ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
慰安のためグレンタウンへと向かっていたスミレは、19番水道を訪れていた。
「……ナッシー、【すいとる】」
「だーっ!アズマオウ!?チクショーつええ!!」
スミレのタマタマが海パンこぞうのアズマオウを戦闘不能にし、海パンこぞうは頭を抱えて悔しがる。集まっていた人々にバトルを挑まれては返り討ちにしたため、賞金は実力差の関係で『塵も積もれば山となる』といった様相だったが、経験値的には大儲けであった。
「すげえ!これでもう10連勝だ!!」
「べ、べつに……いまのは相性が良かっただけだし……」
「声震えてんぞお前、ヤドラン使ってサイホーンにふっとばされていただろ」
そんな声を他所に、スミレはナッシーをボールに戻す。ちなみにタマタマは、この日のバトルの最中にナッシーへと進化していた。
「いやあ、つよいなねーちゃん!負けちまった!!」
「いえ、あなたこそ強かったです」
悔しそうに、だが気持ちのいい笑顔を浮かべる海パンこぞうと握手を交わす。因みに、それには半ばリップサービスも含まれている。育成中のポケモンからすればそれなりに強かったが、最前線組なら蹂躙できる、といった塩梅だ。
「へへへっ、だろぉ~!?」
「ばっかお前、しゃこーじれーってやつだよ!」
手持ちを誉められ照れるこぞうを別のこぞうが小突き、じゃれあいが始まる。
「……まったく、これだから男は。ごめんなさいね?」
アズマオウを使っていた少年の姉らしい、16歳くらいの少女に苦笑しながら話しかけられ、スミレは問題ないと手を振る。ちなみにこの少女、名前はミナというらしいが、ミナはジュゴンを使ってきて、対するスミレはコイキングの【はねる】で跳ね回って逃げ回ることで経験を積み、ギャラドスに進化させることで勝利している。正直、ポケモン界最弱とも言われるコイキングがあそこまで動けるのは予想外であった。
「いえいえ、元気があっていいと思いますよ」
「いや、老後か」
「おお、お上手」
少女の突っ込みに、スミレは眼を丸くした。途端に少女は顔を赤くする。
「いや……咄嗟の突っ込みを誉められると恥ずかしいっていうか……」
「ところで、ちょっと聞きたいんですが」
「唐突」
スミレの言葉に突っ込まざるを得ないミナであった。
「双子島って、この先で合ってますか?」
スミレが尋ねたのは、とある島の名前だ。
「うん、そうだけど。ああ……ひょっとしてフリーザー?」
ミナが、心底うんざりしたように言う。そして出た名前は、フリーザー。カントー地方において伝説と呼ばれているポケモンだ。タイプはこおり、ひこうの鳥型ポケモンなのだという。
「へえ、有名なんですね」
「ええ。あそこ、たかが噂でも結構それ目当てに来る人は多いのよね」
ミナの様子からは、何度も厄介な輩に絡まれたらしいことが見て取れて、思わずスミレは顔を引きつらせる。この噂とは
『双子島には伝説のポケモン、フリーザーが住んでいる』
という噂だ。しかしこの噂を一笑に付すことはできない。スミレは、たかが噂を信じるに値する情報を持っていた。それは、カントー地方に生息すると言われる150匹のポケモン全ての研究に大きく貢献したオーキドから聞いた話だ。それは、旅立つ少し前。研究所でオーキドと話した時のこと。
『セキチクシティからグレンタウンに向かう途中の海上にある双子島という島に行ってみるといい』
『?なにか、あるんですか?』
オーキドからの突然の紹介にスミレは、怪訝な表情を浮かべる。
『あの島には多くのポケモンがおってな。よい出会いがあるやもしれん。それに、うむ……。若い頃、ワシはあの島で吹雪の化身と出会った』
『吹雪の……化身?』
『ああ。吹雪を起こし、あらゆるものを凍らせる、氷の鳥ポケモンじゃ。ゲットしようと思ったことはない。けれど、本当に美しい鳥ポケモンじゃった。……ワシはカントー中から目撃情報を探し、世界中から情報を集め論文にし、そのポケモンをフリーザーと名付けた』
オーキドは、懐かしそうに遠くを見つめて言った。
『フリーザー……伝説と呼ばれしポケモン、フリーザー』
スミレは、噛み締めるように呟いた。伝説のポケモン、という呼び名だけでもトレーナーの血が騒ぐ。
『うむ。だから、気が向いたら行ってみるといい。ああ、ただ捕まえるのはやめてくれんか?』
『どうせ無理ですよ』
断言するスミレに、オーキドは苦笑する。しかし直ぐに真面目な表情に戻ると、忠告を続けた。
『かもしれんがな……。伝説ポケモンには、人間には図れぬ領域で役割を担っている場合もある。人間が迂闊に手を出すことで、災厄を招く恐れをもつ者もいる。だから、下手に手をだしてはならんぞ?』
「えー!?なんだよねーちゃん、フリーザー狙ってるのか?」
少年に尋ねられ、スミレは首を横に振る。
「いえ、そんなことしたら碌なことにならないし捕まえるなんて無理です」
そもそも、伝説のポケモンは捕まえられないからこそ伝説なのだ。それに、捕まえないほうがいいというオーキドの忠告は、あまりに真に迫っていた。まるで、人が不要に手を出した結果を知っているかのように。だから、スミレはあえて育成用のサファリゾーン組を中心とした6体でここへ来たのだ。
「ふうん……信用してもいいのね?」
「大丈夫です。こういったらなんですが、捕まえるためならこんな構成で来ません。主力の内、相棒のフシギバナ1体しか連れていませんから。なんなら、フシギバナと他の手持ちたちとの実力差を味わっていきますか?」
スミレがフシギバナをボールから呼び出すと、圧倒的な圧がトレーナー達へと襲いかかる。その言葉に、人々はスミレに挑みかかった。そのトレーナー達の全滅には、そう時間はかからない。セキチクシティの近くにしては大したものでもない、スミレは内心そう思っていた。
■■■■
水道に集まっていたトレーナー達を蹂躙した後、スミレは双子島に向かう小船に乗っていた。船を取るには手間が掛かるかと思ったが、ジムバッジを確認されると直ぐに乗せられた。船頭に聞けば、どうやらカジキのジムバッジを持つトレーナーはそう言う所で優遇してもらえるらしい。なんと便利なシステムだ、とスミレは目を見張った。
「全く、カジキさんも教えてくれれば良いのに」
「いやいや、こらぁ俺達が勝手にやってることだかんなぁ」
思わず愚痴を吐くスミレに、船長はカラカラと笑う。
「……カジキさんは知らないんですか?」
「おうよ!カジキの旦那にゃ、いつも海賊共から荷物守って貰ってるからなぁ、あの男が認めた奴は信じるようにしてるんだ。ま、念のため旦那に確認は取ったがな」
「ふぅん」
スミレは、納得したように頷いた。カジキは漁師兼ジムリーダーだが、船の護衛などにジムトレーナーを派遣したり自ら赴いたりと、カントー地方の海運を護っているのだそうだ。海上ではロケット団や海賊の襲撃を受けることもあり、戦闘になることもあるらしい。だから、カントーの船乗りはカジキに大きな恩があるとのことだ。
(……凄いな)
スミレが驚いたのは、そうやって護衛に抜擢した人員から誰1人として裏切った人間を出していないことである。バトルに敗れ積荷を盗まれることもあるにはあるが、それも滅多にない上に護衛も内通や降伏をせずに帰還している。その人員整理のやり方を、是非師匠に教えてやって欲しいとスミレは思う。スミレはジム戦後直ぐに連絡を入れたのだが、エリカはどう見ても目の下に隈を作りやつれていた(誤魔化していたが、似つかわしくないエナジードリンクの缶が背後に見えたのをスミレは見逃していない)。あくまでスミレの推測になるが、この頃ニュースではロケット団が起こす騒ぎが多発している。更にはタマムシシティでは大規模なスパイ狩りが続いており、ジムトレーナーからも内通者としての逮捕者を出している。事件の後始末やら続く騒動での対応で、エリカは相当に疲れているのだろう。
スミレとしては正直、慰安など放り出して帰ろうと思ったのであるが、同じく隈を作ったジムトレーナー達共々それは止められ、何処か後ろめたさを抱えながらの温泉旅行となった。どうやら他のジムリーダーにも力を借りるから大丈夫とのことらしい。
(お風呂入って、早めに帰ってこよ)
やれる事は少なくとも、少なくとも料理などの身の回りの世話くらいなら出来るはずだ。今は自分の冒険を優先し、そのあとでしっかりとサポートすれば良い、彼女らの気遣いを無駄にしてはいけない。と今は切り替える。念の為セキチクジムに戻り、キョウにもその件を相談したのでそれを今は信じるしかない。
(……不穏な風が、吹いてる)
スミレの体を撫でる風が、どこか先の不穏を伝えていた。
「ほれ見ろ、あれが双子島だ」
「……あれが」
スミレの目の前に広がった島こそが双子島。2つの山を持つ島で、その中には広い洞窟があり、多くのポケモンが生息している。そして、その洞窟で確認されたのがフリーザーだ。
「止まりなさい!……あら、ホヤさんじゃないですか」
船で進んでゆくと、船に乗ったジュンサーに止められる。どうやら、双子島の周辺には警官が張っているらしい。
「オウ、ねーちゃん元気かい?」
「ええ、相変わらずお元気そうで。そちらの方を連れて双子島行きですよね?」
気さくな挨拶を交わし、本題に入る。ジュンサーに尋ねられ、ホヤと呼ばれた船長は頷く。
「オウ、コイツはフィッシュバッジの銀を貰ってる。旦那に確認すりゃあ、コイツは信頼して良いってさ。だから連れてってやってんだ」
(……銀?)
「銀、ですか……。金なら2つ返事で通せたのですが」
眉を下げて困った様子のジュンサー。
「あの、金とか銀ってなんですか……?」
スミレが思わず質問すると、ホヤは忘れてた、と手を打つ。そして少し悩む様子を見せると、話し始めた。
「うーん、まあ銀なら良いか。バッジの縁の色だよ。金、銀、銅、ブロンズ。これは旦那が独自に定めたものでな、色でトレーナーの傾向を把握できるってことだ。因みに、銀バッジのトレーナーは『概ね信頼できる人格と実力だが、危うさがあるため注視が必要』ってところだな。金以外のバッジは何かしら問題ありだから無条件に信用する前に相談しろってこった。信頼を築けば、金のバッジが送られてくるだろ」
「……成程」
ホヤの言葉に、スミレはバッジケースに収まるフィッシュバッジを眺めながら呟く。あのカジキという男、いかにもな海の男といった印象であったが、このような策を弄する辺りそこそこな切れ者らしい。そんなイメージは、スミレには無かった。
「はっはっは!アンタ、ひょっとして明るいばっかりの豪快な奴だと思ったかい?」
「まぁ、はい。……お恥ずかしながら」
スミレの様子にホヤは笑い声をあげ、スミレは表情を引き攣らせながらも頷く。
「成程なあ、でも無理ねぇな。旦那が豪快な海の男なのは事実だしよ。ただ、それだけじゃあジムリーダーに漁師、更には船の護衛の兼業なんてやってられねぇんだなコレがよ。その凄さを分かってるから、俺達海の男はあの人を尊敬し、あの人のバッジを持つ奴を優遇してんだよ」
「へぇ……。思ったより、凄い人なんですね」
スミレは感心したように言うと、ホヤは上機嫌に笑った。
「はっはっは、だろ!?」
「はいはい、ホヤさんそこまでですよ。……それで、マサラタウンのスミレさんね。うわ、1年目でバッジ8個……すご。んんっ、ええと貴女は何をしに双子島へ?」
「フリーザーの確認と手持ちの育成です。メインメンバーで来てないので、バトルする気もありません」
そう言ってボールを差し出すと、ジュンサーは小さなバーコードリーダーのようなものを取り出してボールに当てる。
「……確かに、そうね。フシギバナ以外はみんな育成途上って感じよねぇ。これじゃあフリーザーと出会えても蹂躙されて終わるだけよね。このフシギバナでも勝てないと思うし……。次はこっちね」
続いて、別の機械を取り出した。これは金属探知機の強化版で、罠などをスミレが所持していないかを探っているのである。
「……ないでしょう?」
「ないわね。うん、じゃあ行ってよし!」
「ありがとうございます」
ジュンサーの許可にスミレは頭を下げると、ホヤは船のエンジンを掛ける。
「よし、行くぞぉ。終わったら連絡しろよなー」
「分かりました。お願いします」
ホヤは船を低速で島に寄せると、スミレは船の上から岸まで軽やかに飛び移る。
「じゃあ帰る時は呼べよ、無事でなぁ!」
そう言って手を振りながら去ってゆくホヤを見送ると、スミレは振り返る。目の前には大きな山。そして、そこにぽっかりと空いた洞窟があった。
「……行こう」
スミレは、一歩前へと踏み出した。
前回で思ったんですが曇らせの方がクオリティ的にはまだマシな気がしなくもない……