異端の騎士は自分に素直だった、守るべき矜持や誇るべき功績を持たず、己に素直である事を絶対とした。
だから、彼は異端なのだ。
異端の騎士、その原点は異世界にある。
『手を貸してあげたいな』
現代、特に変わった事もない部屋で男がスマホを見ていた。
そのスマホが映すのは世界の英雄達が集うソーシャルゲーム、昔から続く息の長いシリーズ物の終着点になる、それ。
彼は古参のファンではないしかと言って知らない事もない、ただ子供がカッコイイものに惹かれるように彼はそのソーシャルゲームを始めたのだ。
ガチャを回して推しを引き当て愛を注ぐ、限界まで愛しても返ってくるのは画面上に映し出されたテキストのみ。彼はそれでも満足だった。
彼の推しはアーサー王、もとい騎士王アルトリア・ペンドラゴン。祖国のために尽くした少女は彼の心を捉えたのだ。
彼は騎士王を推し―彼女の思いを全肯定し存在を容認すると言う意味が含まれる―その為にゲームに金を貢いた。
そして、男は例に漏れず妄想するのだ、もしもの事を、アルトリアを支えるアルトリアのための騎士に成れたなら、と。その願いは何者かが聞いていたのか、はたまた完全なる偶然なのか
叶うはずのない虚構、掃いて捨てるほどある空想は彼の脈打つ心臓を──止めた。
そしてかの地、ブリテンへと魂は生まれ変わったのだ。
◆
我が生涯に一片の悔い無し、かの世紀末覇王は己の最後にそう叫んだ。
だが俺はそう思わない、人生は悔いだらけだ、だから皆悔いないよう努力する。今がその時だ、その思いだけを胸に俺は頑張ってきた。
その結果が、異世界転生、嬉しさ半分悲しさ半分である。
嬉しさとは、心臓発作で苦しむ間もなくあの世へ旅立った俺がこうして生前と変わらず大地を踏み締めていること。
悲しさとは、もう会えない親友、家族、続きの気になるあれやこれやとは一生出会うことがないこと。
ただ、悲観ばかりしても意味はない、少年ならば友情努力勝利のマインドで立ち向かえばきっと上手くいく、現代の英雄譚は確かに俺に力をくれている。我が心のバイブルよ、永遠なれ。
だからこそ、俺は立ち向かう。未知の世界であってもだ、かの若きギャングは言った。
『“覚悟”とは暗闇の荒野を進むことだ』と。
先が見えないから進まないんじゃない、先が見えないから進むんだ。進んだ先が崖だったとしても、覚悟をしていればそれも苦難の一つでしかない。落ちても這い上がりテッペンへ行け、それが俺の“覚悟”だ。
「覚悟はいいか? 俺は出来てる」
転生して初めてつぶやく言葉は、きっと希望が含まれていた。
彼らの様に勇気が欲しいと願いを込めて。
今見えている景色は全てが鮮明かつ明確に異世界であることを俺に伝えている。それがどうした、一度は死んだ俺が何を恐れる! 体が自然と一体になり風が俺を包む、清々しい気分だ! やれる! やれるんだ俺は!
いざゆかん、力を込めて大地を蹴り──空まで飛び上がり、雲に手が触れる程高く舞い上がった。
体が羽のように軽い、思った通り動きすぎるし未知の力が俺を包み満たしてくれる。未知とは言うが直感でこれが魔力なんだと理解できた。元々俺は魔法や魔術がない世界に生まれているからなのか、元々無いはずの力をハッキリ感じ取れている。使い方もそれとなく分かった。
楽しい、何でも出来そうに思えるこの力の存在が楽しい! 螺旋丸だって使える気がする!
そんは全能感に浸された俺の意識はここが異世界だと言うことを忘れ遊んでいた、だが悲しいかな、魔力は無限ではない。遊びのうちに使い果たし地面と熱烈キッスを交わしたのだった
慢心、環境の違い、俺はどうやら忍者にはなれないようだ。そんなつまらない現実に引き戻すな、やめてくれカカシその術は俺に効く。
ただ落ちた先が城だったというのはある意味幸運だ、この異世界に疎い俺は人を探してさまよった。城、というからには兵士や王様や騎士も居ることだろう、いきなり斬りかかられても困るので見つけたら即座に降参しよう。言葉は通じる事を祈るしかない、なんだって異世界だもの。
見つかれ、見つかれと念じて城を練り歩く、意外と人がいないのだ、廊下や各部屋を覗いてみても人の声は聞こえてこない。これだけ大きな建物にこんなに人が少ないのもおかしな話だ。人がそもそもいない廃城なのか、人が出払っているのか──向こうから声が聞こえた、何人かが世間話をしているようだ、幸い言葉は分かるかもしれない。
俺は意を決してその中へ進んで行ったのだ。ただこの時異世界転生と言うあり得ない事象に気が動転していたことで身だしなみチェックを怠った俺を恨みたい。
「すまない! 俺は異世界の者なのだが! この通り敵意はない!」
俺は両手を上げて堂々と彼らの目の前に立った。そして妙に視線が下に、主に股間に向いている事に気が付き──俺は自分を見て白目を向いた。恐らく乾いた笑いが出ていただろう。その時はそんな事気にできなかった。
「は、はは」
「裸の変態だっッッッ!!!」
「捕まえろぉぉぉ!」
「であえー! であえー! あの変態を捕まえろー!」
ギャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
【彼は己が一糸まとわぬ生まれたままの姿であることを失念していた、彼は即座に連行されていった。死んでも怖いものは国家権力であると痛烈に思い知った彼だった】
自然と一体(ネイキッド)