ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第106話 8個目の先にある冒険

 激戦を終えて寝転んでいたスミレは、体を起こしてフシギバナを見る。

「バナァ!」

嬉しそうに微笑みかけるフシギバナの体は相性の悪い攻撃を受け続けたことで消耗しており、いかにギリギリのバトルであったかを想起させる。

「……良いバトルだったよ、フシギバナ。他のみんなも、ね」

スミレが穏やかな表情でポケモン達を労うと、フシギバナはにっこりと笑って蔓でスミレの頭を撫でると、もう1本の蔓でスミレの腰を支え、立ち上がらせる。

 

「おめでとう。拙者の負けだ」

その光景を微笑ましげに見守っていたキョウに声をかけられ、スミレはキョウと握手を交わす。

「あの子達が頑張りがあってのものです」

「ああ、そうだとも。だがしかし、それだけではない」

キョウの言葉に、スミレは『分かっている』とでも言うように頷いた。

「私と、ポケモン。どっちかが居なければ変わっていた試合でした」

「うむ、大変良い試合であったな。だからこそ、バッジを快く手渡せる。……ここに!」

 

「はっ!!」

キョウが声を掛けると、その背後に一瞬のうちに配下の忍びが立っていて、小さな箱を手渡す。キョウが箱を開ければ、そこにはピンク色に輝くジムバッジの姿が見えた。

「これこそが拙者のジム、セキチクジムを突破した証であるピンクバッジだ。受け取るがいい」

「はい。……ありがとうございます」

スミレの掌に乗せられたそのバッジは、まるで勝者を讃えるかのように強く輝いて見えて、小さい筈のそのバッジからは、今まで受け取ったバッジとはまた違った重みを感じた。

「重いか?」

キョウは、スミレの様子にふっ、と笑みを浮かべる。

「……はい。でも、なんで」

「それはな。緊張の重みだ。お前は、たった今拙者を下してバッジを手に入れた。8個目となるそれは、即ちポケモンリーグへと直接続く切符なのだ。先のリーグを知らないうちに意識し、お前は緊張しているのだろうな。……だが、お前にはトラウマもある。拙者の言葉のみに流されず、自己分析は怠るな」

キョウの言葉が、ストンと腑に落ちた。掌を見れば、気付かぬうちに痙攣している。震えていたのだ。

(……ああ、そうか)

「ちょっとだけ、自分の気持ちが分かったかもしれません。……色々と、できることはやってみようと思います」

「そうか、ならば良かった。……それで、これが突破の証に与えられるわざマシン、【どくどく】だ」

続いて渡されたわざマシンは、スミレとしてはかなり欲しかったわざマシンだ。【どくどく】、今回のバトルで散々スミレを苦しめた技。強力な状態異常技は、スミレの戦術に組み込むには最適であった。

「ありがとうございます。……これでまた、強くなれます」

「ファファファ……!向上心に溢れているな、それで良い」

キョウは、機嫌良く笑う。それを横目に、スミレはバッジケースへとピンクバッジを収める。

「ピンクバッジ……ゲット」

バッジがケースにピッタリとハマり、スミレは薄らと頰を緩めた。

 

「そういえば、リーグまではまだ期間があるのだがお前はどうするのだ?」

ふと、キョウが尋ねた。対するスミレは、少し考える素振りを見せる。

「ええと……。ポケモン達を労う意味も兼ねて、グレンタウンの温泉に行こうかと」

「ほう、グレンのジムには挑まぬのか?」

「はい。そのつもりです」

「ふむ……だが、温泉は大丈夫なのか?お前は確か」

キョウは、真顔で尋ねた。忍びの情報網だから知っていることではあるのだが、スミレが身体の傷痕を理由に温泉に行かなくなったことを。だから、そう言ったスミレに、『大丈夫なのか?』と尋ねたのだ。

「やっぱり、知ってるんですよね」

「うむ。悪いとは思うが、忍びというのはそういうものだ」

「そこは咎めません。……大丈夫ですよ、ちゃんと個室を借りますし」

キョウの目を見て話すスミレに、冗談や衝動任せの色は無かった。

「そうか。なら、大丈夫なのか」

「はい。……いい加減、ちゃんと自分と向き合わないといけませんから」

そう言ったスミレの頭を、ポンポン、といった調子でキョウは軽く叩いた。驚いた様子で見上げるスミレに向けて、キョウは言葉を紡ぐ。

「そうかそうか。……だが、自分と向き合うことに集中しすぎて、慰安という目的を忘れるなよ?どうせ、旅はこの先も終わらない。カントー地方の旅はひと段落かもしれぬが、人生という旅をしているお前の先に広がる未来は、想像も出来ぬほどに広大なのだから、焦らずともいいのだ」

キョウのアドバイスに、スミレは頷いた。

「では、これからトレーナーとして生きていく上で、何かアドバイスはありますか?」

スミレの質問に、キョウはニッコリと笑った。それは歳にも職業にも見合わぬ、まるでおもちゃ箱を初めて開けた時の少年のような、期待にキラキラと輝く瞳だった。

「見たことがない、やったことがないことを恐れないこと。たとえ暗いトンネルの中を歩む人生でも、その先に光を信じて一歩前に歩き出すこと。その一歩踏み出す勇気は、きっとお前に祝福を齎すだろう」

きっと彼は、進み続けたのだろうとスミレは思う。忍びという役目は、きっと楽な道ではない筈だ。過去の歴史に描かれる忍びは、いつだって格好よくも闇に深く浸かった存在であったから。四天王とジムリーダーの兼任は、きっと知られざる苦労もあったことだろう。けれど、それでもこの男は一歩一歩前に進む道を選んだ。そしてその先に、今も2人を囲んで祝福の声をくれるジムトレーナー達に慕われるような人間となったのだろう。

(……凄いな、ジムリーダーは)

何処ぞの似非ジムリーダー姉妹は置いておくとしても、これまで出会ったジムリーダー達の何と大きなことか。大らかな人格者だったタケシ。違う価値観を認める強さを持ったマチス。荒波に呑まれない豪快さを持ったカジキ。色々思う所はあるが、結局は己の罪と向き合ったサダコ。闇を知り、それでも歩き続けたサナダ。花のように美しくも、優しく包み込んでくれた敬愛する師匠であるエリカ。そして、忍びという闇に生きながらも一歩踏み出す勇気を忘れぬキョウ。誰も彼もが、遠くて大きい背中だった。1人で蹲って、無意味に当たり散らして、誰とも分かり合おうとせずにここまでやってきた自分とは、大きく違うのだとスミレは思う。

「そう自分を卑下するな」

キョウは、スミレの内心を見透かしたように言った。

「……ほんと、ジムリーダーはみんなそうやって気づいてくるんですから」

スミレは、呆れ混じりに呟く。だが、その表情に嫌悪感は無かった。

「ファファファ!ジムリーダーたるもの、迷えるトレーナーを導かずしてどうする!?我らジムリーダーとは、殆どが実績により任ぜられた者達だ。そしてそれらの多くは、人生という冒険を進んできた末にこの称号を得ている。つまり、それだけの経験を持ってお前に相対している以上、後輩の悩みは分かって当然、そしてジムリーダーがジムリーダーである以上は悩みの解決に貢献して当然なのだ。……だがな、心配することはない。そしてお前の先にある未来は、誰にも描くことのできぬお前の……いや、君の冒険だ。一歩踏み出した先がなんであれ、きっと君を成長させてくれる有意義なものとなるだろう。だから、君がもしも我らの行動に何かしら好意を抱いたのなら、同じ事を君が次の世代のトレーナーへ向けてやってやればいい」

キョウはそう言って笑う。

「……私が変われたら、やってみます」

今のスミレに言えることなんて、そんな消極的なことでしかないけれど。それでも、ほんの少しだけ前向きであれた。

「やれるさ、きっと」

そう言ったキョウは、唐突にスミレへ背を向けた。

「……?」

スミレは思わず首を傾げる。

「もういいだろう?ジジイの世迷い言をいつまで聞いていても仕方がない。君の冒険は始まったばかりだ。その人生を決めるのも、その人生を染め上げるのも、拙者ではなく君自身によって成されるべきことだ。……だから、もう行くがいい。8個目のその先に、また新たな冒険が待っているのだから」

「はいっ……!」

スミレは一礼すると、駆け出した。ジム戦を終えれば、罠のない出口から出ることができる。スミレはそこへ向かったのだ。まだ分からないけれど、きっと何かがある。カントー地方の旅、そのエンドロールへと続く入り口へ。

 

 

◾️◾️◾️◾️

 「カメックス!!」

シゲルの悲痛な声が、ジムに木霊した。倒れ伏したカメックスは、ピクリとも動かずに気絶している。シゲルが挑んだジムは、トキワシティに所在するトキワジム。そして遥か先で堂々と立つのは、そのジムリーダーであるサカキだ。

「……残念だったな、小僧。これではジムバッジはやれん」

サカキが言うと、シゲルは屈辱に顔を歪める。腕試しのつもりだった。サトシとの決着を付けるため、ヒマワリを倒すため、スミレを超えるため。ポケモンリーグへの挑戦権を得た後もジム戦に挑み続けていたシゲルは、いつもの感覚でトキワジムの門を叩いた。その結果がこれだ。サカキのポケモンは一体も倒せず、自身は6体を殲滅された。あまりの悔しさに膝を突き、サカキの使っていたポケモンを睨みつける。

「一体……一体なんなんだ、そのポケモンは。お祖父様の図鑑にも、研究論文にだってそんなポケモンは居なかった!!答えろサカキ!そのポケモンは、どういうことだ!!!!」

シゲルが睨みつけているポケモン。その体はまるで人間のようにすらりとした体格をしていて、体にはまるで鎧のような装置を付けていた。そのポケモンはシゲルから見て恐らくエスパータイプだが、シゲルが知っているポケモンとは一線を画す力を持っていた。あれは、明らかに異常な強さだった。けれど、負けは負け。消耗も碌にさせられず、驕っていた少年はその心を徹底的にに砕かれた。

「ふん、答える義務はない。貴様は負けたのだからさっさと帰れ。私も暇ではないのだ」

サカキがいかにも面倒臭そうな様子で溜息混じりに言った。その興味は、その鎧のポケモンに向けられており、シゲルの存在など視界に入ってなど居なかった。

「だけどっ……!!」

「もう一度言うぞ、帰れ。でなくば、次は実力行使だ。今の私が、ジムリーダーという立場で貴様へ対応していることを忘れるな」

サカキの言葉に、シゲルは悔しげに歯を食いしばった。サカキは謎のポケモンを使いこそはすれ、ジムリーダーとして公式のルールに従いバトルをした。どんな理由があれど、シゲルの負けは負けだった。

 

「…………畜生っ」

シゲルは声を震わせながら、カメックスをボールに戻す。表情はサカキからは見えないが、その様子からは悔しさが滲んでいる。

「行け」

サカキからの短い命令で、シゲルは追い出されるようにジムを出た。

 

「ボクはなんて弱いんだ……!なんて惨めなんだ…………!畜生、畜生……!」

シゲルは、悔しかった。シゲルの嘆きを、聞く者は誰も居なかった。

 

 

「いいぞ……ミュウツー。素晴らしい力だ」

残されたサカキは、邪悪な笑みを浮かべた。ミュウツーと呼ばれたそのポケモンは、じっと黙って佇んでいる。シゲルという少年は、若手ながらに優秀だった。徹底的な理詰めの戦術は普通のジム戦用の手持ちならば突破していたのかも知れないとサカキは評価している。けれど、ミュウツーの圧倒的な力の前に、常識の範囲内の強さでは意味が無かった。

「ふふふ……!それ程の力があるならば、ひとつ命令を下そうか」

サカキは、遂に計画の実行を決断した。

 

「シオンタウンを襲撃、ジムリーダー共を蹴散らしてフジという老人を攫って来い」




君の冒険: 岡崎体育さんによるSMのop。好き。タイトル先に決めて書いてたらこの話に行き着いた。


ちょっとだけ、実験的日常回(予告温泉回含む)を2.3エピソードくらいやって逆襲に入ろうかなーと思います。サブタイ前に【ミュウツーの逆襲】って入れようと思ってます。本作が抱える暗い面に、サトシが本格的に触れる初めてのエピソード。4人の成長に繋がる大事な話、自分で自分にプレッシャーを掛けまくってますが、気合い入れて書きます
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