ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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鳥山先生の訃報でメンタルやばい……。因みに、ピッコロ推しです。もしも二次創作するとしたら、ピッコロとクリリンをもっと活躍させたい




第120話『ミュウツーの逆襲』⑨:三つ巴

 「ロケット団が、動き出した」

ワタルは、部下からの報告を聞き終えるとそう呟いた。

「敵戦力は?」

ハンサムが尋ねると、ワタルは心底嫌そうな表情でため息を吐く。

「ランス、ラムダ、アポロ、アテナの4幹部の合流を確認。大型の飛行船や船を動かし、数百名規模の軍勢で研究所へ向かっている。……それに」

「それに?」

言い淀んだワタルの態度に、スミレが首を傾げる。

「サカキが動いた。どうやら、ロケット団は相当ミュウツーに執着しているらしい。それとぶつかるとなれば、多少の犠牲は覚悟せねばなるまい」

表情を険しくさせる大人に対して、スミレとシゲルは目を見開いた。犠牲が出ることを前提に作戦を行う、ということは2人には当然のことながら経験がなかったのである。

「……犠牲を、前提に動くんですか?」

スミレが怯えた様子で尋ねると、ワタルは黙って頷いた。

「ああ。可能な限り減らす努力はするがな。とはいえ、無傷で捕らえられるほどロケット団は甘くない。己が死ぬ覚悟と仲間を殺される覚悟をもって挑む必要があるだろうな。これは子供同士の喧嘩ではなく組織と組織による戦争なのだから。ただ、君たち2人はヒマワリ奪還を優先するんだ。犠牲など、今は深く考えるな」

ワタルの言葉に2人は頷くが、シゲルが険しい表情で片手を挙げた。

「すみません、ワタルさんに尋ねたいんですが」

「シゲルか……なんだ?」

「もし、この事件で犠牲者が出たとして……。ヒマワリは、どの程度の罪に問われるのでしょうか?」

シゲルの疑問に、スミレが明らかに固まる。ワタルは少し悩む素振りを見せた。

「……ううん、難しい話にはなると思うが、やったことの程度によるな。もしもロケット団を故意に呼び寄せたのであれば、トレーナー資格のはく奪と少年院行きは免れないだろうし、被害によっては更に重くなるだろう。莫大な人的被害が出たとなれば最悪、死刑もありえる。……だが、もしもロケット団の襲来がロケット団自身によって自発的に引き起こされたものであるなら、彼女はロケット団の作戦に関与していないことになり罪は大きく軽くなる。ミュウツーと手を組んだ以上ある程度の処分は下るだろうが、ロケット団アジトの壊滅と団員捕縛への貢献がある以上はトレーナー業を続けることは可能だろうし、ミュウツーと手を組んだのもシオンタウン襲撃以後であるからその分の罪が上乗せされることはない、と思う」

ワタルは悩ましい様子で話すが、その内容にスミレは渋い表情を浮かべた。最悪の場合は死刑、という言葉が頭に響く。

「……大丈夫、かな」

不安げに呟くスミレの肩を、シゲルが険しい表情で叩く。

 

「弱気になりすぎだよスミレ。アイツからの招待状は見ただろう?アイツはどうあがいても、悪者に憧れて悪ぶってる善人でしかないだろう。そして、なによりロケット団を呼び寄せるなんてことに手を染めるなら、アイツがボクらを……、なにより君を呼ぶはずがない。君が分かっていなくてどうするんだい?」

いつものような笑みを浮かべようとしながら言うが、その笑みは引き攣っている。

「そう、だよね……。ごめん」

スミレが落ち込んだ様子で謝ると、シゲルは気まずそうに顔を逸らした。

「いや、まぁあまり気負いすぎると潰れるよ。……今は、ヒマワリの善性を信じるしかない」

シゲルの祈るような言葉に、スミレは弱々しく頷いた。最悪は想定できてしまう。しかし、自分の知る彼女を信じなければこの先待っている困難とは対峙できない。

(……大丈夫、大丈夫だと思わなきゃ)

スミレは、黙って海を見つめていた。

 

「馬鹿正直だな、お前という奴は」

ハンサムは、難しい表情を浮かべるワタルに向かって笑いかける。

「誤魔化しは、あの子達には見抜かれるだろう。ならば、下手に不信感を与えるよりも残酷でもあらゆる可能性をなるべく正確に伝えるべき、俺はそう思った。非難されても仕方がないことだが」

絞り出された言葉は、ワタルの苦悩を表していた。

「確かにな。あの子達は、どうせ真実に辿り着くだろうから話すのもひとつの手か。私はその考えを間違っているとは言えないよ」

ハンサムが納得したように頷くと、ワタルは弱々しく笑った。

「……子供に戦いを強い、残酷な現実ばかり見せて、俺達は一体なんなんだろうな」

「さあな。俺達の世代はそういうのばかり見て育ったから、今度こそ平和を見せてやりたかったんだけどな」

ハンサムも、どうにもならない現実にため息を溢す。

「頑張っても、足りなかったなぁ……」

「社会の闇が、ロケット団を強くする。人間がある限り、闇は消えない。……全く、どうすれば良いんだよって話だけどな」

甲板の上で、大の男2人はため息を吐いた。大人になったら、子供時代よりもずっと汚いものはよく見える。光に向かおうと足掻く未来の少年少女が、せめて闇に呑まれないようにと頑張っても、闇に足を取られた子供など何処にでもいてしまった。それどころか、ワタルが名前を与えた子供ですらもその1人だったのだ。あまりに、やるせなかった。

「ヒマワリの一件も、俺達大人が解明すべき事なんだ。全て解決し、全てが真っ白になった状態で子供達にバトンを繋ぐべきなんだ」

ワタルが、悔やむように言った。ヒマワリの言葉を聞くまで、誰も彼もが不思議に思ってなどいなかった。もしかしたら、時間を狂わせた何者かの手により意図的に忘れさせられているのかもしれないが、それでもまだ10歳の少女を悩ませ、間違った道を歩ませたことに場の大人達は責任を感じる。

「……それでも、起こってしまった。ならば、やらねばならない」

「ああ、そうだな。ちゃんと分かっているよ」

ワタルとハンサムは、そうやり取りして拳と拳をコツリ、とぶつけ合った。己の迷いを、打ち消すように。

 

その少し先に、分厚い雨雲が掛かっていた。

◾️◾️◾️◾️

 港町に着いたサトシ一行は、ポケモンセンターで待機していた。海上の島に会場があると聞いてきたのだが、天気は嵐。海は荒れ、風は吹き、雷が鳴る。周囲には、多くのトレーナーが集まっている。皆、ヒマワリからの招待状によって集められた人なのだろうか。

「む、お前はサトシか……」

声を掛けられ、振り向くと見覚えのある顔が視界に入る。

「キョウさん?……どうして」

「ロケット団が総力戦に出た。それに対して拙者達は、この港を拠点にそれを迎え撃つ予定でいる」

サトシの疑問に、キョウは厳しい表情で答える。

「ロケット団が?」

「ああ、大変な戦いになるだろう。……だが、お前達は気にするな」

キョウの言葉に、3人は疑問符を浮かべる。ロケット団による総力戦となれば、戦力は1人でも欲しい筈なのである。

「どうして……」

「ヒマワリの一件だ。拙者もヒマワリの説得の為其方に向かうが、お前達も拙者と共に研究所へと向かえ」

キョウの指示に、サトシは力強く頷いた。ヒマワリの事に集中させてくれるならば、望むところであった。

 

「……でも、嵐が不安よね」

しかし、カスミが不安そうに言った。外は大荒れ、闇雲に外へ出れば無事では済まない。

「そうだな。……スミレやシゲル、それにカントーチャンピオンのワタルが乗った船が到着する。それと合流して島に乗り込むとしよう」

スミレ、シゲルの名前にサトシはニヤリと笑った。

「やっぱあの2人も来るよな……。分かりました、お願いします」

「ウム。では、拙者は殺気だった小娘を宥めてくるとしようか」

そう言うと、キョウは歩き出す。その先にいるのは、妙に張り詰めた雰囲気を醸し出す、和装の美少女。エリカだ。

 

「……なんです?」

エリカに睨まれ、キョウは苦笑する。

「プレッシャーが凄いのは分かるが、気負いすぎだエリカ」

「分かっています……でも」

ソワソワ、とするエリカに、まだこの娘も20に満たない子供なのだと再確認する。

「……怖いか?」

「ええ」

エリカは、ジムリーダーだ。それでも、まだまだ子供で経験は浅い。ロケット団との抗争は経験しているが、戦争レベルの規模に、多くの犠牲になるかもしれない部下達を率いて参加するというプレッシャーは、計り知れないものであった。

「当然であろう。……拙者も、怖い。この規模は、拙者も流石に初めてだ」

「でしょうね。……部下をこんな死地に送るなんて、初めてですから」

エリカの瞳を見れば、必死に恐怖心を押し殺そうとするのがよく分かる。その目は、何処ぞの少女とよく似て見える。

「全く、似たもの同士だな」

「……ふふっ、でしょう?」

キョウの言葉に、エリカは小さく笑みを溢す。

「大丈夫、お前1人には背負わせんさ。カントーのトレーナー全員で、この先起こるであろう悲劇は背負って生きてゆくのだ。……ああ、そうだ。状況次第では、お前も本拠地攻撃に参加してもらうぞ」

「ええ、分かっています。幹部が本気を出したならば、それを倒すのはわたくし達ジムリーダーの役目。子供達の未来を切り開きましょう」

そう言って、エリカは背を向ける。

「……お前も、子供であることを忘れるなよ?」

「当然です。わたくしが出来ぬことを、どうして弟子に求められましょうか?……ちゃんと、頼る時は頼りますから」

その返答に、キョウは安心したように笑う。

「互いに生きて、また会おう」

「ええ」

 

◾️◾️◾️◾️

 くるり、くるりと腕を回す。全身から溢れ出るサイコパワーが嵐を呼び、海を荒らし風を呼び、雨雲を生む。

「ね、ねぇ……」

そこに、ヒマワリが恐る恐る声を掛けた。

『どうした?』

「ロケット団に、招待状送った……?」

不安げに尋ねるヒマワリに、ミュウツーは首を横に振る。

『いいや。だが、奴らは気付いたのだろう』

「どうにか、妨害できない?……その嵐で攻撃する、とか」

ヒマワリの様子にミュウツーは眉を顰める。

『まさか、貴様は奴らに情けをかけようと?』

その問いに、ヒマワリは首を横に振った。

「違うよ。……ただ、私の友達が危なくなっちゃう。言ったよね?わたしは、正義に倒されるためにここに居るって。正義が倒されてしまうような状況は良くない」

嘘だ、とミュウツーは理解した。確かに、ヒマワリが『正義』という役割を課している人間への気遣いがあるのは確かだ。しかし、ヒマワリが争いによって大きな被害を及ぼすことを怖がっていることは分かっていた。

『その為に、私を裏切るのか?』

それまで、触れてこなかった部分に敢えて触れれば、ヒマワリは目に見えて動揺する。ミュウツーは、分かっていた。憎い人間などには使いたくは無かったが、心を読むことで彼女の計画は読み取っていたのだ。

 

" ミュウツーを裏切り利用されただけの被害者に仕立て上げ、信頼できる友人に託して救わせること " 、それこそがヒマワリが天才には遠く及ばない頭脳で必死になって導き出した計画だった。

「……な、なんのこと?」

『下手な誤魔化しだ。お前の想いなど、既に知っている』

ミュウツーは、そっぽを向きながら吐き捨てる。遠い昔に出会った、小さく優しい少女と被って仕方がなかったのである。

 

「そっか、そっかぁ……。わたし、間抜けだなぁ」

ヒマワリは、弱々しく笑いながら尻餅を付いた。ミュウツーは、少し迷う素振りを見せると、ヒマワリに手を差し伸べる。

『私は人間が嫌いだ。憎んですらいる。……だが、お前が少し違うことは分かる。だから、私はお前のやり方を邪魔しない』

「ミュウツー……」

 

『始めよう、我らの逆襲を』




本作のために映画見直して、割とミュウツーさん話せば分かる方なのでは?と思った作者。ミュウツー、態度が若干の軟化(ヒマワリのみ)。ただし他人間には映画本編よりちょっとマシなレベル。計画に変更はなし
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