ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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コナン展に行ったのですが、楽しかったです。ただまぁ……人が


第123話『ミュウツーの逆襲』⑫:無力な子供

 飛ばされたシゲルは、不機嫌そうに辺りを見回す。見下ろせば下へ続く階段があり、上に続く階段との中継点となっている。どうやら、踊り場のようだった。

「へぇ、私の相手はアナタ?」

嘲笑うような声に、シゲルは階段から降りてくるその女を見上げる。胸元にRの字を描いた黒服に、顔も大半を覆った女。恐らくは、下っ端だろう。それも、1人だ。

「へぇ、下っ端かい?」

シゲルは、余裕を含んだ笑みと共に挑発する。ロケット団の下っ端程度なら、簡単に倒せる自身があった。

「ええ、私は幹部でもないただの下っ端。でも、そこらの下っ端とは話が違うわよ?」

「やってみなよ」

「……じゃあ、行くわよ!ゴチルゼル!!」

「ルゥ、ゼェ」

下っ端がボールを投げると、イッシュ地方に生息するエスパータイプのポケモン、ゴチルゼルがふわりと舞い降りる。

「なら、こっちはウインディ!行ってこい!!」

「ガウッ!!」

底の見えない無表情で浮かぶゴチルゼルを、ウインディが牙を剥き出しにして威嚇する。

「ウインディ、【しんそく】!」

「ゴチルゼル、【トリックルーム】」

ウインディが神速と形容できる程の速度で駆け抜け、ゴチルゼルに突進する。ゴチルゼルはそれを避けずに吹き飛ばされるが、空中で静止すると【トリックルーム】を展開、サイコパワーが周囲を包み込み、不思議な空間が完成する。

「くっ……!」

シゲルは、表情を歪めた。【トリックルーム】は速度の速いポケモンを遅く、遅いポケモンを速くする、速度逆転の空間だ。素早さが持ち味のウインディには、致命的な空間だ。

(交換を……。いや、下っ端相手に退却だって!?冗談じゃないね)

シゲルには、自信があった。偉大な祖父や天才な幼馴染達に囲まれながらも、祖父の名前を穢さないように努力してきた。天才と言われ、驕っていない訳ではないけれど、努力だけはずっと重ねてきた。そして何より、目の前の女の使う戦術が、勝ちたくても勝てなかったライバルと似ていて、そんな相手から逃げることなど出来なかった。

「ウインディ、【かえんほうしゃ】!!」

「愚かな……ゴチルゼル、【サイコキネシス】」

ウインディが発射準備に入るよりも更に速く、ゴチルゼルの全身をサイコパワーが包み込む。

「ウインディ!?」

シゲルが叫ぶが、それは全くの無意味だ。ウインディの全身をサイコパワーが包み込むと、ウインディの全身が軽々と持ち上げられる。

「やりなさい!」

下っ端の合図でゴチルゼルが両手を振り上げる。すると、ウインディが空中で振り回されて地面に叩きつけられる。

「くっ、【かえんほうしゃ】だ!頑張れ!!」

「ガウゥゥゥ……」

シゲルが必死に指示を飛ばすが、ウインディは痛みに悶えている。

「ゴチルゼル、【みらいよち】」

ゴチルゼルの放ったサイコパワーが、何処かへと消え失せる。だが、その技がどのような効果を持つかなど、シゲルは簡単に理解できた。

「ウインディ、頑張れ!!」

シゲルの声援に応えるように放たれた【かえんほうしゃ】が、ゴチルゼルの全身を焼く。攻撃を受けたゴチルゼルは、そのポーカーフェイスを崩して苦しむ。どうやら、攻撃自体は通用するようだ。

「生意気ね、【10まんボルト】」

「チル……!」

ゴチルゼルがその右手をウインディに向けて翳すと、激しい電撃がウインディを襲う。

「ウインディ!!!!」

シゲルの悲痛な叫びが響き、電撃が収まるとウインディはよろめき倒れた。だがしかし、ウインディは薄目を開けて起きあがろうともがく。

「もう一度」

しかし、そこに下っ端の冷酷な指示が下った。電撃が迸り、ウインディの全身を焼く。それが終わると、ウインディは目を回して動かなくなった。

 

「さ、まずは一体ね。……さ、どうする?」

余裕の笑みを浮かべる下っ端に、シゲルは悔しげに表情を歪めた。

「クソッ……!ニドキング!!」

シゲルは屈辱に表情を歪ませると、ニドキングを呼び出した。

「へぇ、ニドキングね……」

下っ端は、

「ニドキング、【つのでつく】!!」

「避けなさい、ゴチルゼル」

ニドキングがツノにエネルギーを溜めて突進するが、ゴチルゼルは宙をひらりと舞うことで躱わす。そして反撃の【サイコキネシス】、ニドキングは壁に激突しダメージを負う。

「ニドキング、【メガホーン】!!」

ニドキングが再び突進する。ゴチルゼルにより避けられるが、その攻撃はトリックルームの空間に激突し、激しい衝撃を放つ。

(……そうか、なら!)

シゲルはその方法を思い付き、冷や汗をかきながらも笑った。

「ニドキング、同じ場所に【メガホーン】だ!」

「何ですって!?【サイコキネシス】!!」

下っ端は驚愕の声を上げるが、相手を態々待ってやる道理もない。ニドキングのツノに【メガホーン】の光が宿り、【サイコキネシス】を弾き飛ばした。むしタイプの技は、エスパータイプの技に対して効果抜群なのである。

「もう1発だ、行け!!」

シゲルが叫び、ニドキングは【メガホーン】を再度発動、一度【メガホーン】がぶつかったその場所に、勢いよく突き出した。

 

放たれる、衝撃。轟音と共に【トリックルーム】が解除され、速度の関係が元へ戻る。そうなれば、より素早いのはニドキングであった。

「ゴチルゼル、【サイコキネシス】!」

「ニドキング……、【メガホーン】!!」

ゴチルゼルが行動するより更に早く、ニドキングが懐に入り込む。放たれるのは、渾身の【メガホーン】。効果抜群の技が、ゴチルゼルの急所を突いた。ゴチルゼルの全身を激しい衝撃が駆け抜け、ゴチルゼルは吹き飛ばされて壁に激突する。

「ゴチルゼル!?」

「畳みかけろ、【かみなりパンチ】!!」

ニドキングの拳に雷撃が纏わりつくと壁まで一気に突進、ゴチルゼルの腹に突き刺さる。

「まぁ、いいわ。捕まえなさい」

下っ端の悔しさを滲ませた声に従い、ゴチルゼルは【サイコキネシス】を発動した。ニドキングの全身にサイコパワーのオーラが纏わりつき、動きを封じる。

「……何を?いや、しまったッ、上だ!!」

シゲルは一瞬何かと疑問符を浮かべるが、すぐに気がつく。血相を変えて空を見上げるが、もう遅い。

「【みらいよち】!!」

膨大なサイコパワーの塊が、ニドキングに降り注いだ。それはまるで全身にかかる重力を増大させたかのように、ニドキングを押し潰す。

「ググググ……!」

ニドキングは、唸りながらも攻撃に耐える。しかしその体は、既に膝と右手を地面に付いている。

「やりなさい!!」

下っ端の叫びと共に、爆発が起こった。強烈な衝撃波が駆け抜け、シゲルも思わず地面を転がる。

 

「……どうなった!?」

シゲルが勢いよく体を起こし、土煙の先を目を凝らし確認する。

「上出来ね」

下っ端の女がそう言って笑い、シゲルは反対に唇を噛み締めた。ニドキングとゴチルゼルは、どちらも目を回して倒れていた。つまり、相打ちだ。

「ご苦労様、ニドキング」

渋い表情をしながらも、ニドキングを労いボールに戻す。

「あら、最初の余裕はどうしたのかしら?」

下っ端の言葉に、シゲルは目尻を釣り上げた。

「……黙れ、これはきっと油断しただけだ!!」

シゲルの叫びに、下っ端は笑みを深めると、腰のボールを取った。

「なら、この子は突破できるのかしら?シンボラー!!」

「シンボラー……」

呼び出したのは、ゴチルゼルと同じくイッシュ地方に生息するエスパーポケモンにして、ひこうタイプも併せ持つシンボラーだ。シゲルはそれを確認すると、ボールを取る。

「行ってこい、ストライク!!」

「シャア!!」

飛び出したのは、ストライク。むしタイプのストライクでは、タイプ相性ではエスパータイプに有利なのであることを考慮した選出だ。

「ストライク、【こうそくいどう】!!」

「シンボラー、【さいみんじゅつ】!」

両者が同時に指示を飛ばす。ストライクが高速で動き出し、シンボラーの放った【さいみんじゅつ】が虚空を貫く。

「【れんぞくぎり】」

ストライクが高速で接近、シンボラーを連続で斬りつけ、吹き飛ばす。

「【サイケこうせん】」

「【こうそくいどう】!」

シンボラーが【サイケこうせん】を放つが、ストライクは【こうそくいどう】を発動、自身を加速させることで攻撃を躱わす。

「今だ、【シザークロス】!!」

「シャア!」

勢いのままに、ストライクは【シザークロス】を発動して斬り掛かる。

「シンボラー、【つばめがえし】!」

ストライクの突撃に対してシンボラーが放ったのは、【つばめがえし】。必中の攻撃が、素早く迫ってきていたストライクに直撃し、その足を止める。

「しまっ……!」

シゲルが焦った声を漏らすが、下っ端の指示は速かった。

「シンボラー、【さいみんじゅつ】」

シンボラーの顔から放たれた光線が、ストライクを包み込む。戦意に満ちていたストライクの表情が途端に崩れ、力無く倒れ込んだ。シゲルが慌てて駆け寄ると、ストライクはぐっすりと眠っている。状態異常、ねむりだ。

「……ストライク!!」

シゲルがストライクに向けて必死に呼び掛けるが、ストライクは呑気に眠っている。

(……そうだ、道具を!)

シゲルはふと思い出して鞄を漁る。

「シンボラー、【サイコキネシス】」

しかし、下っ端の指示が響き【サイコキネシス】が放たれると、シゲルのバッグが宙に浮いた。バッグは浮遊しながら空中を動くと、そのまま下っ端の手に収まる。これにより、回復手段を奪われたシゲルは、盛大に顔を顰めた。

「最悪だ……、起きろストライク!」

シゲルが呼び掛けるが、ストライクは目を覚さない。

「やりなさい、【ねっぷう】!!」

シンボラーの放った【ねっぷう】が、容赦なく無防備なストライクを焼き尽くす。目を覚さないままに、吹き付ける高温の熱風によってダメージを受け続けるストライクに交代という手段も忘れ、シゲルは必死に呼び掛けるしか出来なかった。

「ダメだ、起きろストライク!!」

シゲルの悲痛な叫びも虚しく、ストライクは目を回した。これで、シゲル側は3体目。下っ端のボールはゴチルゼルとシンボラーを含めて3体なためシンボラーを倒せば残り1体だが、このままでは全滅も視野に入ってくる。

 

 ここまで来ると、シゲルは認めざるを得なかった。目の前の下っ端は、自分よりも格上だと。オーキド・ユキナリという偉大な人物の孫でありながら、幹部1人も倒せない無力な子供でしか無かったのだと。シゲルは、呆然とした様子で膝をついた。ずっと、努力したのだ。スミレ、ヒマワリ、サトシ。別方面の天才達に囲まれて、町の外の人間達からはオーキド博士の孫だからと期待を受けた。出来損ないと言われないように、偉大な祖父の名を汚さぬようにやってきた。だがそれ以上に、オーキド・ユキナリの付属品でありたくなかった。だから、ずっと虚勢を張り続けてきた。自分は天才なのだと、ただの子供じゃないんだと。

なのに、なのにだ。

 

「……なんでだよ、なんで今なんだッ!」

素直に言葉にすることなんてそうそうないけれど、これは友達の危機だ。サトシは、どんな憎まれ口を叩いても、ずっとライバルとして見てくれた。ヒマワリは、自分の努力を見てくれていた。スミレは、自分にとって身近な目標であってくれた。そんな友達の危機なのに、自分は下っ端ひとり倒せない。目の前で嫌らしい笑みを浮かべる女を叩きのめすこともできずに、こうして惨めに蹲っている。立たなければ、という思いも、絶望に呑まれ消えてゆく。

「今、絶望したらダメなんだ……ダメな、筈なんだ…………!でも……ボクは無力だ」

倒れていったウインディも、ニドキングも、ストライクも。そんなことは望んでなど居ない筈だけれど。それでも、体が鉛のように重くて動けなかったのだ。

 

「……ボクは、弱い」

シゲルの瞳から、ポツリと涙が溢れ落ちた。




本来ならリーグでへし折れる筈のプライドがこのタイミングでズタズタに。

3月18日22:08分、シンボラーの技を【かえんほうしゃ】→【ねっぷう】に切り替え、加筆修正を行いました
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