ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第122話『ミュウツーの逆襲』⑪: 2体のミュウツー

 ヒマワリの言葉に、一瞬の沈黙が降りる。誰もが、ヒマワリの疑念を考え過ぎだとは思えなかった。

「……時間の問題が、ヒマワリの疑念に確信を持たせたということか?」

タケシが尋ねると、ヒマワリは重々しく頷いた。

「そうです。最初は考えすぎかと思ったけど、時間のことを考えれば一瞬でした。……それに、心当たりを聞いてみたらサナダさんも何処か気付いてる節がありましたし」

「うむ、その通りだ」

ヒマワリの証言に続けて、いる筈のない人間の声が聞こえた。背後を振り返れば、体に包帯を巻きつけたサナダが立っていた。

「……サナダさん」

スミレは、痛々しい様子のサナダへ心配そうに声を掛けると、サナダは微笑んだ。

「大丈夫。死にに来た訳ではない。これで死んでは、ヒマワリは自分を責める。死に損ないの老ぼれとてこの命は、若者を苦しめる為に消費してはならんのだ」

苦しげな呼吸をしながらも、サナダはそう言って笑う。

「サナダさん!無茶です!!」

ヒマワリが、悲痛な叫びをあげた。それを見たサナダは、おかしそうに笑みを深めると『くくくっ』と声を漏らす。

「馬鹿者、ちっとは悪役らしくせんか。それでは大事な劇もお遊戯会よ」

「あ……」

忘れてた、と言わんばかりにヒマワリが声を漏らす。

「説教はまた後でだ。……儂が時間の問題を認識したのはいつか、というのは分からん。今年かもしれんし、昨年かもしれん。時間の感覚が曖昧となり、カレンダーの概念がありながらも実物は何処にもない。スミレの一件に関しても、あまりに都合よく進んでいる。イベントという未だ考えれば路線は違うものの、そこに居るサトシの旅路もまた主人公と呼んで良いものかもしれんがな」

「オレ?」

突然の指名にサトシが、首を傾げる。

「ロケット団のメンバーに目をつけられマチスに認められる程のピカチュウ使い。タマムシジムで起きた火事の一件でエリカに認められ、更にはヤマブキジムではナツメの心を動かす活躍を見せた。他にも様々な事件と遭遇しており、こちらは明るい路線ではあるが数多くのトラブルと向き合い解決に尽力している」

「そ、そういきなり言われてもなぁ」

満更でもなさそうにサトシが呟くと、シゲルとカスミに半目で睨まれて引き下がる。

「……だがまぁ、主人公が誰であれおかしな世界であることには変わりあるまい。ポケモン、いやポケットモンスターという存在自体がおかしなものであるからな」

サナダの言葉に全員が考え込み、それぞれがおかしさに気が付いた。サナダに目配せをされ、オーキドが咳払いをすると話し始める。

 

「わざ、と呼ばれる強力な攻撃手段がまずおかしいの。かつては兵器として使われる程の強力な代物、防衛力と呼ぶにはあまりに過剰なものじゃ。そして、ピカチュウを例にすると『ねずみポケモン』などの分類もそうじゃな。ねずみ、という生物は現在どこにもおらん、既に絶滅した種類なのじゃが、ポケモンの誕生は人類発生以後のため記録が残っている。ヒマワリは知っておるかの?」

オーキドに尋ねられ、ヒマワリは暗い表情で頷いた。

「調べました。……そしたら、おかしすぎることが書いてあったんです。そもそも、『ねずみポケモン』などの分類に登場する、ポケモンを判別する基準となる生物は存在していました。けれど、ポケモンが突然姿を現すと一気に数を減らし、初めから存在しなかったかのように絶滅した、と本で読みました」

「突然?」

サトシが、疑問を漏らす。その疑問に答えたのは、スミレだった。

「うん。ポケモンの発生は、長い進化の結果じゃないの。まるで初めから居たかのように唐突に発生し、瞬く間に全世界に生息域を広げていった。生活に馴染んでいる癖に研究が進んでいないのは、実はポケモンとの付き合い自体が浅いからなんだよ」

「だが、ボクらはそれを当たり前に享受し、当たり前のように共存していた。ですよね、お祖父様」

シゲルが確認するように尋ねると、オーキドは重々しく頷いた。

「シゲルの言う通りなのじゃ。……どう考えてもおかしいポケモン発生という現象を、誰もが当たり前に受け止めておった。まるでそれが常識であるかのように、誰も踏み込もうとはせなんだ。ポケモンへの愛情と信頼が揺らぐことはないのだが、それはそれとしてもおかしすぎるのじゃよ」

オーキドは、その天才的な頭脳を巡らせながら言った。世界に起こった変化、登場したポケモンとそれに適応した世界。

「……もしもこの世界が創作物であるならば、ヒマワリのやっていることもまた想定の内なのではないのか?」

ワタルが顎に手を当てて考え込みながら尋ねると、背を向け歩いているヒマワリが息を呑んだ。

(……そこまで考えてなかったって所か)

ヒマワリの様子に、スミレはそう考える。ヒマワリの背中は泣きそうで、今にも消えてしまいそうに感じられた。

「考えて、ませんでした……」

「それは、ロケット団の行動も?」

「はい、ミュウツーは予想してたって言ってたけど、わたしはちょっと前に初めて知りました。精々、来てもあの3人組くらいかと……」

ヒマワリが体を震わせながら言う。どうやら、ロケット団の行動はヒマワリが誘発したものではないらしいとスミレ達は内心安堵する。というか、あの3人組は来てると思われているらしい。サトシやスミレも、内心『来てるだろうなぁ』と確信を持った。正解である。

「ならば、今のうちに投降するんだ。失った信頼を取り戻そうと努力することなら、きっとこれから出来る筈だ」

ハンサムが説得しようと声をかけると、ヒマワリは悲しげに笑って首を横に振った。

「それはできません。だって、ミュウツーを置いていくことになる」

ヒマワリの返答に、スミレは納得したようにため息を吐いた。ミュウツーの存在に何らかの情を抱き、助けようとしていることが手に取るように分かったからである。

「……ミュウツーはこちらで何とかする、と言ってもかい?」

ハンサムの言葉に、ヒマワリはそれでも首を横に振った。

「片手間で助けるつもりなら無理です。会えば分かります。……ほら、入り口はすぐそこです」

 

そう言ったヒマワリが、少し登った先で止まった。見上げれば、そこには大きな扉がある。

「この先に、ミュウツーは居ます。逃げるなら今のうちですよ?」

「無論、進む。その覚悟も無しに来た者は何処にもいない」

ヒマワリの忠告にワタルが即答し、皆は力強く頷いた。ヒマワリは諦めたような表情で、扉をノックする。すると、扉がゆっくりと開きその場所が姿を現す。

 

「……広いな」

そこは、広い空間だった。人が数人座れるくらいの丸机と椅子があり、みずポケモンも入れるプールもある。

「あれっ、ミュウツー居ないな。待機中?」

『問題ない。ここにいる』

ヒマワリがミュウツーの不在に目を丸くするが、どこからか男の声が届いた。耳を打たず、直接脳に語りかけるような声。間違いなく、テレパシーだ。ワタルが一気に警戒心を露わにして動き出すと、スミレ達を庇うように立ち誰よりも早くボールを構えた。一瞬遅れて、キョウとサナダもボールを構えると、更に2秒程遅れてオーキドやタケシもボールを構える。スミレ達は、それに反応することができなかった。

「お前がミュウツーだな?」

ワタルが睨む視線を先を見れば、その異形は姿を現した。白に近く薄紫がかった肌、紫色の長い尻尾を持つ、2メートル程の人型のポケモンだ。傍には、リザードン、フシギバナ、カメックスの3体を連れている。

『そうだ。私はミュウツー、お前達人間への逆襲を行う者だ』

全身を刺し貫くような鋭い視線に、相対した人間達は皆一様に息を飲む。

「…………成程のぉ」

オーキドが、悲しげに呟いた。ヒマワリがミュウツーを助けようとする理由など、一瞥するだけでも分かってしまったのだ。

 

「そういうこと……。ミュウツー、ロケット団は?」

ヒマワリが無警戒にミュウツーの方へと歩いてゆくとそう尋ねた。ミュウツーは、無言で顎を動かし、何もない空間を指す。すると城の壁が爆発し、次々にロケット団員が入ってくる。

 

「ランス」

スミレが、見知った顔に表情を歪ませる。それはランスも同じようで、スミレを見てあからさまに不機嫌な顔になった。だが、最後に入ってきた男に、全員の視線が釘付けになる。サカキだ。

 

「……随分と久しぶりだな、サカキ」

ワタルの苛ついたような声に、サカキは笑みを浮かべる。

「ワタルか。部下が随分と世話になったらしいな」

「お前にとっては捨て駒に過ぎん癖によく言う」

「違うな。大切な部下だが、状況次第では捨て駒にもする。それが私のやり方だ」

「変わらんだろう……。まぁいい、ノコノコと現れたなら捕えるだけだ」

ワタルとサカキの睨み合いに、子供達が息を呑む。

 

「捕まえられんよ、お前達には。……さて、待たせたなミュウツーよ」

『連れ戻しに来たか?私を』

ミュウツーに睨まれながらも、サカキは笑みを絶やさない。

「いいや?……アテナ」

「ハッ!あれを準備しろ!!」

サカキの命令を受けたアテナが、下っ端に指示を飛ばす。下っ端達が台車を動かし、大きな金属製の箱を準備する。

「さあ、見るがいい」

パチリ、と指を鳴らすと箱が開く。

『なん……だと…………?』

ミュウツーが、信じられないものを見たというように目を見開き体を震わせる。

「……嘘」

ヒマワリもまた、怒りと悲しみの入り混じった声を漏らした。

 

そこに居たのは、ミュウツーだった。全く同じ姿の、同じポケモンが眠っていた。

『お前はまさか……また作ったとでもいうのか!?』

「そうだ」

ミュウツーによる憤怒の叫びに、サカキは笑って頷いた。

『貴様……、私を道具として扱っただけでなくそこまでやるか!!』

「だったら、貴様が逃げなければ良かったのだミュウツー。敵側に兵器があるならば、同じ兵器をもってそれを制する。世界平和の基本だろうに」

『何……!?』

怒りのまま一歩を踏み出そうとするミュウツー。だが、その目の前でサカキに向けて炎が放たれた。炎がサカキを取り囲み、炎の渦を形成する。

「ミュウツー、落ち着いて」

ミュウツーが下手人を見ると、それはヒマワリとそのリザードンであった。

『ヒマワリ……、だが』

「怒る気持ちは分かる。でも、今やらなきゃいけないのはロケット団を倒すことじゃない?貴方の仲間、皆倒して助けよう」

ヒマワリの言葉に、嘘も他意もない。ミュウツーは、額に青筋を浮かべながらも渋々頷いた。

「全く、目覚めて最初の仕事が雑魚掃除というのも気が引けるが」

サカキのうんざりしたような声と共に、炎が吹き飛んだ。

 

『……排除します』

女性の声を発するミュウツーが、サカキを庇うように立っていた。そして、【シャドーボール】を形成すると、ヒマワリに向けて放つ。あまりの速度に、超人とはいえただの人間が反応が出来る訳がない。放たれたことを認識するよりも先に、間に割って入ったミュウツーが攻撃を弾いた。

「飛ばせ、ミュウツー2号機」

サカキの指示と共に、ミュウツー1号機を除いた全員の体にサイコパワーのオーラが纏わりつく。

 

『ヒマワリ!!』

1号機が必死に手を伸ばす。

「……大丈夫!」

しかしその手を振り払い、ヒマワリは強がって笑う。そして、一瞬の間に人が全て消え去った。2体のミュウツーを残して。

 

◾️◾️◾️◾️

 「きゃっ……!」

スミレが、悲鳴をあげて地面を転がった。見れば、そこは何もない空間だった。恐らくは、転移させられたのだろうとスミレは考え、ボールに手を伸ばす。

「初めまして、スミレくん 」

そこに、声が掛けられた。先程まで聞いた、今最も聞きたく無かった声の持ち主がそこに居た。

「……貴方が 」

「そうだ。私こそが、ロケット団総帥にしてトキワジムのジムリーダー、サカキ。さぁ、話をしようか 」

 

 

 

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