ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
双子島の洞窟に入れば、そこは寒々しい空間だった。地面は凍り付いており、内部が常に低温であることを示している。その情報を事前に知っていたスミレは上着とマフラー、そして手袋を身につける。
「……さむい」
試しに息を吐いてみれば、白い息が出る。つまり、真冬のような状態だ。外には海パンこぞうだっていたというのに。あまりな気温差にスミレは嫌な顔をする。暑い夏よりも寒い冬の方がスミレ的には好きだったのだが、それはそれとしても寒かった。凍りついた床は滑りそうで、しかし旅の為に購入したスミレの靴にはそういう時のために滑り止めがあるため滑らない。
「行こう」
腰のモンスターボールの中で待機するポケモン達に向けて呟くと、スミレは歩き出す。辺りにはジュゴンやパウワウ、ヤドン、ルージュラなどが見える。内部には海水が入り込んでおり、水中に暮らすポケモンの魚影が確認できた。寒い場所であるだけに、こおりタイプのポケモンにとって良い生活圏であるのだろう。また、天井を見ればズバットやゴルバットが大量にぶら下がっている。
(……ミスしたな、これ。ラプラス連れてきたら喜んだろうに)
スミレは白い息を吐きながらそんなことを思う。ラプラスの生まれた場所がどこかは知らないけれど、このような場所はラプラスに合った環境かもしれないと思うと、コイキングの最弱脱出よりも優先しておくべきだったと思う。とはいえ、最寄りのポケモンセンターは遠いので諦めて前に進む。
「しかし、おかしい……」
スミレは、その感覚を肌で感じていた。どこからか、見られている感覚。そして決して逆らえない、逆らおうとすら思えない絶対強者の持つ圧力を。肌はすでに鳥肌で一杯だ。いる、確実にそのプレッシャーを放っている強者が居る。
(……フシギバナでも、瞬殺の可能性ありそう)
自信を根本から粉砕されそうな存在感に、スミレは大きく深呼吸する。
「大丈夫、あなたと戦うつもりはありません、はい。…………凄い、ちょっと舐めてた。強すぎる。フルメンバーで、一分持つかってところかな?」
スミレの呟きに、プレッシャーが明らかに収まった。どうやら、矛を収めてもらえたらしい。
「お願いなんですが、この洞窟の野性ポケモンとバトルさせてもらえませんか?」
プレッシャーは、返ってこない。どうやら、許されたらしい。
(……良かった)
スミレは、ボールを構えた。手持ちの構成は6体中4体がサファリゾーン組、残る2体はフシギバナとアズマオウだ。19番水道のバトルで進化したもの、進化しなかったものもいる。兎に角、この場で一体でも多く戦力になって貰うのだ。
「おいで」
「グオォォォォォォォォォォ!!」
スミレがボールを投げると、ギャラドスが飛び出した。ギャラドスは飛び出し様に大声で吠え、周囲を威嚇する。
(……これで)
スミレが辺りを見渡せば、怒ったポケモン達が集まっている。
「行くよ」
スミレは呟く。
「……ゴォン!」
まず攻撃を放つのは、ジュゴン。放たれた【みずでっぽう】にも、ギャラドスは微動だにしない。
「【こおりのキバ】」
ジュゴンの攻撃を受け切ったギャラドスが、一直線に突っ込んだ。【こおりのキバ】でジュゴンに噛み付くと、持ち上げて振り回し投げ飛ばす。対して野生ポケモン達は一斉攻撃を行い、ギャラドスは表情を歪める。それを見たスミレは、ボールを4つ構えた。
「行くよ、サイホーン、ナッシー、ドードー、アズマオウ」
アズマオウは近場の海に、他の3体はスミレの目の前に飛び出す。
「アズマオウは自己判断で良いよ。ただ、あんまり誰も彼も喧嘩を売らないように。他の子は私が指示を出す」
その言葉にアズマオウは潜水し、続いて水面に大量の波紋と波が生まれる。そしてサイホーン、ナッシー、ドードーは頷き野生ポケモン達と向き合う。
「ナッシー、【さいみんじゅつ】、ギャラドス、【たいあたり】」
スミレの指示で、ポケモン達は動き出した。作戦は単純明快、ナッシーの【さいみんじゅつ】で相手を眠らせそれぞれの技で撃破するという手法。眠らされて無抵抗になったポケモンを吹き飛ばすのは絵面が良くないものの、スミレから見れば効率的なレベル上げだ。特にドードーとサイホーンには早めに進化して欲しかったのである。
ナッシーの放つ【さいみんじゅつ】が当たり、ヤドランが眠気を催しふらつく。そこへ突っ込むのはギャラドスだ。巨体を活かした突進がヤドランを吹き飛ばし、壁に激突させる。ヤドランは流石の耐久力でなんとか耐えて持ち直すが、眠気で力が入らない。
「【たつまき】、それから【こおりのキバ】。ナッシーは追撃で【タネばくだん】」
ギャラドスが追撃として放った【たつまき】がヤドランを襲い、更にそこへ【タネばくだん】が襲いかかる。吹き飛ばされたヤドランはそれでも立ち上がろうとするも、そこには牙を剥いたギャラドスが迫っている。ギャラドスの鋭い牙に噛みつかれ、ヤドランは倒れた。
ドードーと対峙したのは、ゴルバットだ。ゴルバットは空中を舞いながら【エアカッター】などで削る作戦に出て、遠距離攻撃を持たぬドードーは不利であった。
「ドードー、【ダブルアタック】」
ドードーの2つの頭による攻撃はするりと躱される。
「バァァァット!」
ゴルバットの【エアカッター】がドードーに命中して爆発し、ドードーは思わず体をくねらせる。その隙を見逃さずにゴルバットが接近、【きゅうけつ】で体力を削る。
「ドードー、交代する?」
まるで想定内、といった様子のスミレに涼しげな表情で尋ねられ、ドードーは悔しさを覚える。これではダメだ、と自分を奮い立たせる。そしてドードーの体が、光を帯びた。体が大型になり、力強さを増した足で大地を踏み締める。その変化の最大の特徴が、首がひとつ増えるということだ。3つの首を持つ鳥ポケモン。それがドードーの進化形たるポケモンだ。
「そう、それが貴女の選択ねドードリオ」
スミレは、小さく笑みを浮かべて呟く。進化したドードリオは、鋭くなった目つきでゴルバットを睨む。
「バァァァット!!」
焦った様子のゴルバットは【エアカッター】を放つが、その最中は無防備だ。
「ドードリオ、【トライアタック】」
新技、【トライアタック】が放たれた。3つの首其々から放たれたレーザーがゴルバットを呑み込み、撃墜する。撃ち落とされたゴルバットは、そのまま戦闘不能となった。
水中を踊る影は、野生ポケモンにとっては災厄のようであった。アズマオウはメインパーティーには一歩劣るものの、サファリゾーン組よりは歴も長くジムトレーナーとのバトルも経験している。だからこそ、そこらの野生ポケモンとの一対一では遅れを取らないし取ることは許されない。ドククラゲの伸ばす触手を避けながら、アズマオウは水中を疾走する。ドククラゲの触手には毒がある上に器用に絡め取られるため、当たると不利になる。
「ズオォウ!」
アズマオウが【みずのはどう】を放つと、強烈な水圧がドククラゲを襲う。それに動きを止めて仕舞えば、アズマオウの独壇場だ。【つつく】を発動すると、ドククラゲの足掻きを嘲笑うように動き回りながら攻撃を放つ。泳ぎ回るとヒラヒラと鰭が動き、鮮やかな体が水中を踊る。まるで天女の踊りのような縦横無尽の動きで、アズマオウはドククラゲを翻弄する。ドククラゲが苦し紛れに【どくづき】を放つが、それをアズマオウは角で受け流すことで防ぐ。そして勢いに乗ると、無防備なドククラゲの胴体に【つつく】を放ち、まるで持ち上げるように動かす。すると、ドククラゲの体が浮き、アズマオウはドククラゲを見上げるような位置となる。それは即ち、新技を放つには絶好のポジションだった。
「ズオォォウ!!!!」
放たれた技は、【たきのぼり】、ドククラゲを巻き込みながらまるで滝を駆け登るように水中を一気に駆け上がると、水面から空へと吹き飛ばした。
「…………!」
ドククラゲは声にならぬ呻き声を漏らすと、水面に叩きつけられて沈黙した。
サイホーンが挑んだのは、ルージュラ。ルージュラの【したでなめる】を嫌そうな表情をしながらも耐えると、お返しの【たいあたり】で弾き飛ばす。
「サイホーン、追撃の【ロックブラスト】」
何処となく怒った様子で岩を生成し、容赦なく投げつける。連続攻撃となるこの技だったが、結果は5回。最初2発は【れいとうパンチ】で防がれるも、3発目を防ぎ損ねて食らったことで守りが一気に崩れた。連続で攻撃を受け、ルージュラはダメージを受ける。
「……追撃、【じならし】」
攻撃を受けたルージュラを追撃すべく放たれた指示で、サイホーンは地面を足で叩くことで揺らす。【じならし】によって地面が揺らされ、ルージュラは大きなダメージを受けただけでなく素早さも落とされる。
「……ジュッ、ラァ!」
ルージュラが忌々しそうにスミレとサイホーンを睨み付けるが、スミレとしては知ったことではない。
「サイホーン、【たいあたり】からの【つのでつく】」
「サイ、ホォォン!!!!」
サイホーンは疾走して突撃、【たいあたり】発動による推進力で頭からルージュラへ突っ込んだ。更には追い討ちとして【つのでつく】を発動、ルージュラに当たっている頭を動かし、ルージュラを空高く跳ね飛ばす。
「ジュゥゥゥゥ……」
半分戦闘不能といった状態になり空中を舞っている状況であっても、ルージュラは諦めては無かった。だが、その状態のルージュラは格好の的である。
「【ロックブラスト】」
サイホーンから再び岩石が射出され、ルージュラは撃墜された。そして目の前の敵を倒したポケモン達は、次の相手へと向かっていった。
洞窟の奥深く。その影は、静かに目を光らせていた。対峙するその時を待って。
◾️◾️◾️◾️
野生ポケモンを蹴散らしながら、スミレは洞窟を歩く。群れとの戦闘のお陰か5体のポケモン達は大幅に強化されたし、序でにそれなりにだがフシギバナの経験値も積めたのだが、サイホーンはもう少しは育成をしなければ進化は出来なさそう、といった感じである。
「……ホォォン」
スミレが、ボールからサイホーンを呼び出した。それで何をするのか、といえば岩によって塞がれた道を開くことである。その方法は、大きな直方体の岩を穴に落とすというもので、自分もそれに続いて落ちることで洞窟の地下へと行けるのだが、半超人のスミレでは動かすのは難しい為サイホーンに頼っているのだ。因みに現在は、地下2階。地下4階が最奥の為、まだまだ先は長そうだ。
「ありがと……ん?」
岩が激しい音を立てながら落下し、スミレがサイホーンを一旦ボールに戻して視線を穴に向けると、それを見つけた。拾って見てみるとそれは、まるでディスクのようなもの。
「これは、わざマシン?」
トレーナー業界に於いて、盗難ならば兎も角落とし物をした場合は戻ってくることは殆ど無く、落とし物を拾った者はそれを私物として利用して良いことはもはや暗黙のルールだ。よって、この場でスミレがわざマシンを手にした瞬間、その所有権は実質的にスミレへと移るのである。
「ええと……わざマシンの。へぇ、【れいとうビーム】。落とした人は気の毒だけど、かなりお得だねこれ」
スミレは、思わぬ拾い物に目を丸くする。【れいとうビーム】はこおりタイプの技で、扱いやすく強力な為多くのトレーナーに好まれている。スミレとしても正直欲しかったわざマシンなので、これはかなりラッキーな出来事であった。
そしてスミレは、わざマシンをリュックに仕舞い下を見る。岩の下は、地下3階。最下層まで、あと2階。後半戦が始まる。
野生ポケモンとのバトルで盛り上がっちゃって文字数稼ぎまくっちゃった……