Fate/Grand Order 最終章3部作 作:超ローマ人
「負けた…よな?俺に力があれば…いや、それだけじゃなかった。作戦はどうだった?半ば勢い任せであったような気がしたぞ……?」
人類最後のマスター・藤丸は思い出す。自分達の拠点となった彷徨海が異星の神に襲撃され、ある味方サーヴァントが犠牲になったこと。シャーロック・ホームズ。人理修復の頃からカルデアの助っ人として現れたサーヴァントであった。彼の体術や観察眼にどれ程助けられたか。そして今回もまた……。仲間を救えなかった。このことが無意識に藤丸を焦りに駆り立てた。そのために、敵の奥の手を探らずにその時の行動ばかりに目を向けていた。結果的に、カルデア最後の砦となったストームボーダーを逃がすことが出来たがまたサーヴァントを喪った可能性が高い。このことに気付いたリツカは拳を強く打ち付ける。
「悔しい!悔しい!」
手元の砂を食べるように手を強く握る。その手には血が流れ、噛んだ皮膚からも同じようにそれは流れた。
「なんだ坊主。もう気付いたか。」
暗闇に火がつき、フードを被った男がいた。その声と背格好に見覚えがあった。それは最初の特異点である冬木市の聖杯戦争に巻き込まれた際だ。ルーン魔術が得意な姿となったクー・フーリンのそれに限り無く近かった。しかし、数々の闘いを繰り広げた藤丸は馬が遠くの落ちた針の音を聞き分けるようにその些細な違いに気が付く。
「あんた、何者だ?敵ではないのと、キャスタークラスのクー・フーリンに似ていることは分かるが……」
「ふん……そこまで判別できるか。じゃあ、俺の真名は?」
「分かりません。しかし、北欧の英雄……ですよね?」
「これが分からねぇとはまだまだだな。だが、良い線だ。これから受ける試練の条件は満たしてやがる。おい、この小僧に挨拶しておけ!!」
暗闇から再び人が現れた。
「よぉ、久しぶりだな。」
筋骨隆々の狩人が棍棒を地面に突き刺し、藤丸の肩を強く握る。その狩人は五番目のロストベルトでアルテミシアを模した兵器を沈めたアーチャークラスの冠位英霊だった。
「オリオン!」
次に現れたのは金色の翼も備わった鎧を身に付け強くも優しい目を向ける大男だ。それは最早一つの帝国を建設するに相応しい風格といえよう。
「貴様はどのような浪漫を求める?そして何を得る?」
「神祖ロムルス!?」
三番目に現れたのは、ストームボーダーの船長に似ているがそちらよりも背が高く中性的なこの世の者とは思えない風貌をした青年であった。藤丸は相手のあまりもの神々しさに黙りこんでしまった。
「………ネモ……??」
「否。ノアである。」
違うと分かっていながらも仲間の名を口にしてしまった藤丸は静かに窘められた。
「申し訳ございません。ノアってもしかしてあの方舟で有名な?」
「うむそうだ。君の言う"ネモ"とやらは私のデータや外見を一部複製して造られたモノに過ぎないと理解してほしい。」
「やはりここにも現れたか、人の子よ。貴様は勇敢だがそれは無謀と紙一重。そのために今回は破れたのだ、恥と思いこの試練で克服すると良い。」
獅子ですら背筋が凍るであろう死神のような風貌を持つ甲冑が蠢いた。彼はキャメロットやバビロンにて聖杯の祝福を受けた円卓の騎士や人類悪を攻略するための要となった。
「えぇ……こうしなきゃ人類史を救うことは出来ないので。」
「君はこの道を歩もうというんだね?藤丸リツカ。」
最後に現れた男は白く長い髪を生やしていた。その顔は仏像のように厳かだが包容のあるものだった。彼は重い体を引き摺るように長い布を揺らす。
「こんなところに居ましたか。"ドクター"………いや魔術王・ソロモンと呼ぶべきか。」
「あぁ、ここでは後者で良い。もう貴様の前でロマニーの姿を借りる理由も無くなった訳だしな。」
「挨拶は済んだようだな。先ずはグランドアーチャーの試練からだ。準備は出来てるか?」
オーディンの尋問に藤丸は毅然とした態度で答えを返す。
「この道を歩んだ時から出来ている。何故なら、俺は───」
「それは丁度良い」
一方、ロストベルトでは。
「たどり着いたは良いけど、カルデアの連中は何処よぉ!?」
森の中で襲ってきた恐竜を屠りながら叫ぶのは大きな巻き型の角を持った女であった。その女は人の形をしておきながらもその力は地球を白紙状態にするほどだ。これは比喩でもなんでもなく、ロストベルト以外の世界は白い砂漠のようになった。名はUオルガマリー。またの名を異星の神と呼ばれる、クリプターたちの首領格である。
「焦るな、Uオルガマリーよ。ここでの我々の狙いを忘れてはならん。」
目から光を失い不気味な笑いを浮かべる神父は異星のアルターエゴつまり幹部枠である、ラスプーチン。人の不幸を祝福する道化のような存在でありながらもその実力は高く、藤丸との決闘を何度も生き抜いている。
Uオルガマリーは眼くじらを立てながらラスプーチンに振り向く。
「何を笑ってる?!あのバリツ探偵のせいで時間を奪われ、カルデア一行を逃がしたのよ?」
「お忘れかね?このロストベルトにはあの生命体がいることを」
「………」
怪訝な顔を浮かべたオルガマリーだが、その顔がみるみるうちに明るくなる。そして、南の方へ歩を進める。
彼女に挑んだ様々な生物は瞬時に地に伏せ、そのたびに近くの木々が倒れていく。それから一時間ほどして、彼女は金属で出来た皮膚を持った生命にあう。それは針が付いた触手を伸ばし人の形をした恐竜から血を吸い続けていた。
「ORT。。アレを……取り込めば……!!」
外宇宙の獣は地に住み着いた金属生命体を取り入れるべくその命を削る。
「この鹿、速すぎる!」
「あたりまえだ、そりゃ俺が仕留めるのも苦労した獲物だ。ほら、焦って矢を放つのは愚作だぞ!?」
藤丸は紫色の外套と鎧を纏った姿と弓矢を装備して黄金の鹿を追った。これはオリオンから受けた試練であり、鹿は光の速度で走るので音速が限界である今の藤丸には難題であった。しかし、ここで引き下がるわけには行かなかった。そこで彼は大きく息を吸って相手の動きを思い出しながら矢を当てるように意識を集中した。すると、曲がるときに3秒ほど隙があることを思い出す。それは速すぎるゆえに曲がるときはブレーキをかける車のようだった。
わざと一矢を外した。そして密かに構えていたもうひとつを当てた。
「仕留めたな!これにて弓の試練は終わりだ!」
「次は槍……ロムルスの試練か。」
ロムルスとの試練、それは宇宙の理を知るモノだった。
「このような試練を決闘のなかで?!」
「そうだ。お前はこれをやらねばならない。」
「良いでしょう。この難題もクリアしてみせる。」
藤丸は赤と紫の炎の意匠を持つ鎧を装着し、黄金の皇帝に挑む。
「甘い」と一蹴されても起き上がり、突きだした腕から火炎を放射する。効かないことは分かっているのでその間に鎖を仕込む。
「なるほど、私を囲むよう動く鎖で捉えようというのか。」
「あぁ。名付けてパィシゥーバインド・ウロボロス!」
ロムルスは「面白い」と称賛を送るがその目はまだ認めていない。
瞬時に鎖から脱出し、光の槍を降り注がせる。
これをかわした藤丸の次の策は槍の間を最大限に活用したものだ。宇宙を表した絵の通りのポーズをゆっくりと構える。その動きはそれを完全に再現していた。
「……!その動きは……!!」
瞳に驚きと喜びの色を浮かべ、ロムルスはその力を解放する。
「攻撃に転じますか……ならっ!!!」
雷が藤丸の周囲に落ちる。そして彼を覆うように雷の大蛇が舞い降りる。それが合図かのようにロムルスは最大技=宝具を詠唱する。
「ならば見せよう、今ここで!」
「我らの腕は全てに届き、全てを裂き、全てを拓く。いずれ宙の彼方にさえも──」
藤丸は電光石火の一撃を加えるべく、白い剣に雷を纏わせる。そして、突き技をかけるように地を強く蹴る。
「喰らえ!!雷神龍の牙!!!」
「『我らの腕は全てを拓き、宙へ(ペル・アスペラ・アド・アストラ)』!!」
二人の声は同時に発生し消えた。光の輪・槍の雨そして雷の蛇神がぶつかるのも同時だった。
「……見事だ。カルデアのマスターよ。」
それが認められた者にのみ送られるべき言葉である。
「……ここは?」
「ほう、思ったより目覚めが早い。ライダーの間へようこそ。」
「ライダーの間……そうですか。ありがとうございます。」
グランドライダーことノアは船に100組の動物の番を乗せ、洪水から逃れることを試練とした。
動物たちは言うことを聞かずに暴れだしたものの、藤丸はこれを時間をかけて宥めた。残り1組となったところで彼は一組のカップルに話かけられる。
「あの~。ここで何を?」
「ここに洪水が来るんです。早くこの船に乗ってください。」
「え?動物と一緒に?嫌よアタシは。」
女性のほうは頑なにこれを拒否したが、藤丸は交渉を続ける。
「あなた方は洪水に巻き込まれて苦しんで死ぬか、この船で狭い思いをしながらも終わった頃には平和な暮らしをするか。どっちがいい?動物には人間に手を出さないようにしてある。これでも駄目か!?」
沈黙の苦情をいい続ける二人に「救いたい」という情をぶつける藤丸。そんな彼に根負けしたのか、男性が声を挙げる。
「乗る。」
「嘘でしょ?」
「君と過ごしたいんだ。どれだけ過酷でも。君と。」
「なら行く。これで良いんでしょ?」
藤丸は目を丸くしたがすぐに真剣な顔で頷く。祝福のオルゴールが鳴り響くとともに藤丸の目の前に広がるは黒く染まった。
「ここは……」
「貴様が今居るのは冥界だ。人の子よ。死に対する恐れを凌駕し、あのロストベルトの王を倒せ」
つまりロストベルトの王に見つかり、修行を中断されたことになる。しかし、それでもキングハサンはこれを逆手に取るべく発言したのだ。藤丸はどうやら異聞帯の敵として認知されているようだ。
「来い、異聞帯の王!」
「人間か。その血を啜ろう。このオレがな!!」
藤丸は褐色肌な男と対峙する。白い鎖で無力化を図るがそれは弾かれ、火花を散らす。気が付くと男の周りに複数の人影が出来ていた。皆肌がどす黒く生気を全く感じられなかった。しかし、そのなかには藤丸を助けた者の姿そしてロストベルトに入って最初に会った大きな女もいた。
「………!!」
「どうした、この中に見覚えのある顔でもいたか?」
嘲笑うように冥界の主が言う。その一言は邪龍を宿す青年の逆鱗に触れた。藤丸は気付いた時には鍵の付いたナックルを装着していた。その瞳には青い炎が立ち込めていた。
「強欲─グラ─の書庫─アーカイブ─に接続。テーマを実行する………」
このときの彼の口調普段よりも静かで冷ややかであった。
「かかれ……カマソッソのサーヴァントたちよ。」
「てめぇのじゃねぇ……」
黒い影が一斉に飛びかかるがそれらは激しい火に飲まれ黒い灰しか残らなかった。カマソッソが藤丸の姿を見た時には赤い龍の鱗を持った人のみがいた。先程まで人間だったものが突然龍と変わらない姿と魔力を纏ったのだ。冥界の主は驚きと憤りを感じた。
「人間ではなかったのか!?ここの恐竜人類と同じではないか!!」
「俺はロストベルトを消滅させるためなら魔王にでもドラゴンにでもなってやる。」
かつて学生がテーマを決めた魔術を学ぶことの出来る学園で得た答えを再確認するように言う。
「最後の一体を仕掛けて……」
「遅い。冥界はもう俺の腹のなかだ。」
カマソッソは唖然とした。何を間抜けなことをと。そう思っていると敵対していた青年の足元が目線にあたるようになる。下には冥界よりも深くしかし明るい仄かな赤い光を発していた。
「これは……マグマ?バカな。これを貴様のような若造が。」
「終わりだ冥界の王様さん。」
ロストベルトの王の死は偽りの世界の終わりを告げようとしていた。
「よくやった小僧。冠位の剣を引き抜け。」
フードの男は低い声で試練合格の合図を送った。すると目の前に台座に刺さった剣が現れる。
それに両手を添えた人類最後のマスターは柄を持って引き抜いた。激しい光は彼を目的地へと誘う。
「!!」
「どうした、テスカトリポカ。……まさか、俺たちが探しているカルデアのマスターが見つかったか?」
黒いジャケットの男・ディビッドは手の甲に赤黒い刺青のようなものをちらつかせる。人類最後のマスターを駆逐しようとする意思を魅せているのだ。それに対して相棒であるサーヴァント・テスカトリポカは汗を垂らしながら感知した情報を主に伝える。
「───妹が殺された。仕留めた筈のカルデアのマスターに。そして、こっちに向かってくる。」
「そうか、トラロックは破れたわけか。」
「それだけじゃない、ここの王も食ってやったよ。」
黒い髪の青年が現れる。手の甲にはディビッドと似たようなものがあり、その背格好白いコートに近い。
「探す手間が省けた──」
「あぁ、こっちの台詞でもある。」
青年は刃物を手にしてディビッドに斬りかかる。ディビッドはそれをかわし、簡単に敵の腕を捕まえるが。白く丸みを帯びた布を青年がテスカトリポカに投げ付ける。そして捕まった腕を利用してディビッドを持ち上げ地面に叩き付ける。
「藤丸リツカ。中々やるな。だが、これはどうだ?」
ディビッドは敵の青年=藤丸の目に指のメスをいれようとする。しかし、藤丸はこれを頭突きで無力化する。一方でテスカトリポカは布から血液が垂れてきていることに気が付く。イヤな予感がしたが、それを拭うように藤丸に急接近する。そこで藤丸は白い鎖を素早く出し、その動きを止める。そして身動きが出来なかったサーヴァントを盾にするように位置につく。
「おいおい、ちゃんと見ろよ。探している人に会えるかもしれないのに。」
「中身は言わなくてもわかる。バカにするのも」
「俺が憎いか、テスカトリポカ?」
藤丸の笑みは嘲笑ってるようにも悲しんでいるようにも見える。
「あぁ、憎いさ」
「……俺がここまで強くなったのは……お前らクリプターや異星の奴等に対する『それ』だよ。カルデアを氷浸けにされたあのときから、てめぇらがこちら側のサーヴァントを倒しこうして対峙するまで。今も燃やしながらな。その癖『己たちが正しい。カルデアは間違ってるから粛清したまでだ。』と善人ぶるお前らを見ると───反吐が出る。」
「こいつ、動きが以前とは別次元だ」
藤丸との戦闘でテスカトリポカが口にした台詞だ。
彼にとってカルデアのマスターは戦士であれど低次元の存在であった。ソイツが戦線に復帰した途端、冠位である自身と同等またはそれ以上の力を得てきたという事実に驚きを隠せないでいた。しかし、彼と最後に対峙したことを思い出すと合点がいった。汎人類史側つまりカルデアに味方をするグランドサーヴァントが関係しているのかと。
そして動きを読めるようになったテスカトリポカの攻撃が効き始める。藤丸がその頬にかすり傷を負ったのだ。
「強いな、だが終わりだ」
「ふん、所詮その冠位は飾りか?」
藤丸の胸を刺した直後、白い鎖がテスカトリポカの右腕を捉える。他にも数本伸びたが冠位のサーヴァントはこれをかわす。そこでディビッドが叫ぶ
「上だ!」
「!!」
「ブラッディムーン!」
赤い太刀がテスカトリポカの胸部に傷を与える。
「まだこんなものじゃないだろ?あと──」
目の前の藤丸が突然消える。すると後ろから声がした。
「がら空きだ」
「!!」
背中を斬られると分かったテスカトリポカは銃剣を盾にこれを防いだ。しかし、これで彼の武器が半壊した。
「冥界の神様の御使いはこんなもんなのか?……手を抜きやがって。」
「なるほど、なら……。」
「分かってる、テスカトリポカ。令呪を以て──」
「───ディビッド、お前の令呪は──使わせない。」
白い鎖がディビッドの令呪を塞ぐように絡まる。その締め付ける力は錦蛇のそれより強かった。
「パィシゥーバインド・パイソンだ。令呪から送られる魔力や命令を遮断する。」
「……隙が見当たらない強さだ。だが、逆に貴様を倒せばカルデアを壊滅させられるわけだ。」
「俺を倒せる算段でもあるのか?あったとしても、それを打ち砕く力が俺にはある。」
一方、ストームボーダーでは。
「藤丸の反応確認!」
「やっとか!おい、リツカ。おい!」
彼の同僚であるムニエルは通信機に話しかける。しかし、反応は無い。静寂のみが暫く響いた。
そのなか、髭の生えた金髪の男がムニエルの肩を軽く叩く。
「焦るなムニエル。彼ならきっと生きて帰ってくる。それまでもそうしてきた男だ。」
「……お気遣いありがとうございます。しかし、マシュは彼の帰りを待って!」
「そうだな。彼女と一緒に帰りを待とう。」
ゴルドルフはムニエルに言い聞かせるように再び肩を叩いた。
「カルデアのマスターよ。俺はこれから──カルデアスの秘密を話す。」
「マスター!?」
「──」
藤丸は懐に隠していた通信機のスイッチを押した。
ディビットは家族ぐるみ魔術協会にて伝承科に所属していた。彼らは様々な国々に纏わる神話に関して研究していた。北欧神話のグングニール、ノアの方舟、アーサー王の聖剣などの類いに関して大人たちは熱烈に議論し合っていた。またその関係上、聖遺物の管理もしている科でもあった。デイビットの父は、その仲間のなかではセム族の研究に傾倒していた一介の研究者であった。彼は魔術師ではないがその優秀さから伝承科に招かれ名門魔術師に引けを取らず、ある「天使の遺物」の管理を任されていた。そして父は、管理していた「天使の遺物」が20年間何をしても変化がなかったことから、それを「何の変化も起こさない神の贈り物」と判断していた。しかし、父は伝承科として忘れてはいけないことを怠っていた。デイビッドが10歳の時、父が彼を自分の研究室に招いた直後、突如としてその「天使の遺物」が起動。協会において禁忌扱いを受けていた「それ」が放った光によって、彼の父は地面に焼き付いた影となった。一方のデイビッドは自身を確認できた。しかし、彼は床にあったもうひとつの小さな影を見て気が付く。肉体を構成する物質も、記憶・人格も以前と変わらないはずの少年は、しかし自分が以前とは「違う」ものになってしまったことを理解してしまったのだ。父の死を他の者に話したところ。
「ん?そのような研究者はうちに居なかったと思うのだが……?」
この時、彼は人間としての意識・感覚そして心を失った。
そして彼は南極にある魔術施設・カルデアにおける人理焼却を食い止める一員としてスカウトされると同時に伝承科を自主退学した。
「そしてマリスビリーは言っていた。カルデアの計画は──」
「話はそれでお仕舞いか? 」
「──なに?」
藤丸は話を遮る。
「私の知りたいことよりも自身の出自を話すとはどういうことだ? それにカルデアの真実はもうわかっている。カルデアスが原因で異星の神が出来たことも…だ。」
「なら何故──」
「自分自身に迷いが無いかを確認するためだ。それと、テスカトリポカ。話し合いの途中からここを冥界にすることで有利に立とうとしていたな?」
サングラス越しに藤丸を凝視し頷きながらも強い口調でテスカトリポカは話す。
「俺は戦士を尊重する性格でな、両者のための戦場を用意したまでだ。」
「なら私は敵からの温情を受けない主義だ。それにもう"ここ"は破壊の対象だよ。お前のマスターが善人でもカルデアが元凶でも構わない。お前たちが天使なら俺は悪魔にでもなってやる!!」
「やはりこうなったか。テスカトリポカ、時間を稼げ!」
「正真正銘の化け物になる気か、デイビット・ゼム・ヴォイドぉぉ!!」
藤丸の激昂の叫びはロストベルト中に広がった。
「せめての礼儀だ、宝具で貴様を──!!」
「なら、俺も切り札を使わせて頂くぞ!来い、グランドカリバー!!!」
藤丸の声に応えるように黄金の剣がテスカトリポカに斬りかかる。
そして藤丸がそれを握ると身体は黄金の鎧に包まれる。右腕には剣、弓矢そして槍のレリーフが。
左腕には杖と髑髏のレリーフが。
左足には角が生えた魔物のレリーフ、右足には馬のレリーフが嵌め込まれていた。
さらに胸の装甲には黄金の菱形が彫られていた。これは冠位の位の中で長として認められた勇者の証──つまり冠位の資格である。
「そうか。貴様の強さにも納得がいった。」
「お褒めの言葉、どうも。しかし、冠位の長として言いたいことがある。お前を冠位のサーヴァントとは認めない。その位は返して貰うぞ。」
「なるほど、コイツには一種の真っ直ぐな狂気と統率力がある訳だ。さて、ここで殺さなければならない理由が出来てしまった訳だ。」
冠位に認められた勇者と異星に堕ちた冠位が激突した。
その闘いは長く続いた。テスカトリポカの攻撃は当たるが藤丸はモノとしなかった。それどころか、テスカトリポカが攻撃すると同時に藤丸は攻撃していた。それも弓矢による近接射撃だ。
「くっ」
「──今のがこの剣の性能か。弓に変形するとは。」
「デイビットのためにもここでお前を」
怯まずに銃に付いた刃でテスカトリポカは斬りかかる。すると藤丸は弓を二本の刃に変えて応戦する。しかし、斬られてしまう。
「その首──」
「貰ったってか?」
後ろから声がしたので振り替えると二本のダガーナイフを持った藤丸がいた。その刃はテスカトリポカの胸に傷を与えた。
「アサシンモード……暗殺には至らなかったが不意討ちには成功したぞ。」
「何故だ、何故再生しない!?」
「言ったハズだ。この力は冠位に認められたからこそ手に入れたモノだ。貴様は認めないと。」
冥界の主の側近は銃を天に向けて発砲し、空を黒く染めた。黒い空から赤い雷が敵を滅しようとする。雷は黄金の鎧に当たった。しかし、同時にテスカトリポカの腹部に鈍痛が走った。黄金の槍が貫通したのだ。
「この速度……まるで…光!」
「そういうことだ。」
煙の中から藤丸が現れる。その手には杖があった。そこから赤い稲妻を藤丸は出したのだ。雷を出していたテスカトリポカが逆に感電したのだ。
「ぐぅっ! 滅茶苦茶だな!! 」
「よし止めと行くか。」
しかし、テスカトリポカの目は諦めて居なかった。
「黒い太陽はまだ輝いている!!」
叫びと共に黒い火球をつくる。それを見て藤丸は青ざめる。
「これはまずい!!」
「食らえ!」
大きな火球が地を焦がす。周りは焼け野原となり、辺りには何も無くなった。あの金色も消えた──テスカトリポカはそれを確信したが──
テスカトリポカの頭上から光線の雨が降り注いだ。上空を見ると白い方舟があった。それをかわすも、頭上から斧も落ちた。
そして彼の脳天を割った。
「終わりだ、最後のロストベルト……」
藤丸は斧を剣に変えるとそのように呟いた。
「! 乗員全員に告ぐ!!ここを出るぞ!」
カルデアの母船となったストームボーダーの船長・ネモが叫ぶ。
「おい!何だってんだよ!リツカはまだ」
「そのリツカから『通信』が来た」
ネモは含みを持たせて言った。藤丸からのメッセージは通信機越しではなく、脳内に直接話すような形だったからだ。彼はそれ以外にも違和感を感じずには要られなかった。ストームボーダーのレーダーにはもうひとつの船があったからだ。
「リツカはノアの方舟─或いはそれに近い物に乗っているとしか言えない──」
「ここまで魔力を高めれば十分。あと、逃げてくれたみたいだな。」
「こうなればお前だけでも…」
「……やはり生きていたかテスカトリポカ。だが、この一撃でロストベルトごと冥界送りだ。」
テスカトリポカは上半身を露にし頭部に骸骨の意匠を施した冠を被った状態で再び現れた。
藤丸は呆れながらも宿敵としての敬意をはらうように胸を張る。
二人はそれぞれの切り札を放つべく、詠唱を始める。
「思い出せ。呼び覚ませ。始まりの世界──」
「七重拘束解放《セブンシールズ・リベレーション》!地の星に流れるは人類史の奔流──」
テスカトリポカは黒いオーラを藤丸は黄金のオーラを激しく溢れさせる。その二つのオーラは激しくぶつかりあい、偽りの世界に終わりのオルゴールを鳴らせた。
「ナウイ・オセロトルの黒い陽を『第一の太陽《ファーストサン・シバルバー》』!!」
「輝けるは、人類史の息吹き!『冠位の剣(グランド・カリバー)』!!!」
闇や森は白い光に呑まれ白紙にされた地球は仄かだが、緑色を取り戻した。
「おい、リツカ。おーい!!」
「無線機越しに大声を出すな。もうストームボーダーに乗ったから。」
「は、速い……」
藤丸はムニエルやゴルドルフらと話すが心はそこに非ず──ずっと視線を一定の方向に向けていた。
「君──ちょっと私の工房に来なさい。」
「ゴメン、ダヴィンチちゃん。ずっと睨まれている気がして仕方ないんだ。」
「そういうことじゃない。君の身体について話がしたいだけだ。」
「あー、そのことですか。」
藤丸は自分のことなのに他人事のように感じていた。彼の頭には使命を果たすことそして果たした後のこと──この二つのみが入っているからだ。それを「自分を勘定に入れていない」とダヴィンチは言いたいのだ。
「もう二度とその冠位の剣を使うな」
「それは了承し難いです……申し訳ございません。あぁ、もう休憩に入りますので。」
藤丸は逃げるように自室に籠った。自分たちが滅ぼすべき異なる星の方向を見ながら。