ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第114話『ミュウツーの逆襲』③:救われる権利

 「ピカチュウ、【でんこうせっか】!」

「ベトベトン、捕まえろ」

サトシの指示で、ピカチュウは走り出す。対するロケット団員はベトベトンの体を伸ばすことでピカチュウの拘束を試み、ヘドロを紐のように伸ばしピカチュウを追いかける。

「【10まんボルト】!!」

しかし、ピカチュウは【10まんボルト】の電気で迎撃、ヘドロを吹き飛ばした。

「ベトベトン、【ヘドロばくだん】!!」

「ピカチュウ、【でんきショック】!!」

電撃とヘドロの塊がぶつかり、爆発を起こした。

「今だ、【10まんボルト】!!」

しかし、その爆煙を掻い潜って放たれた【10まんボルト】が、ベトベトンに命中した。【10まんボルト】を放ちながら近づいたピカチュウが、【でんこうせっか】に電撃を纏ったまま突っ込み、更にベトベトンはダメージを受ける。

「……しまった!」

男は慌てるが、その時点でピカチュウは大きくジャンプし、狙いを定めている。

「決めるぞピカチュウ、【かみなり】!!!!」

轟音が、響いた。ピカチュウから放たれた雷光が、咄嗟に貼った防御を貫き、そのままベトベトンの全身を焦がす。

「ベェ……トォン」

ベトベトンはそのまま目を回して倒れ、戦闘不能になった。

「貴様ァ……!」

男は、ピカチュウと喜びを分かち合うサトシに、憎々しげな視線を送った。

 

 「ゲェン!!」

悲鳴を上げて、ゲンガーは吹き飛ばされる。それを見て、男は思わず息を呑んだ。初めは、簡単な仕事だと思った。対峙した相手はジムリーダーではあるものの、出したポケモンはイシツブテ。一度も進化していないポケモンなど、簡単に倒せると思っていた。だが、その認識は間違いだと気付かされた。

「イシツブテ、【ころがる】!!」

イシツブテが高速で回転し、ゲンガーは再び打ちのめされる。バトルにおいてイシツブテが初めに使ったのは、【まるくなる】という技だった。その時、男は思ったのだ。『時間稼ぎが目的だろう』と。イシツブテでは、自慢のゲンガーに勝てないと高を括っていた。それが現状はなんだ。ゲンガーは一方的にやられ、高速で動き回るイシツブテを捉えることができない。これはバトルではなく、一方的な蹂躙だった。

(……これがジムリーダー、タケシの実力だと言うのか!)

「クッ……、ゲンガー!【シャドーボール】!!」

「ゲェン!!」

ゲンガーは、イシツブテの影に向かって【シャドーボール】を放つ。しかし、それはイシツブテの残像を掻き消すだけで本体に当たることはない。

「今だ、イシツブテ!!」

そして隙のできたゲンガーの顔面に、勢いよく回転したイシツブテの全身が、めり込むようにつっこんだ。そのままゲンガーはイシツブテごと吹き飛ばされ、壁に激突した。壁とイシツブテの攻撃に挟まれた衝撃というのは、尋常ではない。ゲンガーは、あっさりと意識を手放した。

 

 やり辛い、というのが男がカスミとバトルして感じた1番の感想だ。いかにもな元気娘で戦術も単純だろうと考えていたのだが、そうでもない。【みずでっぽう】による遠隔攻撃や【こうそくスピン】による近接攻撃を主軸とした怒涛の攻めをゴルバットは【エアカッター】で捌くが、偶に飛んでくる【れいとうビーム】や【さいみんじゅつ】は対処し辛かった。【れいとうビーム】は相性最悪、【さいみんじゅつ】は万が一でも食らえば終わりなのだ。しかも、技自体の速度を使って緩急を付けてくるのがなんとも嫌らしい。攻めを主体としつつも、サポートとして搦手的な部分を取り入れているのが現在のカスミの戦術であった。

「貴様……そんな人間だったか!?」

「アンタにどうこう言われる筋合いはないわよ!ただ、アタシ達は今のままじゃダメだって早くに気付けたってだけ!スターミー、【れいとうビーム】!!」

「躱わせ、ゴルバット!!【エアカッター】!」

「そこよ、【さいみんじゅつ】!!」

男の指示で避けて【エアカッター】を放つゴルバットだが、避けた先には【さいみんじゅつ】が待っていた。ゴルバットは身を逸らすも、避けきれずに【さいみんじゅつ】に包み込まれる。スターミーは【エアカッター】を受けるも、耐久力できちんと耐えている。

 

「己……小娘がァ!!」

「その小娘に負けるアンタに、アタシを馬鹿にする権利はないわよ。まぁ、なんにせよこれで終わりね」

カスミは得意げに宣言するが、それは油断でもなんでもない、純然たる事実であった。ゴルバットは、既に眠りに落ちていて実質的な戦闘不能であったからだ。

「このぉ……!役立たず、早く起きろ!!」

男は、ゴルバットを蹴り飛ばした。ゴルバットは痛みに目を開くが、眠気が強く起きるのに苦心している。

「責めるのは後よ、【こうそくスピン】!!」

それを見たカスミは青筋を浮かべ、ゴルバットを仕留めにかかる。高速で回転するスターミーが起きあがろうともがくゴルバットを吹き飛ばした。これで、完全なる戦闘不能だ。

「しまった!」

「フン……ま、ざっとこんなもんでしょ」

カスミは、素直な嬉しさを誤魔化すように顔を澄ませてそう言った。

 

◾️◾️◾️◾️

 「いいな、お前達は」

ロケット団員を捕らえてジュンサーを呼び、情報を聞こうとした時である。サトシに敗れた男が、ポツリと呟いた。

「なんだよ、急に」

サトシがキョトン、とした様子で尋ねると、男は自嘲するように笑った。

「俺の家は金持ちに騙されて貧乏になってさ、ゴミ漁りしなきゃ生活出来なかったんだ。だから、羨ましいんだよなぁ。恵まれたお前らがよ」

男の言葉に、サトシは黙って膝を突き、男と目を合わせる。

「ベトベトンだって、その時に出会ったんだ。でもさ、みんなコイツを気持ち悪いって差別して、貧乏だからって虐められて……。最後には、飢えた俺を助けるために親父は強盗なんてやらかして捕まったんだ。それが止めだったよ。学校じゃあ真面目にやってたのにさ、先生にまで嫌われて勉強俺だけさせて貰えなかったんだよ。同級生に虐められても、周りも強盗の息子だからって助けてくれなかった。妹はまだ良かった。金持ちの男に体売って、金稼いでくれた。どんなに辛くても、一緒に生きていこうって誓い合って、俺は野良バトルで稼いだ。……でもな。妹は、体壊して死んじまったよ。俺の為にって、無茶して死んだんだよ。誰も救おうとなんて、しちゃくれなかったんだよ。俺も死のうって時に、アテナ様に出会った。あの人は、俺の復讐に協力するって言ってくれた。当然、そんな訳がないって分かってた。でも、結局は信じた結果の捨て駒だ。……分かったか?俺の人生って、最初から詰んでたんだ。頑張ろうって、救われようって努力したって、報われないんだよ。お前の幼馴染の小娘と違って、俺達は外道に落ちるまで誰にも見て貰えなかったんだ。なぁ、教えてくれよ……!そんなに、俺達が悪いのか?最初から、救われる権利なんて、俺達には最初から無かったのか?どう生きていけば良かったんだ?」

男の独白に、サトシは答えられない。ただ青ざめてふらつき、同じく顔を真っ青に染めたカスミと支え合う。そうでもしなければ、立っていられなかった。スミレとは違う、本当の意味で誰にも見て貰えなかった人間。悪意によって堕とされた、悲しき人生を送った人間。サトシは、どう声を掛ければいいのか分からなかった。だが、タケシは男の体を強く抱きしめた。

「ジムリーダーとして、君に謝らなければならない。済まなかった」

「……違ぇよ、アンタはその時ジムリーダーじゃなかっただろう」

男は首を横に振るが、タケシはそれを否定する。

「だとしても、これはジムリーダータケシとして深く謝罪し、問題視しなければならない。確かに、救われやすい人間と救われ難い人間が居るのは確かだ。君の言うスミレも、容姿の美しさと才能によって注目の的になったからこそ多くの人にその悲劇を目撃されたという側面があるのは否定しない。……だが、それでも。俺達ジムリーダーが、迷えるトレーナーを救えない、救わないなんてことがあったらいけないんだ。だから、君はまず罪を償ってくれ。そうすれば、ニビジムのタケシが責任を持って君を助ける。……それは、君達だってそうだ」

タケシは、そう言って他の2人を見る。

「俺達も……?正気か?」

カスミに負けた男が、呆然とした様子で呟く。

「ああ、君達にもきっと辛い過去があってロケット団に入ったのだろう。そうでなくとも、俺は君達を見捨てない。だから君達は罪を償って、君達が身をもって味わった悲劇を誰にも味合わせない、そんな人間に一緒になって行こう」

 

「オ……オレ達も、協力するぜ!」

サトシは、勇気を振り絞ってそう言った。向き合うのが恐ろしい人の闇に足は竦むし体は震える。きっとアイツも、人と向き合う時はこんな気持ちだったのだろうか、と思う。けれど、タケシの言葉を聞いてサトシは決意した。人の心は自分が思っている以上に汚くて世界は思っているほど美しくなくても、それと向き合わなければならないと決意した。そして、カスミはそんなサトシの背中を、自らの弱さと決別するかのように力強く叩く。

「痛ァ!!」

「……なぁにビビってんのよ、アタシも一緒にやるわよ。いつもみたいに、3人ならきっと出来るわ!」

「おいカスミ!痛いだろぉ!!」

「なぁによ、情けない!ちょっと小突いただけでしょ!?」

いつも通り、喧嘩を始める2人に笑みを浮かべ、タケシは3人と向き合う。

「まだまだ子供だけど、アイツらはまっすぐで優しいんだ。きっと、君達のことを真剣に考えてくれるさ」

そう言って笑い掛けるタケシに、男達は涙を溢した。

「なぁ、タケシさんよ……」

タケシに敗れた男が、口を開く。

「どうした?」

「……オレたち、もっと早くアンタに会いたかったよ」

「ああ、同感だ」

タケシは、そう言って頷いた。そしてその後、3人のロケット団員は一切の抵抗をすることなく、ジュンサーの手で連行されて行った。

 

◾️◾️◾️◾️

 「……成程、ヒマワリという女がな」

キョウは、部下によって齎された資料を読んでそう呟いた。ヒマワリによるロケット団アジト襲撃と、同行するシオンタウン襲撃犯。

「どう致しますか?」

部下の問いかけに、キョウは少しの間考え込むと、結論を下す。

「ヒマワリに関しては、拙者に任せよ。……この一件、スミレ本人が出向けば余計に拗れる。シオンタウン襲撃犯をどうにか引き剥がした後に拙者がこちらに引き戻し、落ち着かせてからスミレ本人や他の幼馴染と会わせるのが最良の策であろう」

「成程……。ですが、スミレ殿本人は納得するでしょうか?」

「知らん。ごねればスミレごと拙者の全力で叩きのめすのみよ。これは、奴らのコミュニケーションと信頼不足が招いた事態、とはいえ子供の喧嘩と呼ぶには行き過ぎた次元にある為、大人の介入は必須であろう。忍者部隊には、戦闘準備を。エビル団へのアジト襲撃要請は済ませたか?」

「はっ、既にホウセン殿は戦闘準備を済ませております」

「良かろう。……1時間後からの作戦開始を指示せよ。こちらは1時間後、エリカとジムトレーナー共を叩き起こして本格的な作戦に入るぞ」

「はっ!」

その返事と共に、忍びは姿を消す。キョウは1人、笑みを浮かべた。

「見ているがいい……。子供の未来、くだらんことで潰させはせんぞ」

 

そして、とある病院。全身に傷を負いながらも、異常な速度でその男は目を覚ます。

「…………むぅ、また生き残ったか」

 

 

子供のピンチに、大人達が動き出した。

 

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