ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
ポケモン達を鍛えつつ一泊し、翌日の午前中にハナダジムへ到着したスミレとヒマワリだが、予定外の事が起きた。ハナダシティのジムリーダーの三姉妹が、既にジムリーダーとしてのやる気を失っていたのだ。理由は水族館の方に集中したいらしく、何もせずにバッジを手渡された。ヒマワリは困惑し、スミレは明らかに不満の表情を浮かべながらもバッジを受け取り、水族館の見学だけしてジムを後にする。この水族館見学にそこそこ時間がかかり、出てきたのは午前中を跨ぎ午後になってからであった。少し前のスミレなら、水族館見学などいつでも出来ると無視していただろうが、ジムリーダーの職務放棄の現状に相当ストレスを溜めていたらしくヒマワリの提案に反対しなかったので、提案したヒマワリ自身が少しビックリしていた。スミレ的には、最初に挑んだタケシが相当な実力者で人格者でもあったため、タケシと同格の相手と戦えると思って少しばかり期待していたらしい。
ハナダシティを出るとそこは24番道路。釣りスポットとしても有名な、水辺に作られた道路である。生息するポケモンもそこまで重要性は無いため、図鑑を埋める為に遭遇しつつ倒して経験値に変えてゆくのが最良のやり方だ。ヒマワリは新しく仲間に加わったピッピとのバトル練習が必要なので、相当張り切っている。なので獲物が狩り尽くされないように、一度別れる。新戦法を携えてのジム戦を楽しみにしていたバタフリーも不満は大きかったらしく、野良トレーナー戦では2体2なのにバタフリー1体で相手の手持ちポケモンを全滅させてしまった。フシギダネは少し残念そうだった。
「これはこれは、スミレ君じゃあないか。」
蛮族の如く戦っていると、背後から嫌味ったらしい声が掛けられた。
立っていたのは周囲に女を侍らせた茶髪のイケメン。
「・・・・シゲル。」
「ああそうだとも。随分と久し振りな気がするが、ジム戦は順調かな?」
「さっきハナダジムに行って、何もせずにバッジ貰った。ニビジムは突破済み。」
どうやら進捗具合は同じらしく、シゲルは自慢出来ないことが実に面白くないといった表情で鼻を鳴らす。
「あれぇ?シゲルだーー!」
2人の会話に気づいたヒマワリが寄ってくる。
「やぁ、ヒマワリ君。君がスミレ君と一緒とは、人嫌いのスミレ姫も随分と絆されたらしいね。」
ニヤニヤとしながら煽るシゲルに、スミレの表情は無表情のままだったが、周囲の温度が2度ほど下がる。
「ヒマワリが着いてくると言って駄々こねた。博士の命令で3つバッジを集めるまで引率。」
「ほうほうほう、ではスミレ君はヒマワリ君の事などどうでもいいと?」
「・・・別に。」
「おやぁ?随分と間があるねぇ。」
ヒマワリは慌て始めた。周囲の温度はもう極寒にまで到達している。
「随分とよく喋る・・・旅立ち前の最後のテストで2位だったのがそんなに悔しかった?」
今度はスミレが口撃し、シゲルは苦虫を噛み潰したような顔をした。図星らしい。
「その1位のスミレ君は随分ポケモンが少ないね、ヒマワリ君もだが。ポケモン図鑑を埋める役目はどうしたんだい?」
「ウチは少数精鋭でね・・・。沢山捕まえると出費が嵩んで仕方がないなら必要以上に捕まえる気もない。沢山捕まえても烏合の衆なら価値はない。」
「うーん、2人ともせっかく会ったんだしバトルしたら?」
終わらない応酬に楔を打ったのはヒマワリのそんな呑気な一言。そしてその言葉を受けて、2人はボールに手を伸ばした。
「いいだろう・・・。トレーナーらしくポケモンバトルと行こうじゃないか。自称、少数精鋭の力を見せてもらうよ。」
「その自信を叩き折る。」
バトルは2体2。先に相手の手持ちを全滅させた方の勝利となる。一行はポケモンセンターに移動し、ポケモンの回復を済ませるとセンターに常設してあるコートをレンタルし、向かい合う。
「行けぇ、ニドリーノ!!!!」
「リィィノ!!!!」
「出陣だ、バタフリー。」
「フリィィィィ!!!!」
「バトル、開始〜!!」
ヒマワリの審判で、バトルが始まった。
⬛️⬛️⬛️⬛️
まず初めに動いたのはニドリーノ。
「ニドリーノ!【どくばり】!!」
ニドリーノは、毒々しいオーラをツノに纏わせ、突進する。
「バタフリー、【かぜおこし】。」
バタフリーは羽をはためかせ、風を起こし迎撃。ニドリーノは思わず足を止める。
「負けるなニドリーノ!【たいあたり】!!」
ニドリーノは風など効かぬとばかりに勢いよく突撃する。
「バタフリー、【しびれごな】。」
しかし突っ込んだ先に【しびれごな】を置かれ、ニドリーノは麻痺し、シゲルは悔しげに呻く。
「やられたッ・・・。だが、まだ負けてない!ニドリーノ、【どくばり】!!」
「リィィ、ノ!!」
「バタフリー、【かぜおこし】で高速離脱。」
「フリィィィィ!」
ニドリーノが麻痺をものともせず【どくばり】を放つが、バタフリーは地面に【かぜおこし】をぶつけて上昇、冷静に離脱する。
「バタフリー。【かぜおこし】で牽制しつつ突っ込んで【むしくい】。」
バタフリーは風を起こしニドリーノにぶつけると直様急降下、ニドリーノに迫る。だがシゲルがニヤリと笑った。
「今だニドリーノ、【どくばり】!」
「・・・っ!」
ニドリーノは迫るバタフリーを【どくばり】で迎撃し、撃ち落とす。
バタフリーはよろよろと起き上がり飛び立つが、体から紫色の泡のようなものがボコリ ボコリと発される。
「・・・・毒状態。」
「御名答。」
スミレの言葉に、シゲルは得意げに応える。
「今のカウンターは見事。」
スミレの素直な賞賛に一瞬驚きの表情を浮かべ、すぐに得意げな表情に戻る。
「バタフリー、背後に【かぜおこし】で加速。接近して【むしくい】。」
「ニドリーノ、【つつく】!」
バタフリーがさらにスピードを上げて急降下、ニドリーノとのすれ違いざまに【むしくい】を決める。だが離脱する時にニドリーノのつつくが体を掠め、さらに毒でダメージを受ける。
「もう一回急降下。そして真正面から【むしくい】、それから【たいあたり】で追い討ち。」
「フリィィィィ!!!!」
ここで勝負を決める気か、と思ったシゲルは避けるようニドリーノに指示を出すが動けない。麻痺の効果がここで出たのだ。
「リィィノ⁉︎」
ニドリーノはバタフリーのコンボをまともに食らい、吹き飛ばされる。
「追い討ちで【かぜおこし】。」
さらに吹き飛ばされたニドリーノに【かぜおこし】を当て、僅かに残った体力も削りきる。
「ニドリーノ、戦闘不能。バタフリーの勝ち!」
ヒマワリが判定する。
「よく頑張った、ニドリーノ。」
「あと少し、頼むよバタフリー。」
シゲルはニドリーノを労いボールに戻し、スミレは捨て駒にする事も想定した上で、謝罪の気持ちを込めてそう言う。バタフリーは『気にするな』とでも言うように、首を縦に振った。
1体目を先に失ったのはシゲルだが、スミレのバタフリーはもう満身創痍。あと一押しで勝てる。
「行くぞ!ゼニガメ!!!」
「ゼニィィィィィィィィ!!!!」
シゲルは2体目を繰り出した。
「バタフリー、【しびれごな】と【かぜおこし】。」
バタフリーは【しびれごな】を風に乗せてゼニガメに放つ。
「相殺しろゼニガメ、【みずでっぽう】!!」
ゼニガメは口から水流を放ち、これを撃ち落とす。
「バタフリー、【かぜおこし】で砂埃を上げて。それから【むしくい】。」
バタフリーは風で砂埃を巻き上げ、ゼニガメの視界を塞ぐと突撃する。
「ゼニガメ!【みずでっぽう】で砂埃を濡らして消すんだ!!」
対するゼニガメは【みずでっぽう】で砂埃を濡らし、視界を晴らす。
そして突っ込んでくるバタフリーを視界の端に捉えた。
「ゼニガメ、【高速スピン】で迎え撃て!」
「ゼェェェ、ニィィィィィ!!!!」
甲羅に籠り、高速で回転したゼニガメがバタフリーを吹き飛ばした。
「バタフリー、戦闘不能。ゼニガメの勝ち!」
「ごめん、バタフリー。」
「いいぞ、ゼニガメ。よくやった。」
スミレはバタフリーに謝罪の言葉を述べてボールに戻し、シゲルはゼニガメの頭を撫で回す。
「君の出番だ・・・・フシギダネ。」
「ダネェェェェェェェェェ!!!!」
スミレの2体目はフシギダネ。相性は有利だ。
「フシギダネ、【やどりぎのたね】。」
フシギダネがまずは種を飛ばす。
「やらせるな!ゼニガメ、【みずでっぽう】!!」
その種を【みずでっぽう】で撃ち落とす。
だがそれを読んだフシギダネは、すでに接近している。
「【たいあたり】」
「ダネェェェ!!」
フシギダネが気合いの声と共に勢いよくゼニガメに接触、ゼニガメは吹き飛ばされる。
「負けるな、ゼニガメ!【高速スピン】!!」
「ゼニィ!」
空中で姿勢を立て直したゼニガメが高速で回転し、フシギダネに迫る。
「【つるのムチ】で捕まえて。」
フシギダネは冷静にゼニガメの甲羅に蔓を巻き付け、拘束する。
「まずいっ!」
シゲルが焦りの声を上げるが指示が遅れたのは悪手だ。
「フシギダネ、思い切り振り回して叩きつけて。」
「ダネェェェェェェェェェ!!」
フシギダネは蔓を思い切り動かしてゼニガメを振り回すと、地面に叩きつけた。
「ゼニガメッ!」
ゼニガメに呼びかけるシゲルにゼニガメは弱々しく応える。しかしこの隙をスミレは逃さない。
「薙ぎ払え、【つるのムチ】。」
蔓で胴体を強かに打ち付けられたゼニガメはシゲルの足元まで吹き飛ばされ、目を回す。
「ゼニガメ、戦闘不能!フシギダネの勝ち!!よって勝者、スミちゃ・・・、じゃなかった。スミレ!!」
ヒマワリの判定が降り、勝負がついた。
「済まない、ゼニガメ。」
「ご苦労様、フシギダネ。」
それぞれがボールに相棒を戻す。
「今回ばかりは勝ちを譲ってあげるよ。まぁ、今度はボクが勝つけどね。」
強張った笑みを浮かべたシゲルはそう言い残すと、ポケモンセンターへ入らずに、侍らせた少女達を連れて何処かへ向かっていった。スミレとヒマワリは、去ってゆくその背中が、酷く小さいものに見えた。
ありがとうございました。
シゲル戦になります。この挫折を経てシゲルがどう成長してゆくのか、作者にも分かりませんが、悪いようにはしません。特にジョウトリーグは書きたいと思ってます。
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