ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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お待たせ致しました。
ギリシャ、トルコはめっちゃ楽しかったです


第104話 吠えよドラゴン

 「……やられた 」

スミレの呟きが耳元に届き、ミニリュウは毒によって齎される痛みと屈辱に顔を歪めた。今のは、確かに相手が一枚上手であったのは事実だ。攻撃を紙一重で避けられ、その隙に【どくのこな】を受けた。しかし、ミニリュウではなくハクリューの間合いならば、食らいながらも【ドラゴンテール】は当てられた距離であった筈なのだ。

 ミニリュウは、進化を我慢していた。進化すれば強くなると分かっていても、ミニリュウは進化しなかった。タマムシジムの一戦以降、ミニリュウはスミレに甘えられるようになっていた。ミニリュウが暴れないならとスミレはミニリュウの意思を受け入れ、ミニリュウもまたスミレを気遣うようになったことで、ミニリュウは迷っていたのだ。『大きくなったら、甘えられなくなるのではないか』と。小さいからこそ腕の中でその温もりを享受できる、小さいから膝枕で眠れる、そう思うと、求めていた強さに最も近い進化に対しても躊躇いが生じてしまう。だから、我慢した。ミニリュウのまま強くなるのか、カイリューを目指すのか。それが中々決められなかったのだから。自らの主が長い時を旅して人生に意味を探すなら、自分もまた長い時間を考えてから進化しても良いはずだと思った。底なしの沼に沈んでいくように、ミニリュウはスミレの優しさの沼から抜け出せなくなっていた。それは、元の冷遇があったからこそ余計であったのである。

「ミニリュウ、切り替え 」

悩むミニリュウに、スミレはそう声を掛けた。スミレは、とっくに気が付いていたのだ。ミニリュウが、とっくにハクリューに進化している筈であるということを。しかし、スミレはずっと気付かない振りをしていた。確かに躾は必要ではあるが、ミニリュウの個性を殺せば同時に強みも殺してしまう。そして何より、かつての自分と同じ思いをさせていたことに気が付いたことで、ポケモン全体への態度が少しだけ甘くなったのである。

「リュウ…… 」

「貴方が何を悩んでいようと、それはトレーナーである私の責任。私達は今勝つためにここに立ってる。だから、今はバトルに集中して 」

スミレは冷静にミニリュウを諭す。相手に読まれる動きをさせたのはスミレだからである。

(……悩んでいて、勝てる相手じゃない)

「そろそろいいか?……モルフォン、【サイケこうせん】」

「ミニリュウ、【りゅうのいかり】」

両者の技が、空中で激突する。

「【むしのさざめき】」

追撃は、モルフォンがより速い。音波による攻撃がミニリュウを打ち、ミニリュウは身をくねらせて苦しむ。

「ミニリュウ、【たつまき】! 」

ミニリュウはモルフォンの攻撃に顔を歪めながらも、【たつまき】を放つ。直撃を受けたモルフォンは吹き飛ばされるが、すぐに空中で体勢を立て直した。

 

「……ここまでか 」

ミニリュウの耳に、そんな呟きが届いた。スミレが放ったその呟きに、ミニリュウへの失望や怒りといった感情はない。悔しさを滲ませたその声は、ただ客観的にミニリュウの限界を悟ったようで。それがミニリュウには、耐え難いほどに悔しかった。

(駄目だ)

ミニリュウとて分かっている。このままでは、確実に負ける。突破口は、進化のみ。だが、心のどこかでそれを躊躇う自分がいた。やっと手に入れた暖かさを失うかもしれない、と思うと怖かった。他のポケモンを見れば可愛がって貰えるだろうとは思うが、それでもスミレの胸の中の暖かさを全身で感じられる小さな体を手放す、というのはあまりにも大きな損失だった。

「モルフォン、【サイケこうせん】! 」

「【りゅうのいかり】」

【りゅうのいかり】でなんとか相殺する。

(駄目だ)

種族としての力が足りない。ミニリュウにはそれが分かっていた。前に進まなきゃいけない、意地を張っていれば置いて行かれる、そんなことは分かっていた。けれど、あと一歩が踏み出せない。だから

「頑張って、ミニリュウ 」

全てを見透かしたようなスミレの言葉が、心を打った。その心に熱い火が灯り、それは全身を包み込む熱となった。

 

「リュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!! 」

ミニリュウが天に向かって吼える。目指す先は定まった。少女の腕の中に収まる小さき龍ではない、彼女の矛となり盾となる、荒れ狂う強き龍こそが、ブレずに進む先だと決意した。ならば、立ち止まっている暇などない。ミニリュウの全身を、光が包み込んだ。溜め込み、押さえ込んだ進化のエネルギーを全て解放し、全身に浸透させる。放たれた眩い光に、モルフォンは目が眩んで動けない。

(もっと先へ……もっと、もっと強く!!!!)

光の中で、ミニリュウの全身が一気に成長する。より強く、より大きく、より凛々しく。親に甘える子供、という殻を打ち捨てて、ミニリュウは1段階進化する。

 

「リュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!! 」

光が散ると、そこにはより大きくなったミニリュウの姿があった。その名は、ハクリュー。

「……そっか、進化したんだね 」

スミレは、柔らかい声音で呟いた。その目には、分かりにくいが確かに嬉しさが宿る。ミニリュウは自分の意思で誘惑を跳ね除け、心も体も進化したのだ。

(あの甘えん坊が、ね……。なら私も、頑張らなきゃ)

甘えん坊なミニリュウが決意して一歩踏み出したというのなら、その初戦に相応しい勝利をプレゼントしてやるのがトレーナーの仕事であろうと、スミレは気合いを入れ直しモルフォンとその先に立つキョウへと鋭い視線を飛ばした。

「ファファファ……! 成程、進化か。実にめでたいが、それで拙者のモルフォンに勝てるのか? 」

「勝ちます。あの子が殻を破ったのなら、結果は出せる筈ですから。後は私の実力次第、私があの子の足を引っ張るわけにはいきませんから」

キョウとスミレは視線を交わす。まるで火花が散るような睨み合いに、バトルコートの緊張感が一気に増した。

(……ハクリューは毒で消耗している。せめてこの一戦で金星を取って、次に繋げる)

「モルフォン、【サイケこうせん】」

「ハクリュー、【りゅうのいかり】」

両者の技がぶつかり合うが、今まで相殺されていた【りゅうのいかり】が僅かに勝ると、爆風がモルフォンに向けて押し寄せる。しかしそれを予期したか、モルフォンは距離を取った。

「【たつまき】」

ハクリューの放つ【たつまき】がすかさず追撃、モルフォンはそれによって大きく体勢を崩した。

 

(……ここっ!)

「追撃お願い、【ドラゴンテール】」

ハクリューは勢いよく飛び上がった。その速度は、ミニリュウだった頃を遥かに凌ぐ。空中で回転し、遠心力を上乗せした【ドラゴンテール】が、モルフォンの頭に叩きつけられた。モルフォンはその一撃で力無く墜落する。

「ここで終わらせる……! 【げきりん】!! 」

スミレが選択したのは、最大火力による短期決戦。墜落したモルフォンに、【げきりん】を空中で発動し加速したハクリューが突っ込んだ。空を駆ける青龍が、頭からモルフォンを地面に叩きつける。

 

「モルフォン、戦闘不能! ハクリューの勝ち!!」

 

審判の宣告が下る。キョウのポケモンは残り1体、スミレは残り3体、ハクリューが消耗しているが、それでも圧倒的に有利だ。

「ファファファファ……、進化によって意表を突かれたな、全く。だが、不意打ちはもう通用せんぞ? 拙者は8個目の砦、ただで負ける訳が無かろうが 」

「分かってますよ、そんなこと 」

好戦的に笑うキョウに、スミレは真剣な視線を送る。今の勝利は、ミニリュウとハクリューの基礎スペックの差によるモルフォンの混乱に付け込んだ、偶然のようなものだ。手加減しているとはいえジョウトで四天王を務めるこの男に対し、同じ手が通用する訳がない。

 

「さあ、拙者が出す、最後のポケモン! ゆけい、クロバット!! 」

「バーット!! 」

 

(……あれは、クロバット!?)

スミレは、出されたそのポケモンに目を見開いた。クロバット、研究途上のため正式に図鑑登録が為されておらず、そのためその名は仮称ではあるが、カントーでも見られるゴルバットから進化する、と言われるポケモンである。

「その表情、もしや初見か? だが、確かにクロバットは図鑑登録がいまだに為されず連れるトレーナーも少ないポケモン故に戦ったことがないというのも無理はない。だが、ここで勝たねばバッジを取ることはできぬ。さあ、向かってくるがいい 」

「…………ッ! 行って!! 」

ハクリューが使える技は、【げきりん】のみだ。ハクリューは荒ぶるエネルギーを纏って突進する。

「クロバット、【かげぶんしん】」

クロバットの残像が生まれた一瞬後に、一体の分身に向かってハクリューの尻尾が叩きつけられた。

((……速い!!))

スミレとキョウは、同時に相手の速さを悟った。

「クロバット、【エアスラッシュ】! 」

空中に舞い上がったクロバットが放ったのは、【エアスラッシュ】。クロバットがその翼をはためかせるたびに、空気の刃が連続で放たれる。

「撃ち落として! 」

「リュウゥゥゥ!! 」

ハクリューはそれを尻尾で迎撃、【げきりん】による能力向上を利用して高速で尻尾を振るうと、1発、2発、と【エアスラッシュ】が叩き落とされる。

「物量で攻めよ! 」

しかし、【エアスラッシュ】の連撃はそれを上回る。迎撃速度を上回り放たれる斬撃の雨が、ハクリューの体力をまるで木を鑢にかけるかのようにジリジリと削った。更にハクリューの体には、状態異常による継続ダメージがある。ここからの逆転は、ほぼ不可能。

「……突っ込んで! 」

苦渋の決断、その言葉が正しかった。ハクリューの消耗は激しく、【げきりん】ももうすぐ切れる。そうすれば混乱になり、クロバットの良い的になってしまう。だが、最後の最後まで諦める訳にはいかないとスミレは突撃を指示した。

「【クロスポイズン】」

十字型の毒の刃は、まさに罪人を裁く処刑台の十字架のようであった。ハクリューは体にその一撃を貰い、吹き飛ばされる。そして毒による追撃。ハクリューは表情を歪めて身悶える。

「リュウゥゥゥ!! 」

だがしかし、ハクリューは起き上がって突撃した。勝てるなどと、スミレもハクリューも思ってはいない。少しでも消耗させ、次に繋げるための特攻であった。

「クロバット、【エアスラッシュ】」

再び空気の刃が放たれた。ハクリューは【エアスラッシュ】の連撃を受けて尚、止まることなく前へと進む。

「バーッ!? 」

ハクリューの【げきりん】最後のエネルギーを込めた頭突きが、クロバットを捉えた。クロバットは吹き飛ばされ、空中で体勢を整えるのも間に合わずに壁に激突し、激しい土煙を上げる。

「ほう 」

「………… 」

ハクリューの奮戦に、少しだけ目を見開き驚きの声を上げるキョウ。しかし対するスミレの表情は暗かった。それもその筈で、土煙が晴れた先には少しダメージを負いながらも力強く羽ばたくクロバットの姿と、壁に頭をぶつけて失神するハクリューの姿が。

 ハクリューの攻撃は、間違いなく命中していた。だが壁に激突する直前、その身体を分身と入れ替えていたのである。

 

「忍法、変わり身の術……といったところでござるな 」

 

「ハクリュー、戦闘不能! クロバットの勝ち!!」

得意げに笑うキョウの声に続いて、ハクリューの脱落を告げる宣告が下った。

 

 

 





別に読まなくても良い話

本作は、原作となるアニポケが『ゲームを原作としたアニメ作品である』という点を前提に作られた作品なんですよね。まぁ今はゲーム要素が結構取り入れられてるなーくらいでなんの問題も無いんですけど

低評価の中で、高評価沢山付けられてる方からの低評価あるとよりキツイものがありますよね。どうせ苦情来るならスミレの自殺未遂関連話、優しくしなくても良かったなーと思ったり思わなかったり。本来なら、生き物の殺処分とか、愛護団体の暴走とかの風刺強めの話になる予定だったんですが、それだとスミレが完成品以上に曇るので読む側が流石にキツすぎるかと辞めたんですけど。虐めの内容もダイジェスト化して描写を軽くしたり、一応配慮はしてます。足りなかったっぽいですが
まあ、本作で暗くなってアニポケを見に行って浄化する、というのが本作の曇らせパートの良い楽しみ方ではあると思いますので、本作で不快になってもならなくてもアニポケを見てください。
今後は方針転換で結構明るさ多めになりますが
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