ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第125話『ミュウツーの逆襲』⑭:陰る気持ち

 ガブリアス、というポケモンは流石のサトシでも知っていた。表情を引き攣らせながらも、サトシは思考をめぐらせる。

「フシギダネ、【やどりぎのタネ】!」

フシギダネの放ったタネを、ガブリアスは反射的に腕で斬り落とす。すると、種子の内部から伸びた蔓がガブリアスに巻きつく。

「ふん、馬鹿のひとつ覚えだな。【ドラゴンクロー】」

「……ッ、避けろ!!」

サトシが慌てて指示を飛ばし、フシギダネはその場で身を捩る。するとその場に、龍のエネルギーをツメに纏わせたガブリアスが突っ込んだ。その圧倒的な速さは、指示が一瞬でも間に合わなければフシギダネは直撃を受けていた、と断言できる程である。直撃した地面が割れ、衝撃が走る。

「【ドラゴンクロー】」

「【つるのムチ】!」

伸ばされた蔓が唸り、ガブリアスに迫る。対するガブリアスはその両腕のツメにエネルギーを纏わせ迎撃、拘束しようと縋る蔓を弾くと接近、しかしフシギダネの蔓が背後から迫ると飛び上がって回避、右腕を勢いよく振り下ろすがフシギダネは後方へと飛び退くことで回避し、ツメが叩きつけられた地面はひび割れ、礫が飛び散る。ガブリアスの体力を【やどりぎのタネ】が僅かに削るが、ガブリアスは気にも止めない。

「ガブリアス、【じならし】」

ガブリアスは地面に腕を叩きつけると、地面が揺れてフシギダネを襲う。

「フシギダネ、跳んで【ソーラービーム】だ!」

「ダネッ!!」

フシギダネは揺れる大地から跳び上がると、背中の蕾にエネルギーを溜める。その速度は室内にも関わらず凄まじい速さで、下っ端は眉を顰める。

「情報通り、凄まじい速さのエネルギーチャージだ……。だが、ガブリアスという暴力の前では無価値だ。ガブリアス、【りゅうのはどう】」

ガブリアスは口にエネルギーを溜めると、一気に放出。荒ぶる龍のエネルギーが青白い閃光となって、フシギダネに迫る。

「撃て!!!!」

そうサトシが叫ぶと同時に、フシギダネの背中の蕾から光が迸った。放たれた【ソーラービーム】が【りゅうのはどう】と空中で激突し、激しい衝撃を周囲に放つ。

「……ダネェ」

「…………!!!!」

技の威力は、【ソーラービーム】の勝利。個体としての戦力はガブリアスの勝利、そして総合力は互角だ。

 

「押し切れ!!」

サトシが祈るように叫んだ、その時。ガブリアスの体から、僅かに力が抜けた。慌てて視線を向ければ、そこにあるのは【やどりぎのタネ】。そう、【やどりぎのタネ】の効果で、体力を吸い取ったのだ。

「ダネェェェ!!!!」

その瞬間、【ソーラービーム】がその輝きを増した。【りゅうのはどう】が押され、食い破られ、遂には突破される。

「……ガブッ!」

ガブリアスは咄嗟に両腕で顔を隠し、その全身を【ソーラービーム】が包み込んだ。そして爆発、サトシも下っ端も思わず腕で顔を隠すことで保護する。

 

「どうなった!?」

サトシが顔を上げ、状況を知ろうと目を凝らす。そして、我が目を疑った。

 

「ガブァァァ……」

ガブリアスは、立っていた。全身にキズを負いながらも、目を怒らせて立っていた。

「流石はガブリアスだ。では、反撃と行こう」

「フシギダネ、【つるのムチ】!!」

サトシは焦った様子で指示を飛ばし、フシギダネが蔓を伸ばす。

「ガブリアス、【げきりん】」

ガブリアスの目が紅く染まり、その姿が蜃気楼のようにブレた。その瞬間、フシギダネの【つるのムチ】は空を切り、その背後にはガブリアスが腕を構えて立っていた。

「不味い!?」

サトシは目を白黒させて叫ぶが、ガブリアスは容赦なく腕を振り下ろす。反応の遅れたフシギダネは避け切れず、頭から地面に叩きつけられて目を回す。

 

「……くっ。ごめん、フシギダネ」

サトシは戦闘不能となったフシギダネをボールに戻すと、次の策を思案する。

「さあ、どうする?」

余裕のある態度でサトシに問い掛ける下っ端を睨みつけ、サトシは次のボールを手に取った。

 

「あとちょっとがんばってくれ!ゼニガメ!!」

サトシが選んだのは、満身創痍のゼニガメだ。【げきりん】の一撃でも戦闘不能になってしまう状況だが、サトシにはダメ元ではあるものの、作戦があった。

「……無駄な足掻きを」

「なんだってやるさ!ゼニガメ、【ハイドロポンプ】!!」

「突っ込め」

ガブリアスめがけて、激しい水流が叩きつけられる。だがガブリアスはそんなことは関係ない、と言わんばかりに真正面から突撃、右腕を大振りに振るうとゼニガメを跳ね飛ばす。壁に叩きつけられたゼニガメは、これまでの蓄積ダメージのためそれだけで戦闘不能だ。

「ありがとな」

サトシはそれを苦々しい表情を浮かべながらも労い、ボールへと戻す。

「……さあ、残るはピカチュウと後一体だ。一体どちらにする?」

「決まってるさ、ピカチュウ!キミに決めた!!」

「ピッカァ!!」

サトシが眼前を指でさすと、ピカチュウは肩から飛び上がり、ガブリアスと向かい合った。

「愚かな、じめんタイプのガブリアスにでんきタイプのピカチュウで挑むとは……」

「そうだな。でもこれは、なにも考えてない訳じゃないぜ!」

「ふむ、ならば見せてみろ。ガブリアス!」

「先手必勝だ!ピカチュウ、【10まんボルト】!!」

走り出そうと腰を低く構えたガブリアスを、電撃が襲った。ガブリアスの全身を電気が駆け巡り、効かない筈のガブリアスにダメージが入る。

「何だと……?」

得意げに笑ったサトシに対して、下っ端は驚愕に目を見開く。

「追撃行くぜ、【かみなり】!!」

【10まんボルト】を上回る火力の電撃が、反撃する間もなくガブリアスに叩きつけられる。ガブリアスも思わず顔を顰め、呻き声を漏らす。

「行け!!」

下っ端の焦った様子の声に反応し、ガブリアスが突っ込んだ。

「【でんこうせっか】で逃げ回れ!!」

サトシの指示でピカチュウはスピードアップ、ガブリアスを相手に逃げを選択、叩きつけられた腕をすり抜けてピカチュウは走る。しかし、ガブリアスは素早く突撃し、ピカチュウに向けてツメによる一撃を放つ体勢になる。

「小汚いネズミなど踏み潰せッ……!」

「天井に【10まんボルト】!」

「ピッカァ!!」

【10まんボルト】はガブリアスの体の隙間から逃げるように放たれた。ピカチュウは防御も出来ず、振り抜かれたガブリアスの腕によって跳ね飛ばされる。しかしガブリアスが追撃しようと動いた瞬間に上空から瓦礫の山が降ってきて、その頭に叩き込まれた。

「……ガバァ!?」

ガブリアスは思わず正気に戻った。【げきりん】が解け、こんらんの状態異常となり、思わず膝を突く。

(……そうか、天井!この男は天井部分を【10まんボルト】で破壊し、瓦礫をぶつけたのか!?それに、電撃はゼニガメによって体を濡らされたせいで、電気が通るようにされたのか!)

下っ端は思わず頬を引き攣らせる。

「頑張れるか!?ピカチュウ!」

「ピィ……ピカッ!!」

興奮気味なサトシに聞かれ、ピカチュウは大きなダメージを受けた体で笑みを浮かべる。頬袋からは電気が弾け、まだまだ戦えることをアピールする。

「……おのれ、小僧!【ドラゴンクロー】!!」

「【でんこうせっか】!」

ガブリアスは混乱して自分を傷つけた。そしてその隙にピカチュウが【でんこうせっか】のスピードで突進し激突する。ガブリアスは思わずよろめき、ピカチュウは尻尾で跳ね飛び距離を取る。

「【ドラゴンクロー】!」

「【かみなり】!!」

ガブリアスが、混乱をものともせずに突っ込んだ。混乱は自傷行為を引き起こすが、それは絶対ではない。自分を傷つけることもあれば、相手に正しく攻撃をぶつけることもある。このタイミングでサトシは、不運を引いた。【かみなり】による激しい雷撃を受けながらも高速で突っ込んできたガブリアスは【ドラゴンクロー】を発動した。【ドラゴンクロー】はピカチュウの腹に激しくめり込み、そのまま地面に叩きつける。

「ピカチュウ!!」

サトシが慌てて駆け寄ると、ピカチュウは既に目を回していた。サトシはピカチュウを抱き上げると急いで距離を取り、壁際に寝かせるとそれを庇うように立つ。

「……残りは1体、それもよりにもよってリザードンか」

下っ端は、冷や汗を流しながらも笑った。サトシはその言葉に、内心不安を募らせる。リザードンは、元々弱さが原因で捨てられたポケモンだった。それをサトシが保護し、ゲットし、ここまでやってきたのだが、進化するごとにサトシの言うことを聞かなくなってしまったのである。

「信じる……しかないよな」

サトシは、ボールを見つめながら呟く。リザードンが言うことを聞かない、という事実があったとしても、そんなリザードンに対して、一緒に戦ってくれるのだろうかという不信感が湧いてしまう。そんな自分が許せない、そんな気持ちも湧いてくる。タケシも、カスミも居ない。ピカチュウもダウンしている今、己の気持ちと孤独に向き合わなければならなかった。

「お前のリザードンは、お前の未熟の象徴だろう。結局お前は、所詮ニセモノだ。躾のひとつも出来ないトレーナーなど、論外」

そう言いながら、下っ端はガブリアスに向かってキーの実を投げ渡すと、それを咀嚼し飲み込んだガブリアスには理性が戻る。

「……オレは」

「スミレは過去と向き合う覚悟を決めた。ヒマワリはスミレを救おうと道を探し続けた。シゲルは、己の価値を示そうと奮闘を続けている。……お前だけだよ、そんな無意味な人生送ってるのは。良かったなァ、逃げてるお陰で人生お気楽だよ」

「…………」

サトシは、無言で拳を強く握る。

「そんなんだから、お前のパパは愛想尽かしちゃったんじゃないか?」

「違う……」

「何が違う?下っ端如きに追い詰められて、恥ずかしくないのか?その無能さが、お前の孤独を作ったんじゃないのか?」

「違う!!」

サトシは、耳を両手で塞いで叫んだ。それを、下っ端は嘲笑う。

「ムキになるってことは、図星だよなぁ……」

サトシの目に、涙が滲む。サトシの家は、スミレのような歪みがあった訳ではない。幼い頃から母の愛情を受けて、真っ直ぐに育っている。だが、それは母親に限った話だ。父親は、幼い頃から家に居なかった。ポケモントレーナーだという父親は世界中を飛び回り、安否確認は偶に来る土産のみ。偶に帰ってくることもあるそうだが、夜遅かったり外で遊んでいたり、と会えないことばかり。だから、サトシは周りが羨ましくて仕方がなかった。家に帰れば父親がいて、母親がいて。そんな家族が羨ましかった。だが同時に、父親の居ない自分が惨めで仕方が無かったのだ。だからこそ、ポケモンという存在にハマった。丁度、ポケモンと仲良くなるのが得意だったのも良くなかった。いつの間にかサトシにとっては、人間の友達よりもポケモンの友達の方がずっと多くなっていた。

 優秀な幼馴染の存在も、サトシの劣等感を煽った。何をやっても勝てないスミレ、人と仲良くするのが得意でいつでも集団の中心にいたヒマワリ。そして誰よりも羨ましかったのは、両親や祖父母といった身内に囲まれ、その背中を追っているシゲルだった。シゲルにとっては苦労の連続だということはわかっていても、それでも目の前に親の背中を見てそれを追えることが、ずっと妬ましかった。それを考えるだけで惨めな気持ちになった。そして今

 

(惨めだなぁ……オレ)

信じていた、大好きだったポケモンに対して不信感を持ってしまった。それも、自分が育てたポケモンに対して。リザードンの素行を考えれば当然だと周りの人間は言うだろうが、それでもサトシは大切な友達を疑ってしまう自分が醜く見えて仕方が無かった。そしてそれが無くなってしまえば自分はただの無能なんじゃないかという思いが、サトシの心を惑わせる。

 

「オレには……何があるんだろう」

サトシは、俯いてそう呟いた。




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