異世界の日本──ソラシド市に迷い込んだ五代雄介は、偶然助けた虹ヶ丘ましろの家にお世話になることに。
そこでヒーローに憧れる少女──ソラ・ハレワタールにせがまれ、戦士クウガとしての闘いの日々を語った。
激戦の数々の
それを見届けた五代も寝床に就き、やがて夜は開ける……。
翌日の朝も、昨日からの雨が降り続いていた。
予報では快晴になるはずだったが、テレビでは気象予報士も首をひねっている。
それはこの雨が、ソラシド市の一帯に限定してもたらされているためだった。
朝目を覚ました五代は、テレビでこの不思議な雨の話を聞いて、わずかな不安の気持ちを抱いていた。
と、そこにソラとましろが通りかかる。
どうやら二人とも、この雨の中どこかへ出かけようとしているようだった。
「こんな雨の日に、どこに行くんだい?」
聞けば、二人は家の裏山に向かうところだという。
「そういえば、探し物があったんだっけ」
「はい。スカイジュエルっていって、エルちゃんにパパとママの顔を見せてあげるのに必要なんです」
隠すことでもないので、ましろは正直に目的を明かす。
五代は腕を組んで、難しそうな顔をした。
「うーん。でも裏山には、昨日みたいにグロンギの生き残りが、まだいるかもしれないよ?」
「それは……わかってます。でも私、どうしてもエルちゃんを安心させてあげたくて……」
「だいじょうぶです! またグロンギが現れても、今度は私がましろさんをお守りしますから!」
拳を握って元気よく答えるソラ。
彼女もまた、クウガのような戦士としての力を使えるらしい。
ソラの力がどの程度のものか……五代には分からないが、子供二人だけを危険な場所に向かわせるのはよくないだろう。
「分かった。じゃあ、俺も一緒に行ってもいいかな?」
「え、でも」
「グロンギがまだいるなら、俺も放っておく訳にはいかないからね」
「私は賛成です! ぜひクウガの戦いを見てみたいですから!」
自分たちの問題に五代を巻き込むのは気が引けたましろだが、せっかくの申し出だ。
少女は子供らしく、大人の引率を受けることにした。
◇ ◆ ◇ ◆
早速、三人は裏山へ向かった。
雨が降っている中での登山なので、両手を自由にするためにそれぞれがレインコートを着用している。
エルは今回はお留守番だ。
静かに眠っていたので無理に連れ出す必要もないし、また危険な目にあわせないためでもあった。
「そういえば、五代さん調べ物があるって言ってましたが」
山道を登りながら、ソラが思い出したことを口にした。
「それは、昨日ソラちゃんたちが見たグロンギについてだよ」
ブタのような頭部、理性の感じられない言動を思い出し、ましろはわずかに身震いする。
「元々俺のいた世界で、とある山で動物の惨殺された死体がたくさん発見されたってニュースがあったんだ。
最初はみんなクマかなにかの仕業だと思ってたんだけど、続けてふもとの村に住んでた人たちが、何人も行方不明になる事件が起きて」
「それが、あのグロンギの仕業だと?」
「俺も外国を旅してた時に偶然この話を聞いて、なんて言うかこう……頭にビーンッときて、急いで日本に帰って来たんだ」
「ヒーローとしての直感ですか。そして、それは正しかったと」
「正直、外れててほしかったけどね」
日本に帰国した五代は独自にこの行方不明事件を調べている内に、なんの拍子かソラシド市へと迷い込んでしまったのだ。
「でも、五代さんが来てくれたおかげで私もましろさんも助けられました」
「うん、それは本当に良かったと思うよ。あのグロンギもやっつけられたし。ただ……」
「どうしたんですか?」
「これも勘なんだけど、やっぱり他にもまだ、奴らの生き残りがいる気がするんだ」
そう言って、五代はヘソのあたりをさすった。
そこは彼を戦士クウガへと変身させるための重要な器官。
五代の腹部の内には、超古代に作られた神秘の石──アマダムが収められているのだ。
そして今その霊石アマダムが五代へ、グロンギの存在を不安な予兆として伝えているのだろう。
「あ、ごめんね! 怖がらせるつもりはなかったんだけど」
「だ、大丈夫です! 私にはソラちゃんがいますから!」
おびえているような雰囲気のましろを
少女は気丈にふるまった。
「……そういえば、今日は昨日みたいな霧が出てないね」
ましろは、前日あれほど深く立ち込めていたモヤが、綺麗になくなっていることに気づいた。
雨こそ降り続いて足元が悪いものの、視界がさえぎられるようなことはない。
ソラがふと、思いついたことを口にする。
「もしかして……あの霧のせいで、この世界と五代さんのいる世界が繋がったりしたんでしょうか」
「でも、なんでそんなことが?」
「私にもわかりませんが、ヨヨさんはスカイジュエルがこの裏山にあると言っていました。スカイジュエルは不思議な効力がありますから、もしかしたらその影響で……」
ソラの故郷のスカイランドでは、あらゆるものの動力源としてスカイジュエルが用いられている。
そんな不思議なエネルギーを
と、ふいにソラが腰にさげているアイテム──ミラージュペンが光はじめた。
「これは……スカイジュエルがこの近くにある証拠ですね」
ヨヨが言うには、このペンがスカイジュエルを見つけるための、探知機としての役割をになっているらしい。
三人は光の反応を見ながら、草むらの中や川沿いを探して回る。
ペンの光は歩みを進めるごとに強くなっていくが、肝心のスカイジュエルは中々姿を見せない。
「おかしいですねぇ、すぐ近くにあるはずなんですが……」
「探し物はこれなのねん?」
「はい! これです……って、あなたは!?」
目的の宝石を持っていた人物、それは……紫色の肌とポッコリと太ったお腹をした、ブタのような外見の男。
「グロンギ!? ……にしては、なんか変だな」
「いえ、違います! あいつは……カツ丼!」
「ザブトンじゃなかった?」
「カ・バ・ト・ン! なのねん! いい加減にその天丼を止めるのねん!」
「テンドンさん?」
「カバトンだっつーの!」
ソラとましろに名前を間違えられるのは定番だったが、初めて見る男──五代にまで間違えられたことに、カバトンは怒りを
その五代は、初めて見るタイプの怪人物のことをソラにたずねる。
「えっと、誰なの?」
「私たちもよく知りませんが、どうやらエルちゃんを狙っているらしいんです」
「フッフッフ。このスカイジュエルを持っていれば、お前たちもやって来ると思っていたのねん。さあ、今度こそおとなしく、プリンセス・エルを渡して」
と、カバトンの言葉が止まる。
「って、プリンセスはどこなのねん!?」
「ここには連れて来ていませんよ?」
「なんで!?」
「こんな雨の日に外に出しては、風邪をひいてしまうじゃないですか」
ガーン、と擬音が聞こえてきそうな勢いで、カバトンはショックを受けていた。
「無駄足だったのねん……せっかく雨の中待ち伏せしてたのに」
「なんか、すみませんでした……?」
「……こうなったら、先にソラ! お前だけでも倒してやるのねん!」
ショック状態から無理矢理自分を立ち直らせたカバトン。
因縁の相手であるソラに、宣戦を布告した。
「カモン! アンダーグ・エナジー!!」
地の底からあふれ出た闇のパワーが、近くに生えている竹に集まっていく。
竹は形を変え、二本の足が生えた一体のモンスターへと再構成された。
「ランボーグ!!」
ランボーグと自ら名乗った
「敵」が現れたことで、ソラも戦闘態勢に入る。
「ましろさんと五代さんは、離れていてください!」
「で、でもソラちゃん……」
「大丈夫です。もう、体の震えはありません」
ソラの身を心配するましろに、少女は笑顔で答えた。
ソラはまだプリキュアになったばかりで、戦いというものに慣れていない。
ゆえにこれまでランボーグと対峙した時も、彼女は恐怖による手の震えを隠せなかった。
だが、今はもう違う。
それは五代雄介という、ヒーローとしての先駆者であり、仲間を得たからであった。
「今の私はやる気満々です! トーンコネクト!」
ソラ・ハレワタールの体が青い光に包まれ、その姿を「戦う女の子」のものへと変える。
「無限にひろがる青い空! キュアスカイ!!」
キメのポーズと共に、プリキュアとしてのソラが現れた。
「行け、ランボーグ! 今度こそプリキュアをやっつけるのねん!」
「ランボーグ!」
タケノコランボーグは、両腕のタケノコをドリルのように回転させながら、キュアスカイを狙う。
が、ボクシングのパンチのごとく連打される攻撃も、少女にはカスりもしない。
「体が、軽い……」
「ランボーグ!」
続けてランボーグは、地面の下から槍のように無数の竹を生えさせ、キュアスカイを仕留めようとする。
それすらも、彼女は華麗に回避し、一転して怪物にパンチの連打を食らわせた。
ヒーローガールの戦いっぷりを、五代は感心したように見つめていた。
「すごいなぁ。これがプリキュアなのか」
「ソラちゃん、いつもカッコいいけど今日はもっと強くなってる……」
ましろの言うように、今のソラは五代との出会いによって気分が
二人が見ている中、キュアスカイは優位に立ったまま敵──ランボーグに止めの一撃を放とうとした。
その時である。
「……ッ!?」
なにかに気づいたように、キュアスカイはランボーグへの攻撃を中断した。
ましろたちも、敵のカバトンもスカイの行動をいぶかしむ。
そんな少女にましろが声をかける。
「どうしたの、キュアスカイ!?」
「……なにか来ます」
林の中に視線を集中させるキュアスカイ。
果たしてその中から姿を見せたのは、以前五代が倒したはずのグロンギ──ブタ種怪人。
「グロンギ! やっぱりまだ生き残りが……!?」
五代はハッとした。
ブタ種怪人の背後には、まだ多数の気配があったからだ。
ゾロゾロとやって来たのは、十体以上の
ましろが目を見開いて声をあげる。
「えぇー! なんか一杯いる!?」
「なんなのねん? こいつ等は」
グロンギを初めて見たカバトンも、突然の乱入者に首をかしげた。
ブタ種怪人たちは、キュアスカイを取り囲むように集まると、口々に未知の言語を話しはじめる。
「ボンリント・ヅジョギヂ・バサロヅ」*1
「ヅジョギヂ・バサ・ガボバダグ・ジヅジョグ」*2
「ボン・リント・ブグ。ヂバサ・グ・ダグ」*3
言い終えると、ブタ種怪人たちはキュアスカイに向かって行った。
五代が警告の声を上げる。
「気を付けてソラちゃん! そいつらは」
「任せてください! 相手がどんな奴であっても、ヒーローは負けません!」
キュアスカイはワラワラと群がる怪人たちを、キックやパンチで蹴散らしていった。
が……
「なんか、全然効いてないような」
ましろには、キュアスカイの攻撃がグロンギ怪人にダメージを与えられている様には見えなかった。
ブタ種怪人たちは何度吹っ飛ばされても、すぐさま起き上がると再びスカイに集い始める。
近づく怪人を叩いては蹴りを繰り返す。
キリのない戦いに、キュアスカイの息が次第に切れはじめてきた。
疲労を感じ始めたスカイのスキを突き、背後からブタ種怪人の一体が少女を羽交い絞めにする。
「あ、クッ! 離してください!」
振りほどこうとするが、子供と大人の体格の差もあってか、キュアスカイはグロンギの拘束から逃れられない。
そこに残るブタ種怪人たちが群がり、一斉にキュアスカイの体に
「いっ!?」
怪人の持つ鋭い歯が、少女のまとうスーツを貫通して肉にまで食い込む。
スカイはあまりの出来事に、叫び声すら上げられなかった。
ギチギチと嫌な音を立てながら、キュアスカイの肌に怪人たちの牙が次々と深く突き刺さる。
少女の肉が裂け、噛みつかれた腕や足から血が
「うあぁぁぁーっ!?」
「ソラちゃん!」
「止めろぉ!!」
スカイの叫びが辺りに響く。
ましろも声をあげるが、ただの子供にはなにも出来ない。
そんな中五代は一歩前に出ると、少女への暴行を止めるため──戦うための動作をとった。
腰の前に両手を当てると、ボディの内に納められていたベルト状の器官──「アークル」が出現する。
「グッ……うぅ……」
突然、五代は苦しみだした。
アークルには大きな亀裂が走っており、正面の霊石がある部分は不安定な明滅を繰り返している。
これは元の世界で、最後の敵ダグバとの交戦の中で受けた傷のせいであった。
今の五代雄介の体は、戦士としてはとても戦える状態にはないということだ。
それでも彼は、危機におちいっている「仲間」を救うため、動くことを止めなかった。
無理矢理にでも、姿を変えるための動作を続ける。
「がはッ……!」
しかしその行為は、いたずらに自らの肉体を痛めつけるだけのことだった。
アークルは力をなくし、霊石から色が失われる。
五代もまた、痛みによって地に伏した。
「五代さん!? ソラちゃん……ッ!」
ましろはただ、涙を浮かべ事のなりいきを見ているしかなかった。
そして彼女の目に映るのは……二人のヒーローの、決定的な敗北だったのだ。
グロンギ語は自動変換サイトを使って、そのあとで対応表を見ながら修正してるんですが、めっちゃめんどい…