ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第101話 忍びの罠

 セキチクジムのジムリーダー、キョウはモニターの前で今回のチャレンジャー、スミレのチャレンジを見守っていた。画面の中のスミレは横からの丸太を事前にそれを想定したと思われる動きで躱し、第3の仕掛けに差し掛かる。

「……ここからが腕の見せ所。無様を晒してくれるなよ? 」

キョウは、怪しげに笑った。本心としては、引っかかって欲しかった。なぜなら、ジムトレーナー達との飯のタネになるから。

 

◾️◾️◾️◾️

 「……ゲンガー、戻って 」

スミレは、目の前に展開された泥のプールと飛び石、更に空中で待ち受けるズバットの群れに、スミレはゲンガーをボールに戻す。ズバットなのでレベルこそスミレのポケモンに圧倒的に劣るが、恐るべきはその数だ。まるで洞窟の天井でも見ているように錯覚してしまうほどに、天井を埋め尽くして飛び回るズバット。スミレがもしも集合体恐怖症なら悲鳴を上げていたところだが、スミレが苦手とするのはゲンガーにやられたような急なハプニングと人間そのもの、嫌な顔はするものの問題はない。

「バタフリー、フシギバナ、行くよ 」

スミレが繰り出したのは、バタフリーとフシギバナ。ベクトルは少し違うが、現状ではスミレのポケモンの中で最も信頼されているポケモンだ。フシギバナは言わずもがな最強の相棒、対するバタフリーは忠臣にして仕事人。スミレは、天井を埋め尽くすズバットの群れを、2体で攻略できると踏んでいた。

「フシギバナは【はなふぶき】、バタフリーはその間を飛び回って【サイケこうせん】」

そう一言指示を出せば、彼らは仕事を見事にこなす。フシギバナが放った【はなふぶき】は広範囲に展開されるとズバットを次々に撃ち落とし、バタフリーは【はなふぶき】の僅かな隙間を縫って飛び回るとズバットによる反撃を【サイケこうせん】で狙撃して妨害、無防備になったズバットは【はなふぶき】や追撃の【サイケこうせん】で撃墜して倒す。

「フシギバナ、戻って。バタフリーはそのまま迎撃を継続、殲滅お願い」

「フリィ!! 」

スミレはフシギバナをボールに戻すとバタフリーに指示を飛ばす。バタフリーは了承の意を示すと薙ぎ払うように【はかいこうせん】を撃ち、多くのズバットを撃ち落とす。撃ち落とされたズバットはどこからか飛んできた赤い光によって回収されており、恐らくトレーナーがいるのだろうが、所詮スミレにとっては烏合の衆、大したことはない。

 

「ーーーー!! 」

突如、耳元で爆音が轟いた。スミレは咄嗟に耳を押さえて蹲る。鼓膜などに損傷はなさそうだが、聴覚が効きづらくなってしまった。背後を睨みつければ、そこには1体のズバットが。恐らく、ズバットが得意とする音波による攻撃だろう。それも、人体にちょうど良い塩梅で有害な程度に調節されていることから、最初からそれを予定していたのだろう。

 

(……やられた!)

スミレは悔しげに顔を顰める。顔の側を掠めて飛んだ【サイケこうせん】がズバットを撃ち落とし戦闘不能にするが、スミレは音波攻撃を受けたことにより頭痛を感じる。スミレは大軍の処理に意識を割かれ、後方への注意が散漫になっていた。

 

(このジム、屋敷の構造だけじゃなくてポケモンの力そのものも使って私を妨害してくる……最悪)

スミレは、痛む額を抑えた。

 

◾️◾️◾️◾️

 キョウは、スミレの様子に大きな溜息を吐いた。

「……なんだ、別に飛び出ているわけでもないのか 」

キョウが言ったのは、同じマサラタウン出身のトレーナー同士の力関係についてだ。ヒマワリとは戦っていないが、サトシとシゲルの2人は既に戦い、どちらもバッジを手にしている。スミレは4人の中で唯一師匠を持つため期待していたし梟とのバトルでその期待は膨らんでいたのだが、強いには強いがそこまで差が大きいと思えなかった。

 

「馬鹿め、だから襲撃事件のように肝心なところで負けるのだ。先程だって梟を相手に背後を取られ、今度は攻撃も受けたではないか。想定外に弱すぎる上に事前に想定して備えるバトルスタイルにしてはあまりに読みが甘いな。先程の梟からの指摘も身になっていない辺り、肝心なタイミングで精神的な余裕を失って思考力が低下しているな。策略を主とするトレーナーがこうも視野が狭いのは良くない。……この点は低評価だ 」

キョウはそう辛口の評価を下す。因みに、シゲルにも同じ罠を受けたのだが、その時はピジョットの【かぜおこし】でズバットを攻撃しつつ体勢を崩させ、シゲルはウインディに跨るとウインディの素早さを使って振り切るという強引ながらもポケモンの特徴をよく利用した方法で突破していた。キョウの判定では、いちいち足を止めて自身の最強の切り札を使って応戦し、不意打ち攻撃への不注意を先程指摘されたにも関わらず繰り返した今回のスミレの行動は、シゲルよりも遥かに劣ると判断出来た。シゲルの態度はキョウをして少し鼻についたのでスミレにはもう少し頑張って欲しかったところである。

 

◾️◾️◾️◾️

 スミレは、少しだけ痛みが引いてきた頭を押さえながら歩いていた。飛び石はしっかりとクリアしたのだが、その表情は決して晴れやかではなかった。相手の攻撃を自分が受けることを、全く想定していなかったといえば嘘になる。そう、想定はしていた。だが、ズバットとはいえ、大軍に囲まれて足元は泥のプールという状況で余裕を失い、結局はつい先程指摘されたことと同じ間違いを繰り返した。

(……分かってる、分かってるんだよ)

失敗の原因は分かっている、なのにいつもいつも肝心なタイミングで改善出来ていない。大丈夫だ、いつかは改善できると焦りそうになる心を落ち着け、一歩踏み出す。瞬間、景色が変わった。

 

「……ワープ!? 」

スミレは、思わず声を荒げた。スミレがいる空間は、先程までの廊下のような道ではなく、広い和室だ。床には畳が敷かれ、床の間があり、そしてそこで呑気に茶を飲む忍び装束の若い男が1人。

「随分と迂闊だな。ワープ装置のある場所は床に使う板の色を微妙に変えてある。観察して歩けば分かった筈だろう 」

「…………ッ! 」

悔しげに顔を顰め、スミレはボールを取り出す。目の前の忍びは、懐に手を伸ばすとボールを手に取った。

「本来なら回避できたバトルであるが、其方が迂闊であるなら是非も無し。……梟に次ぐ第2の刺客、ジムトレーナーのドロマルがお相手致そう 」

「……ミニリュウ!」

スミレが選出したのは、ミニリュウだ。和室の空間は限られており、フシギバナやラプラスのような大型は動きに支障が出る上にバタフリー、ゲンガー、フーディンでは狭い空間だと機動力が落ちるので持ち味の変幻自在さを活かせない。つまり、ミニリュウ一択だった。

「本来ならばドクロッグを使いたかった所であるが、カントーのジム戦では掟により使えぬ故、それに合わせてやるとしようか。出るがいい、ベトベトン 」

「ベェトォン…… 」

ベトベトンが出た瞬間、空間に嫌な匂いが充満し、スミレは鼻を押さえる。

「……臭い 」

「当然だ、某はベトベトンの臭いによる攻撃力を保つため、独自に餌を配合して与えている。このような密室でマスクも付けずに臭いを受ければ、鼻が効かなくなるぞ。…………因みに、長時間浴びていれば臭いは服に着くだろうが洗濯すれば臭いは取れるように調整してある、だから安心せよ 」

「そう、ですか……! 」

スミレは、あまりの臭いに涙目になりながら鼻と口を押さえる。ドロマルは、口元に布を被せて隠している。マスク代わりだろうか、臭そうにしていない辺り高機能なのか本人が臭いに慣れているかは分からない。スミレは洗濯で取れると聞いて少し安心してしまったが、それはそれとしても臭い。スミレは、咄嗟に床の間の上に登って逃げ道を探す。

(……こういう時、時代劇なら)

そう思って掛け軸を触ると、板が動く感触が手を伝ってスミレの脳内に駆け込んだ。

「ミニリュウ、【たつまき】、それから退却! 」

スミレは鼻を押さえながら掛け軸を押し、人1人が入れるだけのスペースを確認すると転がるように飛び込んだ。続いてミニリュウも【たつまき】をベトベトンにぶつけると、その先にあるのは、少しだけ広い部屋。天井は低いためバタフリーなどは戦いにくいが、ミニリュウで迎え撃つには十分だ。強く風が吹いているような音を聞き、スミレはその部屋が換気が行われていることを理解した。

(……なるほど、つまり有利なフィールドに相手を呼びつけろってこと?)

そしてドロマルとベトベトンが部屋に入り、両者は対峙した。ベトベトンの臭いは、少し気になるが先程までよりもかなりマシだ。

「……某の攻略法は2つ、ひとつめはあの小部屋を上手く使って戦うこと。今までのチャレンジャーだと、壁を飛び跳ね回って攻撃し続けることで勝利したチャレンジャーがおったが、これは基本的に使われない上級者のやり方だ。そしてもうひとつ、多くの人が利用するのがこの方式。掛け軸裏の隠し扉を使って別空間に移動し、そこで迎撃する。あまりにベタな仕掛けなため多くの者が利用するのがこの空間、当然某もこの場所で幾度となくトレーナーを迎撃して倒してきた。其方に某が倒せるか? 」

「……当然 」

スミレとドロマルは視線をぶつけた。

「ベトベトン、【ヘドロばくだん】」

「ミニリュウ、【たつまき】」

【ヘドロばくだん】と【たつまき】が激突し、爆発が起きる。

「ミニリュウ、【ドラゴンテール】」

ミニリュウが追撃し、【ドラゴンテール】をぶつける。しかしベトベトンはボールには戻されず、しかもダメージが堪えていない様子で流動性の体をくねらせた。ベトベトンは、そのままミニリュウの尻尾にヘドロを絡み付け始める。

「ベトベトン、【のしかかり】」

ベトベトンのヘドロがミニリュウの全身を包み込む。直接浴びせられた強烈な臭いと体の重みに、ミニリュウはもがき苦しむ。

「……ッ、ラプラス! 【みずでっぽう】」

スミレは追加のボールを投げ、【みずでっぽう】を撃たせる。ベトベトンは水圧によって吹き飛ばされ、ミニリュウは顔をシワシワにしながらも復帰する。ラプラスが軽く水をかけてやれば、体を震わせて水滴を飛ばし、元気を取り戻す。

「戻って、ラプラス。……ミニリュウ、退却戦やるよ。【たつまき】を連続で撃って 」

ミニリュウが【たつまき】で牽制しつつ、スミレは室内を走り回る。スミレが居る部屋は、他の部屋と繋がっていない。つまり、どこかにワープできる装置がある筈だ。少なくとも、ワープさせられた地点から抜け出せることはハッキリしている。

「ベトベトン、【どくどく】! 」

ミニリュウが避けきれずに被弾した。

(……【どくどく】は猛毒状態にする状態異常技、長期戦にはできない)

 

スミレは相手の様子を窺いつつ走り、畳のほんの一部が僅かに違う色であることに気がついた。

「ミニリュウ、戻って! 」

走りながらミニリュウをボールに戻し、その地点を踏む。

「良い判断だ 」

ドロマルの賞賛の声を最後に、目の前の景色は再び切り替えられた。

 

 




因みに、今作のサトシがセキチクジムに挑んだ時は大筋こそ変わらないけれど突破した罠の難易度は本編よりもずっと高い。頑張った

スミレ最大の弱点: 精神的に余裕がないため視野が狭くなりやすい(搦手メインでやるには致命的)。解決のキッカケとなりうる方法はあるがスミレにそれをしようという努力は見られず、エリカは『いつまでも他人の指摘がないと課題に気付けないようでは致命的だから、自分で気付いて考えて行動すべし 』と敢えて放置しているし、なんならキョウにその辺を指導しないようにお願いしている。スミレの行動次第でマシになる


【裏設定】この世界、トレーナー上位層のレベルが1名を除いて本編に比べて底上げされている。その1名とはダンデのこと。この世界のダンデはガラルでは無敵だが、PWCSのような国際大会では割と負けることもある。それでも強いし、現段階では1位だが。
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