あの日から10年が経過。時がたつのは早いもんだ。
俺がソフィーの色々を許してからは尚更。正に光陰矢の如しだった。
不安?不安は何一つなかったな。代わりにハラハラする機会は増えたけどな。それもかなり。
刺激的な毎日過ぎて歴史を塗り替えるんじゃないかって何度も思ったよ。いやぁ、それは大袈裟かな?でも、一応この俺の声なき声を聴いて欲しい。本当に、平穏をこよなく愛する俺にとっちゃぁ刺激的過ぎる毎日だったよ。
まず、198X年にソヴィエト連邦が消滅した。
何を言ってるのかわからないと思うが安心して欲しい。俺も正直何を言ってるのか理解するのを頭が拒んでる。何せたったの数年で綺麗サッパリなくなっちまったんだからな。
色々と言いたいことはあるが話せば長くなる。ものすごく簡単に説明すれば…ルーマニアみたいに革命が次々に起こったかと思えば次々に独立を宣言したせいで腐った柱に蹴りを入れたみたいに、あっという間に連邦そのものが消え去っちまったんだ。
クレムリンは何してたのかって?腐敗してたんじゃないか?
…ウソ、嘘だよ。反乱と革命の対応に追われるクレムリンはな、正直な所ソレどころじゃなかったんだ。何せ…アメリカとの核戦争一歩手前だったんだからな。
所属不明機の領海侵犯がきっかけだった。これがな、西側の機体だったんだ。
スクランブル発進したソヴィエト空軍機からの警告を三度無視し、いざや撃墜…と言うところで向こうからの無線が入った。
無線の内容はこうだ。
「当機は核兵器を搭載している。」
これでクレムリンは完全に機能を停止したと言っても過言じゃない。
すぐさまアメリカ合衆国に向けて非難じみた問い合わせが殺到した。ペンタゴン経由で回答はあったんだが、その答えがマトモじゃなかった。
何でも核弾頭が一発紛失してたらしい。
すでに困惑どころか怖気さえ湧きそうなもんだったが、不幸中の幸いか米ソの利害が一時的に一致したのだ。お互いあからさま過ぎる挑発はさすがにしないと言う、いわばライバル同士の信頼が頼みの綱となったわけだ。
必死に弁解するペンタゴンと泡を噴く大統領は見ものだっただろうな。
ソヴィエト中枢もとにかく向こうが本当に核兵器を持っているかもしれないと分かるとモスクワより手前の所で撃ち落とそうとか、いやいや人民に被害が出たらどうするとか、重要拠点が全て汚染されたらどうするとか…とにかく誰も彼もが平静ではいられなかった。
まるでスターリンを殺してやった時みたいだった。
あの時は夕飯に汚泥に漬け込んだ牛肉を仕込んでやったからな。まさか飯食って死ぬにしても、全身の穴と言う穴から出血するとは思ってもみなかっただろうな…と、思い出話で話が逸れた。
結局、その機体は何にもせずに領空から出て行ったんだが…だからと言って、はいそうですか、とはならんのよ。党幹部はもう安堵もつかの間でな、次がいつ来るかもわからない恐怖に殺されそうになったんだ。
基本的に地上海上問わず軍の作戦ってのは空軍の支援が前提なんだ。なんだが、衛星国家の反乱やら革命やらを鎮圧するよりも、核攻撃のリスクを排除するほうが、党幹部たちにとっては死活問題になったわけで、結局初動が遅れに遅れたんだな。
空軍の編成に参謀本部が蜂の巣を突いたみたいな大騒ぎになってる頃、地上軍だけ先行してたんだが…この時、不思議なことが起こったんだ。
どうやら向こうの戦車はガタが来てたみたいでな、所謂補給上の致命的欠陥が生じたんだ。列車もそれはもうノロノロ渋滞でな。ソ連軍の初動は悉く不調に終わった。
そのあとは何処からともなく自分はアメリカの外交官だと言い張る政治顧問が方々の臨時政府についてな、臨時政府もそのことをあっさり受け入れて次々に民主化やらを宣言していく始末…見方に依っちゃ世界の終末戦争カウントダウンだったが、もう片っぽから見れば穏やかかつ円滑過ぎる政権交代からの独立だったな。
アメリカの顧問団がルーマニアの時よろしく現れたかと思えば、その動きに触発されて一週間もしないうちにイギリスやら日本やらドイツやらの使節が国交樹立を宣言しだすし、何が言いたいのかと言えば余りにも既成事実化が早すぎたのだ。
その所為でソヴィエトは名前こそ残っていたが代わりの完全に形骸化した。そして、間もなく名実ともに崩壊を経験することになった。
だが、俺の十年はこんなもんじゃなかった。俺の十年、その後半戦の舞台は聞いて驚け、自由の国アメリカ合衆国だ。
ここまでの色々な騒動で既に俺…というよりもソフィー達の組織が国境どころか陣営を越えていることはお察しだろう。
だが、怖いのはぶっ壊した後のモノにもしっかりと影響力を残しておく点だと、俺は思う。
一番の例がソ連もとい現ロシア連邦だが、アメリカだって例外じゃない。
アメリカはどちらかと言うと、ソフィー達じゃなくて俺自身の手で色々やったってのが実情だな。
そう、いつもの奴だ。紛争への一方的介入だよ。敵はアメリカ合衆国及び敵対国家とかいう滅茶苦茶な状況だけどな。
長引いていた戦争を停めるには、各国の指導者を一斉に一身上の都合上ままならない状況に追い込めばよい。管理できない戦争は人の営みとしての枠組みを疾うに超えてしまっている。
つまり…悪いことだ。
だから戦争を始めた奴ら自身に戦争の責任を取ってもらう。自分で広げたものは自分で片付けるのが決まりだ。
そのために、俺は各地の戦場で戦う傍ら、古巣に毎日嫌がらせの様に政治家連中のスキャンダル情報を垂れ込んだりした。フーヴァーのパンツの柄を十年分記録したのもぶち込んでやった。全くアイツのセンスを疑うぜ。それはともかく、俺はアメリカ内外の政治家連中の恥ずかしい部分をばら撒いた訳だ。そんで、追い打ちになるように戦局を悪化させる。
どうやって?拳でな!
所属不明の部隊からの攻撃だと後からが響くので、アメリカ軍にはその敵軍として、その敵軍にはアメリカ軍として振る舞い襲撃した。
流石は第三次世界大戦に備えていただけのことはある。
戦時諜報上の重大な欠陥はさておき、アメリカもその敵国連中もとにかく身に覚えのない被害が敵軍によって出される事態には困惑を隠せない様子だったな。
俺も偽装の為に銃と刃物を使って片っ端から指揮官を狙い撃ちにした。
まさか戦地の外の高級指揮官まで事故死に見せかけて暗殺されるとはアメリカも思ってなかったんじゃないか?
お陰で何も疑われなかった。古巣がぬるすぎて心配になったが、そっちの方が好都合なので放置する。
俺はソフィーが選別した指揮官を、ボリス君達は補給部隊とかを中心に破壊工作と急襲を仕掛けた。
結果、多分かなりグダグダな感じであちこちの紛争地からアメリカ軍は撤退した。
影響力が減退することが嫌じゃない訳が無いのだが、拳を振り上げるに足る相手が最早存在しないと言うのが現状だった。
ソヴィエトなき今、どうしても大戦争できるだけのライバルが欲しいんだったら伸びしろのある中国共産党くらいかな?
あそこも大概にきな臭いので俺は深入りしたくないんだが…。
ともあれ、事実上唯一の超大国としての覇権を棚ぼたで手に入れたアメリカにこれ以上の戦争は、奴らの大好きなアメリカ人民の生命が浪費されるばかりで釣り合わないと判断されたんだろう。
厭戦気分も散々煽ったし、あとスキャンダルで足元を揺さぶりまくったからな。某ネズミとネコのアニメーションの如くガタガタと。
テレビに映る何かの調印式なんかをぼーっと眺めてた俺は、なんだかんだで働いてしまった自分に呆れつつ。既に次は何処に行こうか考えていた。
普通は考えるだけ考えて終わるのだが、ここには俺の考えを察するスーパー有能なソフィー達が居た。となれば、俺がすることは唯一つ…。
その後、何やかんやあって中華の奥地に一人空挺ダイブしたり、その足で毛沢東を暗殺して豚に共食いさせたり、アフリカの資源を巡り争う残忍な犯罪組織やらを皆殺しにしたり、アメリカ製アフリカ独裁者を襲撃したり、アフリカ中からかき集めた可燃ゴミの生首を纏めて段ボールにぶち込んでホワイトハウスの大統領執務室に置き土産したりした。
丁度よくテレビ出演日だった大統領が、事前にチェック済みの支持者からのプレゼントだと勘違いしてカメラの前で開封したからな。お陰でまたPTAと放送局から命を狙われそうだ…そいつらが俺のことを知ってればだけどな。
首から下は粉々に引き千切れちゃった所為でお見せできなくなってしまった。とはいえこいつらを全部俺が始末した訳じゃない。
忠実な戦士達が俺の代わりに…しては過剰なくらい過激に始末してくれた。
俺はこれと言って注文した訳じゃないので悪くないはずだ。
ただ「アフリカて、中身も外身も真っ黒なドクサイシャ多すぎない?ちょと面倒臭くなってきたぞこれ…ね、ねぇ君たちさぁ、神の裁きを代理執行してみない?」的なことをソフィーに"察して"貰い代弁して貰っただけだ。うん。ただそれだけ。
首が無い所為で体が勝手に燃え盛る火薬庫状態のアフリカには、俺と入れ替わる形でソフィー達が乗り込んでいた。
何でも次の"揺り篭"を拵えるらしい。
ソフィーがしれっと俺の一神教を布教しており、爆発的に普及していたが…俺は考えることをやめたのだ。
だからドクサイシャが護衛ごと次々に細切れにされたり、後任の指導者が俺を侮辱した廉でお焚き上げされてたり、果ては死んだ連中の隠し財産の在りかをバチカン経由で次々に暴いてるのも、生きてたら場所を吐かせてから殺してるのも…全然ッ!全ッッ然ッ!知らない。知らないったら知らない。
…正直、隠し財産とか全然考えずに肉に変えてたので、今後は見習おうと思った。
元からかなりの戦闘民族だったアフリカの人々を教化してるソフィーは毎日俺に報告してきた。はぁ…俺は君ともっと気楽な関係を育てたいよ…。今は無理そうだが。
そろそろ本格的に全然知らない子供(ソフィーが言うところの精鋭信徒)にも拝まれるので、切実にアフリカから離れたくなった。
アフリカに嫌気が差していた俺と、アフリカの利権を粗方浚って種も撒き終え満足げなソフィーの意見が一致したことにより、むせび泣く信者達に盛大に見送られてアフリカを後にした。
俺たちは次の戦場に向けて暫しの休養を取り、その期間を利用して、ソフィーと親睦を深めることが出来た。
…が、少し深め過ぎた。危うく彼女を妊娠させるところだった。
俺は肝が冷えたが、やっと心と体の距離が少し釣り合ったような心地になり嬉しかった。
日本の両親も今頃死んでるし、親戚も誰一人俺を知らないだろうからな。俺には家族と呼べる人が全くいない。いなかった状態から、美人の暫定:嫁がいる状態にまで昇格したのだ。
これは六連ソ連邦英雄を髭書記長から受勲するよりも、ルーデル勲章を髭伍長から貰うよりもずっとずっとずっと嬉しいことだった。
体の傷も狂ってる所も全部含めて、彼女は俺の好みなのだ。
・モンタナ
…久しぶりにバチカンの口座を確認しに行った先で美人のシスター(モンタナ視点)に口説かれた。嬉しかったのも束の間、なんか見た覚えがある気がして問うてみたら…彼女が自分の童貞を奪っていたことを知る。50年以上前に…。唖然、あまりのショックに寝込んだ。いや、それよりも気にすべきことがある…それは、彼の視点から見ると60過ぎのババァが出逢った時と変わらぬ美女に見えている点である。…完璧な生体サイボーグ、すげぇ…。自分がいつのまにか脱童貞していたせいで我を失ったものの、バラライカの包容力で持ち直した。その後まもなくソ連は崩壊した。要約するとヤバい人。
・謎のシスター
…バチカンで見かけたボードゥアンスタイルのモンタナに一目惚れ。その時見えた後光(自己申告)に目を焼かれ、そのまま回心した。ペテロに謝ってどうぞ。その日のうちに、シスターの本分を完遂。翌日、素知らぬ顔で自分を売り込み、喜んでモンタナの国際秘密口座の番人を買って出た。シスターの本分?…シスターが処女なのは神に捧げたからである。つまり、そういうこと。淫乱シスターって、実在したんやなぁ…。信仰心が振り切れている上に、滅私奉公こそ至高だと信じてやまないので彼女の正体を知る者は殆どいない。多分一番最初に同志を増殖させ始めた人。バラライカがモンタナを出し抜けたのは、実はこの人のお陰。隠れ始めたモンタナの経歴や情報だけでなく、リアルタイムの資産の動きから所在地やら口座やら、フロント企業やらの情報全般を一方的にバラライカに流していた大戦犯。本人は神(モンタナ)の見えざる意志に応えたつもり。この人は一体誰なんだろうね?因みに、初夜(シスター視点)時に片目を失明。後光に灼かれた有難い聖痕らしい。えぇ…。要約するとヤバい人。