ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第118話『ミュウツーの逆襲』⑦:戦争

 ポケモン屋敷は、喧騒に包まれていた。屋敷で起こった大規模な戦闘と大物政治家であるカラシの現行犯逮捕という騒動の後始末の為、地元警察が本腰を入れて動いているのだ。そして、カラシの逮捕という一大スクープで利益を出そうとするマスコミ達が群がっている。

「……裏道なんて、よく知っていましたね」

スミレが、細い路地裏で呟く。スミレは、マスコミの餌にならないようにと気を回したワタルによって、ハンサム共々路地裏へと逃がされていた。

「まあね、突入前には色々調べていたのさ。さて、ワタルは後から合流すると言っていたし、急ごう」

ハンサムは、マスコミへの対応と事後処理の指揮の為に一時離脱したワタルの苦労を思い苦笑いを浮かべながらも言った。マスコミにはロケット団と繋がっているものから利益の為なら虚偽の内容を報道するまで、頭の痛い厄介者のバーゲンセールだ。そういった連中の相手は疲れるに違いないし、相手をしなければあることないこと書かれて大変な事になるので大変で、スミレもワタルに憐れみの念を抱く。

「……それで、資料は?」

「オーキド博士がグレンタウンに向かっている。博士と合流して確認しよう」

「了解」

2人は、顔を見合わせて頷き合うと走り始めた。

 

■■■■

 

 「申し訳ありません。恐らく、資料は奴らの手に……」

ランスは、電話の向こう側にいる相手に謝罪する。任務は失敗、こんどこそ処分されても文句は言えない。

『構わんよ。奴らが来ることにはなるだろうが、それもまた想定内。ワタルを止めるのは、たとえ私が助太刀したとて容易になせるものではない。私に出来る確信がない以上、失敗した貴様らを責めるようなことはせん』

電話の向こう側からは、重厚で、思わずひれ伏したくなるような声が聞こえた。

「ありがとうございます……サカキ様」

ランスがホッとした様子で感謝を表すと、電話の向こう側の人物……サカキは、笑い声を漏らす。

『相変わらず素直な奴め……。さて、手は打っているのだろう?』

「はっ……!」

 

「ランス様、成功しました!!」

その下っ端の声に、ランスは笑みを浮かべる。

「たった今護送車を襲撃し、カラシを除くロケット団員全てとポケモン達を無事回収いたしました」

『ほう……ワタルはどうした?』

「マスコミを嗾けました。ワタルは当事者である以上は対応せざるを得ず、それを利用して隙を作りました」

ランスが意気揚々と報告すると、サカキは愉快そうな笑い声をあげた。

『よし、よくやった。……ならば、お前たちは待機しポケモンを回復させろ。迎えを寄越すから、その場所から決戦の地へと向かえ。ミュウツーならば、必ずあの場所にいるはずだ』

サカキの言葉で、ランスはその場所を察した。

「……決戦の地、ミュウツー。なるほど、つまり研究所の跡地ですね?」

『そういうことだ。二号機の稼働準備をしており、今回ばかりは事の重大さを鑑みて私も出る。準備は怠るなよ?』

「はっ!!!!」

ランスが返事をすると、電話はプツリと切れた。

「ランス……サカキ様はなんと?」

ラムダが尋ねると、ランスはそれに返答せずに大きく息を吸い込んだ。

「全員、聞け!!サカキ様より命令だ!!ここへ向かっている迎えと合流し、研究所跡へ向かう!!ミュウツーとの決戦となり、二号機が初めて稼働する予定である他、サカキ様自ら出陣なさる!!恐らくは、三つ巴の戦争となるだろう!!そのため、ポケモンの回復と戦争の準備を怠るな!!!!」

 

『ハッ!!!!』

団員達の鋭い返答が返ってきた。ラムダやアポロも、下っ端たちも、全身にやる気を漲らせる。ロケット団の総裁が、遂に重い腰を上げたのだ。

 

■■■■

 

 『そろそろか』

海に浮かぶ巨大な城中央で、そのポケモン……ミュウツーは呟いた。

「そうだね」

しかし、その呟きに反応する者がひとり。明るい髪色や明るい服装に似合わぬ、陰のある表情をした少女が、ミュウツーの元に歩いてきていた。

『ヒマワリか……。準備はいいな?』

「大丈夫。あなたの計画にも、わたしの計画にも、なんの支障もない」

ヒマワリは、そう返答する。ミュウツーとヒマワリは、利害の一致で手を組んでいるだけだ、とどちらも認識している。ミュウツーは育成に優れたヒマワリの技術で体調管理を行わせ、ヒマワリはいずれ主人公とぶつかるであろう存在と手を組むことで、自身の望みを果たさせようとしている。それ以外に芽生えた感情には蓋をして、互いに利用しあう中でいるだけだ。

『しかし、貴様の言う3人は本当に来るのか?』

ミュウツーが疑いの目を向けると、ヒマワリは黙って頷く。

「来るよ……。主人公がどうだとか、そういうことは関係ない。あの3人は、きっと誘いに乗ってくる。昔から、そういう人たちだから」

『……大切ならば、なぜ裏切る?』

 

「大切だからだよ、ミュウツー。大切だから、世界のせいで狂わされてほしくないから、わたしはこの道を選んだの。……死ぬのは怖いけど、大切な皆を殺させるくらいなら、わたし一人で背負ってしまえばいい」

泣きそうな表情で、ヒマワリはそう言った。大切だから敵対する、そんな道はミュウツーにとって初めて知るやり方だった。

『憎いわけではないのか?貴様をここへと導いた存在が』

ミュウツーの声に、困惑が混じる。ヒマワリは、弱弱しく笑って首を横に振った。

「ううん?……あの子は、むしろ被害者なんだ。あの子に討伐されて、あの子を英雄にしようとするわたしが悪だよ。そして、時間をゆがめ、こんな苦しみばっかりな世界を創った誰かもね」

 

『人間というものは、存外に度し難い』

「そうだね……。人間も、ポケモンも、そしてわたしも貴方も。分かり辛いし面倒くさいけど、それが生き物だから」

『……生き物、か』

ミュウツーは、思い詰めた様子で呟く。

「?どうしたの?」

ヒマワリが、その様子に首を傾げた。

『ヒマワリ、貴様は私を生き物だと思うか?』

「……そりゃそうでしょ」

ヒマワリは、さも当然のことを聞かれたかのように、不思議そうな表情で首を傾げた。

『何故だ』

「わたしはどうして人間に戦いを挑むのか、とか貴方に何があったのか、とかは分かんないよ。だって、あの子の過去と一緒で簡単に聞いていいことじゃないから。……だから聞かないし、わたしも詳しいことは話さない。でも、目の前にいるミュウツーというポケモンが、今この時を生きていることは分かる。だって、今あなたは何かを憎み、何かに悩み、もがいてる。それを人間は、『感情』と名付けた。……ま、それもまた作り物かもしれないんだけどね」

『感情、か……』

ミュウツーは、自身の掌をじっと見つめ、しかし首を激しく振って疑念を振り払う。

「……いいの?答えかもしれないけど」

『答えなど、戦いの果てにでも見つければいいのだ。今は計画が第一だ』

「うん。そうだね」

ミュウツーの決意と憎悪が滲む瞳に、ヒマワリは頷いた。向日葵と呼ぶにはあまりに儚い、そんな微笑みを浮かべて。

 

■■■■

 マスコミを振り払ってやってきたワタル、マサラタウンから大急ぎでやってきたオーキドとシゲルを交え、スミレとハンサムは再び警察署の一室にいた。

「鎧はないが、間違いない。こいつが、トキワジムでサカキが使用していたポケモンです」

机一杯に広げられた図面に記されたミュウツーの絵を指さし、苦々しい表情をしたシゲルが言った。

「成程……ミュウのDNAを使用したクローン。しかし、どうしてフジはその計画に?」

オーキドが疑問を呈すると、ハンサムが声をあげる。

「それについてですが、フジ氏の日記を見つけました。どうやら、事故死した娘であるアイという少女を人工的に再現しようとしたようです。その意識までは作れたけれど、その意識を維持する為にミュウの細胞が必要だと書かれていました。そして、ロケット団は彼の科学力に目を付け、娘の再現をバックアップする代わりに最強のポケモン、ミュウツーを創らせた」

「なぜです!?」

ロケット団の行動に、シゲルが憤慨する。

「世界征服。それこそがロケット団の最終目標。そしてそれを叶えるためには最強の兵器が必要だった」

ワタルが淡々と述べる。

「それでも……!平和な今の時代に、兵器を創ろうなんておかしいじゃないですか!!」

シゲルは、考えたくもないと言わんばかりに叫んだ。

「戦争をしていた時代から、人の心は一歩も前に進んでいないでしょ。まやかしや綺麗事で着飾っているだけ。……人間を綺麗だと思ってるなら、マサラタウンに帰りなよ」

スミレが、刺々しい声で言った。その言葉にシゲルは、スミレを睨みつける。

「君の恨み言は後にしろ!人間の感情など、善悪どちらかでしかないなんて生物であればあり得ない!!」

「でもッ……作り物だったとして、誰かの掌の上で回る世界だったとしたらどうなの!?」

シゲルは、脳内にヒマワリが過ったのか一瞬たじろぐ。だがすぐに口を開いて反論しようとした。

「やめなさい」

その肩を、ハンサムが優しく叩く。

「……ハンサムさん、この馬鹿の肩を持つんですか?」

「いいや。事実を語るには、我々は何も知らなさすぎる。君も、スミレも。世界の構造次第では違ってくるが、現状では人間の本性が戦争の時代から進んでいないということは同意するしかないし、世界が作り物であったとしたら、人間の感情が悪性に寄って設定されているという可能性は否定できない。ただ、スミレの意見は主観と私怨による偏見的な側面が強いことも否定できない。そして事実として、君たちの喧嘩は結構だが時間の無駄になっている。2人とも、話したいときは挙手しなさい。それ以外は禁止だ」

ハンサムの仲裁で、スミレもシゲルも不満そうな表情で座る。それを横目で見たワタルが、口を開いた。

 

「さて、本題に戻るとしよう。奴について調べる上で大切な場所がある。……それは、ロケット団の研究所跡だ。幸いにも、資料は残っている」

「恐らく、ロケット団と正面からぶつかることになりませんかな?」

オーキドの懸念に、ワタルは苦々しい表情で頷く。

「それどころではありませんよ、博士。先程部下から仕入れた情報なのですが、どうやらミュウツーとヒマワリが、ロケット団の基地を襲撃していると。最強の兵器が裏切ったとあれば奴らは本腰を入れてくるでしょう。現に、『R』の紋章を掲げた飛行船や船が各地で確認されていますし、ポケモン屋敷で捕らえた団員とそのポケモンは全て回収されました。最悪の場合は三つ巴の戦争になるかもしれません」

ワタルは、敢えて戦争という言葉を使った。その情報に、全員の表情に焦りが見える。ヒマワリが、最悪の兵器と手を組んでいるというのは、最悪でなくともかなり悪い状況であった。

「どうする?味方は??」

ハンサムが問うと、ワタルは胸元からメモを取り出した。

「ジムリーダーではキョウ、カツラ、カジキ、エリカは参戦が確定、四天王からはシバとカンナが参戦する。他にも、カントーリーグ常連勢やその伝手でトレーナー達を集めた。その勢力でロケット団の下っ端達を迎え撃ちつつ、ミュウツーとロケット団幹部格をぶつけて漁夫の利を狙う」

そう言うワタルの表情に余裕はない。それだけ、事は大きかったのである。

 

 

「なんとしてでもこの地方を、世界を守り抜く。みんな、力を貸してくれ」

ワタルは、そう言って頭を下げることで締めくくる。その言葉に、異論などあるはずがなかった。

 

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