不死の体を持ったアスノが牢屋に閉じ込められるのは至極当然の結果だった、飢えず死なず老いるのかすら怪しい、そして驚くことに無自覚にも魔術による身体強化を高い精度で熟すこともできまたその見目麗しい姿に心を惹かれるものも居た。
そんな存在が警戒されない訳がない、円卓の騎士の一人、ベティヴィエールが監視を務め、その上で結界を牢屋に施した。
逃すまい、そんな意志は言わずともアスノには伝わっていた。
◆
「ベティヴィエール卿、話ぐらいは出来るだろう? 今日も話相手になってくれよ」
先日の事、城へ全裸で侵入してきた不審者こと不死者アスノ、その監視に私ベティヴィエールがあてがわれた。
最初のうちは彼は無言ではあったが数日もすれば私に話しかけるようになってきた、単独での脱出が不可能になったから私を言葉巧みに騙し脱獄するのかと警戒したが、その疑念もすぐに晴れた。
「ベティと呼ぶといい、それで構わない」
「ベーさんでいい?」
「むっ……良いだろう」
「じゃ、ベーさん? 今日はどんな
そう、彼は同志だった。同じ君主を敬愛する同志で、アルトリアと言う少女が王となり、あらゆる可能性に分岐し、人理を正し、あるいは願いのために他の英雄の争う、そんな『もしも』をアスノは知っている。それが作り話だ、とは私には思えないし否定出来ない、彼が話すもしもの世界のアルトリアと言う存在は我々の知る王であり我々以外が知り得ない王なのだ、嘘だとは思わない。
ただ彼は、我々の知るアルトリアと言う存在を聞かせれば首をひねりウンウンと悩むような態度を取る、時折聞こえてくる独り言には「絶対抑止力に目を付けられてるよなぁ」等と呟くことも多々聞いている。
一体どの視点から物を見ているのやら、異世界人なら仕方ないと流したら良いのか?
「ベーさんベーさん」
「何か?」
「ちょっと気合入れて“ウルトラマンゼロ! セブンの息子だっ! ”って言ってくれない?」
「はぁ? 仮にも受刑者が何を言うか」
「そっかだめかー、あーあー良いのかなー? アルトリアサンタリリィの話とか聞きたくないの」
「ウルトラマンゼロ! セブンの息子だっ!」
「んっふおぉこれぞ手のひらアガートラム」
今のように変な要求をされることもあるがその対価として我らの愛する王の話を聞き出す事が彼と私の密かなコミュニケーションとなっていた、これは他の騎士には話せない私と彼の秘密のやり取りだ。もちろん罪人の監視と言う名目でここにいるのだからそれを疎かにはしない、王の期待を裏切ることは騎士として最も避けるべき不名誉。
アスノの身柄、待遇は少々例外的に扱う事が王より伝えられた、死なず殺せずの存在にあからさまに手を焼いていると言ってもいい、それが異世界人で平行世界とはいえ未来の知識を持っているか尚更腫れ物扱いに拍車が掛かるのは仕方ないのでしょう。
「ベーさん、騎士になるにはどうしたらいい?」
投獄から1ヶ月と少し経った日、そんなことを聞いてきた。どういう心境の変化なのだろうかと聞いてみたら一言。
「このままブリテンが滅びるのは面白くない、滅びなくともアルトリアの騎士になりたい、ダメか?」
あの日だ、私がアスノを捕らえた日に話した物語の終焉、ブリテンと言う国の崩壊、他民族による侵略、減退した神秘に縋った救済の果て。
彼はそれを“面白くない”の一言で切り捨てその未来を回避するために王のために騎士になると、ふざけているわけではないと、長い間監視してきた私には分かってしまう。
しかし彼は罪人、誇り高き王の居城『キャメロット』へ全裸で侵入しあまつさえ王の機嫌を損ね不評を買い、王が手ずから断罪しようとした―実際したが死なかった―そんな人物。
それをひっくり返すと、丸腰でキャメロットに侵入し王の力でも殺せない人材だということを示している、円卓の騎士とは行かなくとも同好の士の願いのために騎士見習いとして雇うことも私の説得があれば、いやそれは出来すぎか……
──いや待てよ、これなら行けるか
◆
朝、まだ日が差し込むまで少し時間が掛かる頃合いにベティヴィエールはアーサー王ことアルトリアと対面していた。
「……ふむ、アスノをベティヴィエール卿の手元へ?」
「はい、罰を与える意味も含め、私の監視下に置いて使おうかと、そう考えています。あの者は不死ではありますが言ってしまえばそれだけ、問題が起きようとも私一人で鎮圧は可能かと」
「成る程一理ある。許可しよう、あの者の処遇は決めかねていた、丁度よい提案であった、ご苦労」
「はっ、これにて失礼します」
ベティヴィエールは踵を返す、その表情はいつも通り穏やかで、しかし見慣れた者ならすこし頰が緩んでいることが分かるだろう。
事実として彼は内心喜んでいる、アスノの為に考えた言い分が認められたのだから。これで同好の士アスノを部下として扱いアスノが望むブリテンの安寧を目指すために活躍させてやれる、そう思っていたから。
「一つ、言い忘れていた」
部屋から出ていこうとしたベティヴィエールをアルトリアが引き止めた。
何か含みのある口調がベティヴィエールの背筋を冷たく撫でていく。
「くれぐれも
「はい、当然です」
──既に絆されているのでノーカウントですよね?
胸の内で呟くベティヴィエールにアルトリアからそれ以上に何か言葉をかけられる事はなく、各々の仕事へ戻った。
◆
「聞いてくれ、今日から私の部下だ、アスノ」
ほう、これまた急な話だ。
「これからこの牢屋から引っ越しだ」
マジですか、一体どんな手を使ってあのアルトリアを説得したのやら、大方予想は付くけども。
「それで俺はどうすれば良い?」
「私の下で下積み、後に名声を高め武勲を挙げて円卓入りしてほしい」
ハハハ! それはそれは……かなり難しい事を仰られる。
円卓の騎士になれと? 無理無理無駄な事を、ただの不死者が円卓の騎士になれるならこの世に神はいらない、全員が全員英雄の中でも抜きん出る実力を持ち、それを裏付ける逸話がある。
ぽっと出の転生者である俺がその境地に辿り着くことはないと俺はハッキリ否定した、ベティヴィエールの提案を。
「いや、成れる、成らねばならない筈だ、君の目的の為に。
円卓の騎士に成らずとも何かしら方法があると思っているなら、その考えは浅いとしか言い様がない。
君の道と我が王の道が共存すると思うのか、ましてやそのプランが完了するまでに滅びるとは考えたか? 一人でブリテンを変えられると思ったならそれこそ我が王と変わらないぞ」
……確かにその通り俺のプランは見通しが甘かった、やろうとしたこともアルトリアの焼き増し、いや劣化版だな。
「円卓の騎士になるな? アスノ」
その答えは既に決まった。
「なる、なってやるさ、それでブリテンを変えてやろう、今よりもっと良くしてやる」
それでもってアルトリアを支えよう、一人で背負い完璧な王を演じる少女を人の暖かさの中へ返してやろう、それが三流のハッピーエンドでも俺は構わない。
「決まりだな、改めて私はベティヴィエールだ、よろしく」
「アスノ、ナイトオブラウンズのアスノだ」
ちょっと気が早かったかな。
次回はアスノ修行編