空ガ晴れたら   作:ほろろぎ

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第三話 急転:ヒーローのピンチです!

 異世界の日本──ソラシド市に迷い込んだ五代雄介は、偶然助けた虹ヶ丘ましろの家にお世話になることに。

 そこでヒーローに憧れる少女──ソラ・ハレワタールにせがまれ、戦士クウガとしての闘いの日々を語った。

 

 激戦の数々の逸話(いつわ)は夜遅くまで続き、いつの間にかソラは眠りに落ちていた。

 それを見届けた五代も寝床に就き、やがて夜は開ける……。

 

 翌日の朝も、昨日からの雨が降り続いていた。

 予報では快晴になるはずだったが、テレビでは気象予報士も首をひねっている。

 それはこの雨が、ソラシド市の一帯に限定してもたらされているためだった。

 

 朝目を覚ました五代は、テレビでこの不思議な雨の話を聞いて、わずかな不安の気持ちを抱いていた。

 

 と、そこにソラとましろが通りかかる。

 どうやら二人とも、この雨の中どこかへ出かけようとしているようだった。

 

「こんな雨の日に、どこに行くんだい?」

 

 聞けば、二人は家の裏山に向かうところだという。

 

「そういえば、探し物があったんだっけ」

「はい。スカイジュエルっていって、エルちゃんにパパとママの顔を見せてあげるのに必要なんです」

 

 隠すことでもないので、ましろは正直に目的を明かす。

 五代は腕を組んで、難しそうな顔をした。

 

「うーん。でも裏山には、昨日みたいにグロンギの生き残りが、まだいるかもしれないよ?」

「それは……わかってます。でも私、どうしてもエルちゃんを安心させてあげたくて……」

「だいじょうぶです! またグロンギが現れても、今度は私がましろさんをお守りしますから!」

 

 拳を握って元気よく答えるソラ。

 彼女もまた、クウガのような戦士としての力を使えるらしい。

 ソラの力がどの程度のものか……五代には分からないが、子供二人だけを危険な場所に向かわせるのはよくないだろう。

 

「分かった。じゃあ、俺も一緒に行ってもいいかな?」

「え、でも」

「グロンギがまだいるなら、俺も放っておく訳にはいかないからね」

「私は賛成です! ぜひクウガの戦いを見てみたいですから!」

 

 自分たちの問題に五代を巻き込むのは気が引けたましろだが、せっかくの申し出だ。

 少女は子供らしく、大人の引率を受けることにした。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 早速、三人は裏山へ向かった。

 雨が降っている中での登山なので、両手を自由にするためにそれぞれがレインコートを着用している。

 

 エルは今回はお留守番だ。

 静かに眠っていたので無理に連れ出す必要もないし、また危険な目にあわせないためでもあった。

 

「そういえば、五代さん調べ物があるって言ってましたが」

 

 山道を登りながら、ソラが思い出したことを口にした。

 

「それは、昨日ソラちゃんたちが見たグロンギについてだよ」

 

 ブタのような頭部、理性の感じられない言動を思い出し、ましろはわずかに身震いする。

 

「元々俺のいた世界で、とある山で動物の惨殺された死体がたくさん発見されたってニュースがあったんだ。

最初はみんなクマかなにかの仕業だと思ってたんだけど、続けてふもとの村に住んでた人たちが、何人も行方不明になる事件が起きて」

「それが、あのグロンギの仕業だと?」

「俺も外国を旅してた時に偶然この話を聞いて、なんて言うかこう……頭にビーンッときて、急いで日本に帰って来たんだ」

「ヒーローとしての直感ですか。そして、それは正しかったと」

「正直、外れててほしかったけどね」

 

 日本に帰国した五代は独自にこの行方不明事件を調べている内に、なんの拍子かソラシド市へと迷い込んでしまったのだ。

 

「でも、五代さんが来てくれたおかげで私もましろさんも助けられました」

「うん、それは本当に良かったと思うよ。あのグロンギもやっつけられたし。ただ……」

「どうしたんですか?」

「これも勘なんだけど、やっぱり他にもまだ、奴らの生き残りがいる気がするんだ」

 

 そう言って、五代はヘソのあたりをさすった。

 そこは彼を戦士クウガへと変身させるための重要な器官。

 五代の腹部の内には、超古代に作られた神秘の石──アマダムが収められているのだ。

 

 そして今その霊石アマダムが五代へ、グロンギの存在を不安な予兆として伝えているのだろう。

 

「あ、ごめんね! 怖がらせるつもりはなかったんだけど」

「だ、大丈夫です! 私にはソラちゃんがいますから!」

 

 おびえているような雰囲気のましろを気遣(きづか)って、五代は声をかける。

 少女は気丈にふるまった。

 

「……そういえば、今日は昨日みたいな霧が出てないね」

 

 ましろは、前日あれほど深く立ち込めていたモヤが、綺麗になくなっていることに気づいた。

 雨こそ降り続いて足元が悪いものの、視界がさえぎられるようなことはない。

 

 ソラがふと、思いついたことを口にする。

 

「もしかして……あの霧のせいで、この世界と五代さんのいる世界が繋がったりしたんでしょうか」

「でも、なんでそんなことが?」

「私にもわかりませんが、ヨヨさんはスカイジュエルがこの裏山にあると言っていました。スカイジュエルは不思議な効力がありますから、もしかしたらその影響で……」

 

 ソラの故郷のスカイランドでは、あらゆるものの動力源としてスカイジュエルが用いられている。

 そんな不思議なエネルギーを(たくわ)えている宝石なら、なにかの拍子に時空をゆがめるほどの力を発揮することも、あるいはありえるのでは……。

 

 と、ふいにソラが腰にさげているアイテム──ミラージュペンが光はじめた。

 

「これは……スカイジュエルがこの近くにある証拠ですね」

 

 ヨヨが言うには、このペンがスカイジュエルを見つけるための、探知機としての役割をになっているらしい。

 三人は光の反応を見ながら、草むらの中や川沿いを探して回る。

 

 ペンの光は歩みを進めるごとに強くなっていくが、肝心のスカイジュエルは中々姿を見せない。

 

「おかしいですねぇ、すぐ近くにあるはずなんですが……」

「探し物はこれなのねん?」

「はい! これです……って、あなたは!?」

 

 目的の宝石を持っていた人物、それは……紫色の肌とポッコリと太ったお腹をした、ブタのような外見の男。

 

「グロンギ!? ……にしては、なんか変だな」

「いえ、違います! あいつは……カツ丼!」

「ザブトンじゃなかった?」

「カ・バ・ト・ン! なのねん! いい加減にその天丼を止めるのねん!」

「テンドンさん?」

「カバトンだっつーの!」

 

 ソラとましろに名前を間違えられるのは定番だったが、初めて見る男──五代にまで間違えられたことに、カバトンは怒りを(あら)わにした。

 その五代は、初めて見るタイプの怪人物のことをソラにたずねる。

 

「えっと、誰なの?」

「私たちもよく知りませんが、どうやらエルちゃんを狙っているらしいんです」

 

 (にら)みつけるような視線を送るソラを意に介さず、カバトンは余裕の態度。

 

「フッフッフ。このスカイジュエルを持っていれば、お前たちもやって来ると思っていたのねん。さあ、今度こそおとなしく、プリンセス・エルを渡して」

 

 と、カバトンの言葉が止まる。

 

「って、プリンセスはどこなのねん!?」

「ここには連れて来ていませんよ?」

「なんで!?」

「こんな雨の日に外に出しては、風邪をひいてしまうじゃないですか」

 

 ガーン、と擬音が聞こえてきそうな勢いで、カバトンはショックを受けていた。

 

「無駄足だったのねん……せっかく雨の中待ち伏せしてたのに」

「なんか、すみませんでした……?」

「……こうなったら、先にソラ! お前だけでも倒してやるのねん!」

 

 ショック状態から無理矢理自分を立ち直らせたカバトン。

 因縁の相手であるソラに、宣戦を布告した。

 

「カモン! アンダーグ・エナジー!!」

 

 地の底からあふれ出た闇のパワーが、近くに生えている竹に集まっていく。

 竹は形を変え、二本の足が生えた一体のモンスターへと再構成された。

 

「ランボーグ!!」

 

 ランボーグと自ら名乗ったそれ(・・)は、竹で作られた胴体に両腕がタケノコという、ともするとコミカルな外見をしていた。

 「敵」が現れたことで、ソラも戦闘態勢に入る。

 

「ましろさんと五代さんは、離れていてください!」

「で、でもソラちゃん……」

「大丈夫です。もう、体の震えはありません」

 

 ソラの身を心配するましろに、少女は笑顔で答えた。

 ソラはまだプリキュアになったばかりで、戦いというものに慣れていない。

 ゆえにこれまでランボーグと対峙した時も、彼女は恐怖による手の震えを隠せなかった。

 

 だが、今はもう違う。

 それは五代雄介という、ヒーローとしての先駆者であり、仲間を得たからであった。

 

「今の私はやる気満々です! トーンコネクト!」

 

 ソラ・ハレワタールの体が青い光に包まれ、その姿を「戦う女の子」のものへと変える。

 

「無限にひろがる青い空! キュアスカイ!!」

 

 キメのポーズと共に、プリキュアとしてのソラが現れた。

 

「行け、ランボーグ! 今度こそプリキュアをやっつけるのねん!」

「ランボーグ!」

 

 タケノコランボーグは、両腕のタケノコをドリルのように回転させながら、キュアスカイを狙う。

 が、ボクシングのパンチのごとく連打される攻撃も、少女にはカスりもしない。

 

「体が、軽い……」

「ランボーグ!」

 

 続けてランボーグは、地面の下から槍のように無数の竹を生えさせ、キュアスカイを仕留めようとする。

 それすらも、彼女は華麗に回避し、一転して怪物にパンチの連打を食らわせた。

 

 ヒーローガールの戦いっぷりを、五代は感心したように見つめていた。

 

「すごいなぁ。これがプリキュアなのか」

「ソラちゃん、いつもカッコいいけど今日はもっと強くなってる……」

 

 ましろの言うように、今のソラは五代との出会いによって気分が高揚(こうよう)し、普段以上のポテンシャルを発揮できるようになっていた。

 二人が見ている中、キュアスカイは優位に立ったまま敵──ランボーグに止めの一撃を放とうとした。

 その時である。

 

「……ッ!?」

 

 なにかに気づいたように、キュアスカイはランボーグへの攻撃を中断した。

 ましろたちも、敵のカバトンもスカイの行動をいぶかしむ。

 そんな少女にましろが声をかける。

 

「どうしたの、キュアスカイ!?」

「……なにか来ます」

 

 林の中に視線を集中させるキュアスカイ。

 果たしてその中から姿を見せたのは、以前五代が倒したはずのグロンギ──ブタ種怪人。

 

「グロンギ! やっぱりまだ生き残りが……!?」

 

 五代はハッとした。

 ブタ種怪人の背後には、まだ多数の気配があったからだ。

 ゾロゾロとやって来たのは、十体以上の同じ姿(・・・)をしたブタ種怪人の群れだった。

 ましろが目を見開いて声をあげる。

 

「えぇー! なんか一杯いる!?」

「なんなのねん? こいつ等は」

 

 グロンギを初めて見たカバトンも、突然の乱入者に首をかしげた。

 

 ブタ種怪人たちは、キュアスカイを取り囲むように集まると、口々に未知の言語を話しはじめる。

 

「ボンリント・ヅジョギヂ・バサロヅ」*1

「ヅジョギヂ・バサ・ガボバダグ・ジヅジョグ」*2

「ボン・リント・ブグ。ヂバサ・グ・ダグ」*3

 言い終えると、ブタ種怪人たちはキュアスカイに向かって行った。

 五代が警告の声を上げる。

 

「気を付けてソラちゃん! そいつらは」

「任せてください! 相手がどんな奴であっても、ヒーローは負けません!」

 

 キュアスカイはワラワラと群がる怪人たちを、キックやパンチで蹴散らしていった。

 が……

 

「なんか、全然効いてないような」

 

 ましろには、キュアスカイの攻撃がグロンギ怪人にダメージを与えられている様には見えなかった。

 

 ブタ種怪人たちは何度吹っ飛ばされても、すぐさま起き上がると再びスカイに集い始める。

 近づく怪人を叩いては蹴りを繰り返す。

 キリのない戦いに、キュアスカイの息が次第に切れはじめてきた。

 

 疲労を感じ始めたスカイのスキを突き、背後からブタ種怪人の一体が少女を羽交い絞めにする。

 

「あ、クッ! 離してください!」

 

 振りほどこうとするが、子供と大人の体格の差もあってか、キュアスカイはグロンギの拘束から逃れられない。

 そこに残るブタ種怪人たちが群がり、一斉にキュアスカイの体に噛みついた(・・・・・)

 

「いっ!?」

 

 怪人の持つ鋭い歯が、少女のまとうスーツを貫通して肉にまで食い込む。

 スカイはあまりの出来事に、叫び声すら上げられなかった。

 

 ギチギチと嫌な音を立てながら、キュアスカイの肌に怪人たちの牙が次々と深く突き刺さる。

 少女の肉が裂け、噛みつかれた腕や足から血が(したた)りだす。

 

「うあぁぁぁーっ!?」

「ソラちゃん!」

「止めろぉ!!」

 

 スカイの叫びが辺りに響く。

 ましろも声をあげるが、ただの子供にはなにも出来ない。

 

 そんな中五代は一歩前に出ると、少女への暴行を止めるため──戦うための動作をとった。

 腰の前に両手を当てると、ボディの内に納められていたベルト状の器官──「アークル」が出現する。

 

「グッ……うぅ……」

 

 突然、五代は苦しみだした。

 アークルには大きな亀裂が走っており、正面の霊石がある部分は不安定な明滅を繰り返している。

 これは元の世界で、最後の敵ダグバとの交戦の中で受けた傷のせいであった。

 

 今の五代雄介の体は、戦士としてはとても戦える状態にはないということだ。

 それでも彼は、危機におちいっている「仲間」を救うため、動くことを止めなかった。

 

 無理矢理にでも、姿を変えるための動作を続ける。

 

「がはッ……!」

 

 しかしその行為は、いたずらに自らの肉体を痛めつけるだけのことだった。

 アークルは力をなくし、霊石から色が失われる。

 五代もまた、痛みによって地に伏した。

 

「五代さん!? ソラちゃん……ッ!」

 

 ましろはただ、涙を浮かべ事のなりいきを見ているしかなかった。

 そして彼女の目に映るのは……二人のヒーローの、決定的な敗北だったのだ。

*1
このリント、強い力、持つ

*2
強い力、あの方に、必要

*3
このリント、食う。力、奪う




グロンギ語は自動変換サイトを使って、そのあとで対応表を見ながら修正してるんですが、めっちゃめんどい…
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