余生はロアナプラで   作:ヤン・デ・レェ

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第三ヒロイン(天敵)参戦。
主人公のライバル(偏見)参戦。


声と影

モンタナは楽園を作りたかった。だから創った。少し…というか、かなり思ってたのと違うような気もするが…。

 

普通の人間になる前に、落ち着ける場所で自分の幸福と平穏を核戦争に巻き込まれても守れるように。その為の拠点を構築したかった。

 

その為の場所として選ばれたのがロアナプラだった。

 

モンタナは自身の側近を二人呼び寄せるや、自らと彼女たち、モンタナの家族とも言うべき存在の平穏と幸福を守る…所謂、彼自慢の<楽老後サイキョー計画改二>を披露し、それからこう付け加えた。

 

・-・筆談ではそろそろ無理がある気がする。表向けに僕の<声>と<影>を用意してくれ。・-・

 

そう伝えると、モンタナは二人の側近それぞれに即時、計画の実行を命じた。

 

 

 

モンタナの指示を受けた実質的な神の国(ウルス)のNO.2であるバラライカは考えた。

 

「モンタナは私たちにも幸福を願っている。そして、平穏も…つまり<計画の完全実行>を望んでいるのね。私たちの(ツァーリ)は少し焦っているのかしら?いいえ、恐らく疲労がたまっているのね。」

 

「あの人、私が気づいていないとでも…呪いと祝福は一緒に解けて無くなってしまうもの…けれど、私がモンタナのことを見限るなど、唯一絶対にあり得ないことだ。呪いも祝福も本来なら我々には与えられるはずがなかった代物。原点回帰するだけ…これからは、我々戦士がモンタナを支える番なのだから。」

 

「それにしても…声が欲しいだなんて、やっと少しはワガママを言ってくれるようになって安心。今度はどんな素敵な預言を賜るのかしら?ワーカホリックの治療が先ね。本当にお疲れ様だわ。」

 

「私は使徒としての私に与えられた命令を忠実に遂行する。それから、伴侶としての私はあの人と一緒に南国でゆっくり暮らす。そのための環境を万全に整える必要があるわね?ふふふ…全く、これからが楽しみだわぁ?」

 

「ただ…あの狼女、よりにもよって私のモンタナに対して変態行為を平然と働き、そのくせ敬虔さについて説法をしてくるだなんて…殺してくれようかしら?…いいえ、ダメよ。少し頭に血が昇ってるわね…あの人のことになると…我を忘れていけない。」

 

「あんなのでも、一応は使徒同士だものね、それにあの力はモンタナの為に有用よ。忠誠心も私の次かしら?カオもカラダも悪くはないから、向こうに引っ越しが終わったら正式に洗礼でも受けさせようかしら…。」

 

「トイレに立て篭もられるのは正直もう御免なのよ。組み敷かれて精でも注がれれば、そうしたら少しは変態も落ち着くのではなくって?」

 

「嫉妬は…する訳がないわよねぇ…。だって…何処の誰がケモノが飼い主に尻尾を振る姿に嫉妬するというのか。それにモンタナと私が別たれることはない。そう断言しよう。」

 

「何故?だってそういう運命なんですもの。私とあの人が出逢った瞬間から、そう決まっているのよ…。」

 

 

 

同様に、気がつけばNO.3の席でモンタナ専属の護衛官に収まっていたロザリタも自身が信奉する主から与えられた直接の啓示に向き合って居た。

 

「あぁ…おいたわしや、主はこの地上の腐敗に心を痛めておいでですのに、その慈悲故に形ある楽園を態々用意し、剰え主の忠誠なる使徒のみに限らず、主に救いを求め迷える不義の贄達をも、その穢れなき救いの御手で癒そうとお考えなのですね…。」

 

「何たる慈悲深さ、何たる救世の愛…私は感服するほかありません…。しかし、よもや私めのような傍女のことまで、家族と、その懐深くに憩うことを許して下さるとは。望んで下さるとは…もはや、私には何の迷いもございません。」

 

「私は主にお誓い申し上げます。貴方様の平穏を脅かすもの、幸福を奪うもの、その御心を穢すものに一人残らず鉄槌を下すことを。」

 

「ですから、ね?貴方様、愛しの貴方様はもう力を振るい、血を浴びる必要などないのです。」

 

「私はロザリタは存じております。いつでも貴方様を視てきましたから存じております。その傷だらけの肉体が、日に日に熱を帯びてらっしゃることを、忌々しき疼きと痛覚が甦ってきていることを、貴方のロザリタは好く存じております。」

 

「貴方様はもう力を振るわなくても良い。使う必要のない御力故に、次第に衰えるのです。貴方様の過失は何一つそこにはございません。そして、代わりに鋭い感覚が戻ってゆくのです。今度は貴方様が癒され、救われる番なのです。壊し、切り拓く番は終わったのです。今度は貴方が触れて、私たちに触れられる番なのです。」

 

「だから、貴方様の身に起きるすべてを私は肯定します。貴方様の代わりに貴方様の敵を殺し。貴方のことを、貴方がロザリタにしてくださったように、この身のすべてを使って癒させていただきとうございます。」

 

「…あの火傷女は、時折貴方様を理解しておられぬ様子故心配ではありますが、そこは同じ使徒として私が補いましょう。手始めにもう貴方が傷を負うことも、煩わしい浮世に心を砕かずともいいようにしましょう。ただただ愛情と快楽に満ちた日々を、幸福と平穏だけを享受できるようにいたしましょう。」

 

「そのための影を見繕いましょう。折角です、主の御名を汚すことの無い頑丈で外見の良い影を探しましょう。」

 

「ですから、なぁんの御心配もいりませんよ?是非<すべて>を私にお任せ下さい。ねぇ、貴方様?」

 

 

 

モンタナの指令の一週間後。二人はそれぞれ<声>と<影>を手土産にモンタナの前に現れた。

 

「私のモンタナ、声は足跡が付かず、尚且つ貴方の身と秘密を守り抜ける条件で探したわ。候補はそれなりにいたけど、結局この子を選ぶことにした。一番の要因は…候補の中でも面接で、自分の喉を掻き切って見せたのはこの子だけだったから、かしらね?貴方の殺しの手口に憧れたんですって。貴方は<解体も処理も素手で熟す最高のキラー>なんだそうよ?」

 

「お初に御目にカカルワ、ワタシの名前ワ、ソーヤー。ソーヤー・フレデリカ。ヨロシクね、ゴシュジンサマ。これカラワ、私ガ、貴方の声とシテ貴方ノ秘密を守ルわ。」

 

「ふっふっふ…大概、アンタもイカレてるわねぇ~…でも、それくらいでなくちゃ私のモンタナの傍には置けないの。だから今回は及第点かしら?実力は、元々フリーの死体処理屋さんをしていたくらいだから…微妙な処ね。でも躊躇は無いから、そこは安心してちょうだい。貴方に近づく怪しい輩は子供でも女でも目の前でチェンソーで真っ二つにしてくれるわよ?」

 

「ほら、主人は貴方との握手をご所望よ?」

 

「ウ、ウレシイ…これ、が、コレガ…夢にマデ見た、あのキラー・モン、タナの、生の手…。」

 

喉に包帯を巻いたゴシックロリータかつパンクな感じの少女が登場した。喉にマイク的なマシンを当ててホラーなのにキュートな声を出している姿にモンタナは冷や汗を浮かべた。もう、明らかに目が例の如くヤヴァイ連中と同じだった。うんうん頷くだけ頷いたモンタナはおもむろに手を差し出し、ソーヤーに簡易的な<洗礼>を施した。

 

因みにだが、洗礼(コレ)を受けてない輩はロアナプラで商売が出来ないらしい。三日前に来たばかりにも関わらず、既に神の国(ウルス)の完全な統治下になっていた。ただしここで補足を入れると、ロアナプラは神の国(ウルス)全体の認識としてはあくまでも島丸ごとモンタナの私有財産であり、依然として領土を持たない国家思想が忠実に守られている。

 

これは意思決定の為の機能がそのまま、最高役員一同と一緒に外遊中の社長の別荘に移る感じである。

 

さて、既に完全に困ったことになっていたが、モンタナは更にもう一つ指示を自ら出してしまった。

 

もう一つの成果、ロザリタが早く褒められたくてウズウズした様子を押し殺しながらすぐ真後ろに立っていた。彼女の方に振り返らないという選択肢はない。

 

「最愛の主よ、ご所望の影をご用意させていただきました。こちら、頑丈さで合格点に達した唯一の候補者になりましてございます。主の影と名乗りたがる顔だけの軽薄な連中を幾らか殺処分しましたが…ご心配なく。こちら、頑丈さ以外に関して目をつむれば貴重な影の適性を持つと思われます。」

 

「初めまして…とは言わない。なぜなら、俺たちは何時か、何処かであっていたはずだから。貴方からは俺と同じ匂いがする…改めて自己紹介をさせて貰う。俺は"ウィザード"…ロットン・ザ・ウィザードだ。」

 

「フッ…貴方のことは知っている。いや、知りすぎていると言った方が良いかもしれない。この世界で真の闇に目覚めし者、否、闇と光を支配する唯一の者、黄昏の帝王…或いは神聖なる破壊の化身とでも呼ぼうか…。」

 

「真名の話は今この場ではどうでもいいことだ。そんなことよりも、俺は貴方に会って言葉を交わしたかったんだ。」

 

「言うまでもないことだが…貴方の計画も、その行き着く先についても理解しているつもりだ…だが、それは余りにも孤独だ。」

 

「闇と戦うのも、光に敢えて燻るのも…一人でよりも、誰か心強い仲間が居た方が気が楽なんじゃないか?」

 

「俺は、貴方の最期を見届ける者、記憶する者となろう。貴方が選択し、切り開いた新しい世界の行く末がどうなるのか、その中で貴方が何を考え、何を成すのか…一人で背負うには余りにも杉田(過ぎた)ものだろう。」

 

「故に、俺が馳せ参じた次第だ。深淵を見つめる最古のウィザード…先駆者にして悲しき宿命を背負いし、あり得た未来の俺…覇道を進むその覚悟に魅せられたんだ。真の同志…貴方の夢の先を魅せてくれ!」

 

「貴方と同じ運命を辿るはずだった俺を救ってくれた貴方に、夜の帳に憩う安寧からの孤児の同胞として、この俺、ロットン・ザ・ウィザードが最期までお供しよう!」

 

全身黒づくめ。黒のロングコート。キラキラ輝く銀髪。サングラス越しに深淵を覗く瞳は青い。

 

「や、ヤヴァイ輩だぁぁぁぁぁッ!?!?」とモンタナは思った。だが、声も出せずに冷や汗をかくしかなかった。

 

「あぁぁッ!!主よッ!感謝します…その慈悲が、祝福が、許しが…私の全てを癒し、この身に信ずるべき道を示してくれるのです。…全ては貴方の御心のまま。"DEUS VULT(神がそれを望まれる)"の言葉のままにッ!!」

 

「フッ…これが、洗礼…か。なるほど、手を通じて自らの眷属とする…正に光と影の両極を極めし、真の神聖を誇る者にのみ許されし力か…。」

 

目の前で跪き祈りの姿勢で尻尾を振るロザリタ。彼女から差し出された頭をゆぅ~っくり時間をかけてなでりこなでりこ。ガシッと丁重に、しかし絶対に逃がさない意志が明瞭に感じる力で手を掴まえられる。

 

片手を頬擦りされたり、薫りを嗅がれたりと自由にされながら、もう片方の手でロットンにも洗礼を施した。

 

モンタナは既に疲労困憊である。どんな努力を重ねればこんなに濃ゆいメンツを揃えられるのか。心底疑問であった。

 

 

 

その晩、モンタナは前々からバラライカが提案していた各国の揺り篭や同志たちに自身の意向を伝えるためのビデオレターを作成することにした。このビデオレターを影と声を出演させることによって、ごく一部の幹部を除いてモンタナその人を仮面の王に結び付けることの無いように仕向けることが目的であった。

 

モンタナ休養のための重要な仕事である。同時に定期総会を開催する際に必要な声と影が十分に機能するのか否か確認するための試験運用も兼ねていた。

 

内容は簡単かつ、モンタナ自身の今後を見据えた意向…つまりはモンタナにとっての個人的な楽園をロアナプラに創造する計画…を的確に伝えられるようにすることが求められた。

 

新参者になんでもかんでも任せるつもりはなかったモンタナだったが、軽く咳き込んだところを見咎められ、バラライカとロザリタの過保護によりその場を後にした。

 

任された新入り二人、ソーヤーとロットンはなんと互いの持ち合わせたモンタナの話題で意気投合していた。絶妙に一方的なトークが続き、互いの真意が1mmも通じていなかったが、運の悪いことに二人のアブナイ回路を繋げてしまった。

 

仕事の内容は原稿をロットンが、予め作られた意味深な動画に吹き込む音声を担当するのがソーヤーとなった。

 

オタク魂猛々しい二人は悪党面を隠そうともせず、これまで煮詰めて来たモンタナという裏世界のスーパーアイドルに直接会えた興奮でマックスのテンションに任せて、互いに自分が一番好きなモンタナそのままの魅力を伝えるべく、最高のビデオレター作成の為に徹夜で作業に取り掛かったのだ。

 

 

 

翌日の夜までに二人渾身のビデオレターは完成した。

 

二人にとっては完璧な出来だったが、一つだけ二人はミスを犯した。

 

それはデータの送信先が秘密回線の中でも、組織のプロ達が利用しているものではない、アマチュアの回線を通じて送信してしまったことである。

 

たった一つのボタンのかけ違いにより、世界最悪の犯罪都市が誕生することになるとは…この時はまだ誰も知る由が無かった。

 

 

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