ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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難産でした……。お待たせして申し訳ないです


第121話『ミュウツーの逆襲』⑩:理由

「ミュウ?」

その小さなポケモンは不思議そうに、そんな鳴き声を発した。

 

 

 轟轟と響く程の嵐の中で、スミレ達はポケモンセンターへと降り立った。ワタルはジムリーダー達を収集し、直ぐに情報共有と指示を出している。

「よっ、シゲルにスミレも。大丈夫か?」

サトシに声を掛けられ、スミレは一瞬驚くが直ぐに納得したように頷いた。

「やっぱりサトシも呼ばれたんだね」

「ああ。ってことは、シゲルとスミレも呼ばれたのか。アイツなら、やっぱそうするよな」

「ま、ボクや君は蚊帳の外だろうけどね」

シゲルが肩をすくめて言うと、サトシは苦笑いを浮かべる。

「だろうな。……オレやシゲルより、スミレの方が付き合いは多いだろうしな」

「サトシに関しては、そうでもないんじゃない?」

サトシの言葉に、スミレは遠くを見ながら首を傾げる。

「あれ?そうだっけ?……シゲル、どっちか分かるか?」

「分かる訳がないだろう……。言われてみれば、確かにサトシと話してることも多かったね。というか、ヒマワリは全員と交流を持ってた。潤滑油としての役割を持ってた覚えがある」

シゲルがサトシの疑問に呆れた様子で答えつつ、かつてを回想する。癖があまりに強い生徒達の合間を駆け回って仲を取り持っていたのはヒマワリだった。

「……こうして考えると、あの子の存在って大きかったよね」

スミレは、悔やむように呟いた。スミレの問題で多くの注目がスミレに向かっている間、割を食う形で闇を抱えていたのだろうか。注目されず賞賛もされない場所で、頑張っていたのだろうか。

「だな。……でも、アイツは必ず連れ帰る。そうだろ?」

暗くなりそうなスミレの思考を、サトシの明るい言葉がバッサリと切り裂いた。

「……うん」

スミレは、微かに笑って頷く。こういうとき、サトシのポジティブさはありがたかった。

「ああ、そうだサトシ。事件だとか色々終わって落ち着いて、全部話せるようになったら4人で話し合おうと思ってるんだ。4人のこれまでとこれからを、さ」

シゲルが、思い出したように言うと、サトシは悩ましげに顔を伏せる。

「……やっぱり、嫌?」

スミレが尋ねると、サトシは小さく頷いた。

「まあ、ね。……恥ずかしいから、あんまり話したくはないな」

「そっか」

スミレが、悲しげに呟く。

 

「でもさ、スミレが話そうと決めたなら、オレもちゃんと向き合わないといけないし話さなきゃいけないよな」

サトシは、そう言って笑うと背を向けた。その笑みは、どこか固くぎこちない。

「う、うん」

スミレは、戸惑った様子で頷く。サトシの抱える問題、というものがスミレには見えていなかったのである。

「……ま、お互いカッコ悪い部分は見せたくないよな」

シゲルは、スミレとは反対に何かを知っているのか、納得したように頷いた。

 

◾️◾️◾️◾️

 

 荒れる海を、その船は進む。鋼鉄で全体を覆った戦艦の船首には、サカキが幹部達を伴い立っている。降り注ぐ雨からは、アテナが差した傘が身を守っている。飛行船も使っての侵攻を目指していたが、この嵐の中ではそれも叶わなかった。そのため、現在は戦艦に全戦力を集めている。

「ランス、嵐が止む目処は?」

サカキが尋ねると、ランスは渋い表情で首を横に振る。

「いえ、残念ながら目処は立ちません。局地的な嵐なのですが、雲が動く様子はなくミュウツーによって引き起こされた嵐だと思われます」

「ふぅむ……。下っ端を集めてポケモンを出せ、【にほんばれ】の準備だ」

「ハッ!」

ランスが一礼してサカキに背を向ける。下っ端達に指示を出すため、艦内へと戻ってゆく。サカキは、ランスへと視線を向ける間もなく次の指示を思考する。

「さて、次だ。ワタルのことだから、攻撃を仕掛けてこない筈がない。実際、港にはジムリーダーも複数集まっているからな。アポロ」

「はっ」

「お前は船に残り、ビシャスと共にジムリーダー共を相手取れ。私はランス、アテナ、ラムダと下っ端を20ほど、それと2号機を連れてミュウツーの本拠地へ向かう。……良いな?ビシャス」

「「ハッ!!」」

ビシャスとアポロが、同時に頭を下げる。

「ラムダは船内に連絡、戦闘準備が済み次第甲板に集結させろ」

「……」

ラムダは黙ってニヤリと笑うと、艦内に駆け出す。そして、ドア付近の通信機を手に取った。

『ロケット団、全戦闘員にサカキ様の命令を伝える!全戦闘員は準備が出来次第、甲板に集結せよ!!』

そう言い終えると、ラムダがサカキの元へと戻る。

「良し、待機していろ」

サカキが満足げに頷くと、ラムダは黙って跪き頭を下げた。

 

 

ランスが連れてきた下っ端達が【にほんばれ】を使うと、雲が船の周辺から吹き飛んだ。そして、甲板には続々と下っ端達が集まる。

 

「……そろそろか」

サカキが呟いた丁度その時、戦艦の側面に【はかいこうせん】が突き刺さり、爆風が肌を揺らす。

「サカキ様!」

ランスが叫ぶが、サカキはそれを手で制する。

「【にほんばれ】で嵐に対処したのだ、奴らからすれば面倒なのだろうな。……部隊アルファ、アポロとビシャスを除く幹部達は2号機を伴い私に続け、その他は艦内で防衛だ!この戦いがロケット団にとって重要な一戦だ、心して作戦に移れ!!」

『ハッ!!!!』

 

戦争が、遂に始まった。

 

◾️◾️◾️◾️

 「……これが、戦争」

スミレが、呆然と呟いた。島へと向かう船の上から見えるのは、嵐ではっきりとしない視界と音の中でも見える爆炎と轟音が、バトルや今までに経験したロケット団との戦闘とは異なる雰囲気を感じる。行われているのは、戦艦上のロケット団と陸上の味方による、ポケモンの技を利用した砲撃戦であった。

「見るな、スミレ。……船に戻るんだ」

その肩に手を置いて、ワタルは諭す。ロケット団が利用する戦艦からは、大砲も撃たれている。兵器をも用いた戦争、子供には刺激が強すぎるとワタルは感じていた。

「無理ですよ。あそこには、エリカさんを初め知り合いがあまりに多すぎる」

スミレは、怯えた表情をしながらも目を逸らさない。尊敬する師匠も、世話になったトレーナー達も、多くの人達が爆炎の下で命を賭けていると考えると、恐ろしくても目が離せなかった。

「そうか。……だが、無理はするな。後の戦いに支障が出ないようにしろよ」

「はい、分かってます」

スミレは、苦しげにその光景を見詰めながら言う。どう見ても、分かっているとは言い難い。

(……強情な奴だ、全く)

ワタルはその様子に呆れた表情でため息を吐く。そしてどう止めるべきかを思案する。その間に船を狙って雷が落ちてくるが、それはカイリューが技を使って迎撃していた。

 

 

「スミレ、大丈夫じゃないでしょ」

そこに声を掛けたのは、カスミだった。スミレはチラリとカスミに視線を向けると、再び戦場に視線を向ける。

「そうだね。……でも」

「ま、そりゃあそっか。大切な人があんな場所で戦ってたら、落ち着かないのも当然ね」

「……うん」

スミレは、船縁を強く握り締めて頷くと、カスミの手がそこに重ねられる。

「信じられない?あそこで戦ってる人達のこと」

普段から強気なカスミとは思えないような、温かい声で尋ねられ、スミレは頷く。

「無理。信じたって、人は死ぬから」

スミレの返答に、カスミは呆れ笑いを浮かべる。

「そう言うと思ったわ。でもね、こっちの戦いだって、きっと厳しいものになる。勝たなきゃ大変なことになるバトルを、託されたのが私達で、貴女なのよスミレ。それはつまり、貴女を信じて送り出してくれる人があそこにいるということ。せめて貴女を信じてくれた人だけでも、信用してあげなさいよ」

「そう、だね……」

カスミの言い分に、スミレは曖昧に微笑んで頷くしかない。その反応でスミレが答えを出しかねているのを理解したカスミは、スミレの肩を軽く叩いた。

「出来るだけ、アタシ達も助けるから!」

「……カスミは、大丈夫なの?」

笑顔でスミレを励ますカスミに、スミレは尋ねる。対するカスミは、笑ったまま首を横に振った。

「大丈夫じゃないわよ、勿論。戦争なんて起きてて、友達が敵になって、平静じゃいられないわ。でも、スミレやシゲルはもっと辛いと思うし、せめてアタシは励ます側で居ようってね」

そう言うカスミだが、その態度は分かりやすいものだった。それは、スミレでなくとも気付けたであろう、あまりにあからさまな態度。スミレやシゲルを挙げても、結局カスミが一番心配しているのは、励ましたいと思ってるのは、名前も出さないもう1人であるのだ。

「…………頑張ろうね」

スミレは、カスミの方を向いてそう返す。美しい友情だと思うけれど、眩しいとは思うけれど、スミレはそこから目を逸らすようなことはしなかったのである。

 

◾️◾️◾️◾️

 その城は、天を貫く塔のようであった。研究所は既に破壊され、無人島である筈の島に、巨大な城があったのだ。その姿は神話に描かれた、神に近づこうと造られた人間の驕りを象徴する塔のようで。まるで、人間という現状の世界で主権を握る生命体への宣戦布告をしているようで。

「ああ……そうか。既に始まっていたのか、ミュウツーの逆襲はッ!」

ワタルの驚愕が、皆の総意を表していた。

 

「その通りですよ、カントーチャンピオン」

聞き覚えのありすぎる声に、全員が一斉に顔色を変えた。コツリ、コツリと音を態とらしく立てて、ゆっくりと階段を降りてくる少女の姿がそこにはあった。

「……緊張してるね、ヒマワリ」

スミレが静かに言えば、ヒマワリは弱々しく笑った。

「それは、うん。そうだね……。でも、わたしはちゃんと役目を果たすよ」

ヒマワリは笑って答えるが、その目は今にも泣きそうで、明らかに無理をしていた。

「…………そっか」

スミレは、表情を悲しげに歪めてそう返す。否定の言葉を吐きたかった。馬鹿なことをするなと叱りたかった。けれど、それが良い結果を生まないことはスミレも分かっていた。

「事情は、歩きながらでいいでしょ。……ミュウツーが待ってる。着いてきて」

ヒマワリは、そう言って背中を向けた。

 

薄暗い階段を、ヒマワリの持つランタンで照らしながら一行は進む。

「ヒマワリ」

そんな中、オーキドが口火を切った。

「……なんですか?」

ヒマワリはビクリと肩を揺らしながらも尋ねる。

「君は、なぜこの世界を作り物と定義する?時間のことは聞いたが、それ以外に何かがあるとでも言うのかね?」

オーキドの疑問に、ヒマワリは納得したように『ああ』と呟く。

「まず、この世界がおかし過ぎると思ったのは、スミレちゃんの扱いについてです。マサラタウンは波導使いが身を寄せ合って築き上げた波導使いの子孫達が生きる集落です。そんな中、たった1人、何故か常人として産まれ、しかし才能を多く持ちながらも仲間意識の強いマサラタウンの中でも両親や周囲の人間と馴染めず過ごした。それをわたし達はどうにもできず、外の学校へ行けば一生ものの傷を負った。旅に出れば、わたしを始めとする邪魔者によって数々の苦難が齎されて、しかしジムリーダーによって急速に評価されつつあります」

「……出来過ぎ、だよね」

そう漏らしたのは、スミレ本人だった。

「お祖父様もそうだが、マサラタウンにはジムバッジ8個持ちの優れたトレーナーだって多く居る。社会で、様々な経験を積んだ人も居る。あの時、スミレを心配して町中といって良いほど沢山の人が動いたのに、どうして全てがすれ違った?対応を間違えた?」

シゲルが、疑問を呈した。スミレに起こった悲劇の全ては知らずとも、様子の変化は町中で大きな問題となっていたと記憶している。警察に連絡した者もいれば、さりげなく支えようと声を掛けた者もいた。それなのに、何故かその全員が空ぶった。

「つまり、誰かが創作してたってことか?都合の良い主人公を作るために」

サトシが尋ねると、ヒマワリは頷く。

「うん、そうだよ。……だから、わたしはスミレちゃんが主人公だと思ったの。そして、わたし達は主人公に対して無理解な悪者。主人公が成功した後で、当然のように破滅させられる存在、わたしはそう考えた。もしかしたら、それは妄想かもしれないけれど……。もしも事実だった時の為に、わたしは悪役という立場が必要だったの。大好きな町の皆の代わりに破滅する、ハッピーエンドを作るための落とし所として丁度いい悪役がね」

スミレは、ヒマワリの言葉を聞きながら考える。自分の悲劇は、主人公とするにはあまりに都合が良すぎないか、と。そう考えれば考えるほど、スミレは世界そのものについての疑念が膨らみ始めた。

 

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