ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第124話『ミュウツーの逆襲』⑬:その笑顔の裏側で

 項垂れるシゲルに、下っ端は笑って舌舐めずりをした。

「あらあら……純粋なボウヤの絶望なんて、とっても可愛らしいものね!」

「……」

興奮した様子の下っ端に、シゲルは何も返せない。ただ俯き、歯を食い縛り、己の弱さと向き合っている。何も言わないシゲルに、下っ端は眉を顰めた。

「ふぅん、折れちゃうの?私はまだまだやれるけど」

「……だったら、行けよ。ボクみたいな負け犬なんて放っていけ」

シゲルが、ポツリと呟く。その返事に、下っ端はつまらなそうに口を尖らせる。

「詰まんないの。どうやっても諦めないような元気な子供を壊すのが楽しいのに。……ああ、そういえば」

下っ端は、とある少年を思い出して機嫌を持ち直し、笑った。

 

「あの帽子の男の子……。そうだわ、あの子なら壊し甲斐がありそうね」

その言葉に、シゲルは肩を揺らす。

「まさか……それは」

シゲルの呟きに、下っ端は口元を隠す。

 

「世間知らずそうな、あの男の子。ああ、そう。サトシ君だったかしら?あの子ならきっと、とても可愛らしく絶望してくれるわぁ……」

恍惚とした表情で宣う下っ端に、シゲルは大きく目を見開いた。

 

◾️◾️◾️◾️

 サトシが飛ばされたのは、どこかも分からない小部屋だった。ピカチュウの安全を確認して辺りを見回すと部屋には何もなく、ただ目の前にはロケット団と思われる屈強な男が立っていた。

「……誰だ!?」

「ピッカァ!?」

「なんでもない、下っ端だよ。マサラタウンのサトシ」

警戒するように叫ぶサトシに、男はただそう返した。

「ピジョン、キミに決めた!!」

サトシは、素早く腰のベルトからボールを取ると、投擲する。飛び出したのは、ピジョンだ。

「……問答無用、という訳か?」

「話せば、通してくれる訳じゃないだろ?」

静かに問われたサトシは、冷や汗を流しながらも強気に笑った。それを見た男も微かに口角を上げると、ボールを腰から取り外す。所持するボールは3個、サトシは6体所持しているため3対6だ。

「行ってこい、オニドリル」

呼び出したのは、カントー地方でも見られるオニドリルだ。サトシはスミレやシゲルほど他地方のポケモンに詳しくないため、情報の割れているオニドリルであるのは不幸中の幸いであると言えるだろう。

「ピジョン、【かぜおこし】!」

「オニドリル、【かぜおこし】」

ピジョンの起こした烈風と、オニドリルの起こした烈風が空中で激突し、弾かれた風が舞い、衝撃が周囲に放たれる。

「【つばさでうつ】!」

「【はがねのつばさ】」

光を纏った両者の翼が激突し、オニドリルもピジョンも勢いを殺すことなく上昇、翼や翼で起こした風、嘴をぶつかり合わせて空中戦を開始した。

「【はがねのつばさ】」

「【でんこうせっか】で背中を狙え!」

サトシの指示でピジョンは【でんこうせっか】を発動、攻撃の予備動作に入っていたオニドリルの背中に付けると、再度【でんこうせっか】によって加速し無防備な背中めがけて体当たりを行う。オニドリルは地面に向かって吹き飛ばされるも、空中で静止する。だがその時には既に、ピジョンはオニドリルへの追撃の準備を済ませていた。

「さあ行くぜ、【つばさでうつ】!!」

「ジョォォ!!」

ピジョンが翼に光を纏わせて加速し急降下すると、翼による一撃を叩き込んだ。オニドリルが地面に叩きつけられ、目を回す。

「やったぜ!」

サトシが得意げに笑い、下っ端は眉を顰める。

「……ふむ、想定よりも強いな。まぁいい、オニドリルは経験を積ませる為に出した、育成途上のポケモンなのだから」

「それは、負け惜しみじゃあないんだな?」

無表情な下っ端の呟きに、サトシは疑わしげな視線を向ける。

「では証明するとしようか。……ゆけい、ダイノーズ!!」

「ノーズ」

下っ端が繰り出したポケモンに、サトシは目を見開く。勉強が得意でないサトシは、他の地方のポケモンについて詳しくなかったのだ。精々、姿を見たことがある程度。そして、サトシの持つポケモン図鑑を翳しても情報が出てこない。最新型とはいえ、ポケモン図鑑は未だカントー地方以外のポケモンには対応していなかったのである。

「やってみるだけだ!ピジョン、【かぜおこし】!!」

「ダイノーズ、【ほうでん】」

ピジョンが烈風を叩きつけて攻撃を仕掛けるが、ダイノーズはびくともしない。そして耐え切ったダイノーズが繰り出すのは【ほうでん】。効果抜群の技がピジョンに直撃し、ピジョンは吹き飛ばされる。

「ピジョン!?」

サトシがピジョンに呼び掛けるが、下っ端はそれに構わず指示を飛ばす。

「ダイノーズ、【ラスターカノン】」

放たれた白銀の閃光がピジョンの腹部に直撃し、そのまま壁に叩きつける。攻撃を受けたピジョンはそのまま墜落、目を回して倒れた。

「……ごめんな、ピジョン」

サトシは眉を下げてピジョンに謝りながらボールに戻すと、次のボールを手に取った。

「次はどうする?」

下っ端の挑発に下唇を噛むと、サトシは勢いよくボールを投げた。

「ケンタロス、キミに決めた!!」

「ブモォォォ!!」

飛び出したのは、ケンタロス。サトシはサファリゾーンにおいて、ケンタロスの群れ30体をゲットした。今回呼び出したのは、その中で最も強い、ボスを務めるケンタロスである。

(……ダイノーズは浮いてる。だったら、真っ向からパワー勝負に持ち込むしかない!)

サトシはチラリとダイノーズを観察し、ケンタロスのじめん技は通用しないだろうと確認すると、戦法を固めた。

「ケンタロス、【とっしん】!!」

「ダイノーズ、【ストーンエッジ】」

サトシの指示で、ケンタロスはその巨体に力を込めて疾走する。対するダイノーズが全身にエネルギーを漲らせると、ケンタロスの足元にヒビが入る。

「しまっ……!」

サトシが声を漏らすが、回避を指示するよりも早くケンタロスは盛り上がった巨大な礫によってダメージを受ける。

「追撃だ、【でんじは】」

そして追撃に【でんじは】。麻痺を受けたことにより、ケンタロスの動きは鈍らされる。

「ケンタロス、【じしん】だ!」

ケンタロスが足を地面に叩きつけ、強烈な地震を引き起こす。すると【ストーンエッジ】で盛り上がった岩が砕け、吹き飛んだ。

(成程、じめんタイプの技を放ち【ストーンエッジ】の岩を破壊することで、ケンタロスの視界を確保したのか……)

下っ端は考えるが、サトシはその隙に指示を飛ばす。

「ケンタロス、【つのでつく】!」

ケンタロスが麻痺を受けたとは思えないスピードでダイノーズに迫ると、自慢のパワーでダイノーズを弾き飛ばす。

「ダイノーズ、【ラスターカノン】」

しかし、吹き飛ばされながらも空中で静止したダイノーズが反撃の【ラスターカノン】を放ち、ケンタロスは押し返された。

「【とっしん】!!」

吹き飛ばされずに踏みとどまったケンタロスが、勢いよく突進する。

「飛んで【ほうでん】」

ダイノーズが上空に逃げることでケンタロスの突進を回避し、ケンタロスは壁に勢いよく激突する。そして上空から放たれたのは【ほうでん】。電撃が隙だらけのケンタロスを襲い、ケンタロスは呻き声を漏らす。

「耐えてくれケンタロス!!」

サトシが呼び掛けるが、ケンタロスはそのまま目を回し倒れた。これで、2体目の戦闘不能だ。

「ふむ……。強いが、俺の相手ではないな」

「やってみなきゃ、分からないだろ!」

無表情で告げる男に、サトシはムキになって言い返す。

「お前の限界はそこまでなのだ、マサラタウンのサトシ。お前の誤魔化しの愛情では、ポケモンの力を真に引き出すことなどできやしない」

「黙れ!……ゼニガメ、キミに決めた!!」

「ゼニィ!!」

サトシが青筋を浮かべ、ボールを乱暴に投げる。飛び出したゼニガメはダイノーズを睨みつける。

「ダイノーズ、【でんじは】」

「ゼニガメ、【ハイドロポンプ】!!」

ダイノーズは【でんじは】を放つことで麻痺させようとするが、それよりも速くゼニガメは己の甲羅に全身を潜り込ませると勢いよく回転。甲羅の隙間から激しい水流を放ち、ダイノーズはそれをまともに受ける。

「ダイノーズ。【ラスターカノン】」

「【みずでっぽう】!」

放たれた【ラスターカノン】を【みずでっぽう】が撃ち落とし、爆発を起こす。体の軽いゼニガメは爆風によって軽く吹き飛び、しかし空中で回転させて着地する。

「ダイノーズ、【ほうでん】」

「ノーズ!」

しかしすかさず放たれた追撃の【ほうでん】が、着地直後のゼニガメを襲った。

「ゼニガメ、【ハイドロポンプ】!!」

ゼニガメが苦悶の声をあげながらも放った反撃の【ハイドロポンプ】がダイノーズに命中し、どちらも吹き飛ばされて仕切り直しとなる。しかし、現状はゼニガメに不利であった。

「ダイノーズ、【ストーンエッジ】」

「跳んで躱わせ!!」

ゼニガメが立つ真下の地面に亀裂が入り、岩が一気に迫り上がる。だがひび割れを観測した時点でサトシが指示を飛ばすことでゼニガメは大きくジャンプし、攻撃を躱した。

「【ラスターカノン】!」

「【ハイドロポンプ】!!」

両者の技が空中で激突するが、競り勝ったのはゼニガメの【ハイドロポンプ】。凄まじい勢いの水流がダイノーズを押し流し、墜落させる。そして着地したゼニガメは、地面を蹴った。

 

「決めろゼニガメ!【ロケットずつき】!!」

光を纏ったゼニガメが空中を飛翔し、そのままダイノーズに突っ込んだ。ダイノーズは咄嗟にエネルギーを溜めるも反撃も間に合わず、【ロケットずつき】の衝撃を胴体にまともに受ける。結果は、戦闘不能。ダイノーズは目を回し、倒れ込んだ。

「ほう」

ダイノーズの戦闘不能に下っ端は目を見開くと、無言でダイノーズをボールに戻す。

「……どうだ、これでも力を引き出せてないって言えるのか!?」

サトシが冷や汗を流しながらも強がりを吐く。目の前のゼニガメはもう戦闘不能寸前だ。そして、相手は残り1体とはいえ自身もリザードンが未だ言うことを聞いてくれない状況なので、余裕はない。

「ああ、そうだ。俺は知っているぞ、お前という男を」

「……!?」

下っ端の言葉に、サトシは眉を顰める。

「父親は元気か?」

「黙れッ!!」

次いで下っ端の口から放たれた言葉に、サトシは反射的に怒鳴り声をあげた。

「楽しいな、ポケモンに愛情を注ぐのは。父親と会えない寂しさも、変われない自分への苛立ちも、全部全部忘れてしまえるもんな」

「だから黙れって言っているんだッ!」

サトシは聞きたくないと言葉を振り払うかのように、首を横に振る。

「生意気な態度もそれだ。シゲルのような努力家にも、スミレのような天才にも、ヒマワリのような人気者にもなれないお前には何もない。強いて言うなら、能天気なまでのその明るさだがそれは悩みを隠さなければ輝けない。おまけに、お前の孤独なんてスミレの孤独と比べれば可愛いもの、誰もが同情するような過去も持っていなければスミレと孤独を分かち合うことも出来ない。寂しい人間だよ、お前という男はさ」

下っ端は無表情を崩して笑みを浮かべると、サトシを煽る。その情報は全て、何処かの情に厚い同僚の反対を押し切って集めた、ロケット団の情報網によるものであった。

「……黙れって言っているんだ!フシギダネ!!」

「ダネフシャ!」

サトシはゼニガメを戻し、呼び出したのはフシギダネ。対する下っ端も、余裕の笑みを浮かべてボールを投げた。

「その熱さがお前の弱さだ……。潰せ、ガブリアス」

「ガブァァァァ!!!!」

男が呼び出した最後のポケモン、その名はガブリアス。強力なポケモンの多いドラゴンタイプの中でも、最強候補の一角とされるドラゴンポケモン。じめんタイプとドラゴンタイプを併せ持ち、空を高速で駆け回る天と地の覇者。シンオウ地方においてはチャンピオン、シロナの相棒でも知られるポケモン。そのガブリアスが、サトシの前に降臨した。

 




vsガブリアスというハードモード。しかもじめんタイプ、アイアンテール無しのためピカ様は相性最悪でしかもリザードンも相性が悪い上に指示聞かない地獄の難易度

サトシの裏側を設定する上で、" 父親の不在 " という点は非常に重宝しました。なんていったって、あの長いシリーズの中でも登場しないという不在っぷりですからね。
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