ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第113話『ミュウツーの逆襲』②: 行動開始

 ワタルが来たのは、それからすぐだった。お互い、険しい表情で握手を交わし本題へと入る。雑談に興じている暇など無かった。

「……まず、フジの屋敷跡へは無事に入れる。廃墟だから、特別誰かが居るなども分からんが、念の為に戦闘準備をしておいてくれ」

ワタルの報告に、スミレは真剣な表情で頷く。

「大丈夫です。メインのメンバーは6体は揃っています」

「ありがたい。今回、どうやらロケット団幹部達にも動きがあったようでな。少しでも戦力が欲しかったんだ」

「……私では、幹部には勝てないと思いますが」

スミレは、悔しげに呟く。主観で見れば拒絶したくなるが、客観的に見れば手持ちの構成から戦術まで、油断して貰って初めてできる勝利だ。若しくは、スミレが相手の構成や戦術を知った上で戦略で勝利する、幸運などに助けられての勝利、などしかない。本気で来られたら、研究材料の殆どない現状では確実に負ける。ポケモンバトルというのは、才能だけでなく経験も必要なもの。そしてその経験は、ポケモンの育成やトレーナー本人の技量に直接作用する。マフィアとして長年裏社会に君臨していたロケット団の幹部ともあろう者が、全力を出してちょっと才能のあるだけのそこら辺の小娘相手に負けるなど、あり得ないとすら言えることであった。

「そうだな。だが、下っ端の相手は出来る。少しでも雑魚を減らせば、俺やジムリーダーはより少ない消耗で幹部やサカキなどの強敵に挑める」

そしてスミレの分析を否定せず、ワタルは頷いた。元より、ワタルはスミレに幹部の相手などという危険すぎる橋を渡らせるつもりは無かったのだから、現状勝てなくともなんともなかった。

「ふむ……それで、他の戦力は?」

ハンサムが尋ねると、ワタルは苦々しい表情を浮かべる。

「残念ながら人手不足だ。警察やリーグ職員、カントーリーグ常連トレーナーから動員し、それぞれの町でアジト狩りを頼んでいる。そもそも奴らの本拠地が何処に居るかも分からんが、ロケットコンツェルンの本部への強制捜査の手続きはやってきた」

ワタルの作戦は、敵がどこに潜んでいるのか分からないならなりふり構わず徹底的に潰す、というものである。これまでロケット団は泳がせる方向性だったにも拘わらずのやり方であるため、シオンタウン襲撃をワタルがどれほど重く見ているかが分かる。

「……でも、エリカさんは」

「奴はまだ参加させん。キョウに指示を出して気絶させ、ジムトレーナー共々眠らせてる。そして、復帰するまでに俺達が敵の本拠地を見つけ、復帰した時に合流して共に攻め落とす。奴のジムは本人の面倒見の良さもあってジムトレーナーの数が最多、数の暴力で押し流す。……今の奴の状態では、愛弟子の危機に駆けつけられんだろうからな、休ませておかねば」

エリカが強制的とはいえ休んでいる、と聞いてスミレは少し安堵する。過労死するのではないか、と心配していたのである。

「……分かりました。なら、取り敢えずフジ老人の屋敷跡ですね?」

「ああ、ハンサムも準備は良いな?」

「勿論だ、行こう」

3人は、同時に席を立った。

 

◾️◾️◾️◾️

 「なるほどねぇ……。アイツに先を越されたのは、スミレも悔しいだろうね」

マサラタウンのオーキド研究所、そこでシゲルはヒマワリ失踪に関わる話を聞いていた。その表情は不満げで、ヒマワリが最初に時間への疑問を持ったことにプライドが傷つけられたらしい。

「ウム、ワシも本格的に捜索に出る。……じゃから、お主も手伝いなさい」

「えぇ、分かってますよお祖父様」

シゲルはオーキドの要請に得意げに笑うが、その笑みにオーキドは違和感を覚えた。

「……シゲル、無理はいかんぞ?」

「ッ!……分かってます」

オーキドが優しげな声を掛けると、シゲルは目を見開いた。シゲルは未だに、トキワジムの大敗を引き摺っていた。それは、サトシだけでなくスミレとヒマワリが居たからこそだった。追いかけてくる者も、シゲルとしては不本意だが追いかけている者もいる。だというのに、データが無いだけの1体のポケモンに6体全てを一方的に蹂躙された。ここで止まってしまうのか、自分は弱いのか、という疑いがシゲルの気持ちを追い込んでいた。そして、オーキドはあからさまにおかしいシゲルの様子を気遣いながらも、どう距離を詰めたら良いのかが分からなかった。またスミレのように裏目に出てしまうのではないか、傷つけてしまうのではないか、その気持ちがオーキドを迷わせる。

「無理は、せんでくれよ?」

ただ、そう懇願するように言った。シゲルは、そんな様子のオーキドから目を逸らす。

「ええ、分かってます……」

 

 

「お祖父様、それでボクは何処へ行けばいいのですか?」

シゲルは、己の役割を尋ねる。

「取り敢えず、お主が捕まえたポケモンの殆どをシオンタウン復興の為に送っていいかの?」

「ええ、お好きに使って下さい」

オーキドに尋ねられ、シゲルは頷く。

「ウム、ならば研究員達にその辺は任せておくとしよう。ロケット団のスパイは初めから弾いておるから、心配はない」

「それは何よりですよ。……それで、ボクの行動は?」

シゲルに催促するかのように尋ねられ、オーキドは頷いた。

「お主の行動については、まだ決まっておらん。ワタルがフジ老人の屋敷に突入して調べるとのことじゃ。なんらかの手掛かりが見つかったのなら、そこでワシらも合流する。シオンタウンを襲い、シゲルを一方的に負かしたというその鎧のポケモンについて解明する為じゃ。ロケット団とバトルすることは想定して、ベストメンバーを揃えておきなさい」

シゲルは、表情を引き締めて頷いた。本格的なロケット団とのバトルは、まだ経験したことが無かったのである。鎧のポケモンとバトルするのは怖いが、それでも動かなければならないと自分を振るい立たせて動き出す。オーキドは、その光景を見て微笑むと、庭から空を見る。空には雲が掛かり、どこか悪天候になりそうな気配を感じる。

 

「雨が、降りそうじゃ」

 

◾️◾️◾️◾️

 曇り空の下を、フードを被った少女は歩く。その表情は、普段とは全く違い暗く、死にそうなものだ。けれど、その表現は間違っていない。少女、ヒマワリはこの一件を通して、処刑台の上に登ろうとしているのだから。

「……もしも、わたしの予想が正しかったなら」

間違っていてくれ、と願うけれど。考えれば考えるほど、都合が良すぎる世界に気付いた。店を見た、カレンダーなんて何処にも売っていなかった。シオンタウン内を探し、沢山の人に話を聞いて回った。誰も、今日の日付を知らなかった。時間の概念はあるというのに、だ。そして置かれた状況を整理して出たものは、あまりにも残酷な予測で。

 

(……あの子は、わたしと違うから)

旅に出て、ジム戦を始めて、ようやく認められ始めた少女。きっと、彼女が世界において重要な意味を持っている。

 

『何かあったか?』

「……ううん、なんでもないよミュウツー。ちゃんと、悪役になれるから。ちゃんと、あの子を引き立てるから」

ミュウツー、と呼んだその人語を話す人型のポケモンに応え、ヒマワリは笑った。ミュウツーと合流したのは、シオンタウンでのこと。自分から、とある条件と引き換えに人間とのバトルへの協力を申し出た。

 

(……狂った世界を、壊す。故郷のみんなを、大切なみんなを、断罪していい屑になんてさせやしない。悪役になるのは、わたしだけで良い)

 

「……じゃあ、行ってくるね」

そう言って、ヒマワリは下を見る。ヒマワリの足元は崖になっていて、その下には鉄筋の廃墟にも見える建物があった。その正体は、ロケット団アジトのひとつ。

 

「カゲちゃん!」

「グオオオォォォォォ!!」

ボールを崖下に投げ落とし、同時に飛び降りる。すると、ボールから飛び出したリザードンの背中にヒマワリは飛び乗り、投げ落としたボールを自らキャッチしてベルトに戻す。

「いけェェ、【だいもんじ】!!!!」

ヒマワリの泣き叫ぶような指示の声と共に、リザードンの放った【だいもんじ】が建物の一角を吹き飛ばす。すると、突然の奇襲に驚いたロケット団の下っ端が飛び出してくる。

 

「わたしは、強くなる……。闇を背負えるようになるまで。止まるわけには、いかない!!」

「グオオオオオ!」

ヒマワリは叫んだ。ヤケクソとも取れる叫びと共に、リザードンはロケット団の下っ端が出したポケモン達目掛けて突っ込んだ。

 

◾️◾️◾️◾️

 「分かりました、探してみます」

サトシは、そう言って電話を切るとため息を吐く。電話の相手は、ジュンサー。ヒマワリの動向について、尋ねていた。

「サトシ……ヒマワリは大丈夫なの?」

カスミが心配そうに尋ねるが、サトシは無言で首を横に振る。

「シオンタウンに行って、探してみるか?無駄足かもしれないが、何もしないよりはマシだろう?」

タケシが難しい表情でそう提案すると、サトシは頷く。

「……そうだな。オレはシオンタウンに行きたい、ヒマワリが居なくなった理由を探すんだ」

「その必要はないわよ、 " ジャリボーイ " さん」

立ちあがろうとしたサトシの耳に、妖艶な声が届いた。

「サトシ下がれ、イシツブテ!!」

その正体に気付いたタケシが、ポケモンセンターの中であっても構わずイシツブテを呼び出し、警戒の態勢に入る。イワークでは、大きすぎて動き辛いからである。

「" ジャリボーイ " 、それにタケシの反応……貴女、もしかしてロケット団の仲間!?」

カスミが驚くと、その女はニヤリと笑みを浮かべる。

「ええ、その通り。……わたしは、ロケット団幹部アテナ。貴方に良い話を持ってきたのよ、ジャリボーイ君」

「クッ……お前の話なんて、聞くもんか!ピカチュウ、君に決めた!!」

アテナにそう言われ怒ったサトシが、ピカチュウを呼び出すと、肩に乗っていたピカチュウが飛び出す。

「幹部相手なんて危険よ、手を貸すわ!スターミー!!」

カスミはスターミーを呼び出し、3対1の構図となる。しかし、アテナの余裕は崩れない。

「あらあら……。でも、わたしは今回相手してあげないわ。ほら、来なさい」

アテナが手を鳴らすと、3人の男が突然現れた。そのどちらの胸元にもRの文字があり、ロケット団のメンバーであることが察せられる。

「この子達はわたしの奴隷、貴方達を倒してくれるわ」

「逃げるのか?」

サトシの挑発に、アテナは不機嫌そうに眉を顰めた。

「貴方如きに出てきてやっただけ、有難いと思いなさいよ。……貴方達のお仲間のヒマワリだったっけ?アイツが、ロケット団のアジトを襲って回ってて迷惑してるのよ。しかも、厄介すぎる奴と手を組んで」

「……一体、何処にいるんだ?」

タケシが尋ねると、アテナは首を横に振った。

「流石に賢明ね、ジムリーダータケシ。でも知らないわ。あの兵器が、一体どこへ向かうのかは。でもね、わたし達は同じものをもう一度作り直してるのよ。だから、そこに来るかも知れないわね。そして、その手掛かりはそこの3人が持っている」

「つまり、バトルで勝てば良いってことだな?」

「ええ」

サトシの燃えるような目に、アテナは嫌そうな態度で頷く。

「なら、やってやるさ!」

「一体ずつ、外で戦おう」

「勝てばいいのね、了解!!」

サトシは燃えるような笑みを浮かべ、タケシ静かに、カスミは緊張を押し殺すように言った。

「そういう訳で、お願いねぇ」

そう言って、アテナは手から何かを溢す。それは球体で、地面に落ちると煙を発する。

 

「不味い……!」

タケシが焦ったような声をあげるが、煙が晴れた先は、呼び出された3人を残してアテナは消えていた。

 

「アテナ様は忙しいんだ、邪魔をすんなよ」

「俺たちが潰してやんよぉ!」

「雑魚など、幹部候補とも戦える我らならば一捻りだろう」

3人はそれぞれ、ベトベトンとゲンガー、ゴルバットを呼び出す。そして、ベトベトン使いがサトシと、ゲンガー使いがタケシと、ゴルバット使いがカスミと対峙する。

 

そして、バトルが始まった。

 

 

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