異星サーヴァントの闘いが繰り広げられていた。
「うぅ~!動き回らないでよぉ!」
「動かなきゃ当たるでしょ、ね。」
「なんだ、こんなものか?カルデアのマスターの実力とやらは。」
「何、まだこれからさ。」
リツカは強がっては見せたが、目の前の男は今の彼の数段強かった。
「遠距離攻撃は当たらないが、近接は強い。なら遠距離に強いガーディアンメイガスモードでその弱点を突く。」
紫の姿になった藤丸だったが、その姿以上に相手は素早かった。
「速い!!」
ナイフで鎧ごと胸に傷が付く。瞬時に二つの夫婦剣を使った防御をしたが、それらは砕け散っていた。
「傷を浅くしたか、良い判断力だ。しかし、その姿は直接攻撃に弱いようだな。」
「はぁ……はぁっ!まだだ!」
この時経過した時間は僅か1分であった。
ストームボーダー発進まで残り9分──
自分たちが時間を稼ぐには、どうしたら良いか。藤丸は闘いながら考えた。その結果、禁じ手を使うことを決意した。メリケンナックル型の武器を取り出したのだ。
「待て!マスター!相手はグランドだぞ?その力とは相性が!」
「悪い、アークさん。相手のパワーを考えたらコレしか!コレしか無いんだ!!このメイガスモードでも駄目なら尚更だ!!アワリティアモード!!!」
メリケンナックルを封じていた南京錠に鍵をはめて抉じ開けた。彼の身体は血と炎に包まれ、赤い龍と人を混ぜたような姿となった。
「邪龍アワリティアの力を宿したか。流石は汎人類史。邪道に歩きながらも闘い続けた結果がコレか。」
「人類悪が人類に対して牙を剥くって決めつけるな……!」
荒々しい息をあげながら、龍人は豪腕をふるった。
その拳は初めてサングラスの男の頬に傷をつけた。
「ぬぅ!!」
「テスカトリポカ!」
キングプロテアを抑えていた女が隙を見せた。テスカトリポカは女にとって重要な存在であることを二人は悟った。
「やっぱり気に入らねぇなテメェらぁぁ!!」
「先輩が…怒ってる。やっぱり、悪い人たちなのね。」
キングプロテアの瞳にも炎が燃え移る。
その炎は女神すら飲み込もうとするほどだ。
「くそ!厄介だ!トラロックはそのままその巨大女を抑えておけ!!」
「敵から目を背けるとは、かなり余裕だなぁ!!?グランドサーヴァントさんよぉ!!」
藤丸は全てを焼き尽くすような炎を放ちながら、テスカトリポカを森の一部ごと吹き飛ばした。それを可能にさせたのは邪龍の炎と腕力の合わせ技であった。強化を受けたサーヴァントであれど重傷は避けられない。しかし、テスカトリポカは軽傷で済んでいた。
「なんだと?!」
「惜しかったな、良い筋をしてたぞ。では、こちらの番だ。」
ストームボーダー発進まであと1分30秒───
「少し焦らせてきたが、こんなものか。」
そこに広がった光景は、倒れた藤丸と拘束されたキングプロテアであった。
「そ、そんな……」
「テスカトリポカ様、この男……」
「あぁ、分かってる。ここで止めを」
「まだだ!まだ終わってねぇ!」
藤丸は身体中を血に染めながらも立ち上がる。
「何故だ、何故立ち上がる。」
「俺は──人理修復の任務を背負っているからな。」
人類最後のマスターは赤い刃を取り出した。
その刃は妖気を放ち、敵対者の血に飢えているようであった。
「その刃は…?」
「"ブラッディムーン"だ……!」
「そのようなモノで俺を倒し、ストームボーダーを逃がせるとでも?」
「あぁ、出来るさ。テメェのサングラスもついでに割ってやるぜ。」
藤丸は敵を挑発する。見え見えだが、乗らせることが目的であった。
「まぁ、くだらない挑発に敢えてノッてやるよ。」
両者は睨み合ったまま20秒が過ぎていた。無言で二人がぶつかり合い、地面に倒れたのは───
「勝負あり、ね。テスカトリポカ。」
「あぁ、今度こそカルデアを殲滅す──」
異星のサーヴァントたちが勝利を確信したとき、彼らの肩や足から血が吹き出す。その勢いは消火栓から水が放出されるようなものであった。
「なんだと!?」
「!?」
地に体を打ち付けながら、まるでミイラが喋るような低い声でカルデアのマスターは喋る。
「へへ……只で倒されると思ってたのか?あの攻撃は何もテスカトリポカを倒すために撃ったんじゃない。時間を稼ぐためだ。お前らはそれに気付いていながらも油断したな!」
敵が焦りを見せるなか、藤丸は続けて言った。
「なぁ、今の気分はどうだ?グランドにすらなれていない、ちっぽけな人間に出し抜かれる気分はどうなんだ?あぁ!?」
「貴様ぁ!!」
トラロックは火と水で出来た石の巨人を使い攻撃した。しかし、霧が立ち込め目標を失った。そして、大きな船が浮上し空を飛ぶ音が響いた。つまり、ストームボーダーは再発進を果たしたのだ。
「しまった!」
「この霧はグランド候補のヤツか。仕方ない、ここはずらかるしか無いようだ。」
行方不明となった藤丸リツカの安否はいかに?
次回、最終章三部作、第二部 『冠位の資格』に続く