ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第110話 氷の銀河

 地下3階には降りると、そこはまた氷の大地だ。少し違うのは、上階と比べて海水が占めるパーセンテージが多いことである。

「サイホーン、【たいあたり】」

サイホーンの【たいあたり】が、ヤドンを吹き飛ばす。レベル上げを続けながら歩くが、サイホーンの進化にはそれなりに高いレベルが必要なので、想定済みとは言えども少し時間が掛かっているのがスミレとしては気になる所であった。個人的に、今回連れてきたメンバーでも特に進化させたかったのがサイホーンで、サイドンはアタッカー兼タンクの役割を果たせる強力なポケモンであるのだ。搦手メインのスミレパーティーに、サイドンの力は必ず必要になって来るのである。

「……とはいえ、やっぱり遠いか。まあ、仕方ない」

スミレは、そう呟いた。ドードリオですら少し前に進化したばかりだというのに、幾ら集中的にレベル上げをしているとはいえ、ドードーが進化したレベルよりもずっと高いレベルで進化するサイホーンが、そうそう進化する訳がないのだ。だから気長にやろう、とスミレは自らが焦らぬように釘を刺した。

 スミレは、ギャラドスに乗り海を渡っていた。地下3階の海は、地下4階へと続く道を横切るようにあるため、みずポケモンに乗る必要があった。その点、ギャラドスは大柄で力持ちなのでスミレとしては大助かりだ。今回は、ギャラドスの大きく長い体に自身と荷物だけでなくナッシーを呼び出している。ナッシーの役割は、ギャラドスのとなりを並走するアズマオウと共に、野生ポケモンの迎撃だ。

「ナッシー、【タネばくだん】、ギャラドスは【たつまき】」

ナッシーの放つ【タネばくだん】とギャラドスの【たつまき】がゴルバットに命中し、吹き飛ばす。海を渡ろうとしていたスミレは、突然ゴルバットやズバットの群れに襲撃されたのである。入れ替わるように飛びついたズバットの群れが、まるで霧のようにギャラドスに群がり一斉に【きゅうけつ】を使用した。ナッシーも撃墜するが、明らかな手数不足だ。

「駄目ッ……、落ち着いて!!」

スミレの声も届かず、苦しみながらズバット達を振り払おうとするギャラドスが暴れ、スミレはあまりの揺れに思わず動揺して体勢を崩す。ナッシーが【ねんりき】で海に落ちるのを防いだ。

「ナッシー!?」

両手の無いため足とサイコパワーで踏ん張っていたナッシーが、体勢を崩した。海に落ちそうになったナッシーを、スミレは咄嗟にボールに戻す。

「グオオオオオオオオオオ!!!!」

ギャラドスの暴走で引きはがされるズバットもいるが、それよりも攻撃に加わるズバットの方が多い。

「きゃあっ……!!」

暴れるギャラドスの背中から、遂にスミレは振り落とされる。

(……甘かった)

着水までの数秒、そんなことを考えていた。ギャラドスとは、本来凶暴なポケモンだ。だからこそバトルに向いているのだが、短気故に背中に乗る時は気を付けなくてはならないし躾をきちんとして怒りにくいようにしなければならない。だがスミレは、みすみす暴走を許した。どんな理由があれど、被害次第では大きな問題となる。

 

(……被害が出る前に、鎮圧する)

だからこそ、スミレは腰のボールに手を伸ばす。フシギバナを向こう岸に呼び出して鎮圧するためだ。しかし、焦って伸ばしたその手が、ベルトに引っ掛かってしまう。スミレが落ちるよりも一足早く、水面に落ちるフシギバナのボール。

「出て!!」

スミレの懇願にフシギバナはボールから飛び出そうとして、次の瞬間には空を舞っていた。

 

「え……?」

スミレは、困惑の声をあげる。ギャラドスの体から振り落とされたはずの自身が、なぜか空を飛んでいた。足元にふわふわとした感触を感じて見下ろすと、そこには青い鳥がいた。

 水色のふわふわとした毛に全身を覆われた巨大な鳥ポケモン。その尾羽は長く、氷の粒子で描くその軌跡は、まさに夜空に煌めく天の川であった。

 

「フリーザー?」

スミレは、呟く。前述した特徴に当てはまるポケモンなど、フリーザーとしか思えない。威圧されていないにも関わらず感じるプレッシャーは、洞窟に入ったばかりに感じたものと同じだ。スミレの問いに、フリーザーは答えない。だが、鋭く引き締まった視線はそれを確かに肯定していた。

「あなたは……私を助けてくれたんですか?」

フリーザーは黙って頷くと、自身の胸毛に嘴を突っ込むとフシギバナのボールを渡し、続いて嘴で暴れるギャラドスを指す。現在はズバットたちが攻撃を続けており、また水中からはアズマオウがギャラドスを迎撃して抑えているため被害は軽微だ。野生ポケモンとのバトルの余波で済む程度なのはありがたい。

 

「あれを鎮圧すればいいんですね?」

フリーザーは、再び黙って頷く。フリーザー的には自分のポケモンの失態は自分で収拾を付けろということなのだろうが、スミレ的には同感だ。

「お願いね。……フシギバナ」

スミレの選択は、フシギバナ。現状の最高戦力でもって、短期決戦で仕留める。しかし、それでは足りない。ズバットを処理できないからだ。

「ドードリオ、サイホーン、ナッシー。ズバットの群れを遠距離攻撃で減らして。フシギバナは最速でギャラドスを落としてアズマオウを救出する」

 

 

「グオオオオオオオオオオ!!!!」

「ズオオウ!!」

ギャラドスが猛り狂い、アズマオウが吠える。ギャラドスの【たつまき】を【みずのはどう】で相殺し、

【こおりのキバ】や【たいあたり】を躱す。

「フシギバナ、【タネばくだん】」

すると、岸から声が届き、ナッシーのものとはまるで違う火力の爆発がギャラドスをのけぞらせる。体に纏わりついていたズバット達も巻き添えを食らったようで怒るが、それを他のドードリオの【トライアタック】、サイホーンの【ロックブラスト】、ナッシーの【さいみんじゅつ】が迎え撃つ。

 

「……叩き潰せ。【はなふぶき】」

スミレの、冷たい声がアズマオウに届く。そして満を持して放たれるのは、フシギバナの十八番となった【はなふぶき】。緻密な操作によって変幻自在の挙動を行う花弁の嵐が、ズバット達を巻き添えにしながらもギャラドスを呑み込んだ。

 

■■◾️◾️

 「……ととっ」

スミレは、よろめきながらも地上に降り立った。ギャラドス鎮圧後、フリーザーに促されるままにフリーザーの背に乗せられ、地下4階にある洞窟の最奥へとやってきていた。

 

「ここは……巣穴?」

スミレの推測に、フリーザーは頷く。スミレの視線の先にあるのは、氷によって形成された巣穴だ。純度が高く、青くすら見える氷柱がアーチのような形を作り、その下には氷によって形成された巣があるのだが、それはもはやフリーザーという王を戴く玉座であった。

 

「クルル」

フリーザーはひとりでに飛び立ち、スミレと向かい合うように着陸すると、目つきを鋭くさせる。

「…………ッッッッ!!!!」

ぶわり、とプレッシャーが押し寄せる。体の芯から凍りつくような、そんな気配にスミレは思わず全身を震わせる。

(態々ここまで呼んでこれは……。バトル、しろってことだよね)

スミレは、直ぐにその意図を察した。態々美しく飾り立てられた玉座に呼び寄せてプレッシャーを掛けたのだ。ただギャラドス暴走の責任を取らせようというなら、その場で殺して仕舞えばいいのである。

「わかり、ました……」

間違いなく、勝てない。フシギバナですら、相対すれば一瞬で体力を消し飛ばされる。だから負けを前提にバトルする、という選択肢は一瞬生まれ、しかしそれはフリーザーのひとにらみで霧散した。

 

「負けは元々……。でも、勝とうとしなきゃ意味ないってことでしょ?分かってますよ、ちゃんと」

マフラーで半ば隠れた顔から覗くのは、戦意に満ちた目。困難に挑み、成し遂げようという純粋で美しい意思。それこそが、フリーザーの見たかったものだった。

 

「ギャァーオ!!!!」

フリーザーが吠え、洞窟内に激しい吹雪が吹き荒れる。

「……これが、吹雪の化身」

スミレは、感嘆の声を漏らす。オーキドの表現は、正しかった。

「凄い、本当に凄い。…………でも、だからこそ挑む価値がある」

スミレは、震える手でボールを選出する。

 

「行こう、フシギバナ!」

「バナァァァァァァァ!!!!!!」

フシギバナが、フリーザーの威圧を振り払うように叫ぶ。恐怖に震える全身を踏ん張り、荒れ狂う吹雪からスミレを守る盾となる。背後をチラリと見れば、全身を恐怖と緊張で震わせながらも、両手を胸元で握り締めてまるで祈るようにフシギバナの背中を見つめている。

 

「ギャァーオッッッッ!!!!」

フシギバナを仕留めるべく放たれたのは、【れいとうビーム】。

「フシギバナ、【はなふぶき】。狙いは迎撃による一点突破」

スミレの指示で【はなふぶき】を生み出すと、花弁を操作して集め、巨大な槍を生み出した。

(……面での突破は不可能。警戒されてるし、そもそも点の攻撃に耐えられない。だから、狙うのは一点突破による大逆転。一か八かの勝負どきだよね)

「行けぇ!!」

スミレの叫びと共に、花の槍は放たれた。空中で回転しながら突き進んだ【はなふぶき】と【れいとうビーム】が、空中で激突した。一瞬の拮抗の後に押され始める【はなふぶき】。スミレにも、冷たい暴風が吹き付ける。だがそれでも、スミレとフシギバナは抗う道を選んだ。

「「おおおおおおおお!!/バナァァァァァ!!」」

スミレとフシギバナの叫びが重なり、それと同時に心も重なる。ジリジリと押されるフシギバナ。だがしかし、それでもまだ諦めない。

 その時、フリーザーは僅かに目を見開いた。スミレとフシギバナの心が重なり合ったその時、その火力が上がった。一瞬の後に倒せるかと思われた【れいとうビーム】に、抗ってみせたのだ。それに興味をそそられたフリーザーはほんの少し、誤差程度に出力を上げる。その瞬間、【れいとうビーム】は【はなふぶき】を凍り付かせ、吹き飛ばし、そのままフシギバナまでの一直線をただ真っ直ぐに貫いた。

「フシギバナ!?」

スミレが悲鳴に近い声を上げるが、フシギバナは既に気絶している。フシギバナ、戦闘不能。拮抗できた時間は僅かに一瞬、しかし5秒もの間撃ち破られることなく持ち堪えてみせた。それは、フリーザーの機嫌を良くする。フリーザーは、フシギバナに声を掛けながらもボールへ戻すスミレを見て、とある気まぐれを起こした。

「ギャァオ」

スミレはフリーザーに声を掛けられ、空を見上げる。すると、フリーザーは僅かに宙に浮いていて、ふわりとスミレに白く冷たい息を吹き掛けた。

 

「……わっ」

スミレが驚くも、その間にスミレの首元で氷が生成され始めた。青白い氷がまるで植物の蔓のように絡み合い、チェーンを形成する。チェーンが繋がる先にある胸元には、中央に何か球体のものを入れられる窪みの付いた、煌めく六花の飾りが生まれる。

「綺麗……」

人間の首から掛けられても、決して溶ける事なき氷のネックレス。それが、フリーザーからスミレへ、ほんの数秒の余興に対する贈り物であった。そして、フリーザーは再び降り立つとスミレに目配せをした。

 

「わぁぁ……」

スミレは、思わず感嘆の声を漏らした。白い息が、ゆっくりと風に乗って後ろへと流れゆく。フリーザーの背中に乗っての、地上までの飛行だ。フリーザーが冷気を放てば周囲の気温が下がり、洞窟内にダイヤモンドダストが生まれる。僅かに差し込む日光を氷の粒が反射し、眩い輝きを生み出す。態とゆっくり飛んでいるらしいフリーザーの上で、スミレが取り出したカメラを使用すれば、本物には劣るとはいえ美しいその光景がデジタル上にも作り出される。その光景に名をつけるのはもはや無粋ですらあったが、文字で表現するとするならばそれは氷の銀河。煌めく氷の粒は星々であり、それらが集まり銀河を為す。それは、スミレの心に深い感動を呼び起こした。

 

 「色々、ありがとうございました」

スミレを地上に送り届けると、スミレの礼にひとつ頷いてフリーザーは洞窟の遥か奥深くへと去ってゆく。スミレとしてはゲットしたい気持ちが湧かなかった訳でもないが、あの態度がほんの気まぐれのようなものだということは分かっている。氷のネックレスを貰った。美しい景色を見せて貰った。それに、乗せてもらう直前に玉座で写真も撮らせて貰えた。サービス精神に溢れた伝説だった、どうしてか機嫌が良くて助かった、とスミレは感じる。だが、それはフリーザーの噂を聞きつけた悪意あるトレーナーと敬意を払ったスミレのギャップや、自身のポケモンの暴走があったとはいえそれは相手側から仕掛けた攻撃によるものであり、しかも初めから伝説のポケモンに頼る選択肢を持たず自らの手で収めようとしたこと、更にはフシギバナとスミレの奮闘、という要因があってのものだった。

 

スミレに対するフリーザーの施しの全ては、スミレの行動の結果でしかなかった。だがそれに、スミレは気付かない。




スミレは春の花なのに冬イメージが似合う少女となっている。……陰があるクール系美少女とか、作者の性癖だから自作主人公がそうなっても仕方ない(開き直り)。まぁ、根本が冬を超えて春を目指すみたいな作品ではあるんですけどね

今後の展開イメージする時、結構聞いてる曲は鬼束ちひろさんの『月光』。本人やらかした記憶あるけど曲は好き。スミレに合う感じする
今後、楽曲からイメージ膨らませて話作ることもあるかもしれない。
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